017考える力を身につける

今、ちょうどグロービスのクラスでレポートの採点をしています。僕が担当しているクラスは「クリティカル・シンキング」という、思考力をつけるクラス。この採点がなかなか大変です。別にクリティカル・シンキングのクラスに限らないのですが、ただ出来ている、出来ていないの評価をするのではなく、どういうことに気を付けたらこの人が一番進歩するだろうと考えてアドバイスを書こうとするとかなり悩みます。もちろんレポートを書いた人も相当悩んだと思うのですけどね。

そんなことをやっていたら思い出したのですが、よく「Toshiさんはどうやって考える力をつけたのですか？」と聞かれます。そこで今回はこの話を書いてみたいと思います。

■そもそも考える力って何？

そもそも考える力って何？って、退屈な定義論をするつもりはありません（笑）。問題に対する答えを考える時間が短いとか、人が思いつかないようなことを考えさせるというようにイメージでよいのですが、「これは違うな」というのをひとつだけ上げておきたいと思います。それは、ものごとを難しく考えるということ。

前述のクリティカル・シンキングのクラスでも「考える」というととたんに難しい言葉（音読みの単語、カタカナ経営用語）が連発されたり、複雑な論理展開が行われたりしがちなのですが、必要なのは「深く」考えることであって「難しく」考えることではないと思っています。どう違うかって？　難しく考えないで下さい(^_^)。こどもの素朴な疑問に答えることだと思えばよいでしょう。難しい言葉で説明しても相手にはわからない。でも、聞いていることは結構深い、本質的なことだったりする。

■素朴な疑問を捨てない

そういうこどものような素朴な疑問をなかなか捨てない、というのは今思うと、考える力を高める最初のきっかけになっていたのかもしれません。10代の頃の自分は「なぜ？」という疑問をかなりしつこく持っていたような気がします。どうして動物は本能の通りに生きていけばよいのに、人間は欲望のままに行動するとまずいんだろう？　10代と言えば特に異性がらみでいろんなことを意識する時期ですよね。それを「欲望のままに行動すればよいのさ」でも「してはいけないことはいけない」でもなく、「どう考えたらよいのだろう？」と考えていたのでした。

■記憶重視に逆らって受験

自分の考える力を高めた次の要因は、記憶重視に逆らって受験勉強をしてきたことだったと思います。僕は都立の高校に通っていて、英語塾に行く以外は塾や予備校にも行きませんでした。学校で勉強していることだけで大学に入れないなんておかしいと思い、試してみようと思ったからです。ちなみに英語塾に行っていたのは特に英語に興味があったのと、当時のgirl friendが行っていたから。そして他の人が新しい知識を記憶することで臨んでいた受験を、基本を理解して応用することで臨みました。少なくとも僕が受けた早稲田政経と一橋法ではこれが通用したみたいです。

同じことを30代はじめに取り組んだ中小企業診断士の試験でもやりました。問題（特に一次試験）にはやたらと穴埋めが多いのですが、これをなるべく記憶せずに理解して考えることで取り組もうとしました。類似の名前が多い施策だけはある程度覚えざるを得なかったのですが。これもなんとか一発で突破できたのですが、結局使わなかったので資格の更新はやめてしまいました。

■やりがいをつくれ！－こんなことが出来たら・・・

次に考える力を伸ばしたと言えば、仕事の中です。考えてみると新人の頃からトライしてみたのは、自分や周りの人にとって仕事を少しでもやりがいのあるものにすることだったように思います。手作業でやっていたことをコンピュータに載せたのは単純作業や数字合わせよりもやりがいのある仕事をできるようにしたいと思ったから。みんなが頭を痛めていた出荷済みソフトウェアのバグ対応について「ソフトウェア・アップデート・サービス」という形で解決策を考え、推進したのも「もっとこの仕事をやりがいのあるものにしたい」ということだったのでしょう。

こういった合理化や課題解決から入ったのは、目に付きやすいし理想型がイメージしやすかったからです。でも方策を考えたり、実行するために関係者を説得する方法を考えるのは十分楽しい仕事でした。つまり、考える力を鍛えようと思っていたわけでも、考えなければまずいと思っていたわけでもなく、考えたいことがあったから四六時中考えていた、その過程で考える力が鍛えられたのだと思います。

やがて考えるネタは問題解決型だけでなく「こんな状態が実現できたら」というビジョン型が加わってきます。マネジメントを情報技術で武装できたらおもしろいぞ、とＴＰＬ(Technology Powered Leadership)というカリキュラムを考えたり、最近では「インターネット・カンパニー」と打ち出して、東京本社と大阪支社の人を場所に関係なくチームとして機能させる方法を考えたり。大きなところでは「こういうビジネス・スクールを作りたい」という構想もそうです。そういうおもしろいネタを思いつくたびに、考えなくていられなくなるのでした(^_^)。

■NoではなくHowと言え－困難は挑戦と考える力の呼び水

「NoではなくHowと言え」知り合いのコンサルタントから聞いた、某コンサルティング会社での口癖です。上で「おもしろいネタ」と書きましたが、一目見ておもしろいネタとわかることがそこら中にころがっているなら誰も苦労しません。現実には、おもしろいネタやおもしろい仕事は作るものなのでしょう。その原料は「困難」です。

「無理だ」「できるはずがない」という声を聞いたとたんに挑戦のスピリットがむくむくとわき起こってきます(^_^)。他の人がNoと言った時に自分はHow?と考え始めているようです。上に書いたインターネット・カンパニーの発想も元はと言えば東京のスタッフだけではどうしてもやりたいことをやりきるのに足りないとわかり、どうしたものか考えていたからでした。「キャリアを考える技術・つくる技術」の執筆で「このスケジュールは絶対に無理だ」と言われた瞬間に、それまで「無理かも知れない」と弱気になっていた自分が「だったらやってやろう」と変わっていたのでした(^_^)。

■ワガママを持ち続ける～本当にやりたいことは必死で考える

もう一つ、自分をドライブしていたのは自分のワガママです。「なんで満員電車に乗って通勤しなきゃいけないのか？」「なんで暑い中ネクタイをしていないといけないのか？」「なんでこんなに長い時間仕事をしないといけないのか？」そんなワガママをワガママとあきらめずに持ち続けたことも考える力の強化につながったと思います。一つは自分のワガママを通せる仕事の仕方を考え続けられたということです。もう一つは、ワガママを素直に持ち続けることが、ビジョンという壮大なワガママを抵抗なく考えられるマインドにつながったということです。

そして、最近では、ワガママの中でも特に強烈（内容ではなく、望む度合いが）なもの、つまりなんとしてもやりたいことが、また一段、自分の考える力を高めたと感じました。他の人のプライバシーが関わっているので内容は書けないのですが、関係者に「ああ、いいよ」と簡単に受け入れられることではなく、つまり世の中的に言えばワガママです。でも、本質を突き詰めれば、ワガママの方があるべき姿だと思ったので、自分の思考力の限りを尽くして考えました。そしていくつかの交渉とコミュニケーションを、関係者にとっておそらく最善の形で乗り切りました。

■方法論は教わることと教えることで獲得した

ここまでを見ると、「考える動機が山ほどあったということじゃないの？」と感じるかも知れません。実際、それがかなり大きいと思います。ただ、考え方について学ぶ機会も当然ありました。その中で得に大きかったのはふたつ。ひとつはＭＢＡのプログラムにあったManagerial Writingという文書作成のクラス。これが論理を構造化することを学んだ最初の時でした。最初は「わけわからん」とぼろぼろのスコアを付けられていたレポートが、最後は満点に近くなり「ティーチングアシスタントやらない？」と聞かれました。「作文のクラス」とバカにしている人もいましたが、僕にとっては実り大きかったですね。

もうひとつが、冒頭のクリティカル・シンキングを教えたことです。ツールを知ってはいたものの、教えるために改めて見直し、クラスで反応を見ながらいろいろな教え方を試す中で得たものはとてつもなく大きいです。特に変わったのはその場での思考のスピードです。それまでもある程度時間のある中で深く考えるのは得意だったのですが、その場で考えるというのはあまり得意ではありませんでした。

しかし、ツールを吟味し、自分の思考や他の人の思考のパターンを見た上で、いくつかの留意すべきポイント（＝はまりやすいワナ）を頭に置くと、その場での思考スピードもだいぶ上がってきました。それは何かって？　一番大きいのは「今、何を考えるべきなのかを絶対忘れない」ということです。なーんだ、そんなことか、と言われるかも知れませんが、これが出来ている人は非常に少ないのです。最初のうちは意識しないと出来なかったことも、そのうち自然に出来るようになってきました。たとえば「何を考えるべきなのか」＝イシューからその場の話がそれはじめると自然と背中がむずむずしてくるようになってきました。

でも、方法論はそれほど難しい話ではありません。せいぜい10個程度のポイントを常に押さえていればよいだけです。それがうまくいかないのは訓練が足りないか、考える動機が足りないかです。

■未知の世界をおもしろがれるか

方法論から再び姿勢の話に戻ります。と言っても、もうひとつだけ。自分が考える力を伸ばせたもうひとつの重要な理由は、未知の世界をおもしろがれた、ということだと思います。何か新しいメカニズムを理解するのが好きだし、なんだかよく分からない中で考えていると少しずつ見えてくるのが楽しい。時にカオスも起きてしまうけど、カオスすら「あれれ～」とおもしろがれるようになるといいんじゃないかと思います。逆にカオスが嫌いで「正解はなんですか？」となってしまうと、もはやそれは考えることではなく、答え当てです。

以上、参考になるかどうかはわかりませんが、僕がどうやって考える力を伸ばしてきたか、でした。自分自身が試してみることも、子供に試してみることもできるかもしれませんね。そうするかどうか、どれをそうするか、これも考えることですね(^_^)。

そうそう、ひとつ最後に。よく、論理的に考える人は冷たいと思われがちです。僕もよく「クールにずばっと斬る」とか言われます。でも、ここまで書いてきたように、考えるのは考える目的があるからなんです。その目的に対する思いが大きいからこそ、思いっきりクールダウンして考えるんですね。熱くなって見落としをしないように。だから、その後ろの熱も見てもらいたいなあと思います(^_^)。

Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。成長期の事業マネジメントを中心に外部からグロービスに関わる一方、「日本人のQuality of Life(QOL)アップ」をキーワードに知恵市場に続くプロジェクトをプロデュースしていく予定。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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