020 小泉内閣メルマガに見る「コミットメント」

先週の木曜日、pacoさんと一緒に今度の参院選に立候補するというある人に会ってきました。そこでなかなか興味深い話が出来たので今日はこれを紹介したいと思います。なお、僕は正直なところ、これまでほとんど政治に関心がありませんでした。他のことで忙しかったし、政治にほとんど期待していなかったからです。従って勉強不足のために間違ったことを書くかも知れません。しかし、それでもあえて書こうと思います。その理由は、完全に自信を持てるまで待つよりも、今書いた方がプラスになると思うからです。そして、間違っているところがあれば、教えてもらえると、とてもうれしく思います。

■政治に関心を持ち始めたわけ

さて、今回お会いしたのは、ガーラ（Nasdaq Japan公開企業）会長の村本りえ子さん(http://www.muramotorieko.net)。政治に関心のなかった僕がそういう人に会おうと思ったのは、一つにはベンチャー・ビジネスから政治に入っていこうという人はきっとおもしろい人なんじゃないか、と思ったからでした。その背景には自分がフリーになって時間が出来たことで好奇心がさらに高まったこともあるでしょう。また、同じくフリーになったことで、今回のことが自分のネットワークを広げていく上で役に立つかも知れない、という打算が働いたこともあると思います。

もう一つには、自分のキャリア・ビジョンである「大きな変化のプロデューサー」を果たすためには、ものごとを変えていく上で政治が果たす役割（あるいは果たせるはずの役割）を確認しておくべきだ、と思ったことがありました。これにはその数日前に、某ＴＶ局の人と話をする機会があったことも影響していました。その時、彼が言った「日本の政治がごく一部の人の利益によって左右されていることを知らない人が多すぎる」という言葉が印象に残っていました。

■政治に必要なのはマーケティングか？

さて、約束の時間に行ったところ、村本さんはまだ外出から戻っていなかったのでガーラ社長の菊川さんと話をしながらビラを見始めました。その中で特に目に付いたのが次の二つでした。

これまでの政治にはマーケティングがなかった。それをやりたい。（ここでいうマーケティングとは、「顧客」のニーズに目を向けるということです）
インターネット・デモクラシー～インターネットを利用して政治家と国民がインタラクティブにコミュニケーションを行うようにしたい。そのためにもインターネット利用のコストを下げたい。

もちろん他にも書かれていたのですが、特にこの二つのポイントについて、あなたはどう思いますか？

「その通り。政治家から見れば国民は顧客なのだから、国民のニーズのために働くべき。これまではそれが出来ていない」と思いますか？

「顧客のニーズに目を向けるなんてそんな当たり前のことを言っても意味がない」？？
「情報インフラの進化は経済の発展にも不可欠。適切だと思う」？？
「インターネットもいいけど、もっと重要なことがあるだろう。たとえば景気とか」？？

まず僕が思ったのは、今の政治がうまく行っていないのは、政治家がマーケティングを知らないからではない、ということでした。確かに国民全体のニーズを見てそれに答えようとしている政治家は多くない。けれどもそれはマーケティングを知らないからではなく、政治家がある特定の利益を持った人たち（国民全体ではなく）を顧客だと思っているからだと。その理由はいわずもがなと思いますが、これら特定の利益を持った人たちが政治家を当選させている（と思われている）からです。そして、村本さん一人が国民全体を顧客と考えて動こうとしても、これら他の政治家が変わらない限りは事態は大して変わらないでしょう。つまり必要なのはマーケティングの発想を政治家に導入することではなく、政治家が国民全体を顧客と考えるための手を打つことではないでしょうか。

もう一つ「マーケティング」という言葉にひっかかったのは、国民は政治家の「お客」なのか、ということからでした。確かに間接民主制において政治家は国民の「代理」の役割を果たすために雇われているという意味で国民は「お客」と言えます。ただ僕が気になったのは「お客」という言葉が持つ受け身なイメージでした。国民は「景気を良くしてくれ」「生活を豊かにしてくれ」「福祉を充実させてくれ」「明るい未来を作ってくれ」と政治家に期待しているように思います。しかしそれが果たされないから失望している。一方政治家はここに上げたようなことを実現します、と言っている。

しかし、そういう考え方でよいのでしょうか？ここに上げたようなことは本当は我々が自分たちでやらなければならないことではないですか？政治家や国に与えられるものではなく。確かにルールや制度は時に世の中の流れを変えるほどの力を持ちます。これらルールや制度を作ったり、これらに大きな影響を及ぼす政治家の責任は確かに大きい。でも本来は、全員で議論していては効率が悪いので間接民主制を取っているはずです。つまり、もともとは自分で考えるべきことではないでしょうか。

■インターネット・デモクラシーって？

インターネット・デモクラシーの方については次のように思いました。まず、これは大きな可能性を持っていると思います。しかし、ただインタラクティブな場を作るだけでは意味がない、いや、場合によっては害にさえなりえます。つまり、

何を目的として、
何を
どのようにやるか

が重要になってきます。では、具体的には？次のようなことを予算を使ってやってみては、と考えています。

ネット上に政策・法案の是非を議論する場を設けます。ここで議論をするのは、（ベストは）議員でしょう。最終的に政策・法案の通過・不通過を決める人たちですから。しかし、場合によっては決定に大きな影響力を持つ人たちに出てきてもらってもよいでしょう。一方、一般市民ここでの議論は読むだけで、議論そのものに参加はしません。パネル・ディスカッションのような形式を取るわけです。さて、これだけなら場所はインターネットですが、やっていることは国会中継やその他のメディアでの討論と同じですね。違いはこの先からです。

まず、この議論に議長（ファシリテータ）を入れます。議長の役割は、議論が正しく、そしてわかりやすく行われるようにすることです。たとえば本来の論点と違うところに話が逸れていたら引き戻します。また、議論している人たちの意見がどこでぶつかっているのかわかりにくい場合はクリアにします。また論理展開がおかしいという指摘をすることもあるでしょうし、わかりにくい言い方をする人には、わかりやすく説明をするように求めます。

次に、ネット上に一般の人が参加できる投票ボードを設けます。そして

（議論が始まる前の段階で）
- その政策・法案について判断する十分な情報を持っていると思う（４段階）
- その政策・法案に賛成/反対（４段階）
（議論の途中で）
- 上記パネル発言者の言っていることはわかりやすい（４段階）
- 上記パネル発言者の言っていることに賛成/反対（４段階）
（議論終了後）

上記パネル発言者の言っていることはわかりやすかった（４段階）
その政策・法案について判断する十分な情報を持っていると思う（４段階）
その政策・法案に賛成/反対（４段階）

について投票するようにします。

では、この「インターネット・デモクラシー」はいったい何のためにやっているのか？一般市民は直接議論に加わっているわけではないので、「直接民主制」ではありませんよね。

ここで狙っているのは上の「政治に必要なのはマーケティングか？」で書いた「政治家が国民全体を顧客と考えるための手を打つこと」です。そうなるためには、「そうした方が得する＝当選する」と政治家が思えればよいわけです。どうすればそう思うか？それは、

かなりの数の国民が政治に関心を持つこと
- ←現状はごく一部の人しか関心を持っていない。しかも前述のような特定の利益を持った人が多い。そしてこれらの人が当選に大きな影響を持っている。
日本全体のためになる政策を国民が支持すること。そのためには
- 政策の背景を理解できること
  - ←現状は情報が公開されていなかったり、難しくてよくわからない。
- 長期的な視点で考えていること
  - ←ここは心構えの話になりますが、背景の理解が進めば長期的に考えやすくはなるでしょう。

だと思います。「関心を持つ」という最初のポイントは、小泉内閣メールマガジンに現時点で２１１万人もの人が登録していることからもわかるように（この数字は少なくないと思います）、何かが変わるかもしれないと期待できる予兆があればクリアされるものと思います（興味のあるのは、このメルマガに登録した人と政治に無関心だと言われる層との重なり具合ですね）。

次に「日本全体のためになる政策を国民が支持する」というところでは、政策の背景が「正しく理解される」ことがポイントになってくると思います。たとえば「消費税を減らします」だけではどうして減らせるのかわからない。減らすことが自分にとっては（短期的に）よくても子孫たちのための投資も含めて長期的によいのかどうかもわかりにくい。しかし、これらが十分な情報とともにわかりやすく議論されれば、判断できる人はかなり増えるだろう。その結果、自分が支持できる主張をしている議員に投票しようとより多くの人が思うようになる、というのが上で説明した「インターネット・デモクラシー」の狙うところです。付け加えると、よく政治家は国民の声に耳を傾けると言いますが、十分な情報も理解もない状態の人に意見を聞くのはフェアではないですよね。

さて、ということは、もし上のような「インターネット・デモクラシー」を実現できれば、景気に影響を与えそうな政策を一つ通すよりも大きな意味を持ってきます。国民が自らの運命を自ら決めることに一歩近づくわけですから。おなかのすいた人が魚を１匹、人からもらうのではなく、魚を釣る方法をマスターする、という話と似ています。

では、僕は村本さんを支持するのか。言い方を変えると、ここで提案したことをどうやっていつ実現するつもりなのか。それについてはまず、もう少し村本さんについて知ってから決めたいと思っています。この週末は休んだり遊ぶことで忙しかったので、これからということで(^_^)。

Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。成長期の事業マネジメントを中心に外部からグロービスに関わる一方、「日本人のQuality of Life(QOL)アップ」をキーワードに知恵市場に続くプロジェクトをプロデュースしていく予定。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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