026のんびりできる夏休み

ちょっと夏が夏休み？を取っていたような天気でしたが、また今週からは夏復帰でしょうか。皆さんの夏休みはどんな感じですか？　僕は７月３１日から８月６日までは中部・北陸地方を転々としていました。今回のコミトンでは、この間に観光ビジネスについて利用者の視点から考えたことを書いてみたいと思います。

「どこかのんびり出来るところに行きたいね」そんなことばを口にすることってありますよね。そのとき、どんな場所をイメージしていますか？　どういう条件がそろっていたらのんびり出来るのでしょう？　そういう場所の候補を実際に思い浮かべることってできますか？　今回の夏休みで僕が感じたのは、まだまだそういう場所が多くないと言うこと、したがってここにはビジネスのチャンスがたくさんあるということでした。

■自然が満喫できる－どうして？

今回の休みで最初に訪れた上高地はその点で、なかなかいい線行っていたところでした。どういう点でそうだったかというとまず、自然の中に自分を浸すことができたということでした。自然と言っても厳しいのや、やさしいのやいろいろありますが、ここで言うのは最近はやりの言葉で言えば「癒し系」の自然です。深い緑と鳥のさえずり、木の香り、山々の姿と青空といったところですね。

上高地がよいなあと思ったのは、これら自然がかなり満喫できたということでした。そしてその後ろではおそらく、商売のチャンス、コスト、観光客にとっての利便性と「自然を保つこと」のどちらをとるべきかが考えられているのではないかな、と感じました。

たとえばこんな経験はありませんか？　せっかく緑や背景の山といったきれいな要素を備えた湖の湖畔なのに、たくさんの店が出しているのぼりや、白鳥の形をしたボート（白鳥の形をしていることに意味があるのでしょうか？）の群れがこの風景をぶちこわしている・・。行き交う車の音が目の前の波の音と同じくらい大きい・・。周囲をきれいに保つためのごみ箱ですら、そこにむぞうさに放り込まれたごみが外から見えるために幻滅に一役買っている・・。あるいは、かなり自然を保つことにいい線行っているところですら、遊歩道脇に置かれたベンチや立て札の材質は（持ちがよいかもしれないけれども）周囲の自然から浮いたものだったり・・（上高地でも露天風呂の柵がよくベランダにあるような金属製のもので雰囲気ぶち壊しだなと思ったことがありました）。

上高地でも、一番人が集まる河童橋付近等では一般の観光地に近い状態もあるのですが、全体としてはかなり「自然を保とう」という意識を感じます。たとえばマイカーの乗り入れを全面的に禁止していることは有名ですね。駐車場からの足として運行しているバスも低公害車を採用していました。上高地内の遊歩道にはごみが全くと言っていいほどないし、ごみ箱すらない。特に河童橋～明神池に向かう自然探勝路では、山、緑、水、鳥、蝶などを満喫できる、そしてそれを邪魔するような「不自然」なものにほとんど出会わないという体験が出来ました。そして、観光ビジネスをやろうとするなら、ここまでやってほしい（それでも「もう少し！」と感じる部分はあったのですが）と思いました。※上高地の自然についてはたとえばこちらのサイトで雰囲気が見られると思います。

■日本の観光地は人口密度が高すぎない？

もう一つ、「のんびりできた」「自然を感じられた」と思えた大きな理由は「人が多すぎなかった」ということです。夏休みとはいえ平日だからという面もありますが、それでも河童橋の前は渋谷のハチ公前のような人出でしたし、宿は僕らが泊まったところも含めてどこもほぼ満室に近い状態だったようです。でも、すごく人が多いと感じたのは河童橋の周りくらいで、二泊三日の間に僕らが過ごしたどこでも人口密度はほぼ快適なレベルでした。たとえば宿では食事やお風呂は十分のんびりできるレベルでした。また遊歩道を歩いていて（軟弱な僕らはそれ以上先には行かなかったのでした）そこそこ人には出会うのだけれども、自然を感じられないほどではなく、むしろ時々あいさつする人がいて楽しいくらいの感じでした。

もちろん上高地でも人出に関しては平日だったからで週末やピークになると違うのかもしれません。僕らが乗った時は余裕だったバスがなかなか乗れないこともあるそうですから、きっとそうでしょう。しかし人口密度は満足感を左右する大きな要素であると思います。するとたとえばこんな可能性はあると思いませんか。人口密度をあるレベル以内に保つように観光地を設計する。すると特にピーク時は他のところほど稼げないでしょうが、「のんびり/リラックスできる」ことが口コミやパブリシティを呼び、「ぜひ行ってみたい」と思わせるようになる。でも休日はなかなか難しいので、来たい人は予定を調整して平日に来るようになる。結果として常に稼働率が高い状態になる。もちろんそのためには人口密度が低いことだけでなく、最初にあげた「自然を満喫できる」などの「売り」があることが先決ですが、この二つが組み合わされているところにはぜひ行きたいと思いませんか。そういうところがまだまだ少ないと思いませんか？

■演出による強さ

上高地に３日間いた僕らは、近くの温泉と高原めぐりをした後、金沢に向かい、そこで妹を訪ねた後、能登に向かいました。目指すは能登半島の先端にある「ランプの宿」。まずはここのホームページを見てください。僕はこれを見て「これは行ってみたい！」と思ったのでした。僕らの場合はたまたま北陸に行く用事があったとはいえ、金沢から２時間半もかかるところ、他に取りたててこれといったものがないところに「行こう！」と思わせてしまうのはすごいと思いませんか。

何に惹かれたのだろう、と考えてみると、一つは「プライベート」（先ほどの人口密度とかかわりますね）の感覚、もう一つは「景色」（露天風呂から見える美しい入り江）、そして最後の一つは（後で気が付いたのですが）「光」による「演出」でした。ホームページからもわかると思いますが、ここは「光」を演出の道具として強く意識しているのですね。

ここが意識している演出（ビジネス一般的には「差別化」と言ってもよいでしょう）は光にとどまりません。水、そして食もそうだし、若女将も演出の要素として強く意識されています（実を言うと若女将を演出に使うことは僕らにとっては「うーん・・」という感じだったのですが、他の方の意見を聞いてみたいところです）。

光による演出はまず「ランプの宿」という名前の通り、各部屋や回廊につるされたランプに始まり、夜のプールや露天風呂を照らす青い小さな光、さらには夕焼け、朝日という自然の光ですね。水は、プールを海と一体化して見えるように設計している点が一番のポイント。ビーチ自体は岩場なので泳いだりビーチでごろごろするには適していないのですが、それでも海を身近に感じることができます。部屋によっては窓の外にすぐプールということや、水と光を組み合わせたことも水を使ってうまく演出していると思います。

食の演出は行く前には注目していなかったのですが、実際に見ると一番強烈な印象が残りました。ホームページにも写真が載っていますが、この写真よりも強烈な印象があります。まず一人一匹ずつのカニは迫力。そして品数の多さと内容の豊かさ（当然、海の幸中心）はすごいものがあります。こちらのホームページは実際にランプの宿に行った人のものですが、この方の写真の方が実際の印象に近いです。

そして、食が特に印象に残ったのは、この迫力が朝食にも引き継がれたからでした。さすがに夜ほどではないですが、朝食としては品数で圧倒。これだけ食べれば一日かなり元気でいられそうだ、という感じでした。

こういった演出で、がんばってるなあと思わせる反面、うーん、もう一歩だなあと思わせるところもあって、そこはビジネスをする側の視点で見て「自分だったらどうするかなあ」と考えていました。

まず感じたのが、リゾートとしていわば「プロ」のレベルまで行くのか、アマチュアでとどまるのか、ということでした。一流リゾートのことを勉強し（海と一体化して見えるプールはその例）、上のような突出した演出もされているのですが、プロ級のリゾートといえるにはまだ詰めが甘い。たとえば露天風呂は実はあちこちから中が見えてしまうとか、せっかく中でのんびりしたいと思っても昼食は何もない（かろうじてあるのがたこ焼きやおにぎり）し、夜食（あれだけ食べた後でまだ食べるかというのもありますが）も通いの従業員が帰れる時間までです。最初からそういうところだよと見せていれば来る方もそのつもりで来るのでよいのですが、リゾートとしてのプロ級の演出を見せている、あるいはそうしようという意志が感じられる一方でこの状態だと、点数は辛めにつきます。

もう一つは洋と和、人工と自然のバランスの取り方です。世界のリゾート的プールと和風の建物の組み合わせなど、ちょっと違和感はあるけれども結構うまく組み合わせているなあと思うところもありますが、この組み合わせの難しさと、うまく行った時の演出効果をもっともっと強く意識するべきだろうなあと思いました。たとえば先ほどちょっと触れた若女将。ホームページにはビキニで登場、きれいな人に見えますが、女将と言う言葉から連想するものからはギャップがある。ここはギャップを感じたとしても新鮮さと取れるようなものにする工夫が必要でしょう。

またここのシンボルであるランプは現在、電気で灯されています。防火などを考えるとそれがベストだろうと思いますが、今使われているものだと「ランプ」と言われて来て見ると「でも電気じゃん！」と言いたくなってしまう。だとしたら電気であっても「あ、ホントにランプだ」と言わせるようなものを探しつづける必要があるでしょう。あるいは油その他、電気よりも「自然」な光源を使っているが安全で便利なものを見つけ出すか。部屋に置かれていた宿の説明からすると、さらなるレベルアップを考えているようなので、そのときはこういったことを考えると、もっと「のんびり/リラックスできる」宿になるよなあ、と思いました。

■「いやし」によるリラックスと「人」の力

さて、能登は今回、一泊で駆け抜けて、僕らが次に向かったのは富山県砺波郡の城端というところにある「桜ヶ池クアガーデン」。天然温泉を利用した各種セラピーとホテルを組み合わせたところです。ここでは、体をパッシブ（受身）およびアクティブに動かすことでリラックスすることが出来ました。また、リラックスできる場を作る上で「人」の力は大きいな、ということも感じました。

ホテルについてまず最初にいいなあと思ったのは、部屋が「のびのび＆生き生きしている」ことでした。これには部屋が広かったことはもちろん含まれますが、それ以外にも、古ぼけて疲れてもいなければ、よそよそしくもない、やわらかい明るさがある、窓からの風景もくつろげる、なども含まれます。ビジネス側からすれば面積あたりの利益を高めたくなるのは当然ですが、こと「のんびり」したいゲストからすると、こういったことは選ぶ（特にリピートで）ポイントになるはずですから、ぎりぎりの線を模索すべきところと思います。

ちょっと見出しとは逸れますが、部屋の話が出たのでそちらへ行きます。上高地にいた時に実はちょっと不満に思ったことがありました。それは、僕らが泊まったところについては、昼間部屋にいてリラックスできるところではなかった、ということでした。まず宿が遊歩道に面しているため、人が砂利の上を歩く音がしょっちゅうします。また部屋の中は薄暗く狭いので、ここで本でも読んでいようかという気にはあまりなりません。

これまでの日本の観光地は、外で遊ぶことを前提としていて、部屋に客が長い時間いることはあまり想定していないように思います。また実際、観光客のほうも、いろいろなものを「見る」ことに欲張りで、部屋になどあまりいなかったかもしれない。でも、友人の話などを聞いていても、半日は外で遊ぶけれども半日は中でのんびりしたい、という人が増えているように思いますし、自分もそういう休みを取りたいなと思います。

上高地の場合、部屋にいてのんびりできるという要件を満たしているのはざっと見たところ帝国ホテルのみのようでした。ここはみんなが歩く遊歩道からは少し入った森の中にあるのでなかなかよいなあと思ったのですが、他よりも高いにもかかわらず予約が一杯だったので残念ながら泊まれませんでした。ちなみに予約のホームページを見ると１１月まで平日も含めてかなり埋まっていることがわかります。

桜ヶ池クアガーデンの場合、窓の目の前はホテルのエントランスや駐車場なのですが、その向こうには山並みが見えたり、その手前の風景も照明や植木などで工夫しているので、まあいいかな、という感じでした。

さて、本題に戻ります。ここについたのは土曜日でしたが、さっそく出かけていった温泉プールもそう混んでいなくて快適でした。なおプールには普通に泳ぐプールと、いろいろな部位をマッサージできるジェットのついたジャグジー的なプールがあります。特に浅いプールに浸らせる形でデッキチェアを置いて足のほうから泡が噴き出すようになっているデッキチェアバスは快適で、しばらくここでうたたねをしていました。

プールで少し体を動かしたところで頼んだのが「パッシブ・ストレッチ」。セラピストが行ってくれる３０分のストレッチです。これ自体もとても気持ちよかったのですが、気さくなセラピストとの雑談もリラックスするのによいものでした。別に他愛もない雑談をしているだけなのですが、それでも感じられるのは、いろいろな人とこうやって雑談をしているから、それをもとに今、自分とも雑談ができている、ということでした。つまり、その経験を積み重ねるほど、そのセラピストはよい雑談が出来るようになるということですね。

ストレッチの後は部屋に戻って一休みをして、またしばらくすると今度は温泉に出かけていきましたが、ここも「のびのびした空間」だったのでリラックスすることができました。そしてまた部屋で、のんびりできそうなテレビ（結構大きなテレビでした）を見た後、夕食です。

夕食はフレンチだったのですが、普通のフレンチよりも「ヘルシー」を意識していることは感じさせるものでした。まず野菜をはじめとして使っている素材が生き生きしていて、味があるのです。そして素材の力を生かした料理になっている。僕は「食」の詳しいことはわからないのですが、「ヘルシー」ということを、カロリー控えめというようなところからではなく、「元気なものを食べさせてくれている」というように食べていて感じました。

もう一ついいな、と思ったのは「人」です。おいしかったのですがちょっと量が多すぎて彼女が残したところ、「お気に召しませんでしたか？」と聞かれました。それもマニュアルにあるからというよりは、本当に気にかけて聞いている、という印象を受けました。翌朝「さっき外で摘んできたんですが、ハーブティーをおのみになりますか？」と聞かれたとき、夜に「今日はワインはどうされますか？」と聞かれたとき、また翌朝の食事で「今日は気をつけてお帰りください」といわれたときにも、同じようなことを感じています。言葉とともに、タイミング、トーン、表情などによって、リラックスできる時間を作ってくれている、という感じがするのですね。これは桜ヶ池クアガーデンで特に感じたところでした。

というわけで「人」と「空間」そして「食」という点ではなかなかよかったのですが、メインのセラピーではもっとがんばらないと先が厳しいと思いました。初日のパッシブストレッチはとてもよかったのですが、二日目に組んでいたパッケージのウォーターマッサージ、タラソセラピー、アロママッサージは「まあ、効いたような気がするよ」というレベルでした。僕らとしては、北陸に行くので中部北陸で体をいやせるところはないかな、と探したらここしか見つからなかったのですが、この分野は人気が出てくると競合が増えるでしょう。そうなると、まわりにほとんど何もない立地なので、その時のためにも今からセラピーの力を高めておく必要があるでしょう。それはたとえば、もっと効果のある方式や機械の導入かもしれないし、セラピストのレベルアップ、またきめこまかな事前診断との組み合わせかもしれません。

利用者側から見た観光ビジネス、特に「のんびりできる、リラックスできる場所」について今回は考えてみました。今回の夏休みではこれ以外にも、温泉をはしごしたのも楽しかったし、車の幌を上げて山の中を走るとまさに緑満喫で最高だなと思いました。帰りがけには八ヶ岳のpacoさん宅に寄ってわいわい話しながら食事をしたのも、とても楽しい寄り道でした。さて、みなさんの夏休みはどんな楽しい夏休み？

▲上高地/河童橋

▲ランプの宿/石川県珠洲

▲桜ヶ池クアガーデン

Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。成長期の事業マネジメントを中心に外部からグロービスに関わる一方、「日本人のQuality of Life(QOL)アップ」をキーワードに知恵市場に続くプロジェクトをプロデュースしていく予定。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

mail:toshi@chieichiba.net