027野生ｖｓペット

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グロービスで「クリティカル・シンキング」（通称クリシン）などというクラスを教えていることもあって、よく人に「どうやって論理思考力を高めたのですか？」と聞かれます。学校その他で手法を勉強したというのも重要な要素としてあるのですが、それを結果につなげているのは普段から考えるくせがあるということだと思っています。とはいうものの、それだけを返事として返すと「やっぱり努力なんですねえ。でも、なかなか自分だけだと出来ているのかどうかわからないんですよねえ」という反応が返ってきます。確かにそうでしょう。「このくらいまで考える」というイメージと、「あのくらいまで考えよう」という刺激が本当は欲しいところ。

そこで今回からしばらく「クリシン日記」的なものを書いてみようと思います。仕事を含めた生活の中で自分がどんなふうにものを見て、考えているかを書いてみるということですね。好評であれば続けたいと思います。

■スクールゾーンって必要？

「そういえば、あれさ・・」
この間、車で家の近くを走っていた時のことです。道路の脇に立てかけてあった「スクールゾーン」の柵（朝など通学路に車が入れないように道の真中に置いてあるやつです）を見つけて、助手席の彼女に話題を振りました。
「あのスクールゾーンってやつ、趣旨はわかるんだけど、それでいいのかって思うことがあるんだよね」

確かに、飛び出したり急に方向を変えたりする子供の安全のためにも、ドライバーが冷やっとしないためにもよい策なのでしょう。その時間帯だけドライバーがちょっと不便な思いをすることはたいしたことじゃないかもしれない。ただ、その後ろにある考え方が何か気になるのです。その時に思い出したのが、昔、中学校の担任の先生から聞いた話でした。「昔は今みたいにうるさくなかったから、こどもたちを夜集めてみんなで近所の森に行って・・・」特に都会育ちの自分は聞いているだけでわくわくしたものです。

つまりこういうことです。安全を確保する一番思いつきやすい方法は「危険から遠ざける」ということです。しかしその結果、危険に対して鈍感になってしまい、結果的にはかえって危険ということはないのか？　また、安全の代償としてわくわくするような体験やたくましさを失ってしまうことはどうなのか？　そうやって誰かが安全を保証してくれる中で育っておとなになったとき、人は自分を自分で守れるのだろうか？

■日本って過保護すぎない？

考えてみるとこどもだけでなく、大人に対しても日本全体が安全を重視しすぎていたり、面倒見がよすぎるような気がします。たとえば道路には「スピード出すな！」的な標語が山ほど。アメリカでは見た記憶がありません（話は逸れますが、そもそも効果があるのかどうか、どなたかご存知ですか？）。スキー場の安全対策なども「at your own risk」で済ませてしまうアメリカとはよく比較されますね。面倒を見るということでいえば、健康保険にしても、失業保険、年金にしても、国が仕切っていることは「自分の面倒を自分で見る」という姿勢にどう影響を与えているだろう？

■野生が失われた？

スクールゾーンから発想がびゅーーーーんと飛んでいきましたが、そんなことが関係あるんじゃないかなと思ったのは、しばらく前に居合わせた、ある集団面接のことが頭にあったからでした。面接は著名なコンサルティング会社のもの。面接を受けていたのは２０代後半から３０代前半の有名企業に勤める人たちで学歴も申し分ない。ところが「○○さんと◇◇さんは銀行におられるわけですが、今後、商業銀行の勝負の仕方はどうなっていくと思いますか？」とか「□□さんが考える自部門の課題とその解決策はどんなものですか」といった質問に対して、すぱっと答えられる人が少ない。

冷静に見ればこれらの質問は、コンサルティング会社の面接を受ければ聞かれて当然のものですよね。面接の場が自分という商品を売り込むための場と考えていれば準備してくるはず。また、そもそも仕事をしている中で、自分が組織を動かしているつもりで考える姿勢（＝オーナーシップ・マインド）があれば、面接があろうとなかろうと普段から考えているはずの問題でもあります。でも、ほとんど誰も答えられなかった。

それが理由ではないかもしれないけれども、僕がこの情景を前にして感じたのは、動物で言えば家畜とかペットになってしまっているんじゃない？ということだったのでした。自由はないけれども枠の中でおとなしくしていれば飢えることもないし安全も保証されている。そうしているうちに危険や獲物を感じ取る力を失ってしまっているんじゃないかと。

■悲劇を防げる個人

いろいろな悲劇（花火での事故は記憶に新しいですね）や問題（景気が悪いとか）が報道されるたびに管理者側がどうすべきかという議論が行われます。それはそれで必要でしょう。しかし個人が危険を避けたり問題にはまらないためにどうすべきかの議論はほとんどされないように思います（事故が起きたばかりでは非常にやりにくい議論ではありますが）。また対策を考えるにあたっても「そこまで管理者が面倒を見てしまったら将来のためにまずいんじゃない？」ということはほとんど考慮されていないように思います。まるで自分の身を自分では守れない無力な子羊として個人が見られている、その個人自身ですらそう思っているのでは？

スクールゾーンという各論では、こどもを持ったことがない僕の考えが甘いのかもしれません。でも、自分自身や家族、そして社会の中に、自分の足で立つという発想をもっと持つべきじゃないか、と思っています。さらには自分が場に働きかけたい。警察や警備会社の対策が十分でなくとも将棋倒しの悲劇がその場にいた人たちの行動によって防げた、なんてのは難しいかもしれないけど、少なくともそのトライをできる自分でありたいと思ったのでした。

■カーナビ考

サラリーマンをやめてやりたいと思っていたことの一つは、いろいろ「経験すること」でした（019 僕が会社をやめる理由）。その中の一つとしてはじめたのが車であちこち行くこと。車を買ったり乗ったりすること自体は別にサラリーマンを辞めなくともできるんですが「あちこち」というのはなかなか難しいかなと思っています。そしてまあ、一つのタイミングだったのでしょうね。自分の世界を広げる方法を考える。というわけで、「東京では電車の方がずっと効率はいいよ」と思っていたし、今も思っているのですが、あえて車を買いました。

ちなみに（カーナビの話からはそれてしまいますが）車を選ぶのにはかなり時間がかかりました。なかなか「これ」というのが見つからない。車は移動の手段であると同時に一種のファッション－自分を表現したり、自分の気持ちがそれによって変わるもの－だと思っていたので、スタイリッシュかつ楽しそうなものをさがしていました。その点ではフランス車やイタリア車に有力候補があったのですが、値段が高すぎる。車は欲しいけれどもそこまでの金は払いたくない、デザインはいいけどそこまで価値があるとは思えないと感じていました。壊れやすいという情報も難点。

そして最終的にたどりついたのはRoadstar（マツダ）。大きさとボディのカーブがなかなかgood（セクシーだけどゴージャスと言うよりカワイイ）。白地に黒というメーターやハンドルの材質、そしてクリスタル・ブルー・メタリックというボディの色などなど、スタイリッシュで楽しいという条件を満たしている、と思ったのでした。（Roadstarについてはマツダのサイトに情報がありますが、実物はこれよりずっとかっこいいです(^_^)。）

■ワープロを超える衝撃

そうそう、カーナビの話でした。なぜカーナビをつけたかというと、気軽にあちこち行きたい、その道すがらも風景を楽しみたい、と思ったのでした。僕はそれほど運転がうまくないので道がよくわからない状態だとそれが難しいと思ったのです。一人で乗るにせよ二人で乗るにせよ、地図を見るのにエネルギーを使いたくなかったし。そしてナビをつけたことは、ワープロを初めて使ったときに近い驚きをもたらしました。

最初はとにかく「道に迷いたくない」「地図を見たくない」というのがメインでした。特に都内に複雑に展開する道を車線や立体交差まで示してくれるナビは便利でした。旅行に行った時もまわりの交通に注意する以外は気にしなくてよいので、会話や景色を見ることをこれまで以上に楽しめてご満悦です。

しかし普段走る都内はだんだん道も覚えてきます。特によく行くところの場合にはいらないのかなと思っていたら、そうでもなかった。渋滞は時間帯や曜日、事故や工事によって変化します。これらの情報をナビは取り込んで最適な道を表示し、状況が変われば変更を提案してくる。紙の地図のようにスタティックではなく、ダイナミックなんですね。

データベースとその閲覧機能もなかなかすごいと感動しました。おそらく電話帳データから取っているのだと思いますが、電話番号を入力すると名前（たとえば企業名）と場所を表示し、そこまでの道と想定所要時間を出してくれます。住所を入力するのは面倒なのでこれは便利。あと、この間使って便利だと思ったのは「近くのファミリーレストラン！」と言うと音声認識が聞き取って（音声認識だと運転中にも操作できるので便利です）検索を開始、その近くのファミレスを表示するという機能。そんなのを見ると連想が膨らんできます。音声認識、インターネット、ナビを組み合わせたら、かなり楽しめそうな気がしませんか。

その他、この間pacoさんのところで話題にのぼったのは山道などでカーブに入る前からカーブの深さがわかるというもの。さすがかつての走り屋paco夫妻です (^_^)。実際僕も、山道や首都高を走っていてどの減速するべきかの参考に使っています。これも広い意味でデータベースと閲覧機能と言えますね。

■ナビがなくなったら？

一方でカーナビの便利さを感じながら、ちょっとした警戒感を僕は感じていました。ちょうどワープロの時にも感じたような。ちなみにワープロを使うと「漢字を忘れる」というのはよく言われることですが、僕はなぜか漢字をあまり忘れないのであまり心配していません。漢字にはたまたまわけあって普通の人よりも昔から接しているので忘れにくいのかも。それよりも「だいじょうぶかな」と思うのは、「紙と鉛筆になったら自分の考える効率はどのくらい変わるのか？」ということです。簡単に編集できる環境で考えることに慣れてしまった今、「一まとまりきちんと考えてから書く」という習慣に戻れるのか、と。ちなみにワープロなしで昔の人がやっていたことに一番、驚異を覚えたのはMBA出願の中でエッセイをタイプしていた時でした。

カーナビの話に戻りましょう。今回、実は何回かディスクにトラブルがあってナビが使えなくなったり、不自由だったりした時があったのですが、非常に不安になるのですね。自分がどこにいるのか、どっちに向かっているのか、いつまでかかるのかわからないような。落ち着いて周りを見渡せば標識もたくさん出ているのに、この間までそんなことはわからなくて当たり前だったのに。

そして道をなかなか覚えない自分にも気がつきます。カーナビがある局地を示してそこで「右」とか「左」とか指示するので、自分が全体行程の中でどこにいるか、どっちの方角に向かっているのか、わからなくなったり、そもそも覚える気がなくなったりしているようです。

さらに興味深いのは、目の前の状況とナビの示していることが違う時の自分の行動です。ナビでは渋滞していると出ているのに、目の前の直線には全然車はいない。さてどちらを信じるか。ナビの情報は完全なリアルタイムではないので目の前の景色を信じるべきなのでしょうが、なぜか不安になるのです。これもちょっと上の「過保護」の話に似ていると思いませんか？

さてナビの話はこのくらいで終わりたいと思いますが、もう少しだけ。この間、某電機メーカーでセットトップボックス（テレビの上に置かれるケーブルＴＶ等のターミナルですね）を扱っている人と話をする機会がありました。彼らは多チャンネルだとか双方向テレビだとかいろいろな可能性をさぐっているわけですが、その時にこのカーナビの話を思い出したのです。ハイビジョンに始まりテレビはずいぶん前からいろいろな高機能化をはかっていますが、狙うように普及していません。その最大の原因は、彼らが訴求しているこれまでとの「違い」が、使う側にとっては「うれしいねえ」と感じられないからでしょう。カーナビや携帯電話をお手本に考えていくとよいのでは、と思ったのでした。もっともカーナビがどこまで売れているのか僕は知らないのですが。自分が使うようになってから気になって車を見るたびにつけているかどうかチェックしているのですが、１０台に１台くらいのような気がします。これもまたなぜか考えてみるとおもしろいですね。

■愛する努力って可能？

週末に、久しぶりに映画館で映画を見ようとA.I.を観に行きました。大々的に宣伝していた割には評判を聞かないなあと思っていたのですが、そういうことから期待していた以上によい映画でした。映画自体はちょっと悲しいけれども、深いし、かみしめるうちに元気が出る映画だと思います。一番残っているのは「人を愛することのできるロボットを作ったら、それは人の側にも責任が生じるということじゃないか」という言葉。また、そもそも愛情ってどうして生まれるのか？　愛し合っている人と、どうしたらそうありつづけ、さらに高められるのか、ということを考えたりしました。

実を言うと僕は、１年くらい前までは（愛情に限らず）「そう思っている、感じている自分を変えることは不可能だ。それを直視するしかない」と思っていたのですが、いくつかのまわりに見られる（特異な？）例と自分の願望から、感情についても長期的には努力は可能だ、と宗旨がえしたのでした。そして「どういう努力をすればよいのか？」ということをずっと考えながらトライしています。この話はまたそのうち機会があれば。その意味で、数日前に読んだ「十二番目の天使」（オグ・マンディーノ著　求龍堂刊）もエネルギーを与えてくれる本でした。「そんなうまく行くかよ」と思うところや鼻につくところもあるのだけれども、全体としては「ありうる」「いい」と思えるからそれでいい。そんな感じです。

ところで、映画はお台場のメディアージュ（シネマ・コンプレックスに興味があると彼女が言うので）に夕方からの回を観にいったのですが、メディアージュの前にたどり着くよりも駐車場に入るのに時間を使ってしまいました。平日は空いているようなので次は平日に行く方策を考えよう（彼女は会社員）と思っています。帰りは雑誌で見て一度行ってみようと話していた麻布十番のお店で晩御飯を食べてから（もう一歩だったなあと後で話していたのですが）、Roadstarのルーフを開けて夜の東京の空気を楽しみながら帰ってきたのでした。

Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。成長期の事業マネジメントを中心に外部からグロービスに関わる一方、「日本人のQuality of Life(QOL)アップ」をキーワードに知恵市場に続くプロジェクトをプロデュースしていく予定。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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