031 人と会いながら考える

今、意識して人と会っています。僕にとって考えることとは、机にじっと向かって行うことだけでなく、人と話して刺激を受けながら行う部分も多い。そして、すぐに「これだ！」と見えるわけではなく、それぞれはジグソー・パズルのピースをもらっているようなものですね。会った後、自分の頭の中で転がして、また別の人に会ったりして少しずつ組み上がっていきます。特に６月末からは、次に取り組むべきことを模索しているので、これはしばらく続きそうです。この時間、相手にとっても楽しい時間だとよいのですが。

■サバイバルの場所であり、帰るところ

「お二人にとってニューヨークってどんな場所ですか？」
girl friendがニューヨークから日本にやってきているともだち二人（日本人の男女）に尋ねた時の返事は、

「帰るところかな」
「サバイバルの場所」

一人の人がこの矛盾するような二つのことを口にしたわけではないのだけど、二
人はこの二つが矛盾しないと言うのですね。「サメみたいなもんやな。泳いでい
ないと死んでしまう」

わかったような、わからないような。実は、話した内容を正確には覚えていないし、二人が言おうとしていたことを理解したという自信はないのだけど（^_^）、帰るところというのは自分が「生きている」感じがするということじゃないかと僕は解釈しています。サバイバルにはエネルギーを感じ、エネルギーは生命・生気につながるとでもいうのかな。そして今の日本にはその「エネルギー」がない、という話になりました。そういえば１年位前に別の友人も「電車に乗って乗り合わせた人の顔を見ると表情が死んでいる」と言っていました。

同じ頃に読んでいた本「アジア漂流紀行」（下川裕治著）に出てくるのもやはりサバイバルでした。中国やインドで列車の切符を買うのはおびただしい人と肉弾戦を繰り広げながらのサバイバル。ビルマでバス（実態はトラックの荷台に荷物を山と積んだ上に人を乗せる）に乗るのもサバイバル、香港人の日曜日もサバイバル。彼らはとんでもなく混んだ店で包子をほおばりながら新聞を読み携帯で話しているらしい。読んでいてもエネルギーを感じるというか、エネルギーがないとサバイバルできないよなあと（^_^;。そして本には、こういったアジアの状況も少しずつ変わってきていて、たとえばコンピュータの導入によってか列車の切符はかなりとりやすくなってきていて、ちょっと拍子抜けしていると書かれていました。

でも、だからといって、限りあるえさを奪い合うとか、いつ襲われるかわからない緊張感の日常がいい、ということじゃないという気がします。特に、満員電車に乗りたくなくてラッシュアワーを避ける方法をずっと考えてきた僕としては。では、どういう社会にすればいいのか？　便利とか楽チンだけでは社会や個人のエネルギーは死んでしまう。２１世紀型の人が生き生きしている状態とは？　このビジョンがないと、景気がよくなったとしても日本や世界がよくなったことにはならない。この話は後ほどもう一度やります。

ちなみにToshiには上のようなサバイバルできない、というのは三人の共通見解だったのでした（^_^）。

■愛国心は必要か？

そして、もうまもなくアメリカでテロが起きることなど露知らず（ちょうど火曜日の夜でした）、奇しくも僕らは国とか愛国心の話をしていました。girl friendが「はじめて海外に行った時、天皇について聞かれて答えられなかったことを恥ずかしく思った」と言い、ともだちの一人も同じようなことをアメリカに行ったばかりの頃に感じていたと言います。日本の戦後教育の問題なんだよね、という説もありました。しかし僕の中には、そういった誇りや帰属意識が生み出している弊害も結構大きいんじゃないか、という思いがありました。この時はまだ思考を深めきれず「ゼロサムの局面（＝何かを奪い合うような場合）以外は国が好きなのはいいことなんじゃないかな」という感じで終わりました。

なんてことを話した後、別れてうちに帰ってテレビをつけるとご存知のような状況です。それから数日のうちに「これはアメリカに対する攻撃だ」「今こそ一致してアメリカを守ろう」「アメリカでもヨーロッパでもアラブ系の人たちへの迫害があった」というように国や民族・宗教の名前をしつこく耳にすることになります。

やはりなんか違うよなあと思ってしまうんですね。守るべきものはアメリカなのか？　どうしてアラブ系の人を攻撃してしまうのか？　わかりやすい「くくり」でくくってしまうことで、むしろずれてしまっているということじゃないのか。そんなくくりは忘れた方がいい。テロに反対！　人の命を守れ！でいいんじゃないの？

ただ、いざ実際に行動を起こそうとなると、「くくり」で考えた方が現状には合っていることも多いのは事実。たとえば犯人の逮捕であれ報復であれそのサポートであれ、ものごとを決めて、実際に動くのはアメリカ政府や日本政府だから、僕らが働きかける時もこれらに対して働きかけることになる。うーん、難しい、と終わってしまうとあまり考えた意味がないので、「くくり」についての一応の結論を出してみました。

★ネガティブな話の時には極力「くくり」を使わない

まず、ネガティブな話の時には極力「くくり」を使わない。少なくともくくりで終わらせない。○○大学の人だから、大企業の出身だから、△◇人だから、ではなくその人を見る。「××人はこうだ」と言い勝ちなときも、できるだけ絞り込んでいく。たとえば「アメリカは今回のことがなぜ起きたのかを全然検討していない」という時の「アメリカ」は本当は、ブッシュ大統領か、アメリカ政府か、あるいはアメリカの多くのメディアではあるが、「アメリカ人が」ということじゃない可能性が高い。ならばしかるべき言い方をするということです。

★「くくり」のよさを取り入れていく

一方で「これはよい」と思ったものはどこのものだろうが取り込んでいく。たとえばCNNを見ていて、よいなあと思ったのは、NYの人たちやCNNのポジティブで能動的な態度でした。日本のメディアやそこに登場する人たちは評論や批判ばかり述べる傾向があります。また「～をして欲しい」といった受身の姿勢が多い。しかし特に時間から日が短いうちはCNNで、警備がなっていないとか、救助がのろいといった批評よりも、「今、何をするべきか」という議論と説明がなされていました。また沿道に立って救助活動にやってくる車に向かって「THANK YOU!」というプラカードを振っている人などを見ると、自分自身が直接何も出来なくてもこういう形で人の士気を高めることは出来るわけです。もちろん問題のあるところもあるでしょう。しかし、それはそれとして、よいところはしっかり見て、取り入れて行こうと。

★自分の「出身」は世界に参加するためのおみやげにする

愛国心だとか出身だとかは、帰属の同じもの同士で集まるためのものではなく、異質の世界に参加するためのおみやげと考えた方がよいと思っています。アメリカのビジネス・スクールにいた頃、よく「日本ではどうなんだ？」と聞かれました。これは僕にしか答えられないことです。また表面的なことだけでなく、自分や日本の良さや好きなところがどうやって出来上がってきたのかを振り返ることで、さらに大きなおみやげにできるでしょう。なお、何が良いのか、好きなのかはそれだけを見ているうちはなかなかわからないもの。違う世界と接触することは必要だな、と彼らと話していた改めて思ったのでした。

※これらはきれいごとに見えるかもしれませんが、自分が勝っていくためにも実は有効だと思っています。

■古い産業にもベンチャーの可能性はある

「世間的に見栄えがしないから人が行きたがらないような業界にビジネス・チャンスはたくさんあるし、実際、とても儲かっている会社があるんですよ」こんなことを言っていたのは、香港でカジノの裏側にかかわったり、歯科医師会と対抗するような歯医者の開業を支援していたというちょっとおもしろい友人です。１年程前からベンチャー専門のコンサルティングを行う会社で「修行」をしていたのですが、やはり自らやりたいとベンチャーに参加するべく、まもなく退職するとのことでした。

ベンチャーと言うとITやバイオその他テクノロジー系の「先進」世界に注目が集まるけれども、昔からある産業にもベンチャーにとってのチャンスはたくさんある、というのが彼の主張です。しかし誰もが見ている世界なので「新しく世の中に出てきた技術を人に先行して使うことで勝つ」というやり方じゃない。ポイントは「不満と障害」。市場にある不満と、「でも解消できない」理由、つまり障害をクリアできる方法がセットになるとビジネス・チャンスになるということです。

たとえば僕らが盛り上がったのは「もっとうまい昼飯が食えないか」ということでした。ここでいう「うまい」とは「うまい＋体によい」ということです。また僕らの中には食べることを「製造業」にして欲しくないという思いがあって、コンビニ弁当も牛丼チェーンもハンバーガー・チェーンも「違うな」と感じていました。しかし、昼飯のように非常に限られた時間の中で「製造する」ではなく「つくる」そして「食べてもらう」にし、かつビジネスとしてもおいしいものを成立させるのは難しい。

でも、この「難しい」を「なぜ難しいのか」と一歩掘り下げていくと、解決策が少しずつ見えてきます。「固定費が高い」「お客さんが価値を理解してくれない」「いったんできるようになったら他でも同じことが出来る」等々。「固定費を下げるには単位時間あたりの売上を上げることと、固定費を高くする要素をとってしまえばいい。そのためには・・・」どこまで話してよいと彼が思っているかわからないのでここには書かないけれども、このような話は食べ物から医療や住宅、教育などに及びました。いずれにも僕らがよく知っている「不満」があり、この解決を阻んでいる「障害」があります。しかし、彼と一緒に上のようにばらしていってみると、いくつかのステップを踏めば障害は乗り越えられるかもしれない、という感じがしてきました。実際にそれに成功している企業もあります。これはベンチャーの中でも自分がやりたいところかもしれないと感じてきました。

■有名シェフが小学校のメニューを作ってる？

アメリカ西海岸から出張に来ていた友人（日本人）と土曜日に話した時に、この思いを強めました。

「アメリカにしばらくいると、いくら新聞とか読んでいても浦島になりますね。 iモードが出てきた時も最初は何をやっているのか全然わからなかったんですよ」
「そのiモードのアクセス数ナンバー１コンテンツって何か知ってます？」
「電車の経路探索とか？」
「着メロなんだって」
「へー」
「ちなみにナンバー２は壁紙。こういうのももちろんビジネスなんだけど、もっと根本的に社会を進歩させるビジネスを育てたいんですよね。我々がずっと抱えている問題を解決するとか」
「そういうことで言うと、ぜひ日本に作って欲しいものがあるんですよ」

彼が話してくれたのは野菜市場でした。彼の住む町では教育委員会がこどもに「sustainable life」を学ばせるために週に数回、野菜市場を開いているそう。野菜は有機農法でつくられていてとてもおいしいとか。「もうスーパーでは買わなくなった」と言っていました。一方、売り手側－野菜を出しているのは近隣の農家。彼らにとっては出てくる手間はあるけれどもスーパーに卸すよりも高いマージンが取れるというメリットがあるわけです。そして市場では、食べる人と作る人との間で話がされていることもよい点だとあげていました。

食べることが好きな彼はほとばしるようにサンフランシスコ周辺の食べ物についてたくさんの話をしてくれました。同じく食べることが好きな僕のgirl friendは大きくうなづきながら、それほどでもない僕は「静かになっちゃったねえ」とからかわれながら聞いていました。聞いていると、彼の住む町には「うまい＋体によい」素材や料理が十分にあるし、またそれがビジネスとして成立している。

そして、こういうことがビジネスとして難しい理由としてよく「顧客の啓蒙が進まない」ことが上げられるのだけれど、それがどうしてクリアされているのだろうという話になりました。彼の観察によると非常に大きいのは「権威者によるコミュニケーション」。たとえば有名なシェフ（名前は忘れた(^_^;）がそのレストランその他の場所で素材の重要性を語ったり、語るだけでなく小学校のメニューを作っているという話が出てきました。小学校のメニュー・・・。前の「教育委員会」というあたりをみても、ビジネスではない手段を使った方がよい、少なくともベンチャーのように高度成長が期待されるやり方はしない方がやりやすいこともありそうです。どうしてか、どういうものがそうなのかは今回は省きますが。

さて、これら食についての話を聞いて僕が思ったこと

人の基本的な必要に応えるビジネスにはまだまだやるべきことがある
それらはビジネスだけでなく社会活動の形を取るという手もある

というのは今回初めて気が付いたことではなく、実はしばらく前から考えていたことでした。でもこれが自分にとってプラスになると思ったのは、改めて自分の思いにエネルギーを注いでくれたことと、具体的なヒントにいくつか気が付かせてくれたこと、そして同じような世界を作ることに同時期に関心を持っている人たちの心当たりが増えたということでした。

■あこがれの仕事は「先生」と答えるこどもはどれだけいる？

最近の事件によって教師のイメージはだいぶ悪くなってしまったけれども、自分個人の体験を振り返ると何人もの先生が大きなプラスの影響を僕に与えてくれています。その一人が大学のときのゼミの先生。来年７０歳になる先生との話は相変わらず刺激的でした。特に印象に残っているのは、「かつてはいわゆる高等教育を受けていない人の中にも優れた人たちがいましたが、最近はそうではなくなってきているように感じています。つまり、全体的にレベルが高いことがわが国の強みと言われてきたのが、そうではなくなっているかもしれない。これは問題ですよ」という言葉です。これについては現実にそうなのか、もしそうだとするとどういう影響が出るのか、では何をすればよいのか、いずれもまだ自分にはわかっていません。しかし、気になる言葉として記憶にとどめておこうと思っています。

結局、先生とはなんと３時間近く話し込んでしまい、次のアポイントにあわててかけつけるという事態になりました。でも７０近くになっても前に進むために考えたり、反省したりする人はすばらしいですね。またそのようになっていく人にぜひ先生をやってもらいたいものです。

先週会った人はこれ以外にも、エンジニアが自分をパワーアップするために訪れるというサイトを立ち上げた元雑誌編集長や、医療機器のメーカーで情報システムの部門長を務める人など。こういった一週間の刺激を経て、自分の中に次のようなものが出てきました。

まず、かつては自分にとって一番快適なところを見つけてそこで生活しようと思っていましたが、自分が今いるところ、つまり東京や日本をもっと住みやすい場所にするやり方もあるよな、と考え始めました。（やっぱり無理だ、と考えるかもしれませんが）

次に、上で触れた「サバイバル」について。テロが起きたり、景気が悪くなったりしていますが、日本においてサバイバルとはこれからだんだん「自分の存在意義を感じていられること」というようになっていくでしょう。もちろん生き延びていくだけで精一杯という人もいるでしょうが、生き生きとしている人というのは、自分の存在意義を感じられる人であり、これらの人にとってはそういう状態になってこそ「サバイバル」していると感じるのだと。そしてきっと、その源泉は自分の歴史(ルーツ)の中にあるのでしょう。自分の中にあるものを活かしてこそ、自分が光り、それがまた自分にとってうれしい体験になるのではないかと思います。

最後に、問題の大きさと自分の価値観を考え合わせると、教育という領域は自分が取り組むべき一つの有力候補じゃないかと考え始めるようになりました。目標としては、こどもが「先生になりたい」と思うようなくらい？

というわけで大学時代の英語の先生にメールを送りました。その先生は型破りなクラスを行っていたのですが、しばらく前に送ったあいさつメールに対して「２年前くらいにようやく、これだ、というのが見つかって、これを日本中に広めたいものだと思っている」というメールをもらっていたのです。どうなるかわかりませんが、近いうちに会って話をすることになっています。

Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。成長期の事業マネジメントを中心に外部からグロービスに関わる一方、「日本人のQuality of Life(QOL)アップ」をキーワードに知恵市場に続くプロジェクトをプロデュースしていく予定。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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