040 デュアルライフ(3) 移住先をどうやって探す？

12月に入りましたが、東京ではまだ紅葉が始まっていない木がけっこうあります。これは温暖化というより、都市内に熱がこもるヒートアイランド現象の影響だと思いますが、サザンカが咲く季節にまだ紅葉していないカエデがあるというのもなんだか変な感じです。

さて、今回はデュアルライフの3回目、時間を少しさかのぼって、そもそもどうやって移住先をさがしたのかという話をしておきたいと思います。

■「こんなところに住みたいね」は毎度のこと

ぼくと妻は知り合って20年という時間をともに過ごしているので、あっちこっちに旅をしています。国内も海外も、そこそこ行きました。気に入ったところを見つけると、お互い口に出るのは「こんなところに住みたいね～」。これはきっと、誰でもおなじだと思います。

これまで何か所もそういう場所に出会いましたが、本当に住みたいなあと思ったのは、沖縄の石垣島、伊豆、そして清里でした。清里には富士屋ホテルがあり、たまたまそこに安く泊まれる方法があったため、数年前から何度かいっていたのですが、ある年、雑誌で見つけて入った小さなレストランのオーナーが最近清里に来たばかりと聞いて、話し込んでしまったのです。移住に関すること、いろいろ教えてくれたのですが、「あんまり考えないできちゃいなさいよ」というのがオーナー夫妻の結論。「それには、とにかく土地を探すことね」というわけで、彼らの年探しを手伝ってくれた地元の不動産会社を紹介してくれました。

■とにかく、土地を見よ。

翌日、東京に帰るという日に、清里の下にあるその不動産屋を訪ねたら、さっそく2～3か所を見せてくれた上で、土地の相場や地元の業者と大手業者の違いなどを詳しく、3時間ほどもかけて教えてくれました。僕らはもう、ポカーンという感じだったんですが、とにかくそれが六兼屋につながる、大きな一歩になったのです。結果的に、その不動産会社からは買わなかったのですが、彼が話してくれたことは100％正確な情報でした。

いま、僕の友人も長野への移住を計画して動いているのですが、彼らにもアドバイスしたこと。

どこかに住みたいと思ったら、とにかく土地を見せてもらえ！

土地を見せてもらえば、具体的にどんなところがあって、それがいくらなのか実感がわきます。このときみせてもらった土地は、その不動産会社が仕入れて分譲している100坪×6件ほどの分譲地で、坪6万円ほどでした。600万円で土地を買い、20坪ぐらいの小さな家を建てると、家が坪50万円で建てるとして、1000万円。税金や諸費用を入れて、2000万円いないで、小さいけれどちゃんとした家と、そこそこの庭がつくれる土地が手にはいる、ということがわかったわけです。その後、僕らは3年にわたって土地探しをするのですが、この最初に見せてもらった土地とこのが、最後まで土地探しのベンチマークになりました。土地を見せてもらうことは、この「ベンチマーク」を作るといういう意味で、とても重要なのです。これが97年の秋のことでした。

ところで、僕らの目的は、気に入ったところで生活することで、土地や家を所有することではありませんでした。ライフスタイルもストックよりフローを重視するタイプなので、「資産」などというものには基本的に興味がない。だから本当は家でも部屋でも借りて、と思っていたのですが、これは早々あきらめざるを得ませんでした。簡単にいえば、物件がないのです。

■さらに土地を見る

2000万円で生活できる家が手にはいるというひとつの可能性は、僕らを勇気づけました。2000万円の現金があったわけではないのですが（実際貯金といえるようなものはロクになかったのです）、支払能力という点でいえば、2000万円を返済する力にはなんの不安も感じなかったからです。最初にあった不動産会社で、「これなら可能性がある」という物件に出会えた僕らは舞い上がりました。もっと探せば、きっと掘り出し物がある！

旅行先としての清里はけっこう気に入っていたので、その後は年に数回、2～3泊でホテルをとって遊びに行きました。これはふつうの旅行です。唯一違うのは、そのたびに、2～3軒の不動産会社に電話を入れて、物件を見せてもらうアポイントを入れてあったこと。物件巡りは、ちょっとした観光地でした。ふつうの旅行では行かないような小さな道の奥に、すばらしく展望のいい物件があったり、いくと必ず何とも通るようなメインストリートのちょっと入ったところに、眺めのよい小さな森の売り地があったりしました。道とすぐ横の田んぼの脇の間の、一見すると巾3メートルもないのではないかというような三日月型の土地に案内されたこともありました。この土地が見て回った土地の中でもっとも安い物件で、150万円ほどで、面積にして80坪ぐらいの土地が買えて、家も建つということでした。見た感じは、とてもそのようには見えなかったんですが。細長い敷地の半分がガケで、広さは600坪もあるけど、家が建つ平地もそこそこあるという土地や、田んぼも真ん中になぜか残った小さな小山の、西半分、200坪を買わないかとか、たぶん100件ぐらいは見たと思います。

遊び回って走っている途中で「売り地」の看板を見つけ、「ここはすごい、この土地ならほしい！」と思って電話してみたら、「坪20万円で200坪です」といわれたり、「熱心な」不動産屋と出会って東京まで物件情報を持って訪ねてこられたりしたこともありました。

この中でわかってきたことは、

掘り出し物はない！

ということ。高いものから安いものまで、ありとあらゆる土地を見たし、案内してくれた業者も有名な大手不動産会社から地元の電鉄会社（地元では大手）、個人、さらに宅建主任の資格もないのになぜか案内してくれた人など、たくさんいます。土地の値段は、それぞれ相場があり、安いものは何かしら問題があり、いい土地はやはり高い、ということでした。掘り出し物は、ない。次にわかったことは、

等身大の夢を描け！

ということです。等身大の、というとみみっちく感じるかもしれませんが、これは「実現可能な夢」ということです。夢を大きく持つのはいいけれど、もし夢を「実現」したいなら、「実現可能な夢」を持つことです。矛盾した話ですが、これが一番重要なこと。

たしかに、坪20万円で200坪、という土地は、本当にすばらしかった。ゆったりした高原の傾斜地で、周囲は原っぱ。目の前に南アルプス、ちょっと目を転じると富士山、後ろに大きな八ヶ岳。家が周囲に建つ心配がほとんど無い土地で、北海道の一軒家を思わせるロケーションでした。しかも地域のメインストリートからはそれほどはずれていないし、標高も高すぎず（寒すぎず）、低すぎず。高原のリゾートの雰囲気を残しつつ、住みやすい標高という絶妙な立地だったのです。値段も、たしかに高くはありますが、整地が済んでいて（原っぱで）、水道もあり、周囲の相場からいって、納得のいくものです。

でも、土地だけで4000万円というのはどう考えても僕らの希望には合っていませんでした。払えるかどうかはともかく、そこまでのものを、「骨を埋める」と決めたわけでもない土地につぎ込む気持ちにはならなかった。

■「夢」をかなえる人

「夢」をかなえられる人と、そうでない人の違い。それは、こんなことじゃないか。自分がとても気に入ったものが自分が手に入れられないぐらい高価だったとき（手に入れにくいものだったとき）、それでも「あの土地が坪5万円なら絶対買うのに」と考え、「どうしてあのぐらいの土地が5万円で出ないんだろうね、あちこち土地があいてるし不況なんだからそのぐらいでいいんだよ！」と考えるだけで、「気に入った土地が高いことが悪い」と考えて終わりにする人と、そうでない人の違いではないか。

そうでない人、「夢」をかなえられる人は、「自分が出せるお金」で変えるものを発見しようとする人だと僕は思います。これはもちろん「お金」だけではなく、譲歩できる条件の中で、という意味ですが。僕らでいえば、土地はどうしても1000万円程度である必要がありました。総額で2500万が目標、それでも実際には3000万に近づくだろうけど、たぶん3000万円は絶対に超えない。そういう数字が頭にありました。建物はどうしても30坪はほしくなるだろう。とするとこれに1500万（坪50万円）。諸費用がかかってくるので、土地に出せるのはどうしても1000万円前後だ、というラインでした。

なぜ上限3000万円なのかというと、東京目黒で出る新築マンションの値段が、次第に5000万円をきる程度の値段になってきたからです。僕らは東京では賃貸マンションに住んでいるわけですが、狭くても、3人で生活でできるマンションが5000万円を切る時代に、東京から150キロ離れた郊外の家に3000万円以上かけるのはばかげている。これが上限の理由です。

もちろん、はじめからこの数字があったわけではありません。八ヶ岳で土地を見て、東京で新聞に折り込まれるマンションや建売住宅のチラシを見つつ（たまにはマンション販売センターを冷やかしにいったり）、両方のもの値段を比較した結果が、八ヶ岳の家にかけるとしたら上限3000万円、という数字になっていきました。

妻はしばしば夢を追っていました。すごくいい物件がすごく安く出てくるだろうとも何度もいったし、僕もそうなればいいと思って土地を見続けました。でも見れば見るほど、掘り出し物はなく、一方で、上限3000万円という数字がリアリティを持ってきたのです。2000万円台で手にはいるなら、150キロ郊外に家を建ててもいいのではないか、と。

この段階で、たぶん、僕らの「夢」は、夢ではなく、現実の「買い物」になっていたのだと思います。八ヶ岳に家ができたというと、多くの人が「ついに夢が叶ったね」といってくれました。でも僕らの感覚は違っていたのです。すでに、土地探しの途中から、それは「夢」ではなく、「現実」になっていた。だから、八ヶ岳の家が手に入った。それは夢を叶えるプロセスという見方もできるし、夢を現実に引きずりおろし、夢をうち砕き、夢を捨てるプロセスだったのです。

■人と出会う

さてここまでは、自分たちにとって、夢を現実にするプロセスでしたが、もうひとつ、どうしてもクリアしなければならないことがありました。それは「お金を出してくれる人」との出会いです。「お金を出してくれる人」とは、簡単にいえば、土地と家のお金を貸してくれる金融機関です。

僕のようにフリーランスで仕事をしていると、貯金にあたるものがあったとしても、それが会社員がいうような意味で貯金にあたるかというと、そうではありません。フリーランスというのは万年失業予備軍ですから、100万円単位のお金が手元にあっても、仕事が不調になれば見る見る目減りしていくものだし、逆に仕事が好調になれば、100万円単位で増えることもある、というそういう生活をしています。実際のところ、フロー重視の生活をしてきた僕は実質的にストックについて「スッカラカン」だったし、妻は比較的堅実なタイプだったので、ふたりで出し合えば、とりあえず500万円を頭金にすることはできるだろうと読んでいました。総額2500万円とすると、25％に当たるお金ですから、ローンを組むことは可能だろうと。

しかし実際にどの金融機関がそのローンに応じてくれるかについては、まったくあてがありませんでした。

実際のところは、土地探しの途中で出会った不動産業者のGさんとその友人で地元で建築会社をやっているAさんが、地元の金融機関をあたってやるからとにかく土地を決めろ、といってくれていたのです。土地が決まらないことには、計画の総額も決まらないし、担保評価もできなければ貸せるか貸せないかもわからない。ただ、頭金25％なら、貸す金融機関はあるはずだという読みでした。

何件も土地や建築業者と会いましたが、ローンについてある程度はっきりしたことをいってくれたのは、このコンビだけでした。必然的に僕らはGさんの紹介で土地を買う以外には、現実的にここで生活するという目的はかなわないことがはっきりしてきたし、その後はGさんに絞って土地を紹介してもらっていました。その後、土地の売買や家造り、そしてローンなど、あらゆる場面でこのふたりの世話になりました。いわゆる「足を向けて寝られない」というやつです。

なぜ、縁もゆかりもない土地で、こういう「有り難いの人」と出会えたのでしょうか。よく考えると本当に不思議なことです。単なる偶然ですが、でも僕らにとってはそれが「偶然」だとは思えませんでした。どの段階になるにせよ、こういう人と出会えるまで、たぶん僕らは、土地探しを続けていたのだろうと思えるのです。

もうひとつ、あとで気づいたノウハウは、金融機関に強いのは、不動産業者ではなく、建築業者だ、ということです。土地がなければ家が建たないので、はじめは不動産業者にばかりあたりますが、もっと建築業者にあたっていれば、別の選択肢もあったかもしれません。建築業は運転資金が多く必要な事業のため、金融機関との関係が密で、要するに「銀行に押しが利く」のです。金融機関から見ても、建て主には住宅ローンを組み、その金が懇意の建築会社に支払われれば、建築会社が潤い、それが建築会社の運転資金需要につながる、という「二度おいしい」関係があります。地元の不動産業者は一般に「仲介」するだけで、土地を「仕入れて売る」ということをあまりしないので、金融機関との取引関係がそれほど強くない。これが東京と田舎の大きな違いだと思います。

■土地との出会いを待つ

結局僕らは、最初の不動産会社の日から始まって、3年間にわたって計15回ぐらい、八ヶ岳に通い詰めました。そしていまの六兼屋の土地に出会います。この出会いや、実際に変えるまでにもいろいろエピソードがあるのですが、それはまた、機会があれば、ということにします。ここから先のエピソードは、話としてはおもしろいかもしれませんが、ほかの人に参考になるような、「教訓」があまり無いから。

とにかく、1999年の秋にいまの六兼屋の土地と出会い、決め、2001年1月に家ができあがった。ここに至るまでの動きの中で、あなたの「夢」をかなえるために参考になることがあるといいなと思って、書き留めてみました。

最後に、僕らが六兼屋プロジェクトを通じて座右の銘にしていたアドルフ・シュタイナーの言葉を紹介します。

人生において何ごとかを本当に達成しようとするものは、抽象的ではるかな理想をたてて頓挫したりせずに、いつも人生と調和するように試みます。

これからもデュアルライフの記事は続けていきますが、「こんな点について知りたい」ということがあれば、このページからリクエストしてください。いつものように、ご意見、素朴な感想などもおなじページでお待ちしています。

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渡辺パコ。1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。88年に独立して、UPU社をはじめ各社にコーポレートコミュニケーションプランを提供する。90年に有限会社水族館文庫を設立、94年から執筆活動を開始し、雑誌などへの執筆活動も行う。執筆先はリクルート、アスキー、日経BP社など。著書に「手にとるようにわかるIT経営」（かんき出版）、「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。Webサイトの設立・運営に積極的に参画。
●人がつなぐ知恵の検索サイト「Kスクエア」(http://www.ksquare.co.jp/)のビジネス・インキュベーションに参加、コミュニティ設計、ビジネスモデル展開、マーケティングビジョンの設計・運営を担当。
●主婦によるPC教室フランチャイジー「PCママサロン」（http://www.pcmama.co.jp/）のサイト設計と制作・アドバイザリーを担当。
●台湾のハイテク企業の製品を日本に紹介するB2Bサイト「ウィン台湾ドットコム」(http://www.win-taiwan.com)のビジネスモデル設計のアドバイザリー。

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