016 環境問題はco2問題か？

たまたま「ソトコト」誌のバックナンバーを見ていたら、トヨタのプリウスの特集「プリウスを裸にする」（2000年7月号）がありました。で、その中で、自動車評論家の館内端さんのコメントがありました。

「自動車の環境問題は、簡単なことだよ。……単純に地球温暖化がいちばん問題なのに、横道が多いものだから混乱しているのさ」

館内さんは、早くからクルマと環境のかかわりについて、問題意識を持ってきた人です。その彼が「環境問題は温暖化問題」とばっさり切ったのには、正直驚きました。もしかしたら、ごくふつうの、環境問題にあまり関心がない人のほうが、こういうざっくりとした切り捨て方ができるのかも知れませんが、なまじ環境問題の深さにはまっている人にとっては、新鮮です。

で、なんでこのタイミングでまた温暖化問題か、というと、環境問題解決の最初にして最大のボトルネックが、CO2問題だということに、あらためて気づかされたからです。

■リサイクルのボトルネックとしてのCO2

前回のエッセンスで、リサイクルを取り上げました。リサイクルはバージンリソースを使うより環境負荷が低い。特に狭い範囲でリサイクルの輪を回すことができれば、やはり環境負荷はかなり低くなる、という研究もでている、という話でした。リサイクルの目的は、製品を作るための資源をこれ以上地球から掘り起こさないことが目的です。地球から金属や炭素掘り起こし、それをアルミや鉄、樹脂に変えて、ものをつくり、そうやって作った製品を短期間で使い捨てる。捨てられた樹脂や金属が、もとの自然に帰ればいいわけですが、掘り起こすスピード、捨てるスピードと、自然がゴミをもとの「地球」の状態に変えるスピードが違いすぎるため、廃棄物がたまりすぎて環境が破壊されているわけです。

リサイクルするということは、これ以上新たに地球から掘り起こさず、すでにあるものを資源として再利用することで、廃棄物をなくし、利用されている状態にする、ということで、「資源を大地から掘らずに、廃棄物置き場から露天掘りしよう」ということを意味します。資源をこれ以上掘り起こさず、廃棄物も増えずに、捨てる量とつくる量が均衡すれば、資源問題は解決することになります。そしてそのための技術も、ほぼそろっている。

しかし、すでにある資源を、廃棄物→資源化→製品→廃棄物……と回転させるためには、回転を回すたびにエネルギーが必要です。エネルギーは、現在は石油、天然ガスでつくられ、結果的にCO2が大気中に放出されてこれが温暖化を起こそうとしている。

リサイクルはすでに実現できるが、それで問題が解決しない理由が、エネルギーを「つくる→使う」につれて増えるCO2。リサイクルで「素材資源の発掘と廃棄物」によって引き起こされる環境破壊は解決できてもCO2による環境破壊＝温暖化は解決できない、というわけです。

ここであらためて確認しておくべきことは、問題はエネルギー消費ではなく、CO2だという点です（エネルギー消費自体にも問題はあるのですが、これは後述）。もしエネルギーを消費してもCO2がでなければ、どうか？　CO2の出ないエネルギーを使ってリサイクルして、資源枯渇と廃棄物による環境破壊を防げば、環境問題は解決ではないか！

CO2の出ないエネルギーはないのか？？
ある！　原子力による電力だ。事故の危険はあるが、事故はどの技術でも起こりうる。原子力だけを危険視するのは非科学的な態度だ……ここのロジックについては「g-essence 072 エネルギービジネス戦略」で詳しく考えました。

原発をつくれば、つまり、解決じゃないか！
事故の危険さえ下げればいいのだ。

これが、米国ブッシュ政権が「原発推進」を掲げた理由でしょう。原発が安全でありさえすれば、すべてが解決「可能」だと。

■「横道」と「王道」

結局、CO2問題さえ解決すれば、環境問題は解決する、という考え方が出てくる流れを追ってみました。この流れの中ではすべての環境問題はCO2問題に集約されます。

いっぽうこれの対極にあるのが、館内さんが指摘する「横道」で、

ダイオキシンをはじめとする化学物質汚染
食糧問題
淡水資源問題
耕地化、宅地化による森林の減少

など、生活環境の悪化を問題にした上で、それもCO2とまったく等価値で、両方とも解決しなければならない環境問題なんだといういう考え方があります。一般に、少しでも環境問題に関心がある人なら、こういう視点を取り、単にCO2増加が解消すれば環境問題解決とは行かない、という立場です。

先日の新聞報道で、トノサマガエルが全国35県（だったか）から姿を消したとありました。メダカが絶滅の危機にあるのは、農業用水路がコンクリートになり、メダカが住めなくなったからです。こういった生態系の変調も「環境問題」なのか？　持続可能性という観点から言えば、カエルやメダカがいないからと行って、それがそのまま持続不可能とはいえないでしょう。実際東京23区内からメダカやカエルはもう消えているでしょう。でも、それで東京人の生存が脅かされているとはいえない。もちろん、100年を超えるスパンで見ればどうかはわかりませんが、温暖化を止められるかどうかはあと数十年の行動しだいと研究結果に対して、メダカやカエルを救うことが人類の生存とどう関係があるかについては、まだ漠然としています。

これらの問題は、館内さんが言うように「横道」なんでしょうか？　「横道＝ノイズ」とまでは言わないまでも、環境問題の解決をCO2問題の解決とイコールと考えるほうが、結局のところ人間が取り扱えるぎりぎりの範囲と考えれば、妥当な結論なんでしょうか？
　環境問題をあまりに広くとらえてみなが立ち往生するぐらいなら、CO2問題に限定して、前進する方が、現実的なんでしょうか。

この問いに対する答えについては僕も引き続き考えてみたいと思っていますが、同時に読者のみなさんの意見を聞いてみたいと思います。

渡辺パコ。1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。88年に独立して、UPU社をはじめ各社にコーポレートコミュニケーションプランを提供する。90年に有限会社水族館文庫を設立、94年から執筆活動を開始し、雑誌などへの執筆活動も行う。執筆先はリクルート、アスキー、日経BP社など。著書に「手にとるようにわかるIT経営」（かんき出版）、「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。Webサイトの設立・運営に積極的に参画。
●人がつなぐ知恵の検索サイト「Kスクエア」(http://www.ksquare.co.jp/)のビジネス・インキュベーションに参加、コミュニティ設計、ビジネスモデル展開、マーケティングビジョンの設計・運営を担当。
●主婦によるPC教室フランチャイジー「PCママサロン」（http://www.pcmama.co.jp/）のサイト設計と制作・アドバイザリーを担当。
●台湾のハイテク企業の製品を日本に紹介するB2Bサイト「ウィン台湾ドットコム」(http://www.win-taiwan.com)のビジネスモデル設計のアドバイザリー。

mail:paco@suizockanbunko.com

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「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」紹介
Text by Toshi/高橋俊之

「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」５月１８日発売。グロービス・マネジメント・インスティテュート著　東洋経済新報社刊）

キャリアに関する本はこれまでにも世の中にたくさん出ています。グロービスでも５年前に「成功するキャリア・デザイン」（日本経済新聞社刊）を出しています。そのような中に出す、今回の「ビジネス・リーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」は何が新しいのか？　それは一言で言うと「実戦的（実践的）である」ということです。

チャンスをつかむには実績が必要だと言われるが、旧態依然とした保守的な企業の中でどうやって実績を作るのか？

具体的にどうやってやりたい仕事をつかむのか？
どうしたら自分の強みをより有効に表現できるのか？
どのように次のステップに向けて能力開発をしていけばよいのか？
そもそもやりたいことをどうやって見つけるのか？

といった疑問に対して、具体的な方策を実際のキャリア・カウンセリングの事例
を用いながらひもといています。

力と戦略と志があれば、かなりエキサイティングなキャリアを築ける時代、若い頃からリーダーとして世の中にインパクトを与えられる時代になってきました。一方で、これまでの通念ががらがらと音を立てて崩れている時代です。そのような時代に自分のキャリアの進路をどのように取るか、具体的に考えるために使える本だと思います。

株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。成長期の事業マネジメントを中心に外部からグロービスに関わる一方、「日本人のQuality of Life(QOL)アップ」をキーワードに知恵市場に続くプロジェクトをプロデュースしていく予定。

mail:toshi@chieichiba.net