──────────────────────────────────── | 知恵市場 ☆ 2000.08.15 | g - e s s e n c e | エッセンス ☆ 合計発行部数 789部 | | ES1058 ☆ (B-mail=195:Nifty=594) | | ¥200 ☆ http://chieichiba.net/ | ──────────────────────────────────── ■企業のエコ対応は「ホンモノ」か? ■企業プロモーションとしての「エコ」 ■「今」がベストタイミングなのか ■未来に貢献するのではなく、勝つための戦略 c o n t e n t s ■戦略ポートフォリオとしてのエコ投資 ■レバリッジを効かす ■エコポートフォリオを増やす仕掛け ■市民は企業を「監視」すべきか ■企業人として、何をするべきか ■市民が企業をエコ対応に追い込む ──────────────────────────────────── 今回のテーマは、「企業のエコロジー対応」です。 このテーマを考えるにあたって、経営コンサルタントの小林一郎さんにお会いし、 取材と意見交換をしてきました。お会いしたのは、昨日、8月14日のまだ暑い午 後4時、恵比寿のウェスティンホテル、ティールーム。今回のエッセンスのため に、お忙しい時間をあけてもらいました。ありがとうございます。 僕と小林さんは、知り合ってまだ半月ほどで、ある本の監修を依頼する関係で、 編集者から紹介してもらいました。その際、雑談していると、小林さんが早くか ら企業の環境報告書のコンサルティングをされていると知り、いつか[ecru]で取 材しよう、と心に誓ったわけですが、その機会は思ったより早くやってきました。 小林さんは、僕と同じ60年生まれ。味の素に就職、ベトナム、タイなどでプラン ト開発などのゼネラルマネジャーを経験。その後、国際監査法人プライスウォー ターハウス国際事業開発マネジャーとしてM&A、経営コンサルティングなどに従 事。98年に独立して(株)ECAを設立、国際ビジネスの戦略コンサルテーションな どを行っています。96年ごろからヨーロッパに進出している日本企業などに、環 境報告書を出すようコンサルティングを行ってきた、先駆者でもあります。 以下、小林さんからの情報にインスピレーションを受けつつ、pacoが描いた企業 のエコ対応の姿です。 ──────────────────────────────────── ■企業のエコ対応は「ホンモノ」か? ──────────────────────────────────── 今回、僕の関心事は、「企業のエコ対応の意味」でした。 わかりやすいところで言えば、トヨタ。プリウスと「eco」キャンペーンに成功 し、トヨタは日本のエコ対応企業トップに躍り出ました。このような企業の行動 を、どのように理解し、環境問題解決に活かしていけばいいのか、がテーマです。 トヨタはそれまで保守的で石橋と叩いて渡るという企業体質と考えられてきまし た。技術力はあるにしても、実際に市場に打って出るのは一番あと、たとえば今 小型車の主流である前輪駆動車にしても、ホンダや日産が先駆し、リコールに苦 しみながら技術と市場を獲得していったのに対して、トヨタが横置きエンジンの FF車を出したのは一番最後、技術の完成を待ってのことでした。 それに対してプリウスは、他社に先駆けてハイブリッドシステム(ガソリンエン ジンと電気モーターの組み合わせ)を搭載し、広告戦略としてはだれも手を出し ていないという時期に、本格的なエコ対応をうたった説得型の広告をうち続けま した。 ミサワホームは「ゼロエネルギー住宅」(大型太陽電池パネル内蔵の屋根材でエ ネルギーを自給に近い量確保する)、「Mウッド」(木材端材の粉末を樹脂で固め、 リサイクル性を高めた建築材料)などで、エコロジカルな家造りを広告していま す。 キリンビール、アサヒビールや、リコーもゼロエミッション(廃棄物ゼロ)工場 を実現し、企業のエコ対応はいよいよ本格化してきました。これは歓迎すべきこ となのでしょうか? しかし、その一方で、[ecru]MLで岡山さんが言ってくれたように、「懸念」や 「怪しい」感じも漂います。 -------------------------------------------------------------------- 私は、正しい方向性を持っている企業は正当に評価するつもりです。しかし、 こと環境問題に関しては、これってマイナスじゃないよな、という程度の消 極的な評価で十分だと考えています。なぜなら、環境問題に取り組むのは本 来、当たり前のことですから。(組織のなかで、実際に環境問題に取り組む 個人の評価は別です)経営を刺激されて、はじめて必死になるというのが営 利企業の本音です。 -------------------------------------------------------------------- というのもまた、一面の真実を言い当ていると思います。 [ecru]とg-エッセンスは、企業をテコにして環境問題を解決するということをめ ざしています。企業のエコ対応は環境問題解決に貢献するという前提がある。と いうより、ここからしか本格的な環境問題の解決はないと僕は考えています。で は、企業のエコ対応を僕たちはどのように理解すればいいのでしょうか。 ──────────────────────────────────── ■企業プロモーションとしての「エコ」 ──────────────────────────────────── 小林さんは、このような一連の企業行動を、「企業のプロモーション戦略」だと 言います。 プロモーションというと、「宣伝文句」「売名行為」で実を伴わないと言うよう なイメージを持ちがちですが、これは短絡的な理解で、もうちょっと深い意味が あります。 ITの世界ではデファクトスタンダードという概念があります。「事実上の業界標 準」ですね。開発した技術がデファクトをとれば、開発元の企業は莫大な利益を 上げられる。マイクロソフトをはじめとする多くの企業がとる戦略です。企業の エコ対応も、デファクトをとるためのプロモーションだというのが小林さんの見 方です。 たとえば、工場のゼロエミッションを他社に先駆けて実現し、その企業全体がゼ ロエミッションを達成したとします。そのあと、この企業がISOのような国際標 準を設定する機関やさまざまなレギュレーションづくりに影響力を発揮して、ゼ ロエミッションを企業競争のルールに設定できれば、この企業はすでにその競争 に勝っている企業で、遅れたライバルはスタート地点からしてすでに立ち後れて しまうわけです。 現在はゼロエミッションやエコ対応は、ISO14000など一部を除いて、まだ明確な レギュレーションになってはいませんが、いずれゼロエミッションやクリーンな 排ガスが標準的レギュレーションになる時代が来る。というより、自社が先駆け てそれをレギュレーションにする(デファクトをとる)ことができれば、それに よって圧倒的な優位に立てる。こういう構造が企業をエコ対応に走らせていると いうわけです。 ここで重要なのは、おそらく、FF車開発競争の時代(70〜80年代前半)より、現 在の方が、ふたつの点で、デファクトが重要になってきているということでしょ う。 (1)技術が細かく特許や知的所有権で守られるようになった 以前から特許制度はあったものの、開発元の企業が以前より細部に渡っ て自社の知的資産を守るための網の目を巡らすようになったため、後発 で技術を獲得することが格段に難しくなった。 (2)市場が成熟し、ナンバーワン企業以外、生き残りが厳しくなった モノが不足していた時代は終わり、新製品さえあっという間に広まる時 代の中で、ナンバー2以下が敗者復活するチャンスが激減した。 このような時代環境をエコ企業はすばやく理解し、次のレギュレーションを先取 りする(デファクトをとる)ことに非常に敏感になり始めた。トヨタが、80年代 初頭にはFF車で後発戦略を採ったのに、99〜2000年という時期にはエコ戦略の先 頭に立ったのは、このような時代環境の変化を的確につかんでいたからだと考え られます。 ──────────────────────────────────── ■「今」がベストタイミングなのか ──────────────────────────────────── さて、では次の疑問は、「エコ対応」が本当に「次に来るべきレギュレーション」 なのか、という問題。 今、多くの日本企業では、環境対応が本格的な企業のレギュレーション(競争の ルール)になるとまでは実感できていません。まだ「回りを見渡して横並びを探 している」状況でしょう。逆に言えば、こういう状況こそが、「エコ先進企業」 の狙い目で、次のレギュレーションがエコ対応になると判断したなら、他社が 「次期レギュレーション=エコ対応」とは理解していない今こそ、手をつけるに 値するタイミング。というより、今手をつけずして、いつ手をつける!という理 解をしているというわけです。 おそらく歴史的な結論から言えば、この21世紀をまたぐ時期にエコ対応に手をつ けたトヨタやリコーなどに企業は、「正しい選択」をしたことになるでしょう。 ではなぜ、今というタイミングが重要なのでしょうか。 その認識を裏付けるものは、たとえば商品の購買動機だと小林さんは言います。 「メルセデスベンツの購入者にアンケートを取ると、一番大きな理由が、<エコ 対応>という結果が出ています(日本でも)。ベンツのブランドイメージは、こ れまでは第一にステータス、第二に安全性でしょう。それが今や別のものに変わ ってきている。こういうコンシューマーの動きそのものが、『次はエコ』という 企業の認識につながっているわけです」 グリーンな商品(サービス)提供と、それを評価し購入するグリーンコンシュー マーの関係はチキンエッグで、どちらが先とは言えないものです。しかし間違い なく言えるのは、すでにエコ対応をはじめた企業にとっては、グリーンコンシュ ーマーの存在が大きな動機になっており、グリーンコンシューマが企業に圧力を かける時代に入ったことを実感しているがゆえに、エコ対応こそ次のレギュレー ションだという認識を持っているということです。 別の言い方をすれば、 未来を知る企業は、未来を知る顧客をつかむ 未来を見ない企業には、未来を知らない顧客ばかりが残る という、くっきりした二分的な状況になってきているといえるかもしれません。 つまり、もしあなたの会社の顧客がエコに関心を持っていなければ、それは「市 場がエコに関心がない」のではなく、あなたの会社の顧客が「古い顧客、沈み行 く顧客」である可能性がある、ということです。企業から見えている顧客が違う し、顧客もまた見えている未来の質が違う。こういう図式が見て取れます。 もちろん、アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーというビール会社の顧客が、 エコ対応によってビールを選び分けているかどうかは、現段階では容易に判別で きないかもしれません。おそらく大事なことは、そう遠くない未来に、自分たち の顧客がエコ対応という自分たちの行動を重要な選択の指針にしてくれる、とい う姿が見えているか、見えていないか、その違いが現在の企業行動に表れている のです。 ──────────────────────────────────── ■未来に貢献するのではなく、勝つための戦略 ──────────────────────────────────── このような企業行動は、単純化してしまえば、未来に貢献しようという動機から 始まっているものではなく、「勝つための戦略」です。この事実は、ある意味で はわれわれをほっとさせます。 僕たちはともすれば、トヨタを「特別な企業」と見なし、それ故に自社をエクス キューズ(許す、いいわけを認める)してしまうことにもつながります。 トヨタがプリウスを出したとき、215万円という価格は「21世紀へGO!」という語 呂合わせで、実は1台あたり数十万円の赤字だ、という話がありました。プリウ スは金持ちトヨタだからできたお遊びで、それがたまたまヒットした。でもうち の会社は金持ちでもないし、自社の未来を偶然に任せるわけには行かない、とい ういいわけができてしまう。 しかしトヨタが、エコ対応こそ次のデファクトで、なんとしてもエコ先進企業と いう実績と理解を顧客から勝ち取るべきだと考えれば、プリウスに失敗しても、 あの手この手でその理解獲得のための努力をしてくるはずです。トヨタはどんな ことをしてもカローラを売りまくる企業ですから、エコ企業という認知もまた、 どんなことをしてでも獲得すべきもの、だったのです。逆に言えばプリウスが偶 然成功したのではなく、成功するまで手を打ち続ける意思があったと見なすべき なのです。なにしろトヨタは乾いた雑巾を絞ると言われ続けたほどの、けち企業 なのですから。 つまり、企業のエコ対応が、「勝つための戦略」だとすると、そこから理解でき ることはふたつあるでしょう。 ひとつは、エコ先進企業は「地球市民」として未来を先駆ける「倫理観あふれる 会社」ではなく、勝ち残りをはかるごく普通の、そしてとても企業らしい企業だ ということ。 もう一つは、それでも、結果として現れるエコの成果そのものには大きな意味が あり、その意味についてエコ先進企業もまた、副次的な価値をおいている、とい うことです。つまり、「色気」として、「地球市民」や「倫理のある企業」とい うイメージ形成は魅力的に見えている。 ──────────────────────────────────── ■戦略ポートフォリオとしてのエコ投資 ──────────────────────────────────── さてここで、もう一つだけ付け加えておきます。 トヨタはプリウスやヴィッツをエコ商品として売る一方で、燃費の悪い、またリ サイクル性など考えていないような車も大量に作っています。この事実を見て、 トヨタのエコ対応は偽物だと考えることは容易ですが、そのような視点でのみ企 業を見ることは、企業とエコ対応の関係を見誤るでしょう。 エコ対応にせよ、あるいは通常のコストダウン投資や技術投資にせよ、未来のた めに投じる資金は必ず「先行投資」を含みます。つまり、一時的に赤字だけどや る、という側面があるわけです(そもそも企業設立のために資本金を集めること、 そのものが、<赤字>からのスタートを意味していて、企業がなんらかの行動を 起こすときは、赤字から始まるのは当然のことです。つまり「赤字だからエコ対 応できない」というのは、企業としてほとんど無意味な言葉なのです。 問題は、その赤字をどうやって、いつまでに回収するか。 その際に重要なのが、ポートフォリオでしょう。 企業はいくつもの投資案件を持っています。複数の異なる戦略に資金を投資する からこそ、不確定な未来のリスクが最小限にできるわけです。とすれば、エコ先 進企業にとっては、エコ対応投資は、エコロジカルでない車を作り、売るという 投資と同時に、プリウスを開発する投資を組み合わせることで、「不確実な未来」 を「安定化」しているわけです。 経営者ならすべての投資が有効な利益をあげてほしいと考えるのは当然のことで すが、その利益が出る時期やその量は、同じである必要はない。個別の投資案件 が、個別のシナリオで利益につながっていけばいいわけです。先を見越した投資 は回収が遅い。その代わりデファクトスタンダードという大きな収益源をもたら してくれる。一方カローラ販売に伴う支払マージンは、明日の利益をもたらして くれる。こういうスパンと構造の異なる投資先を、ポートフォリオとして組める という柔軟性が、実は環境先進企業の本質なのだと思います。 ──────────────────────────────────── ■レバリッジを効かす ──────────────────────────────────── さて、ここまでのところで、エコ先進企業の裏側(実は裏でも表でもなく、見え ていることなんですが)の構図が見えてきました。こんな感じに整理できます。 (1)企業のエコ対応は、倫理観や責任感が主たる動機ではない (2)企業のエコ対応への動機は、レギュレーションと顧客のグリーン度が ドライブしている (3)エコ先進企業は、エコ対応だけを未来戦略としているのではなく、非エ コ的な企業活動も含めて、未来を安定化させるためのポートフォリオを 組んでいる。 (4)企業のエコ対応の成果そのものは、多くの場合、環境問題解決に貢献す る(単なる宣伝行為ではなく、実質の伴う行為である)。 このような中で、僕たちは企業をより実りあるエコ対応に駆り立てるために何が できるのか、が重要です。 逆に言えば、企業そのものに「倫理観」や「地球市民としての自覚」というよう な無い物ねだりをすることなく、彼らのロジック(行動形態)に寄り添うように リクエストを突きつけながら、結果として企業に環境対応の行動をとらせるため に、何ができるのかを考える必要があるわけです。 言い換えれば、レバリッジleverageです。テコの原理ですね。単純に企業に「エ コ対応しなさい」と言っても、企業は動きません。企業には企業の動く原理があ るからです。逆に、上記のような企業が動く原理に合わせて、支点を見定めて手 を打てば、加える力そのものは小さくても、企業が大きく動くはずです。 そのカンどころを押さえることが、特に日本のエコ活動では弱い。効果的なとこ ろを押さえられていないから、やってもやっても世の中が動いていかないわけで す。逆に、欧州など先進地域では、レバリッジが効くところを、しっかり押さえ た活動をしている。これが違いになって現れているのだと考えられます。 ──────────────────────────────────── ■エコポートフォリオを増やす仕掛け ──────────────────────────────────── 具体的なことを考える前に、もうちょっとレバリッジのポイントについて考えて みましょう。 今、先進的なマネジメントを行っている企業は、「仮説-実行-検証-仮説-」のサ イクルを緻密に、かつ短く回すことをめざしています。メルセデスベンツでは仮 説に基づいてAクラス(小型車の車名)を開発し、商業的に成功した今、その成 功の理由と成功の程度を厳しく分析しているはずです。そしてその分析から、次 の手を考えている。その際、分析上重要になる点のひとつにたとえば前述のよう な購買動機アンケートがあるでしょう。販売店でのカタログ請求件数や、その時 に記入されるアンケートにある理由、また年齢層や、これまでのクルマの購入履 歴などが、並行して分析されるはずです。あるいは、Aクラスがプレゼントにな っているようなキャンペーンからのアンケート結果も緻密に見ている可能性があ ります。20年前と違い、定量的、定性的なデータを分析する能力は、パソコンの 登場で画期的に進歩しました。ユーザーから見れば、それだけ企業に対して「意 思表示をする」機会が増えてきていることを意味します。 Aクラスやプリウスを購入するというグリーンコンシューマになることはもっと も確実な「意思表示」の機会ですが、それだけではないのです。インターネット の普及で、企業はプレゼントやアンケート、サイトに来てからの行動など、あら ゆる方法でコンシューマの行動パターンを分析するようになりました。ある意味、 僕らは企業に「監視」されているという側面もあるわけです。しかしそれを逆手 に取り、繰り返し意思表示していく、ということが、結果的に企業が動く動機に なります。 また、もう一つのレバリッジのポイント、レギュレーションについて考えてみま しょう。ISO14000のようなレギュレーションを決める機関や会議に環境NPOが圧 力をかけるというのは非常に重要ですが、それ以外にも、すでにこれまでのエッ センス(158、164)でも紹介した、エコラベルの活動があります。企業に対して 環境対応商品やサービスを格付けするラベルを発行し、それを基準に購買するよ う市民に呼びかける。行政にも働きかけて、この基準を満たすことを存続の要件 または、税負担軽減の要件とできれば、企業は必然的に動いていきます。 この方法では、市民の側は、金銭的な投資をする必要はありません。企業が動く ポイントを押さえるという「知恵」を発揮しているだけで、レバリッジが効いて いるわけです。 ──────────────────────────────────── ■市民は企業を「監視」すべきか ──────────────────────────────────── このような企業と市民の関係を見るとき、すでに企業と市民は、公害問題の時と は決定的に関係が変わってきていることを感じます。 公害問題がクローズアップされた70年代では、市民活動は企業の「悪行」を監視 し、告発し、修正を迫る存在でした。 しかし21世紀を迎える今、企業を監視することは、あまり意味がなくなっていま す。監視することからは、「悪行」の事実は発見できても、「善行」を起こさせ ることはできないからです。ヨーロッパの人たちは、そのことをこの30年で学ん だのでしょう。 もちろん、企業のアウトプットについて注意深く見ていくことの重要性は、変わ らないでしょう。しかし市民と企業の関係の枠組みの中で、このような監視の機 能は相対的に小さくなっていくはずです。 ここまで見てきた企業のエコ対応の動きは、監視ではなく、企業の動きをリード する「にんじん」をどうやってつくりだし、うまく企業の前にぶら下げるかが重 要であることを物語っています。 21世紀にむけて、このような企業と市民の行動、関係の変化を見逃さないように することが重要です。 ──────────────────────────────────── ■企業人として、何をするべきか ──────────────────────────────────── 最後に、企業人としてすべきことを考えてみます。 まず第一に、前述の企業の論理にしたがって、エコ対応を行うこと(多くの場合、 エコと非エコを同時に推進すること)は、企業の行動としては当然のことである ことを理解することです(「企業市民」の行動としては一貫性がないと感じるに しても)。 その上で、エコ対応の活動を企業のポートフォリオのひとつと位置づけ、 何を目的にして どれほどの投資をして いつどれだけの価値を回収するのか という基本を押さえながら活動を進めることでしょう。エコ対応には必ず企業に もたらす価値があります。デファクトの先取りであったり、短期的な利益だった り、イメージ戦略だったり。自社が獲得したい価値の中にエコ対応を位置づける ことに成功すれば、結果的にあなたの会社の行動は環境問題解決に貢献すること になるでしょう。 第二に、エコ対応は、短期的に見ても利益に貢献させることができるという事実 を学び、それを実践してみること。たとえばゼロエミッションを達成した工場が、 実際には同時にコストダウンが実現できていることを見ればわかることですが、 これについてはまた機会を改めます。 第三に、エコラベルなど、世界標準の評価基準を探し、それに照らした成果を上 げること。これが結果的に次のデファクトの要件を満たすことになります。 第四に、情報公開によって活動を知らせること。今先進的な企業は、会計報告書 と並んで、環境報告書を毎年作り、しかもそれをwebで公開しています。環境報 告書だけでなく、より詳細な情報公開も、webでなら容易です。 第五に、グリーン購入を推進すること。コピー紙、ボールペンのたぐいから、製 品の原材料まで、グリーン購入のチャンスはいくらでも転がっているぐらい選択 の幅が広がってきました。 ──────────────────────────────────── ■市民が企業をエコ対応に追い込む ──────────────────────────────────── さて、現在のところ、日本では企業と市民は、エコ対応について、かみ合った行 動をとることができていません。先進企業は未来を見越して、自発的なエコ対応 を行い、一部の顧客が支持しているにとどまっています。市民は企業からのエコ メッセージを懐疑と戸惑いをもって受け止めてはいても、「本気度」をはかりか ねています。 欧州では市民はエコラベルによって、年々厳しいエコ対応を企業に迫っています。 また炭素排出を証券化し、排出権を取り引きする市場をつくり、先進企業が後発 企業に炭素排出権を売るという市場を生み出しました。市民はお金を出し合って、 市場からこの排出権を買い取り、CO2の排出総量を減らすという活動もしていま す。 企業のエコ対応の(プロモーションとしての)意思や目的を逆手にとって、さら に厳しいエコ対応を企業に迫っていくという方法を、確立しつつあるのです。 企業の原理を知り、その原理を逆手に取りつつ、企業を使った環境問題解決を進 める。こういうしたたかさが、未来を開こうとしています。 ■参考資料 ・エッセンスバックナンバー 016F顧客が見えていますか 018F競争のルール 054Gすでにある未来 056Gグリーンエネルギー ※バックナンバーの購入方法は巻末参照 ・本 「リコーの環境価値マネジメント なぜ環境格付けNo.1企業になれたのか」 峰 如之介(みねなおのすけ) ダイヤモンド社/1800円 「エコデザイン ベストプラクティス 100」 山本良一 ダイヤモンド社/3600円 ・パンフレット/カタログ 「ミサワホームZ」 「トヨタ自動車環境報告書'99」 「ソニー環境報告書'99」 「リコー自動車環境報告書'99」 「松下電器環境報告書'99」 20000.08.15 paco/渡辺パコ paco@suizockanbunko.com ──────────────────────────────────── ●エッセンスの転載については、知恵市場までお問い合わせください。 paco@suizockanbunko.com 知人(個人)へのエッセンスの紹介を目的としての転載は、1号限り、全文を 送っていただく場合に限り、特にこちらに許可を取らずに行ってかまいませ ん。ただし登録せずに受け取った人がさらに別の人に送ることは認めません。 ──────────────────────────────────── end of Chieichiba Essence (c)Chieichiba & Suizockanbunko inc. 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