044Dライフ4 地域社会とのかかわり

前回の「デュアルライフ(3)」のあと、読者から次のようなメールをもらいました。コミトンサイトの「意見」ページから送ってもらったものです。

「こんにちは。いつも楽しく読ませてもらっています。パコさんのデュアルライフのお話は特に好きです。ぜひパコさんに書いて欲しいテーマがあります。それは『デュアルライフしながら住んでいる地域にどうコミットするか？』ということです。私は住んでいる市を変えたことがありません。多分この先もこの市（地域といってもいいですが）に住みつづけるのだろうなと考えたときに、地域社会にどうコミットしていくかという問題があります。親も地域の活動も行っていて、将来自分がまったくコミットしないとは考えがたい状態なのです。ところが、身の回りのサラリーマンの方にこの辺の話をすると、皆驚くほど関心がありません。そこで住んでいる土地に対して思い入れのあるであろうパコさんに、この辺の話題についてどのようなスタンスをお持ちなのか書いて欲しいなと思った次第です」（趣旨を変えずに、一部変更しました。メール、ありがとうございます）

デュアルライフなので、僕にとって地域社会は、ふたつあります。六兼屋のある山梨県高根町と、東京の目黒です。結論から言うと、実質的にどちらの地域に、ほとんどコミットできていないのが、僕の実際です。なので、僕はこのようなテーマで書く資格はないのかもしれません。でも関心はあります。なので、そのあたりのことを書いていこうと思います。

■幼稚園児の親として地域社会に目覚める

都市と地方で一番違うのは、匿名性の度合いでしょう。大都市であれば、「となりは何をするひとぞ」で、ほとんど関心を持たずにすみます。

目黒では賃貸マンションに住んでいるので、匿名性は非常に高くなります。隣の住民のことは、職業と家族構成ぐらいはおおよそ知っていますが、それ以外のことはほとんど知らないし、相手も同じでしょう。こういう関係は、干渉されず、とても心地よいものです。

そんな僕が、「地域社会」というものを「発見」したのは、娘が幼稚園に入ったときでした。クルマで10分ほどの区立幼稚園に入れていたのですが、毎日の送迎を僕がしていたので、朝は送って引き渡すだけでいいのですが、昼すぎには同じ園庭に行き、同じクラスのおかあさんたちと並んで子どもが出てくるのを待っています。父親が毎日来ているのはほかにいなかったし、近所の幼稚園でもなかったの知り合いもおらず、はじめは話す人もいない状態でした。ほかのおかあさんたちは適当にグループができて楽しそうにしゃべっています。けっこう孤独な状態でした。

きっかけは、娘がクラスの友達の家に遊びに行きたいと言い出したことでした。行きたいといっているユキちゃんのママを探し、話をして、子どもを引き渡し、預かりを頼み、迎えにいく時間を約束する。そんな、当たり前のことが、父親がやるというのは、本人にとってはけっこうプレッシャーだったのです。

幸いなことに、クラスメイトのママたちは僕と娘を快く迎えてくれて、何人もの子どもの家に遊びに行きました。家ごとに習慣が違い、4歳の子どもの一人一人が大人との接し方が違う。特に男親に対する態度は家庭によって、その子によって大きく違いました。

このことから僕が発見したこと。まず、個人、家庭はそれぞれまったく違っていいのだ、というあたり前のことでした。こどもに与えるおやつひとつとっても、食欲旺盛な子どもの親のうちの子のように神経質な子の親とではまったく違う。自分が選んだ友達ではなく、仕事の相手でもなく、ものを買う店の店員でもないオトナと事細かに家庭の状況について打ち合わせするという経験は新鮮な経験でした。そしてそこでわかったことは、「僕が僕であることで、相手に役立つことがある」ということでした。

僕は仕事のあいまに幼稚園と関わっていたので、専業主婦が多いほかのママたちのように幼稚園に関わることはできないし、預かるより預かってもらうほうが圧倒的に多かった。仕事で迎えに行けないときは、仲のいいママにピックアップと夕方までの預かりを頼んだりもしました。

たしかに僕は多くのママたちに助けられて幼稚園パパをしていましたが、その一方で、いくつか僕にしかできない貢献もできました。子育て中のちょっとした悩み事の相談も何度か受けました。たぶん、僕が男で、ふつうのママ仲間とは違う異質な答えを出していたことが、「ちょっと話してみようかな」という気持ちにさせたのかもしれません。特に小学生など上の子については、いろいろ話した記憶があります。学校での勉強がうまく進まなくていらだっているママ。子ども同士の関係で心配なひと。僕から見れば、それらは「本質的にはこういうことだよね」という意見がぱっと見えるようなことでした。

「大事なことは、意欲を持って勉強できること。やらされていることは絶対身に付かないし、学ぶことが嫌いになることが一番よくないこと」。そんなわりと本質的で大局的な見方は、ママたちには新鮮だったらしく、喜ばれました。

娘を預かってもらうことではお願いする方でも、ちょっとした情報提供では僕もしてあげられることがある。そんなことを発見しました。

その延長として、立候補したものに「区立幼稚園の統廃合についての諮問委員会」のいいんになる、というものがあります。当時、財政難の区は区立幼稚園の廃止を検討していて、その検討委員会を設け、区立幼稚園の保護者の代表をさがしていたのです。

実際に委員会に出てみると、大勢は「統合して廃止」に決まっていて、諮問委員会はそれに「お墨付き」を与える会に過ぎないことがわかってきました。これにはさすがにむっとした僕は、ことあるごとにやり方の不公正さを指摘し、また区立幼稚園にどれだけ地域にとっての価値があるかを示す情報を提供するなどして、ほとんどひとりで委員会を引っ張りました。教育委員会から見れば目の上のたんこぶだったと思いますが、その後、ほかの保護者からの動きもあって、結果的に統廃合は延期になり、今も目黒区の幼稚園はすべて健在です。

幼稚園児の保護者としてみると、不完全でできの悪い親だった僕も、ちゃんと貢献できることがある。しかもそれは、「幼稚園の行事に花飾りを作る」というような貢献ではなく、「僕だからこそできる貢献がある」という発見は、僕にとって地域社会とのかかわり方を発見する大きなきっかけになりました。

■自分なりのキャラクターで地域参加

その後の地域とのかかわりは、娘の幼稚園と学校が中心になりました。幼稚園では、親同士のメーリングリストを作ったり、園のパソコン導入のアドバイスもしました。卒園の時は親の方が作る記念アルバムの表紙をDTPの知識を使ってデザインしたり、卒園式には保護者代表でスピーチをしたりしました。小学校ではPTAの広報委員としてこれから始まる「総合的な学習」について取材をして記事にしたりもしました。これらはいずれも、僕が仕事やもともと持っているキャラクターを活かしてやったことで、僕自身やってよかったと感じられるものです。

一般的に、地域の活動は、ルーティンワークや毎年恒例になっているものなどが多く、「誰でもできる」「あたま数が必要」というようなものがほとんどではないでしょうか。役回りとしても「お手伝い」か「仕切り屋」のどちらかしかないという感じです。

この「お手伝い」か「仕切り屋」のいずれかになれるひとは、地域社会にすっととけ込みやすいタイプなのだと思います。しかし僕はどちらもあまり好きではないし、たぶん、多くの20～40代のビジネスパースンが地域社会にあまり関心を持たないのも、「お手伝い」「仕切り屋」いずれにも積極的にはなりたくないからではないかと僕は思います。

僕がオススメしたいのは、地域の中で、自分の好きなこと、関心事を活かして、何かできることはないのか、という見方で地域とのかかわりを考え、行動するという方法です。パソコンの知識があれば、それを活かす。会計の知識があればそれを活かす。今、地域の活動の多くは、昔からのやり方に凝り固まって革新がないので、どの分野でも変化を起こすことができるはずだし、関わるときに「変えてもいい？」ということを宣言して始めれば、たいていの場合「どんどんやって」となることの方が多いようです。

活動の場は、子どもの学校、地域のスポーツグループなどきっかけさえあればなんでもいいと思います。「お手伝い」でも「仕切り屋」でもない、第三の社会参加を自分なりにさがしてみてはどうでしょうか。

■地域の社会参加の喜び

ではそもそも、なんで地域社会と関わる必要があるのでしょうか。というより、僕にとって地域と関わることの喜び、楽しみ、メリットは何なのか。

地域の活動は、お金のやりとりによって進むのではないタイプの活動です。ビジネスならあらゆる活動が何らかのお金と交換で進むので、やってもやってもらっても、ある意味お金さえやりとりしてしまえばすみます。しかし地域の活動は、お金では換算できないか、もしくはしないタイプのやりとりです。

たとえば父母が作る卒業アルバムの表紙を、保護者がお金を出し合ってデザイナーに発注したら、いいものができるでしょうか。たぶんNOです。保護者の中でできるひとがやり、これは○○ちゃんのパパが作ったんだよ、と話題にできるから楽しい。個人が持てる力を出し合っているから、思わぬひとが意外にいいイラストを描いていたりして、びっくり楽しめることもあります。地域の活動は、お金と引き替えにしないからこそ、おもしろい。

子供を預かってもらう、子どものぜんそくについていいクスリを教えてもらう、場合によってはサンプルをもらってしまう、といったことは、「お世話になりっぱなし」にあたることです。こういう「厚意」にモノのお礼を返すこともできなくはありませんが、それよりも子育ての悩みを聞いてあげたり意見を言ったり、表紙のデザインをする方が、ずっと喜ばれるでしょう。返すものは、お金ではなく、そして自分にならできる「何か」であることが基本なのです。その地域のグループの中で自分にしか出せない何が出せるか。そこに知恵を絞り、うまく出せることを考える。

これができると、こんどは「これはpacoさんに頼もう」「きっといいアイディアを持っているよ」という評価ができて、自分の存在価値がその地域コミュニティの中ではっきりとできあがってきます。「お金を払うから」「仕事ができるから」価値を認めてくれるのではなく、自分の持っている、自分だけのキャラクターが誰かの役に立ち、期待されている。しかもその相手が、昔からの友達だったりするのではなく、オトナになってから偶然、必然によって会ったひとで、なんだか「袖すり合うも他生の縁」というような感じではあるだけに、そんなつながりの薄い人から受ける自分の価値への認知に、妙にじんわりと、心の奥深く感じ入ってしまったりする。これが地域社会とかかわる喜びなのだと思います。

■六兼屋のパコと地域社会

では六兼屋のある地域と、僕がどう関わっていくのか、という問題を考えておきましょう。

六兼屋の場合、地域というと、まず集落の活動への参加があります。六兼屋のある丸山集落では30軒ほどの家があり、集落の真ん中にある集会場に毎月10日に集まって会合に参加することになっている。六兼屋ができて1年になりますが、この集会には実は1回しか出ていません。全員参加の行事としては、草刈りもあります。夏場、道端の草が増えて車が通りにくくなるため、数回草刈りをするのです。

これらの集落の行事にほとんど参加していないのは、ひとつには東京に行っていて参加できないのですが、実のところあまり参加したくない。前述のような意味で、僕のキャラクターを活かした参加ができそうにないからです。

これにはふたつの可能性があって、集落コミュニティの側が僕のキャラクターを必要としていないという可能性と、僕がそういう意思を示していないので、集落側もわからないという可能性です。

その一方で、たった1回だけ出た集会のようすを見ると、僕のキャラクターが活かせる場はいくらでもありそうでした。変えなければならないことだらけで、やり方を変える必要を感じてはいても、誰も変える力がないというのが、この農村の集落コミュニティの状況だったからです。

なので、もしこの集落の人々が「変わる」ことを望んでいることがはっきりわかれば、その手助けをしたいと思っていますが、今のところそこがはっきりわからないので、現状は「地域とのかかわりを逃げ回っている都会人」に見えていると思います。この状態が1年続くとは、正直僕も思っていなかったのですが（もっと貢献できると思っていた）、その予想はずれもまた一興かと、ことの成り行きを見守ることにしています。

もうひとつの可能性は、集落の次元ではなく、町や町を超えた広域的な地域への貢献です。八ヶ岳南麓には高根町の他に大泉村、長坂町、小淵沢町の4町村があり、人口は3万人強といったところです。折からの不況で、地域経済の中心をになってきた観光業は低迷。人は来るけれどお金は落としていかないという状況です。一方多くの家庭の家計安定を支えてきたハイテク系向上はレイオフを行っており、夫婦二人とも解雇という家庭も少なくないようです。地域に親族がいるし、田畑もあるので、即生活の危機ということにはならない点がある意味では「ぬるま湯」なのですが、じわじわと生活が細っていくのが目に見えます。

こういった状況の中で、新しい産業を興し、人を動かし、経済的な活性化を進めるために、僕の知識がきっと活かせるはずだと思っていますが、これもまだきっかけがつかめていません。ひとつ考えているのは、地域にじょじょに育ってきているweb系のクリエイターに仕事を発注するということで、これは数日中にクリエイターグループのリーダーにあって、初仕事をお願いしようかと思っています。もしこれがうまくいけば、この分野をテコに地域経済を動かすためのきっかけが見えてくるかもしれません。

いずれにせよ、この地域もこのままではじり貧です。変革のためのアイディアや実行力が求められるのは時間の問題で、そのとき、貢献できるだろうと思っています。

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ということで、僕の地域貢献についての考えをまとめてみました。

無理をせず、仕方ないからやるのではなく、自分の力が活かせる活動をする。それによって社会に認められたとき、会社で評価されるのとはまた違う、存在感のある喜びを感じられるようになる。これが地域に貢献するということの僕なりのやり方であり、楽しみです。あなたと地域とのかかわり方についてもぜひ聞かせてください。僕にとってもこのテーマはまだまだ未知のテーマなのです。

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【謹賀新年】
明けましておめでとうございます。2002年の最初のコミトンをお届けすることができました。
この号から、サイトのトップページもリニュアルしましたので、ご覧ください。また知恵市場の運営も変更がありますが、あらためてお知らせします。

渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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