058 スピード執筆法

12月に出版した「論理力を鍛えるトレーニングブック」の続編、「論理力を鍛えるトレーニングブック＜意思伝達力編＞」がまもなく、ゴールデンウィーク前には書店に並びます。

「論理力……」では論理的に、緻密にものごとを理解し、考えるという点に主眼がありましたが、今度の「＜意思伝達力編＞」ではその理解をもとに、自分が伝えたいメッセージを作る方法を、前作と同じように紙上受講生に集まってもらって、演習形式で書いています。

この本を書いた正味日数は10日。前作の「論理力」も短時間で書いていますが、今回の本はさらに短縮され、本の執筆日数としてはたぶん、最短の方だと思います。原稿完成後、知恵市場の読者であり、この本の受講生として協力してくれた藤本さんから

以前のコミトンで、pacoさんのワークスタイルの話が出ていたのを読んで以来、 pacoさんの仕事の進め方に興味があったのですが、今回はどんなペースで執筆を進められたのか、さらに興味がわきました。今回の仕事のプロセスをコミトンで披露していただく、というのはいかがでしょうか？(^^)

というリクエストがあったので、それを機に、藤本さんとやりとした内容をベースに、今回のコミトンを書いています。

■集中できるように自分を追い込む

短時間でいい仕事をするには集中力を上げるしかありません。藤本さんも、

オフィスにいると、緊急でも重要でもない仕事が、さも緊急重要な顔をして飛び込んでくる。こっちも煮詰まってるもんだから逃避モードでそっちの対応をしてしまったりとか。(^^;

といっています。僕の場合、自分の家でやっているのでこういうことは少ないのですが、それでも子どもも妻も話しかけてくる。そこで、本当に集中したいときは、ウォークマン、じゃないMP3プレイヤーで音楽に没頭、何も聞こえないようにします。音楽が気になってできない、ということもあるんですが、わりと平気です。

ただ、実はそれ以前に、自分自身を執筆の仕事に追い込んでいくという作業をしています。執筆の時期はおおむね決まっていて、今回の本では2月末に当初の締め切りの目安がありました。ある程度ゆとりを持って取りかかるためには、2月5日ぐらいにはスタートしたいところです。そこで1月から仕事量をセーブし、少なくとも2週間、できれば3週間、空き時間ができるように、仕事を絞っていくという準備をします。今回の場合は、別の本の執筆があったのですが、こちらは取材のみ、それも1回2時間程度を月に2～3回に限定すると関係者に宣言して、調整してもらいました。それでも以前から続けているコンサルティングの案件や、新規制作のwebサイトのディレクション、GMSのクリティカル・シンキングクラスの準備やレポート採点など、はずせない仕事がありますから、焦らず、これらの時間的な優先度の高い仕事をひとつずつ片づけます。

本の執筆を先にしても、これらの仕事が後回しにして済むのならそれでもいいのですが、どうしても無理なものは、へたに並行するより、ひとつひとつに集中して片づけていったほうが絶対効率がいいのです。

結局、執筆の時間がまとまってとれるようになったのが3月12日からでした。ここまでずれてしまった大きな理由は、実は引越です。この忙しいタイミングに東京の自宅兼仕事場を敢行し、結局、引越前後の手続きや引っ越してからの片づけに2週間近くかかってしまいました。これがなければ3月あたまからは十分取りかかれたはずですが。

というわけで、集中ための準備や手段をきちんととることが、とても重要です。

■企画を完璧にする

集中する時間をとるのは、実は実際の執筆の時間のためです。それ以前に、本の企画、目次を完全にしておく必要があります。

目次自体は、「論理力……」を書く段階で2部作の予定で企画していたので、ほぼできあがっていたのですが、「論理力」執筆後に感じたことや読者からもらった感想や指摘も含めて再度企画を作り直しました。これは3月12日よりずっと前、2月20日。この段階で、受講生にやってもらう課題をつくってしまい、編集者とのすりあわせをしてから、27日に知恵市場MLで受講生の募集をしたという経緯です。

ここで重要なことは、20日の数時間で、目次の確定と演習を11問、つくってしまっているという点で、このスピードがもしかしたら全体の早さを決めたといえるかもしれません。

なぜ短時間でできるのかと言えば、やはりピラミッドストラクチャなど論理思考のツールを使いまくっているのが理由としてあるでしょう。ただ、そのときだけ使ってもうまくいかないもので、「論理力……」を書く段階で、1作目→2作目のつながりを含めて、どのような構成にするか、どのような要素が論理力を学ぶために必要かを徹底して洗い出してあったからこそ、できたことといえます。

そしてそれ以前にさかのぼると、GMSでの2年以上に及ぶロジカル・コミュニケーションクラスでの講師経験やクリシンの鉄人、Toshiさんと論理思考を学ぶと言うことについてはあれこれ意見交換してきたことが、大きな貯金になっているのはいうまでもありません。

ただ、ある業務に精通しているからといって、それをすぐに短時間で本の目次に落とし込めるというわけではないでしょう。やはり、論理思考という自分の仕事（講師業）のテーマを、うまく伝えるために何が必要か、どこがうまく伝わらないのかという点を常に考え、仮説を立て、クラスで実践し、構造的な理解を深めているからこそ、短時間で本の目次の形にしたり、さらに演習課題をつくったりすることができるのだと思います。

要するに、日ごろの講師の仕事や、知恵市場でのコミュニケーション（どうやったらふくざつな事象を構造的に再構成し、人に理解してもらえるか）を、うまくやる、よりよくやるために、考え、仮説を立てて進めてきている蓄積の上に、スピードのある本の企画が成り立っていると言うことがいえるのかもしれません。

■類書の研究をして、企画に自信を深める

もうひとつは、僕が書く場合は、かなり類書の研究はします。bk1やamazonで類書の検索をしまくって、まとめ買いする。書店で足りていない本はないかを見て回る。「論理力……」を書くときには10冊ぐらい、今回は3冊ぐらい追加して、中から特に高い評価ができる本を選び、それとの違いをかなり意識して企画しました。

ピックアップしたのは「MBAクリティカルシンキング」「ロジカル・シンキング」「論理思考の発想と技術」の3冊。これ以外は、内容的に高度にすぎるか偏っているので、競合しないだろうと思っていました。「ロジカルシンキング」はいい本なんですが、やはり普通の人がぱっと実践で使うには難しすぎる、使いこなせないだろうと思ったので、内容的にはオーバーラップしてかまわないが、表現部分でまったく違うものにしようと考えました。

MBAクリシンは、因果関係や構造図など、僕が扱わない内容が多かったので、重複しないだろうと思っていました。僕の論理思考のアプローチは、因果関係はすべてSo What?やWhy?で検討してしまうというおおざっぱな方法です。グロービスのクリティカル・シンキングで扱う「第三因子」なんて、MBAクリシンを読んで初めてその言葉を知りました（もちろん内容的な意味ではわかっていたことですが）。

たしかにいいアプローチなんですが、因果関係の検証は、ちょっと難しすぎるというか、これができずに止まってしまう人が多いし、原因と結果の関係を緻密に考えようとするよりは、So What?やWhy?で自問自答するレベルでもかなりできるので、「論理力……」シリーズでは扱わないようにしています。

「論理思考の発想と技術」からはいろいろアイディアをもらいました。本としては、著者（後さん）の個人的な趣味が出過ぎているので、読んだあとの理解の度合いという点では負けないと思っていましたが、さすがによく考えている人なので、細部に興味深い部分がたくさんありました。前作で「このことだけから考える」という課題を作ったのも、後さんの本からヒントをもらいました。

でも実は、類書の研究は、それ自体に価値があるというより、自分の企画に自信が持てるようになるという価値が大きいですね。あるいは同じ領域の中で、自分の本（アウトプット）がどの位置にあるのかを確認しておけば、あとで中身を書くときに、書くレベルを迷わない、ということがあります。

今回の本では、20代前半、大学生ぐらいから読める本をめざしていたし、ビジネス経験があまりなくても、ビジネスに使える論理思考が身に付くようなあたりをねらいました。GMSのクリシン受講生に、受講前に準備として読んでもらったり、受講後には比較的楽に復習としてと組めるレベルを設定しました。

このあたりも企画・準備のうちになります。

■編集者の考えを「鏡」にする

もうひとつ重要なのは、本の編集者です。かんき出版の山下さんとは、今回の本で4冊目になるのですが、気も合うし、とても優秀な編集者です。

企画段階では彼女の意図が明確で、想定読者や入門書としての位置づけがはっきりしていたので、最初の読者として彼女を満足させることができるか、という点も、企画が楽に進むポイントになります。つまり「読み手のリクエストに応える」にはどうしたらいいかを考えることで、本で伝えるべきメッセージがはっきりしてくる、というわけです。

とはいっても、実際に編集者と詳細な打ち合わせをするというタイプではなく、むしろさっぱりしたものです。今回の本でいえば、実質3往復ぐらいしかしていないと思います。一番初めは「論理思考で3冊シリーズは書けませんか？」という話で、とりあえず2冊ならできますね、と答えて、今回の2冊のラフプランを提出。「これでいいですね、やりましょう」という返事をもらって、いくつか意見交換して、その後、詳細な目次を作って再度送って、それもほぼそのままOKをもらって、というような感じです。次は課題を作って送り、みなさんに集まってもらい、というステップですから、ほとんど中間報告をしているという感じで進んでいます。

ただ、彼女の途中の反応がとてもいいのですね。「これいいですね～」とか「このぐらいわかりやすい本がほしかったんです」とか。もともと僕は類書のイメージでハードカバーかなと思っていましたが、ソフトカバー、それも判形を小さく、横書きで、というアイディアが山下さんの方から出てきたので、現物のイメージがつかみやすくなり、それなら格調の高さはいらないな、とか細部のイメージをふくらませていく感じに進みました。

■企画の詰めを行う

ある程度、目次の骨子が決まってからは、細部の詰めになります。

確かに、ピラミッド作りで試行錯誤が足りないままにえいやっではじめてしまって、あとでぐるぐる手戻りを繰り返すパターンから抜け出せないでいます。今日もちょっとボリュームが多めのレポートを書いていたのですが、アウトラインの骨格が弱いので、書き進んではアウトラインを直して、の繰り返しです。まず書きながら考える習慣から抜け出す必要があるのはわかっていてもずるずるやってしまう。

という藤本さんと同じ経験のある人は多いと思います。ある程度準備ができていることを前提に、こういうぐるぐる状態を止める方法を考えてみると、ふたつ方法があって、ひとつは、あたまの中で徹底的にシミュレートすること。この場合は、できかけの目次（企画の骨子）をにらみつけて、この部分ではこのことを話して、次の部分はここを書いて、となるべく緻密に、かつスピード感を持って自分の企画を追う作業をすること。その際、途中で元に戻らないようにするのがコツです。たとえば、3番目パートを追っているときに、1番目のパートには戻らない。とにかく3パート目を追い続けつつ、おかしいと思うところは、手早くメモしていく。僕の場合は、企画はほとんどテキストエディタで行うので、画面の中に★を書き入れておくだけということもあります。要するに、そこで何か引っかかったということがわかればいいのです。

この時間で、本文を書いている時間を事前に体験（realに想像する）する感じにします。全体の流れを見ることが重要なので、できるだけ短時間に、リズムとスピードを持って進めます。

■企書くスピードそのものは、訓練の結果

さて準備ができて、集中する時間がとれれば、もういいわけが聞きません。毎日ひたすら書き続けます。といっても途中でGMSのスクーリングがあったりもしたんですが。

時間がぎりぎりだったので、スクール以外の仕事はいっさい入れず、ひたすら執筆。ただ、それでも1日の執筆の正味時間は、5～6時間です。3時間×2セットで、少なくとも1章、うまくいけば2章書けます。原稿用紙にして、20～30枚ぐらいでしょうか。

独立してコピーライターになったころは、1日15枚ぐらいが、実質的な限界でした。これだと標準的な入社案内（パンフレット）が、3～5日で書けます。これでも早くなったなあと思っていたのですが、今は倍の量はかける。人間の脳は進歩するものだとしみじみ思います。もちろん、この量の原稿は、手書きでは絶対に書けません。PCの漢字変換の速度も、10年前のスピードではまったく追いつかず、それがボトルネックになったでしょう。

変換スピードの不足に悩まなくなったのは、3年ぐらい前から。さすがに今のマシンでは、どんなに早くキーを叩いている瞬間も、変換速度のほうが圧倒的に早くなりました。前はキーを叩いても表示されず、変換を待っていたので。

この期間で以外に重要なことは、生活のリズムを守ることに特に気をつける、という点です。これも集中力を上げるためのポイントですね。

僕の場合、特に料理をきっちりやるようにする。毎食をなるべく自分でつくり、家族とともに楽しむことで、生活に緩急がつき、集中力を上げやすくなります。1日2日の忙しさの時は、外食でもピザデリバリーでもなんでもして時間を作った方がいいのですが、10日、2週間となると、これでは心もすさんでしまいます。

地に足をつけて進む。これが集中力を持続させるための重要なポイントです。

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ということで、今回は僕の仕事の進め方のスタイルをまとめてみました。参考になればうれしいのですが、どうだったでしょうか？

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

mail:paco@suizockanbunko.com