067 旅を踏まえた次の一歩

2月からの旅を終えてはや1か月がたとうとしています。コミトンでもそれぞれの場所の話は一通り終わりましたが、では全体を通して何が言えるのか、その示唆を持ってこれからどうしていくか、今回のコミトンでこのことについて書いてみたいと思います。

■違う世界

まずは簡単に各地で得たものを振り返ってみたいと思います。

★エチオピア－ものがないということは

最初の地エチオピアではいろいろなものが「ない」という状態を目にしました。ものがない家、あらゆるものが中古（大古？）だったり、他なら機械がやることを人がやっている……。ここまでものがない状態を目にすると「本当に必要なものは」と頭が切り替わって、いろいろなものが違って見えてきます。また「人がやっているのもいいのかも」と思ったり。

そして国というマクロに目を移してみると、資本主義ゲームではあまりに遅れてしまったこの国が、ただ努力してゲームに参加するのはほとんど不可能に見えます。それよりも、まず自ら食えてかつ持続可能な農業を育てること、ベーシックな工業品は国内で作れるようにすること、そしてエチオピアならではの産業を育ててある程度の外貨を稼げるようにすることが必要なのではないか。しかし実際にこれをやるには何が必要なのか、それが自分とどう関係あるのか、「仕事はとてもおもしろい」という青年海外協力隊の人たちと話しながら考えていました。

★南アフリカ－なぜここの人たちは元気なのか

事前の情報から、敵意がうずまくところじゃないか、と思っていた南アフリカですが、実際に行ってみるとかなり違いました。テレビなどでは恐いところというイメージで伝えられる旧黒人居住区ソウェトで見たのは、道で楽しそうに遊ぶこどもたち、外でのんびり談笑するおとなたち、頼めばうちの中まで見せてくれてしまうような人々でした。そしてことあるごとに彼らは、力強く歌い、踊っている。自分で見てみることの重要性をまず感じました。

しかし確かに犯罪の多さは深刻だし、貧富の差やAIDSが国を揺るがしかねない問題になっているのも事実です。ただ、問題山積みでも南アフリカの人たちは日本人よりもずっと元気に見えた。「HIV感染者」と書かれたTシャツを着てデモに参加する人も、地域コミュニティを考える年配者の集まりも、職業訓練のNGOスタッフも、黒人初のワイナリーのマネジメントも。立ち向かうべき問題にまわりの人々といっしょになって立ち向かう時、人はむしろ元気になるのではないか。

★カオハガン－自然であること～何を取って何を捨てるか

カオハガン（フィリピンの小島）にあったのはエチオピアとは違った「ない」生活でした。ここにはエチオピア以上に人がつくったもの(車も、電気も……）がない。でもその結果もあってアジスアベバにはない自然があります。そして東京はもちろんエチオピアや南アフリカの都市よりもずっと、大人も子供も役割を持って相互依存(inter-depend)しながら生きている。これを意識してやっているならすごく進んでいると言えるでしょう。しかし現実には、このようなところでも醜いプラスチックやコンクリートのものが少しずつ増えたり、自給自足→買って生活することに移って行く人たちがいたりする。プライバシーを求める人も出てきている。でもその気持ちもわからないではない。では自分だったらどこに線を引くか？　またこの島の人たちとどんなことを話していくのか？

カオハガンでもう一つ強く感じたのが、フィリピン人の考え方の違いでした。たとえば、金を持っているものはそうでないものに分け与えるのが当然という考え方がある。また仕事における責任感が日本人からするとかなり希薄。そして、勤勉という言葉は彼らのほとんどの辞書にはなさそう。まず、これだけ違うということに驚き、そして関わっていくときにどこでおりあいをつけるべきなのだろう？と考えました。

★ブラジル－今を楽しむ

ブラジルと比較してみると、日本人は常に将来に備えている感じがします。一方でブラジル人は今を楽しむことに重点を置いている。別の言い方をするとブラジル人はそれだけ楽観的、日本人はそれだけ悲観的、そして「今」の楽しみ方としてブラジルで特に目立ったのがスポーツ。ほんとに多くの人がスポーツをやっていて、人間は動物＝動く物なんだ、というのを実感させられました。そのように動いている人たちにはより生気を感じるんですね。

もう一つ、ブラジルの特徴として感じたのが「人種のるつぼ」であるということ。実際にアフリカ、アジア、ヨーロッパからの移民の血が混じり合っていると同時に、文化も融合の中からつくられている。よく人種のるつぼといわれるアメリカよりもずっとオープンであると感じます。と同時にこれが意味するのは、寄せ集めからアイデンティティがつくられているということです。アイデンティティとは古いものにしがみつくことばかりではないと。

しかし、このように楽天的だったり受容的だったりするブラジルの特性がよく働くときと、そうでないときがある。特に、犯罪や貧富の差という問題に立ち向かうには、もっと未来を見据えたり、厳格になる必要もある。国民性のよい面を保ちながら同時に変わっていくことは、日本にも求められているところではないか。

★トルコ－話すことは生きること？

ブラジル人がスポーツやカーニバルに時間を割いているならば、トルコ人は家族や友人と過ごす、特におしゃべりをすることに時間を割いているように見えます。働いていないと落ち着かないのが日本人ならば、この国の人は一人でいたり、黙っていると落ち着かないのでは。「トルコ人は困っている旅行者を放っておかない」というのもその表れかもしれません。旅行者が困った状況にはまるのもまた、一見人なつこいトルコ人にだまされたからだったりするのですが。しかし一方、オープンでありながら文化を維持していることも興味深い。音楽、食べ物、建築……。さて日本はどうか。

もう一つトルコで興味深く感じたのは宗教の位置付けでした。酒を飲むことをはじめとして、多くの人は形式的な戒律をあまり守っていないように見えます。しかし、本質的なところは押さえていて、神というとてつもなく大きな存在を意識することで自分を冷静かつ謙虚にとらえ、その結果、他人や自然との関わり方もバランスがよくなっている人を多く見受けるように思います。日本もかつてはそういう国だったのでは？

★クウェート－生きることを楽しむとは？

もし毎日50度を超える暑さと砂漠の中に暮らすことになったら毎日何をして過ごすか。しかもある日いきなり宝くじにあたって一生働かなくても食えるだけのカネが手に入ったら？　そこで自分は「よい人」であれるでしょうか。クウェートはまさにそういう環境にある国。そこでよく見られるのは、命知らずで自分勝手な車の運転、守られない約束、仕事をしているのは人口の2/3を占める外国人ばかりという状況と聞くのですが、でも自分が同じ立場にあったら「いい人」であるのはなかなか難しい気がします。しかし僕が会わせてもらった人たちは「いい人たち」で、かつ本人も楽しんで過ごしている人たちでした。しかも、だからといってクウェートの社会から浮いているわけでもない。何がそれを可能にしているのか？

■外を通して自分を見る

さて、今回の旅は外に対する自分の視野をひろげると同時に、自分を考えるよい機会にもなりました。別にそうしたかったわけじゃないんですが、気がつくといろいろなものを見ながら「自分はどうなんだろう？」と考えている自分を見つけるのですね(笑)。そして見えてきたのが次の三つのことでした。

★やっぱり日本人だった？

まず感じたのは、自分が日本人であるということでした。ふだんはあちこちで「日本人らしくない」（宇宙人じゃないか、とも）と言われたりするのですが、日本の外で自分を見ていると、自分はかなり日本人的であることが浮かび上がってきます。一番それを感じたのは音楽や踊りなどの表現でした。たとえば南アフリカの音楽や踊りに接していると、とてもダイナミックでパワフルであるところに魅了されます。でも自分のものではないとも感じる。自分の中の音楽や動きは、もっと静的、あるいは受身なもののようで、それは日本の芸術に通じるものがある。

コミュニケーションのスタイルでも同様で、トルコ人のように自分から話を始めることは得意ではないし、アラブ人のようにガシガシ交渉することもしないでしょう。しかし話を統合していくことや、異質のものを取り込んでいくことはきっとできる。あるいは自然との関係においても、自然を征服するような形よりも、自然と一体化する形に共感することを感じました。僕の感覚では、これらいずれも「日本的」だと思えるのです。

★日本人の役に立ちたいらしい

自分の中には愛国心とか帰属意識というのはあまりないように思うのですが、なぜか日本人や日本に貢献したら楽しそう、という気持ちが強まっています。一つにはきっと、それが一番結果を出せるんじゃないか、という計算でしょう。もう一つには、先人たちのおかげでよい旅ができたので、自分もそれなりの貢献をする義務があると感じていることがあります。というのも、旅行していて日本人についてよいイメージを持っている人が本当に多く、その結果、気持ちよく旅を出来たのでした。これは現地に住む人、およびバックパックや地球の歩き方を持って世界中を歩き回っている旅行者たちがその土地の人と接する中でつくりあげてきたものが大きいと思っています。

★世界と関わっていきたい

旅をしながら、やはり世界のいろいろなところの人たちと関わり「そんなふうに違うわけね」とか、逆に「同じなんだ」と感じていることが自分にとってとても楽しいとわかりました。これはグローバル・ビジネスとかいうことよりも、バラエティに富んだ人と関われることが楽しいという意味です。

■これからの活動の領域

そして今後について考えたのは次のようなことです。

★元気な日本に向けて三つの要素をもった領域にからんでいくか

今回の旅行を通じて一番感じたのは、世界から見て一番抱えている問題が少ない国に見える日本人が、一番元気がないということでした。だから、日本人が元気になるのに一役かえたらうれしい。その要素として次の三つを考えています。これは三つのことをやるという意味ではなく、これらの要素を多かれ少なかれ持った領域に関わっていけたらということです。

日本人が外と関わることで、もっと「自分が役に立っている」という感覚を持てること
日本人がもっとアイデンティティを感じられること
日本人がもっと「自然」にあれること

なんだかんだ言っても、他の国に比べれば日本は既に「食べていくのには困らない」レベルまで来ています。すると欲求のレベルは生存欲求からより上位のものに上がっていきます。価値のあることに取り組んで社会的に認められるとか、自分ならではのことをやるとか。ところが日本の中だけを見ていると、価値のあることをやれる機会は以前に比べて減ってしまっている。ものづくりやサービスなどビジネスで取り組まれていることも90点を95点にするような話ばかりで、しかも実は70点でよかったんだけどなあ、とか思われていたりする。一方、発展途上国ではいろいろなことのレベルが20点とか30点のところにあり、簡単ではないにしろ状況改善の余地は山ほどある。だから日本人はもっと外に関われるとよいんじゃないか。

といっても、いきなり途上国で働く人を増やそうとか人を送ろうといったそういう話にはならないでしょう。僕自身、それをいきなりトライするほど途上国について知っているわけじゃないし、そこまでいきなり行こうとすると、環境が厳しかったり収入面では魅力がないので実際に動く人はなかなか出てこないというようになりかねない。まずは目をもっと外に向けること、そして外の人たちと話をすること、それからやれることで意味のあることを徐々にやっていくのだろうと思います。

次にアイデンティティンの話ですが、これは僕自身、今回旅行していて「自分らしいもの、自分が誇りを持てるもの、保っていきたいと思うもの」をもっとしっかり持っていたいと感じたことから来ています。コミトンで各地について書いてきたように、それぞれの土地にはそれぞれの世界があります。これを守ったり育てている国や人は元気なんじゃないか。一方、とにかく「グローバル化」を追いかけているとしぼんでいってしまう。カオハガンの立っている岐路はまさにそういうところだと思うし、ブラジルやトルコが今後どうなっていくかにはこの点で注目しています。

そして日本はどうか。たとえば今回のワールドカップで共催国の韓国はベスト4に進み、日本はベスト16で散ったことについて、応援も含めた「底力の差」が話題となりました。では根性を鍛えたり、感情をばんばん表に出すこどもを育てるのか？　僕は、日本らしい強さとはそういうものではなく、常に平常心を持ちつづけるとか、人と戦うのではなく自分と戦う心を持てるところにあるのではと思っています。

最後のポイントである「自然」とは、三つのことを考えています。まず「グリーン」の意味での自然です。ブラジルのくだものは日本のものよりはるかにおいしかった(^_^)。日本の野菜やくだものは今回まわった国々のほとんどと比べて、工業製品に感じられました。そして次に、人が「自然」であること。どこの国でも「日本人はどうしてそんなに仕事で忙しくしているのだ？　クレージーだ」と言われました。確かにビジネスに使う時間、プライベートに使う時間、社会に使う時間のバランスは変わっていった方がよいと感じています。最後の意味は社会が「自然」であること。「カオハガンの今と未来」で書いたことを少し引用すると、

・子供が多いこともあり、カオハガンでは誰かが道端で幼児を抱いていたり、子供が誰かのうちで遊んでいたとしても、その人が子供の何なのか傍目にはよくわからないのです。子供の兄弟かもしれない、親の兄弟かもしれない、祖父母かもしれない、隣の人かもしれない、やっぱり親かもしれない。いずれにせよ、いろいろな人が関わって子供が育つことでいろいろな効用が得られている、めんどうな面もきっとあるのでしょうが、幼児は日本人の子よりタフに見え、もう少し大きな子はすでに育児について学びはじめ、親は日本のように24時間体制ではなく、年寄りもちゃんと役割を持って楽しそうにしているわけです。

というようなことですね。

■実際に何をするか

上に書いたことを見ると、とても大きな問題を三つもかかげていますね(^_^;。しかし実際に考えているのは「まあ、少しずつやってみよう」という感じです。

★長期的には教育

まず、長期的に取り組む領域として教育を考えています。考えてみると教育は自分にとって長いこと興味を感じられる領域であり、かつ上のポイント－「日本人が世界で活躍の場を見つける」「アイデンティティを確立する」「自然にある」といういずれにも関わっていると思うからです。また（社会人教育ではありますが）自分がある程度、土地勘のある領域というポイントもあります。ただ、進み方としては、こどもや学生の教育に今すぐ入っていくのではなく、少しステップを踏んで行くのではないかと思っています。それは一つには自分自身がこどもを持っているのと持っていないのでは見えてくるものが全然違うだろうと思うこと、もう一つには、現在取り組んでいる「英語のシャワー」や知恵市場で先にやっておきたいことがあるからです。

★「英語のシャワー」で外とつながり、知恵市場で日本を考える

しばらく前から取り組んでいる「英語のシャワー」（コミトン033、043参照）と知恵市場は、外とのつながりをつくったり、日本について考えていくよいプラットフォームだと思っています。というのも英語について言えば、映画や本を原語で楽しむのは楽しいことだし、英語を使えることでキャリアの機会が広がるのももちろんよいことだけれども、さらにその先、世界のあちこちの人と話をしてみたり、何かをいっしょにつくりだすことができたらさらにおもしろい、そんなふうに参加しているメンバーが思い始める可能性を感じるからです。しかしその時、「じゃあ、自分はどういう強みを持っているのか」「何かを前にした時、どういう立場を取るのか」「そもそも自分は何者なのか」ということがこれまで以上に意識されるんじゃないか。これは知恵市場が得意とするところになるんじゃないか、と思うのですね。

なお、もっと多くの人が日本文化を楽しんだり、日本をもっと好きになることについては、girl friendが以前から考えていて、今回の旅行でその思いをさらに強めたようです。これも何かつながってくる可能性はありそうです。

★自分自身についても……

上のようにアウトプットの活動も重要なのですが、自分自身ももっとアイデンティティにつながるものに取り組んだり「自然」な生活を楽しんでいきたいと思っています。たとえばもう一つ外国語を少し出来るようにしたいと考えたり、笙に加えて（いまさら？）合気道に挑戦したりしているのですが、どこまで出来ることやら。しかしおもしろいことはおもしろいです。また自然と接する時間についてはpacoさんの六兼屋に押しかけることを、友人や家族についてはお互いの家をもっと行き来することを考えています。

★仕事を減らす

さて、これまで書いてきたようなことをやっていく上でひとつ問題がありました。仕事を今まで通りやっていたのでは時間が足りない。またグロービス（以前の仕事場）でやっている人材紹介関連の仕事（週2.5日分）は、それはそれで価値のあることだけれども上のような自分の関心からはずれている、ということがはっきりしてきました。そこで話し合いの末、これを6月一杯でやめることにしました。当然、収入は減るしリスクも上がることになります。しかし、まあしばらく試してみようと思っています。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。成長期の事業マネジメントを中心に外部からグロービスに関わる一方、「日本人のQuality of Life(QOL)アップ」をキーワードに知恵市場に続くプロジェクトをプロデュースしていく予定。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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