080里山ワークショップ＠六兼屋 Part1

ちょっと間が空いてしまいましたが、9月14日土曜日、六兼屋で「里山で考える持続可能社会」というテーマで、ワークショップを開きました。[com2]MLで予告と参加者募集をしたので、知っている方も多いかと思いますが、参加いただけなかった方にも雰囲気を伝えようと言うが今回の号です。

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■9月14日曇り一時小雨

ワークショップ当日は、あいにくのどんより天気になりました。参加メンバーのうち、「絶対晴れ男、晴れ女」と自称する人が3人もいたのに、この天気。晴れ女のひとりは挫折感を味わっていたようでしたが、3人いなければ大雨になっていたかも、という脳天気な僕は、とりあえず田んぼのあぜ道ならあるけそうな程度の雨にほっとしていました。

集合は10時から。開始を10時半とアナウンスしていたので、10自前までのんびり朝ご飯を食べ、部屋の掃除をしなくちゃと思っていたところに、トップバッターの柴田さん、続いて星野健二郎さん、まりこさんご夫妻が黒塗りの長坂タクシーで相次いで到着。JR長坂駅から2000円程度だったそう。僕はいつもクルマなので、料金がわからないのだった。

ちょっと待っててねといいながらあわてて部屋に掃除機をかけ(^_^;)、あいさつもそこそこにしていると、知る人ぞ知る大型バイクの名車BMW K100でAluminaさんこと関さんは到着。かっぱがびしょぬれで、ほんとお疲れさまでした。そのあとは順不同ですが、ブルーのユーノスロードスターで塩手さん、いつものゴルフカブリオではなく、いきなり黒のワンボックスワゴンで乗り付けた平賀ファミリー(ひ～ちゃん、ゆうこちゃん夫妻と1年生のしん君)、かよちゃん（Toshiさんのガールフレンドでもある）、星野さんと同じ会社でEPSONの環境報告書をいっしょに作った編集者の筑紫さん、デザイナーの中島さん、そして唯一初対面の千田さん。それに我が家の妻子を加えて、15人がせまっちい六兼屋のリビングに詰め込まれ、早くも立ち席状態になってきました。松戸から来る松尾さんとお嬢さんはなかなか来ません。渋滞にはまったかな。

みんな思い思いに庭に出たり、部屋の中をうろうろしたりという感じでしたが、何度も六兼屋に来ているかよちゃんが、「すごいパーゴラができてる！！」と感動してくれました。わかってくれてうれしい。このパーゴラというのは、正確には「ガゼボ」といって、洋風東屋です。この夏、友人と協力して、敷地のはしに、丸1週間かかって六角形のガゼボをつくったのですが、これのすばらしさに気づいてくれる人がいてくれて、作者は本当にうれしいのだった。

■11時すぎ、溜池～竹林～桑の木

松尾さんが来ていないのですが、先に始めることにします。雨もほとんど降っていない状態なので、この間に出発。ぞろぞろと歩いて、まず田んぼのあぜ道に出ます。ここで谷津の地形の説明。

「里山の基本形はこういう小さな谷状の地形です。周囲はほんの小高い尾根に囲まれていて、尾根は雑木林になっています。低い谷筋に田んぼがつくられていますが、谷津の一番山側には溜池があり、そこから用水路をひいて、田んぼに水を入れています……」

あぜ道(といってもちゃんとした舗装路)をさらに進んで、溜池に向かいます。溜池まで、300メートルほど。溜池の堤防の下まで来ました。堤防の高さは20メートルほど、近くで見上げると小山の斜面という感じです。

「ここが溜池の堤防です。自然にできたものではなく、集落の人がつくり、昔から管理してきたものだと思います。堤防は今はきれいですが、夏は草だらけになるので、管理のためにそうでで草刈りをする日が何日かあります」

「溜池の役割は、田んぼに必要な水をためるというのがまず目的ですが、それ以上に、雪解け水をためて、暖めておくという意味もあります。冷たい水では田植えしたばかりの稲の生育が悪いのです」

この日は雨模様で足場が悪いため、堤防をあがって溜池本体を見るのはあきらめました。溜池は広さが100メートル四方ほどで、「池というには意外に広い」という感じです。堤防の高さから考えて、深さも10メートル以上あるでしょう。堤防のつくりもしっかりしているので、おそらく戦後になって、昔の小さなものを回収して大きな溜池につくり変えられたものかと思いますが、詳しいことはわかりません。

溜池の下の水路にはホタルがいるんだよ、という話をしつつ、水路沿いの竹林に注目。ここは妄想だけの竹林ですが、今は人手が入らず、ひどい荒れようです。春にどんどんタケノコが生え、伸びていくので、過密になりすぎ、細くしか育てないたけがどんどん倒れてきているのです。都会から来たばかりの目で見るときれいな竹林ですが、説明されてみると確かに薄暗くて荒れた感じがわかってもらえたと思います。

竹林のすぐ横の、最近できた別荘の前には桑（くわ）の木が育っています。これはかつて、養蚕（カイコを育てて絹糸をとる）を行っていた名残で、六兼屋のすぐ前もにも養蚕に使われなくなって育った桑の木が数本、大木に育ちつつあります。桑の木は大きくなると10メートルぐらいにはなります。養蚕のため葉をとる必要があるので、かつては背丈2メートルぐらいに切りそろえて育てていたのですが、養蚕が終わって必要がなくなると育ち、そうなると桑の実が付くようになります。プチプチしたかわいい甘い実で、英語でマルベリー、僕らは6月ごろ実をとってジャムにします。手を入れて養蚕をするか、手を入れないで実を食べるか。植物はいろいろに役だってくれます。

ちなみに、桑の葉をとると、断面から真っ白で粘りけのある樹液がたくさん出てきて、この樹液がカイコの身体の中で化学変化して、絹糸になるんだなあと実感できます。カイコは桑以外の葉でも育ちますが、桑以外のえさでは絹糸はとれません。

■竹林～ハウス農業～雑木林

続いて、もともとの集落の方に少し入ったところにある、栗林を見に行きます。この栗林は旧家（この家は地元の学校の校長先生が住んでいた）の隣にあり、300坪ほどのところにきれいな栗の木が10本ほどある、「栗畑」というようなところです。あそこが栗林です、といっても、実はみんなには栗林には見えずに、竹林に見えます。実はこの栗林、ここ3年で裏山の竹林の拡張に飲み込まれて、ほとんど竹林になってしまったのです。

「ここに栗林があったというのなぜ知っているかというと、僕がこのあたりの土地を見せてもらい始めて、最初に来たのがここだったんです。98年ごろです。そのときはこぢんまりした小さな栗林で、正面に富士山が見えたんです」

……なんでここを買うのはやめたんですか？

「ちょっと集落に近すぎたからなんですけどね……。今里山では竹林の荒廃が大きな問題になっています。エプソンに行ったときに、環境報告書の担当者の女性が『竹林が荒れてしまって大変なんです』と言ってましたよね、ツクシさん。ああいう舵機行の社員が竹林の話題を知っていること自体、すごいことなんですけど」

続いて、再びあぜ道を歩いて、野菜のビニールハウスの前。

「ここは移住組で有機農法をやっている進藤さんという方のハウスです。脱サラして長野のなんたら農法の農場で有機農法を学び、全国を探し歩いて、この土地で農業を始めた人なんです」

ハウスの中は、なすとトマトがびっしり生えていて、ここの野菜やいつもおいしそうです。高額商品なので、もらったことはないんですが。

さらにあぜ道を歩いて、雑木林の前に。ここは林が道の上まで葉を広げているので、小雨が降っても濡れません。

「さて、ここが雑木林です。雑木というのは落葉広葉樹のことで、ここはコナラとヤマザクラが中心ですね。太い雑木に育っているんですが、ここははやしとしては荒れた状態なんです。まず太いクヌギの木にツルが絡んでますね。あんなにツルが絡むと、木は窒息状態になります。木は樹皮だけで生きている生き物なので、ツルが絡んで締め上げると、やがて死んでしまいます」

この木に絡んだツルは、もはや「木」といった方がいいような太さで、すでに5センチ以上！の太さがあります。

「そもそも雑木は、こんなに太くなるまでは育てずに切ってしまうのです。ここのクヌギは30センチ以上の太さがありますね。昔はだいたい太さ20センチから25センチに育つと、木って薪や炭にして暖房に使ったり、炭を売って現金収入にしたようです。秋に木を切って、農作業ができない冬に炭を焼くのが里の暮らしです」

「雑木を切ると、切り株からひこばえといって芽が出てきます。わーっと一気に出てくるんです。これを2～3本残して刈って置くと、どんどん育って20～25年でまた伐採できるようになる。このサイクルで雑木林を利用していたんです。ひこばえは根が残った状態で育つので、成長が早いし、雑木は秋になると葉を落とすので、里人は落ち葉は木をして集めて、農家の裏に積み、腐葉土にして、それと田や畑に入れました」

「この腐葉土の中でカブト虫やクワガタ虫が産卵し、幼虫になる。これが成虫になると、雑木林の木に飛んできて、樹液を吸って成熟します。今も雑木はありますが、農家の腐葉土の山がなくなったので、カブト虫やクワガタ虫が暮らせなくなりました。里人の暮らしが、虫の生態系も豊かにしていたし、その虫を食べに鳥やタヌキやイタチが来て、さらにそれを食べてキツネやフクロウが暮らせたわけです」

「このサイクルが最初に狂ったのは、化学肥料が来たときです。化学肥料を買って、腐葉土をつくるのをやめた。この結果虫が減って……とつながっていくんです」

■田んぼ～廃道

雑木林を見ている状態から振り返って見ると、そこは田んぼです。9月の田んぼはもう稲穂が首を垂れて、黄色く実り始めています。稲の根本までは見えないほどみっしりと育っているのでよくわかりませんが、たぶんもう水が抜かれていて、身を充実させる時期になっていると思います。稲刈りまで半月という感じです。

「田んぼは、日本人が1枚1枚作り上げてきた人工環境です。ここは人の手が入る前はおそらくもっとくぼんだ谷になっていたはずですが、山を削って土を入れ、あぜで区切り、水平を出して田んぼにしていったんです。全体が傾斜しているので、田んぼは下流に行くにつれて緩やかな階段になっています。ここが田んぼになったのがいつかはわかりませんが、日本の田んぼが一番増えたのは、江戸の中期に行われた新田開発の時期です。五代将軍綱吉から八代将軍吉宗の時期にかけて、全国で新田が開発され、藩の収入向上をねらいました。ここは米ができるにはかなり寒い地域なので、田んぼができたのはそのころかもしれません」

実際、六兼屋から少して標高をあがったところには、箕輪新田という地名があります。ここが江戸中期の開墾田だとすると、六兼屋の当たりはもう少し前、安土桃山時代ぐらいの開墾かもしれません。

「里山は、都会から来てパッと見ると＜自然が豊か＞と見えますが、ここは完全な人工環境です。米を作り、農民が生きた行くために必要なものがワンセットになっているのです。田んぼと雑木林も、絶妙なバランスになっているはずです。雑木林は肥料や燃料の供給地で、山菜など食料の供給地でもあります。林を切って山をくずし、田んぼにすると、作付け面積は増えますが、肥料が足りなくなり、収量が上がりません。さまざまな経験値から、絶妙なバランスで田と林、民家などの土地利用が決まっていたんでしょう。これが里山の知恵なんだと思います」

その後、再び移動して六兼屋の裏山に。六兼屋は東と北が雑木林ですが、様子ががらっと変わっていて、東の林は最後にてが入ってからおそらく10年ほどの経過、僕もかなり手を入れたので（人の土地ですが）、下草も少なく、林床になんとか日光が入る林です。一方北の林は手入れがされずに20年はたっているでしょうか、すでに太い木がほとんどなく、細い木が密生してしまって、その木も育てません。もやしのように伸びてはいますが、太くなれず、立ち枯れて倒れ、そのたびに周囲の木を道連れに倒してしまいます。

「両方の林の違いがパッと見てわかるようになるといいと思うんですが、一見きれいな林でも、多くは人の手が入らないので、荒れ放題です。あとどのぐらい林らしい景観がもつのかわかりません。雑木林は人が管理して、はじめて美しく、生産的な林になるんです」
この日は雨続きで足下が悪いため、荒れた雑木林のやぶをこいで荒廃を実感してもらうことはできませんでした。またの機会にお見せしたいと思います。

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ここで里山見学ツアーを終え、室内でディスカッションのセッションになりますが、この続きはまた次回。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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