084里山ワークショップ＠六兼屋 Part2

photo by paco.

今回は9月14日に行った里山ワークショップを紹介する後編です。

里山を実際に見て戻ってくると、ランチボックスが届いていました。このランチボックスは六軒屋から車で10分ほど北上した、甲斐大泉駅に近い「くのパン」で頼んだものです。

くのパンは今年春にオープンしたばかりのパン屋で、甲斐大泉駅を通る南北のメインストリートに面しているという立地の良さもあって、あっという間に人気パン屋になりました。名古屋からきた若い夫婦が切り盛りしていて、止まっているフォードにはまだ名古屋ナンバーがついている初々しさ。カントリースタイルの小さな小屋のような店にはいると、いい匂いがいつもしています。

パンについて語るとこれがまた長くなるのですが、くのパンのいいところは酵母を使わず、イーストで焼いているところ。パン職人は、発酵が難しい酵母を使いたがるのですが、僕はパンはやっぱりイーストがおいしいと思う(^^)。

ワークショップの2週間ほど前にパンを買いに行ったついでに、人数分のランチボックスをお願いしてきました。17人分、中身はお任せ、ボリュームたっぷりね、といったんですが、届いたランチボックスは、堅く焼いたパンのかごに入り、サンドイッチやハンバーガーが盛りだくさんになったグッドなものでした。くのパンさん、ごちそうさまでした。

■ビデオプレゼンテーション

ランチのあとは、30分ほどのビデオプレゼンテーションです。2階にある6畳の和室に松尾さんが持ってきてくれたプロジェクターをおき、何本かのTV番組を僕が編集したビデオを見ます。畳なので、全員壁に張り付いて車座状態です。

ビデオはこんな感じの内容です。

●アフガニスタンの干ばつ

テロ戦争以前から続くアフガニスタンの干ばつ。その実情のレポートフィルムです。取材先のある村では4年間まったくと言っていいほど雨が降らず、かつて大きな川があったところもすっかり干上がっています。村人は井戸を頼りに生活していますが、その井戸もすでにほとんどかれてしまい、今は水たまりのような井戸に汚れた水がわずかにあるだけ、村中がそこの水を使っているため、あと3か月で枯れてしまうとのこと。汚れたたまり水を飲むため、幼児を中心に感染症による使者が後を絶たず、村はずれのおかには子どもたちのはかが延々と続いています。かつて、村の周りは草原と畑で、5年前まではトマトもキュウリもとれたという畑は、今は見る影もない本当の砂漠です。本当にここに「土」があったんでしょうか。草原では放牧が行われ、牛や山羊の乳をとっていましたが、草が枯れ、家畜も売られていきました。若者は都市に出稼ぎに行き、一家の長はかわらだったところで道路工事用のジャリ取りをして、1日数百円の賃金を受け取る日々。村の崩壊は秒読み段階です。取材日から考えると、すでに水はつきているかもしれません。

●干ばつの原因

アフガニスタン干ばつの原因について、米国の研究所のコメント。温暖化のためインド洋の海水温があがった。これによってインド洋から吹き上げる気流が加速し、上空で乾燥した気流がアフガニスタンに降り注ぐようになった。乾燥した空気のために雨が降らなくなり、これが川を干上がらせているとのこと。温暖化は、あるところでは乾燥化を招き、あるところでは豪雨、あるところでは寒冷化というように、さまざまに現れる。

●ブッシュの京都議定書離脱宣言

シーン変わってブッシュJr.大統領の京都議定書離脱宣言の映像。

●風車を立てる北欧の人々

一方で、化石燃料からの脱出を実行する人たちもいます。北欧のある農家は、2機目の発電用風車を建設しています。羽の長さ25メートル、とうの高さ40メートル、出力1000キロワット。基礎工事がすめば、風車ができあがるのは朝はじめて午後にはできあがる作業。工費7000万円は全額ローンで立てています。発電初日の売上は15万円。農家の主人はにっこりしています。説明ではローン返済は10年後ということなので、平均的には1日2万円見当ということでしょうか。農家の副業として発電するというが興味深いだけでなく、この風車の門出を祝って、近所の人が畑に集まり、パンとワインでお祝いする楽しそうな姿が印象的です。

●燃料電池自動車の開発

続いて燃料電池の開発状況。燃料電池の原理と、燃料電池車の実物が見られます。ダイムラー・クライスラーの小型乗用車は実験車ですが、カナダで実際に走っている燃料電池のバスは、屋根にある排気口から白い煙を吐き出して静かに走ります。燃料電池は水しか廃棄物を出さないので、この白い煙は水蒸気です。

●発電リソースの予想

ワールドウォッチ研究所による、今後100年の発電リソースの変化予想。2050年に自然エネルギーが半分ほどになり、2100年には化石燃料が姿を消す予測です。

●菜の花プロジェクト

菜の花プロジェクトは里山にもっとも関係がある具体的な試み。全国各地で進められていますが、VTRでは滋賀県琵琶湖畔の水田地帯が舞台。まず休耕田で菜の花を育て、タネを取って昔ながらの方法で絞り、菜種油にします。これを日本料理店などで天ぷら油として使ったあと、廃油を回収し、タンス2個分ほどの大きさの機械で簡単な化学処理を加えると、数時間でBDF（Bio Diesel Fuel）になります。BDFは経由と同じように使える燃料で、性能的にもほとんど差がありません。このプロジェクトでは供給量に限りがあるため、この町ではBDFを20％、軽油80％の燃料として町内のスタンドで販売しています。リットル単価で10円ほど高くなりますが、使っている「おじさん」によると、排気がきれいだし匂いも少ないないから、これからはBDFだねと言っていました。BDF100％の場合、ディーゼル粉塵もほとんどでないとのこと。クルマで燃やされたBDFは大気中に放出されたあと、再び菜の花の光合成に吸収され、菜の花の循環は完成します。

■スライドプレゼンテーション

VTRのあと、僕が簡単なプレゼンテーションを行いました。

まず循環型社会の条件として、

地殻から掘り出したものを対流圏に放出しない
資源を対流圏内で循環させる
種の多様性を維持する

を指摘。これはスウェーデンのNGOナチュラルステップによる定義です。

(1)は菜の花プロジェクトを見ればわかるように、石油原料の軽油の場合は、地底深くから掘り出して作った軽油をクルマのエンジンで燃やし、大気に放出しておしまい。つまり近くから取り出したものを地面より上に放出し続けているわけですが、BDFなら菜の花が光合成によって吸収した二酸化炭素を使って菜種ができ、菜種油、BDFとなっているため、対流圏内のCO2は増えることがありません。こういう方法が「近くから掘り出したものを対流圏に放出しない」と言います。

続いて、循環型社会のボトルネックとしてエネルギー問題を指摘。資源はリユース、リサイクルである程度持続可能になるとして、その場合問題なのはリサイクルにかかるエネルギー負荷（輸送時点や、再素材化時点）。このエネルギー部分をBDFや風力発電のような持続可能なエネルギーでまかなえれば、リサイクルに伴うマイナス要因もあまり考慮の必要がなくなる可能性がある、と考えています。

■里山のコンセプト

午前中の里山見学を受けて、里山と循環型社会の関係を考えます。

里山を循環型社会の原形と見立ててわかることは、まず自然を改造して機能別に利用している点。田んぼ、雑木林、畑、住まい、竹林、溜池、水路など、自然を積極的に改造し、手を入れ続けてはいるけれど、そのことによって自然の生産力は「自然のまま」より向上している点に注目。ただ自然の恵みをもらうのではなく、自然を積極的に使いながら、自然のパワーを最大限にしている点が、循環型社会のモデルとして使えると指摘しました。

次に、見渡せる狭い範囲で生活に必要な生産機能をワンセットで持っている点。目で見える範囲で、各機能からでる廃棄物を循環させると、里山全体では廃棄物が出なくなるという仕組みこそ、日本人が里山で培ってきた自然利用の極意であり、循環型社会のモデルになる部分だと思います。

このことから発見できる里山のコンセプトは、大きく3つ。

まず、自然の恵みを利用する際、その自然から得られるものが最大限になるように利用すること。この「最大限」の実際的な意味はまだ研究が必要ですが、労働力に対する生産性を上げるというアプローチではなく、またその土地の単位面積あたりの生産量を最大にするアプローチもうまくないようです。重要なポイントはその土地に投入するエネルギー量に対する生産物を最大にするという観点。要するにエネルギーと地下資源を大量に使って化学肥料や農薬を作り、単位面積あたりの生産性を上げるよりも、里山のように雑木林の枯れ葉や人糞を使って肥料とし、人力で草を取ると、単位面積あたりの生産量は下がるし、労働力あたりの生産性も下がるけれど、投入する地下資源（エネルギーなど）に対する生産性は高い。このような状態を「自然の恵みが最大限になっている」と定義しないと、持続可能にならならないということがわかって来つつあります。

ふたつめは、自然を利用する際に、機能ごとに分解すること自体はいいのですが、ある機能からでた廃棄物を必ず別の機能の資源として利用するという流れを作ることです。ビジネス社会に置き換えれば、ある企業に投入される資源は、どこかのビジネスの廃棄物であり、その企業からでる廃棄物は別の企業の資源になるように事業を設計すれば、全体として循環型になるわけです。

3つめは、循環の輪が目に見える範囲にあるようにする、という点です。里山では歩ける範囲に循環の輪が完結していますが、これを少しスケールアップした盆地でも、ある程度の循環が目に見えるレベルになっているようです。しかし東京のビジネスでは、すでに循環が見える状態にはなっていないし、実際に循環していないので、持続可能性が低いのですね。でも、だからといって単純に大都会や工業社会は持続可能ではないとは言い切れないでしょう。機能がワンセットでそろいやすいのは、集積度が高い都市だということもできるのです。大事な点は、循環しているようすがめに見えるようにすることで、そのためにインターネットを活用したり、メディアがその代替の役割を果たすというのなら、可能性はあると思います。地域的にある程度狭い範囲にある方がエネルギー効率もいいのですが、しかしこだわるべきは「つながり」と「見えている」という点だと思うのです。

以上のような里山のコンセプトを実現するために、ビジネスを変えることが重要で、さらにビジネスを変えるためには経営を変えることが近道、というプレゼンテーションを行いました。

■フリーディスカッション

その後、休憩を挟んで3時間ほど、フリーディスカッション。今回は、ディスカッションによって何か結論を導くということはあまり考えていなかったので、感じていることを自由に話してもらうことに中心をおきました。今後、第二回以降を行うとしたら、どの程度ディスカッションを方向付けるかが、ひとつ課題になりそうだと思っています。

●本来の自然とは何か?

実際に雑木林の荒れているようすを見てもらいましたが、あれを「荒廃」と見るのか、「自然に帰っていく」と見るのかは、意見が分かれました。というより、個々の人の中で結論がわからないという感じでした。

これは、ワークショップ終了後にいろいろと考えたこと。確かに「手つかずの自然」が「本来の自然」という見方もありますが、いったん手を入れてきた自然を放置することは、「自然に対する罪」という理解を、僕はしています。手を入れていないものはそのままに。手を入れたものは、もし放置するなら、もとの自然に戻るような初速をつけて上げる必要があると思います。森で傷ついた小熊をみつけて保護したら、傷を治したあとで、自然の中で生きられるすべを身につけさせて放すべきで、適当に関わり、適当に自然に帰すのは、人間にも自然にも、迷惑なことなのではないでしょうか。人間は、雑木林を維持する技術は持っていますが、雑木林を本来の原生林に戻すすべを知らないし、そもそも里山の本来の原生林はすでに失われてモデルがほとんどありません。雑木林は「犬」のような存在なのでしょう。オオカミやタヌキを飼い慣らして、人間は犬を作ってきました。しかし犬はすでに、原生的な自然ではありません。犬を犬のまま自然に放すのは、他の生態系に影響が大きすぎる。だから人間は犬を飼い続けるか、犬は絶滅させて、そこにいた本来の生き物（森）を作り直すか、どちらかしかなく、現実的には、選択肢は後者しかないのだと僕は思います。

●人間の存在が、最大の環境問題？

環境問題が、人間の人口爆発と密接に関係していることはいうまでもありません。だったら環境には人間はじゃまなだけで、絶滅するか、文明以前の狩猟採集民だったころの人口と生活に戻ればいいのでしょうか。この点も、参加者間のディスカッションでは結論が出ませんでした。

僕はこのディスカッションをきっかけにいろいろと考えたのですが、上記のような問いの立て方は間違っていると思い始めました。環境問題は、人間の、人間の現代的な文明社会が生き残る問題であって、地球や環境にとっての問題ではないのです。仮に、このまま温暖化が進み、悲観的な予想の通り、文明社会が崩壊しても、人類という種は生き残るでしょう。人間という生き物は弱そうに見えて、非常にタフな生き物なのです。しかしそれはすでに文明ではなく、縄文時代以前に近い、自然に従属した生き方なのだともいます。自然は回復し、人間という種も生き残るなら、これをもって環境問題の解決ということもできます。しかし、これでいいなら、なんの努力もいりません。そのまま突っ走ればいいのです。環境問題が解決すべき問題であると見る限り、それは人間の、現代的な文明が生き残るための問題であると考える必要があります。現代的な文明のどこをどのように変容させて生き残るのかは議論の余地があるでしょうが、たとえば産業革命以前に戻るという解決策は、そもそも環境問題解決のオプションのひとつとは言えないと考えるべきなのだと思います。この点については、引き続き考えていきたいと思います。

●どんなビジネスがありうる？

実際に持続可能なビジネスとはなにか、という議論も出ました。グラフィックデザイナーのNさんからは、「パッケージにリサイクルマークを付けるのはデザイン的にはうっとうしいけど、利用されているのかな？」という意見がでて、「あれはリサイクルに重要」「まだその素材のリサイクルが確立されてなくても、しくみができれば選りようできる」という意見が出て、彼も納得していたようでした。これは小さなことではありますが、外から押しつけられているように感じる環境対応について、社会的な意味を知ることは、実はかなり大きな意味があるのではと思います。こういう小さな理解の積み重ねは絶対に不可欠だと思いました。

■参加者の感想

「今回良かったのは、まず、実際に里山を見れたこと。別に、里山の風景は初めて見るわけではなかったのですが、今までは『田舎って良いなぁ～』とか言って通り過ぎるだけの風景でした」

「農業従事者の不足、高齢化による非効率の解決のために、政策的にでも、労働力を農業に向けさせるマインドを高めることも話にでていたと思うのですが、病院に勤務するものとしては、昨今の人手不足や診療報酬の引き下げによる収益の悪化などは、どこか里山の現状に似ていなくもないな、と思い、いっそのこと、社会人として世の中に出る前に、丁稚奉公のように、何年か医療関係や福祉に従事して、一定の実績と経験を積んだら、本当にやりたい分野の仕事につけるようにするとか、あってもいいかなあ、と頭にそんなことが浮かびました。」

「雑木林の中とかもっと見てみたかったですね。特に手入れした雑木林とそうでない雑木林が全然違うのに驚きました。田んぼが休耕田になっているのはぱっと見て分かりますが、雑木林が荒れているかどうか、都会から来た人には全然分からないでしょうね。」

「実は、21世紀では、欲望を前提としない、欲望を否定するマーケットがある、とも確信しています。これは、相場で言えば、逆張りの手法ですが、私はそこに賭けるつもりです。最初は小さく、最後は思い切って大きく。」

参加いただいた皆さん、ありがとうございました＆お疲れさまでした。これをベースに、またいろいろと学びや理解の場を作っていこうと思っています。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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