086 不良債権問題と911の類似点

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今回のコミトンは、不良債権問題です。

前号でToshiさんが同じテーマを分析してくれましたが、同じ問題を別の人間が、同じようにクリティカルに考えると、どういうことになるのかという実例にもなりそうな感じです。

今回僕が不良債権問題について語るのは、[com2]MLでのやりとりがきっかけではなく、「911テロ」との関連からつながってきている話です。「コミトン066 911tero5_米国による＜世界征服＞」で、田中宇の「テロ陰謀説」を見ながら、表から見える動きとは別の原理が、裏から世界を動かしている可能性があるということについて、考えました。

■表のストーリーと裏のストーリー

田中説では、ブッシュJr.大統領は自らの脆弱な支持基盤を決定的に強固にするために、大きな事件で国民が結束することをねらっていたし、また不況に陥りつつある国内経済を「戦争によって不景気をぶっ飛ばす」ことで回復させようとした、という形で語っていました。つまり、田中説ではブッシュJr.政権の政治課題の解決策として、大規模なテロ事件が望まれていて、そこにアルカイダがテロを起こしそうになっているのを、知りつつ、防がなかったかもしくは、積極的に起こせるようにスキを作った、というストーリーになります。

この仮説は、表側にあるストーリーとはまったく異なっています。表側のストーリーはこうです。オサマ・ビンラディンという悪魔のような男が偶発的に生まれ、米国にいわれのない反感を抱いて、周到な計画を練り、有力な部下を動かして911テロをおこした。米国は世界によいことをたくさんしてきたのに、逆恨みされた。そして罪もない人々が多数犠牲になり、その犠牲に報いるために、正義の指導者ブッシュJr.はテロリストとの無限の戦争に勝利すべく、立ち上がった……。

表と裏はみごとに対照をなしていて、どちらが真実なのか、判断が分かれます。仮に裏のストーリーが真実なら、という視点で書いたのが「コミトン066」でした。その際、僕が、裏のストーリーを受け入れるために最後まで引っかかっていたのが、以下の点です。ある指導者が政権基盤を強固にするために、また世界政治の中で力をつけるために、自国民数千人を犠牲にできるのか？　僕の理解では、この程度の犠牲は十分あり得ることだ、という結論になります。

■米国最大の公共事業は「戦争」

しかし、この仮説でさらに気になっていたのは、ブッシュJr.政権がそこまでの決断をするだけの理由はいったい何なのか、単に「政権基盤を強固にする」「不況をぶっ飛ばす」という理由なのか？という点です。それだけでは何か腑に落ちないものがあります。「アフガンに天然ガスパイプラインを通すのが本当の目的」というのはもっと小さすぎて、やはり今ひとつぴんと来ませんでした。そこで考えたのが「米国による世界征服」という目的ですが、今回はそれとは別の、もうひとつの仮説になります。米国の政治の構造、大統領・議会の支持基盤からみるという考え方。米国には軍産複合体というものがあって、その複合体がブッシュJr.の強力な支持基盤になっている、という話です。

この話の原理は、「米国の最大の公共事業は戦争だ」という説明に集約されます。これは、僕にとってはかなり大きな発見でした。米国では軍本体、軍需産業と周辺事業に関わる雇用が数百万人に上り、彼らは平和の中では食っていくことはできない。平和になりそうになると強力な圧力が生まれ、戦争を必要とするのだと。このあたりは田中宇の分析や、広瀬隆の「アメリカの巨大軍需産業」に詳しく説明されています。特に広瀬隆の分析はすさまじく、ロッキード、ボーイングなどの主要な米国の軍需産業が何をしてきたかが克明に描かれています。

簡単に示すと、以下のようになります。米国では、軍の中枢であるペンタゴン（国防総省）とCIAという発注側と、軍需産業の経営者、そして軍事と国際政治をつなぐシンクタンク（ランド研究所など）とが、実質的に同じ一群の人物たちによって動かされているという事実があります。軍需産業で役員に上り詰めた人物が、自ら支援する政治家が大統領に当選させることに成功すると、その政権で国防長官になったりする。その国防長官が退官後、ランドコーポレーションで論文を書き、国際政治上の問題を指摘して、そのための解決策として戦争を提示し、あおる、ということをやってきました。そしてその論文をマスコミが取り上げ、危機感をあおり、それを追い風に大統領が戦争に踏み切っていく、というつながりです。

戦争が公共事業というのは、戦争で何かを得られる（国益にかなう）というシナリオを書く人と、それを意思決定する人と、その決定によって武器を作り、儲ける人が、実質的にごくわずかな閉じた集団によって行われ、しかも立場を変えつつ、いつも同じ「戦争をやる」という目的に向かって協力してきた。

本当か？と思うかもしれませんが、これは事実です。米国は、第二次世界大戦終了後の冷戦期だけでなく、冷戦終了後も、ずっと、絶え間なく戦争をしてきた国です。武器は持っているだけでは「カネ」になりません。戦争で人殺しと破壊をすることで武器は消費され、それによってさらなる利益が生まれる。もちろん、同時に戦争によって他国に「いうことを聞かせる」ことによって、経済界が大きな利益を得られることが前提にあります。

しかし、ここではっきり確認しておきたいことは、戦争は米国にとっては、雇用とビジネスの波及効果を生む公共事業であり、戦争をあおる人、決定する人、実行する人が常に一体になり、実質的にごく限られた人のもくろみによって戦争が起こされ、人が殺され、米国の繁栄が築かれてきたという関係です。外からの圧力があったわけではなく、主な動機は米国の国内側にあったということです。

さらにその前提になる理解として、米国政府は基本的に内政をやらない、という点です。もちろん、保健衛生や産業政策など、内政も扱ってはいますが、それらの実行は各州で行います。米国政府＝米国大統領の主な関心事は、外交であり、世界の中でどれだけ米国の意図が通るのかという影響力であり、それが大統領への評価になるのであって、各地域にどれだけカネを落としたかというような、日本の利権誘導形の政治ではまったく評価されないわけです。米国大統領が大きな力を持っているとき、その関心が世界の中の米国のプレゼンスに集約されていくなら、米国大統領の主な仕事は「戦争」であると言い切ってもいいのかもしれません。こう考えると、米国が大統領の意思決定によって、ずっと戦争を繰り返してきた理由がわかります。

■人間を殺す公共事業、自然を殺す公共事業

このような軍産複合体の構造を知ってから911テロを見たとき、テロが起きた瞬間に、「戦争をする」という選択肢と「戦争をしない」という選択肢の、どちらがより選択しやすいかと言えば、「戦争をする」という方になるのはかなり自然なことです。

この構造を日本に当てはめてみると、日本政府の最大の公共事業である土木建設業について、同じことがあてはまることに気がつきます。詳しくは後半で話しますが、米国政府が人を殺す公共事業で政権を維持してきたとすると、日本政府は自然を殺す公共事業で政権を維持してきたと言えそうです。日本では大きな台風で洪水の被害が出ると、それみたことかと治水の必要性を叫ぶ人物が現れ、上流に巨大なダムが造られてきました。米国でテロ事件が起きると、テロ根絶の戦争を叫ぶ人間が現れ、その戦争が実行される。

米国が日本と比べて決定的に違うとは言えないことがわかります。どちらも、自国民の犠牲をきっかけにして、政府が圧倒的な金と力を投入して、相手（敵、または自然）を打ち負かそうとし、打ち負かす以上のことをやってしまうのです。

■戦争をやめさせたいなら

こうしてみてくると、911テロ以降の平和運動に対する違和感がわかってきます。

911直後から、米国が戦争という選択肢をとることに違和感を感じ続け、「平和的解決を」と声を上げてきた世界の人々は多いのですが、米国大統領には届きませんでした。その理由がここで明らかになります。米国大統領は、もともと戦争うまく、たくさんやることを義務づけられた存在なのです。そういう大統領に向かって「戦争はダメ」といっても、現実的には無意味です。大統領には戦争をやめる必然性が何もない。

日本で自然に対する虐殺であるダム建設や河口堰建設をやめさせるには、自然保護を叫んでも本質的な変化は起こせません。ひとつの事業をやめさせることができても、また別の事業が企画されるだけです。土木工事は、それで食っている人々の圧力によって企画されるのであり、もし本当に必要なものだけに限るなら、「公共事業業界」で食っている人が大量に失業してしまう。その失業への恐怖が自然破壊の圧力になっているのです。

このような状況を本質的に解決するためには、本当に自然保護を実現したいなら、保護を叫ぶより、「公共事業業界」の雇用を吸収できる、他の新しい産業を興す必要があります。土木・建設に代わる新しい産業を興し、そこに人材を移転する仕組みを作る必要があるということだと思います。もちろん、その新しい産業は、もう政府の財布で食っている公共事業ではない、独立した産業であることが条件になる点は強調しておく必要があるでしょう。

たまたま今日NHKで放送された米国の軍産複合体のレポートによると（オーストラリア放送局制作）、「軍産複合体がワシントンの政権・議会を押さえているために、彼らの既得権益が優先され、軍事産業に有利な兵器開発ばかりが認められて、軍の改革が妨げられている」と米軍の専門家が話していました。

同じように、米国大統領に戦争をやめさせるにはどうしたらいいのか。大統領に戦争を行わせている圧力である、軍産複合体を解体し、特に、ごく限られた人物が入れ替わり立ち替わりマッチポンプのように、火をつけ、火を消し、マッチを世界に売り歩き、火が出たらもっと大きな火で消して歩くというような、マスターベーション的な構造を変える以外にはない、ということだと思います。具体的には、軍需産業とシンクタンク、政治指導者との人的交流を禁止し、お互いに牽制し合うようにして利害のぶつかり合いの中でベストな解決策を探す、という仕組みにするなど、人殺しの公共事業に関わる人間の圧力自体を最小限にする必要があるわけです。

このような構造を前提にした上で、もし僕らが911後の戦争をやめさせたいと思うなら、「戦争は解決にならない」と叫ぶのではなく、「軍と軍需産業と政治の人的つながりをいったん破壊し、相互のチェックと牽制機能が働くようにする必要がある」と言わなければならないでしょう。繰り返しますが、もともと軍産複合体という存在は、平和を望んでいないし、人を殺す仕事をしていることなんとも思わない人たちです。

もしそれが言い過ぎなら、こう言い換えればいいかもしれません。「軍産複合体にとっては、米国人の命の方が、他国民の命より圧倒的に重い。その「レート」は、たとえば米国人1人に対して、同じ先進国民なら5人、途上国民なら100人ぐらいが適当だと考えている人たちだと言えばいいのかもしれません。戦争で自国民が一人犠牲になるなら、途上国民なら100人が犠牲になってちょうどいい、という感覚をもっている人々が、軍産複合体だと。

そういう人たちに向かって「戦争は解決にならない」と語りかけてもムダです。彼らにとっては「解決策は不要。解決せず、戦争になることで自分たちの金儲けと雇用が増えたほうがよい」と考えているからです。彼らは平和の方がいいとは考えていない。この違いを前提に、どのようなアクションが戦争を防ぐのに有効かを考えなければならないのです。

一案を考えてみます。日本は、世界帝国の一属国の代表として米国政府に一定数の国会議員を送り込み、法案を通すロビー活動を行うのです。これと同じこととイスラエルはがっちりやっているようで、だから米国はイスラエルよりの姿勢を絶対に崩しません。日本が米国のパートナーとして米国の動きを牽制したいなら、米国に日本の利害を代表する政治家を送り込み、大統領が戦争に走る構造をぶちこわすしかないのだと思います。もちろん、その抵抗たるやすさまじいでしょうが、米国内の同じ考えの世論を集約できれば、実質的な改革ができるかもしれません。少なくとも、このような構造的な変革なしには、米国の戦争好きをやめさせることはできないのだと思います。

■ビジネスや公共性以外の観点でgoが出される構造

日本の公共事業にも、米国と同じ構造的な問題があるという指摘をしましたが、それについてもう少し考えてみます。

同じく広瀬隆の著作「私物国家」から情報をとっていきます。

広瀬隆によると、日本の構造的な問題とは、土木・建築の公共事業とそれに近い大規模開発事業を企画または認可する官僚と、それを実行するゼネコン（ゼネコンにコンクリートや鉄を提供する産業を含む）、その仲介者としての政治家のトライアングルによって、国家の金が私的に動かされている点にあります。

ダム建設、河口堰、連絡橋やトンネル、さらにリゾート開発や再開発など。行政に発案や許認可によってしか実現できない事業は日本にはたくさんあります。問題の温床はここにあります。

たとえば、東京湾横断道路のような開発事業を行う場合、ゼネコンが先に技術的な企画を作り、総工費や業界内での各社の取り分を決めておきます。それと並行して政治家と官僚にアプローチしてカネをバラまき、「やろう」と推進する人物を押さえます。実際には、発案は政治家だったり、官僚だったり、どこが始まりかわからないものもありますが、とにかく影響力のある人を動かすために、カネがまかれる。政治家は自分の選挙区への利益誘導や工事期間の雇用確保という名目で「この道路ができるとこの地域は発展する」といい、「雇用が生まれ、失業者が減る」と言います。官僚は「それが国造りだ」と説明します。

この段階で、重要なことは、これらの「やろう！」という合意が、事業の有効性や内容、費用対効果で決まるのではなく、ごく限られた一群の人間の、指摘利益を求めて行われる、という点です。

■意思決定者はみな「ひとつの血族」？

実は、広瀬隆の分析のすごいところはここにあるのですが、上記の関係者は、すべて血縁関係で結ばれた「血族」であるというのです。実際、「私物国家」には、何枚にも渡る詳細な系図があり、明治の有力者である伊藤博文、岩崎弥太郎（三菱財閥の創立者）、渋沢栄一（日本の金融経済の企画者）あたりから始まり、吉田茂、田中角栄などの戦後の有力者から、小泉純一郎などの政治家、銀行、証券会社のトップ、建設省、大蔵省、厚生省の事務次官（官僚のトップポスト）など、日本の中枢を動かしてきたほぼすべての領域に渡り、結婚が繰り返されていることが示されています。これらは実に細部に渡り、とても「偶然」とは言えないものです。

たとえば、自分が入社した会社の社長が、ライバル会社の社長と親戚で�よく見ると同業各社とは社長会長同士がみな親戚で、その会社の事業を許認可する省庁の官僚トップとも親戚で、その会社の事業に金を貸してくれる銀行の頭取とも親戚で、事業を展開する地域で選出される国会議員とも親戚だ、というような関係です。

ホントか？と思うかもしれませんが、大手銀行、証券会社、建設業、コンクリート会社などは、すべてこの血のつながりの中にくくられていて、そこに入らない会社名を探すのが難しいほどです。一般の国民はもちろん、業界にいる人でさえ知らないかもしれません。当然ですが、結婚によって姓はどんどん変わるし、いとこの妻の兄、というような関係かもしれませんが、その程度のつながりで互いにつながっている。

このような婚姻家系（閨閥＝けいばつ）のなかでは、国の税金を使う公共事業をやるかどうかの結論は、その事業が国民の役に立つかではなく、誰がどのぐらいの個人的利益を得られるかという「分配の原理」で決まります。決定の原理に、国民が介在する余地はありません。

日本では、よく「どこかで事業が決まって、いきなり上からふってきて、公聴会のようなものを開いても形式だけ、やることはすでに決まっている」という話が多いと思いませんか？　誰が決めているのかというと、こういう閨閥内でのひそひそ話で決まっている、というのが広瀬の説です。

もちろん、親戚の親戚だからといって、いつも何かをいっしょにやっているはずだと決めつけることはできません。しかし、彼らの間に「悪い意図が存在する」と考えるに十分な理由もあるのです。

日本では、特に戦後、贈収賄事件が繰り返し繰り返しおこってきました。ロッキード事件では総理大臣が5億円を受け取って起訴され、その後も、オレンジ共済事件、リクルート事件、野村證券・第一勧業銀行総会屋事件、イトマン事件など、いくらでもあげられます。

疑獄事件があるたびに、いわゆる灰色高官の名前が挙がりつつ、ごく一部の「下っ端」だけが罪に服してごまかされてきました。たとえば元総理の中曽根康弘はロッキード事件、整備事件、イトマン事件、リクルート事件、国際航業株不正取引事件、エイズ血液製剤事件など、つぎつぎと疑獄事件に名を連ねながら、一度も逮捕されておらず、ずっと権力を保持しています。同じように、企業も「ドン」と呼ぶにふさわしいような経営者が、事件を起こしながら、しぶとく生き残っている。たとえば野村證券でVIP口座を作り、暴力団や自民党議員、官僚に多額のカネを提供した責任者であるふたりの「田淵」は、事件後、いったんは役員を辞任しながら、ほとぼりが冷めてから再度復活をねらっています。

つまり、日本では、個人的な利益のために公共のカネや公共的な事業を動かし、それによって賄賂を受け取ったような人物、渡したような人物が、断罪されることなく、しかも同じ人物がまたカネと利権にまつわる事件を起こしている、というくり返しを絶つことができていないのです。

■目的は関係者の私的利益

ここら辺で、整理します。

事実としてあること。

日本では、公共的な事業を巡って、カネのやりとりでその決定を行う贈収賄事件が後を絶たないこと。
その授受を行っている人物は、ここ20～30年、同じ人物やごく近親者がくり返し行っていること（懲りない面々）
日本の公共的な事業は、実際に、誰がどのように決定しているか不明確で、市民への説明が不十分で、かつ決定のプロセスも明確でないこと
多くの公共的な事業、事業性を無視して実行されていることが明らかになっていること

これらを総合すると（So What?）、税金や多額の投資を伴う事業（特に官僚や政治家が関与する事業）について、経営面や経済合理性、社会的必要性以外の要因によって意思決定され、実行され、その結果、多くの投じられた資金が回収不能になっているということがわかってきます。

この構造が、不良債権の本質的な原因なのではないか、というのが僕の仮説です。

Toshiさんの分析では、不良債権の原因を銀行の資金提供について、経済原則に則っていなかったのではないかという原因と、あるいは経済原則には則っていても、経済環境の変化の方が大きかったのではないかという原因について、考えています（コミトン085）。

これに対して、僕の仮説は、日本ではもともと、大きな公共性のある事業案件は、経済原則や国民の福祉以外の要因、つまり関係者の私的利益の追求によって決められていたのではないか、ということになります。もしこれが事実なら、不良債権の原因案件を経済原則に則っていないと指摘しても、あまり意味がないことになります。もともと経済原則では決まっていな上に、儲けにならなくてもやるべき公共的な価値が高い事業もすでにほとんど残ってないからです。のに、事業が繰り返されるとしたら、それは事業を決める小数の関係者の利害によって決まっていると考える方が妥当です。

ちなみに、僕が「公共性のある事業案件」と入っているのは、必ずしも直接税金を投入する事業とは限りません。たとえば「シーガイア」（宮崎県）のような、国、自治体も資金を出し、私企業が運営し、第三セクター化する、というようなものはいくらでもあります。住専の資金の焦げ付きは、国の施策による住専の誕生から構造的に始まっています。都市の再開発後や道路拡張後に商業ビルができているとしたら、そこには行政の恣意的な関与があっても不思議がありません（特定の企業を優遇する代わりにワイロを受け取るなど）。このような事業全般を、「公共性のある事業案件」と呼んでいます。

■冷戦崩壊後、成功勢力が暴走した

ところで最後に、僕の仮説が適切だとしたら、なぜこのような状況になったのかという点について、指摘しておきます。

米国の軍事公共事業にしても、日本の土建公共事業にしても、80年代以降、より動きが大きくなっています。僕が不良債権問題を考えるとき、バブル崩壊が原因ではなく、バブル後の政治・企業の動きの方が問題だと考えてきましたが、その考え方ともつながります。この動きは、じつはソ連崩壊後の「勝利の暴走」であると考えると説明がつきます。

米国の軍産複合体は、冷戦後、厳しい軍備縮小の中で、合併や集散をくり返し、逆に純化されて、強力な圧力団体に変貌しました。その圧力が911以降の米国の好戦的な姿勢につながっていると考えられます。つまり冷戦終結で敵がいなくなった軍事産業が、平和になることを恐れ、暴走し、戦争を自己目的化して、米国を戦争国家の道に加速しているという見方です。

日本でも経済的な勝利のあと、それまでの成長を支えてきた土建公共事業の圧力を別の産業に取って代わらせることができなかった。それによって土建公共事業が暴走し、公的な目的は失なわれているが故に、かえって個人的（一族的）利益の追求に走った。この「目的のすり替え」の結果が、無意味な数多くの公的な事業であり、結果としての不良債権の山なのではないか。バブル崩壊後の経済政策こそ、不良債権の元凶なのではないか、という見方です。

こう考えると、不良債権問題を片付けるには、土建公共事業グループそのものの構造を解体する以外に、本質的な解決はないのではないかという結論に至ります。もっと言えば、土建ビジネスに関わる人に、別の仕事を見つけて出て行ってもらうことが重要ではないか。

では、このような状況を作るために、僕らはなにができるのか、どこに注目すればいいのか、という話は、また近いうちに、別の原稿で考えてみようと思います。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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