100 第1回環境ビジネスワークショップ

この号で知恵市場コミトンは100号になります。コミトンのスタートが2001年5月。前身のエッセンスが70本以上あり、こちらの第1号は1998年3月です。ここから数えると、まもなく丸5年になります。知恵市場自体は、さらにその前、97年6月ですから、ここから数えると6周年ということになりますね。

100号といっても、特にイベントをするわけでもない淡々とした知恵市場なので、今回もいつものように始めます。テーマは2月8日に行った、「環境ビジネスワークショップ」第1回の報告です。

■環境ビジネスワークショップとは？

これまで僕がコミトンを始め、いろいろな場で語ってきた基本的なスタンスは、「企業をコスモクリーナーとして使う」という考え方でした。20世紀の考え方では、企業は環境を汚す存在、破壊する存在です。そして21世紀に入ったいまも、同じように考えている人がほとんどかもしれません。

しかしミレニアムをはさんで、この企業観をくつがえすビジネスコンセプトを実現し始めた企業が登場しています。たとえばブラジルの木材加工・製材業「エイダイ・ド・ブラジル社」は、熱帯雨林の木を切り、板材などに加工し、欧州や北米に輸出している日系企業です。これまでこの会社では天然林を伐採し、加工してきました。しかし森林資源が失われ、伐採が難しくなる現実をふまえて、植林事業を始めました。20数年たち、ようやく間伐材が材料の一部に使われる段階に来ていますが、すでに5000ヘクタールの土地を確保し（かつての伐採地）、植林を始めています。この会社の事業規模をまかなうには、いまの植林地の10倍が必要ということでした。ここでいう「まかなう」とは、植えている木の生長力から見て、伐採と植林を繰り返して、同じ生産量を維持するための面積です。もしこの会社が、これだけの森林を確保し、採算がとれれば、5万ヘクタールの森林を新たにつくり（いったん伐採によって失われた場所に）、かつビジネスとして持続可能な利益を上げる企業になります。森林という自然環境をつくり出す（再生する）だけでなく、森林が継続的に伐採され、植林によって木が生長するすることで、継続的にCO2を吸収してくれることにもなります。

現段階では、まだ樹を育てる技術が不足していて、実現までは曲折があると見られています。採算性を実現するための経営的な工夫も必要です。しかし、この会社の成功を後押しする技術やビジネスモデルもあり、着実に成功に近づくと思われました。

環境と経営が敵対関係にある、または環境は企業にとって「仕方なく、やむを得ず考えること」という常識は、こういった企業にとっては過去のものになりつつあります。「環境を守り、環境を維持し、よくしていくことなしに、経営は成り立たない」。これが新しい経営原理として見出されつつあるのです。

では、このような経営原理は、特殊な企業だけのものかというと、そうではありません。注意深く見ると、あらゆる業種、あらゆる企業に、同じように環境をよくする（悪くしない）ビジネスで成功するポテンシャルがある。ただ気がつかないだけ、気がついても、やりきるための方法が発見できないだけだと。

では、環境とビジネスの新しい関係をまだうまくつかめていないビジネスパースンに集まってもらい、実際にどこに新しい環境とビジネスのかかわりが生まれているのか、それを具体的に考えてみようというのが、「環境ビジネスワークショップ」のねらいです。

■テーマはエネルギー

環境とビジネスのかかわりは、あらゆる業種にわたりますが、今回は特にエネルギー分野に焦点を当てることにしました。エネルギーはビジネスと生活のすべての領域に関係があるものであると同時に、いまもっともホットな領域でもあるからです。

知恵市場での募集で集まってくれたメンバーは、18人。ワークショップは2月から4月にかけて全5回を予定していますが、全員がぜんぶの会に出席しなくてもよいということにしているので、第1回に集まったのは12人、僕を入れて13人での開催です。

参加18人のメンバーは、ほぼ全員、20代～40代のビジネスパースン。企業で直接の環境担当になっている人は1名、エネルギー関係の企業、たとえば石油、ガス、電気といった企業に勤めている人が5～6人というところでしょうか。エネルギー関係といっても、環境担当というわけではないので、あくまで個人的な関心というレベルでの参加です。

■メーリングリスト、爆発

第1回の前から専用メーリングリストを開き、自己紹介や議論を始めました。思った以上に熱心に書き込みがあったのですが、その中のひとり、電力会社勤務のSさんは特に多くの疑問をぶつけてくれました。

そもそも環境問題とはなんなのか？
環境が悪化するからといって自分に関係があるのか？
関係があると思えるのは、実は街が暑くなって住みにくくなること
温暖化で死ぬより、オフィスに煙るタバコの煙で肺ガンになる方が早い？
環境問題が「問題」だったとしても、それは企業が対応すること？
政府がやれというならやる、というのが本音では？
日本の国として環境対応すると、国際競争力が落ちるのでは？
日本だけがやっても、他国がやらなければ、無意味では？

というような疑問をぶつけてくれました。こういった疑問には、ほとんど僕がresを返すようにしたのですが、実は、Sさん以外のメンバーは、こういった点についてはほぼ自分なりに納得がいっていたからです。

しかし、自分なりに納得がいっていることと、ほかの人が発するこういった疑問にきちんと答えられることとは別のことです。また疑問を見ながら、自分も疑問に思い始めてしまったりということもありました。

実のところ、これらの問いは僕自身、ここ2年以上、ずっと考え、自問し、答えを探してきたので、ほぼすべてに答えを持っています。グリーンエッセンスとして環境問題について書き始めたのは2000年1月からですが、その間に環境問題についての構造化がほぼできていたので、こういった疑問に答えるための視点でぐらつくことはありませんでした。

僕はMLでこれらの疑問にひとつづつ答える、というより、答えを見つけるための情報提供や考える方向を提示していきました。その例を挙げてみます。

地球温暖化と、都市が熱くなることとは別。温暖化は地球全体の気候が変わること。都市が熱くなるのはヒートアイランド現象で、必ずしも温暖化の結果ではない。年の密集度や都市内でのエネルギーの使い方を工夫すれば、ある程度押さえることは可能。でもこういった対応をしても、地球温暖化は進行してしまう。環境問題として重大なのは、地球温暖化の方。ヒートアイランドは特定の都市内の人だけの問題で、温暖化は全人類、全生命の問題だから、影響の範囲がぜんぜん違う。

一度に多くの疑問を出しても、答えが出ない。まず一番重要な根っこを押さえる。それは「環境問題の存在を認めるか？」。自分にとって、ではなく、問題として存在するかどうか。地球の気温が上がりつつあるというデータを信用するか。その上昇が人間やほかの生命の生存に大きな影響があるという予測を認めるか、認めないか。すべてはここから始まり、もし「認めない」なら、環境問題について考えることは無意味になる。

ヒートアイランドと温暖化はよくごっちゃにされやすいのですが、違いをはっきりさせることで、いま考えるべきこと、やらなければならないことの質の違いがわかってきます。

ふたつの問題の所在を認めるかどうかは、実はSさんから回答はもらえていません。でもその後もいろいろと貢献してくれているところを見ると、ほぼ認めているのだと思います。

たとえば、地球の気温は上がっていないと考えることも可能です。今ある気象データはせいぜい100年間で、そのうち前半のデータは観測の精度が信頼できないと考えれば、1℃ほどの温度上昇など、誤差範囲と考えることもできます。また、わずかに上がっていても、今後も上がるかどうかはわからないと考えることもできます。

世界の気候変動についての研究はさまざまあり、中には環境問題に「否定的」な学説もあるのは事実です。しかし、そういった学説を見ても、「環境問題など＜ない＞」といっているものはほとんどなく、「問題といえない可能性もある」「問題は言われているほど大きくない_」「問題は存在するが、人間の活動との因果関係はわからない」というものがほとんどで、「問題は存在しない」とはっきり主張している例はまずないのです。

このような論点を提示しながら、環境問題に対する疑問をひとつずつ解いていきながら、メンバーのめざすもの、目的をひとつにまとめていきました。ビジネスを通じて環境問題に取り組むには、周囲の「素朴な疑問」「クリティカルな疑問」に答えられるだけのロジックと基礎知識が必要です。今回はそれができるようになることが目的ではありませんが、きちんと説明するロジックと情報は存在する、ということはわかってもらえたのではないかと思います。

■いよいよ当日

第1回は土曜日開催なので、夕方5時スタート。結局ぜんぶ終わったのは10時ごろでした。まず最初に、僕が数日前にいってきたリコーの取材の話をして、最新情報を提供。リコーは、トヨタなどと比べると環境企業としての知名度は低いのですが、海外での評価も含めて、日本トップクラスの環境企業です。そのリコーでは「ボランティアリーダー育成講座」を、社内研修のひとつとして、希望者に行っています。勤務時間を2日間割いて、ボランティア活動のリーダーになるための「勉強」ができる。一般企業では考えられないような研修です。ではなぜ、リコーはこのような活動を行っているのか。経営面から見たこの活動の意味、価値は何かについて、メンバーと意見交換しました。リコーとしては、経営面からのメリットも十分考慮して運営している制度なのですが、なぜなのか、そのロジックを整理しました。

という軽いウォーミングアップのあと、地球温暖化とエネルギーの関係を、CO2排出という観点からざっと整理するレクチャーを行って、次に、今回のアプローチの手法を提示しました。

エネルギーをつくる　　→　　エネルギーをつかう

というふたつの円を描き、つくる方と使う方の具体的な内容を詰めることで、エネルギーについての構造をつくることが今回の目的です、と説明します。

エネルギーをつくるとは、たとえば

油田↓
- 掘削↓
  - タンカー（輸送）↓
    - 精油所 ↓
      - 加熱↓
        
        プロパンガス
        
        ガソリン・ナフサ
        
        軽油（ディーゼル）
        
        灯油
        
        重油（A重油/C重油）

というような精製工程を描き、最後に僕らが家庭や企業で実際に手に入れる形でのエネルギー商品に分解します。これによって、自分たちが手に入れているエネルギーがどのように手元に来るのか、そのときにどのぐらいのロスが出ているのか、そのロスは減らせるのかがわかるのです。

たとえば、日本では石油は国内精製が国の政策で決まっていて、原油でタンカーに乗せて持ってきて、国内の精油所で用途ごとに精製すること。精製は、原油をカマで熱し、その上の等に何層も「ガーゼ」のようなものをかけておき、いったん気化した原油が上昇して、沸点が低い順に、下の「ガーゼ」にたまっていくという方法で精製するということ。つまり、下から重油→灯油→軽油→ガソリンとたまり、最後まで気化したままのものを集めて圧縮すると、プロパンガスになること、などがわかりました。これは石油会社に勤務しているメンバーからの情報なのでリアルです。

また同じように都市ガスがどのようにやってくるかも考えました。ガス田のようす、ガスを地中から取り出すのは簡単で、ガスのたまっている岩盤の隙間までパイプを通せば、圧力でどんどん吹き出してくること。ガスを、「大型冷凍工場」でマイナス170℃に下げ、液化して、魔法瓶のようなタンクに入れて日本に運んでくること。日本で液化したまま陸揚げして、地上の冷凍タンクに入れたあと、使うときに、曲がりくねったパイプにつながるバルブを開け、そのパイプに海水を「じゃーじゃー」かけて凍ったガスを解凍し、そのとき、気化した圧力でそのまま都市内のパイプラインにガスを充満させること。都市内のパイプラインはこの「解凍機」から先は、すべてつながった「ひとつの長いタンク」のようになっていて、末端である家庭でガスのコックをひねるとガスが出るのは、結局、東京サイズの巨大なガスタンクに直接ついているコックをひねっているようなもの、ということもわかりました。

ガスというエネルギー源が届くまでにどんなことが行われているのか、それぞれのエネルギーとの特製の違いなどを検討します。さらにガスや重油から電気を起こす方法を検討して、「エネルギーをつくる」を概観しました。これが「つくる」チーム6人の成果。

一方「使う」チームでは、どこでどのように使うかをきれいに絵に描こうとするのですが、こちらは使う場所が多様で、使い方もいろいろのため、なかなか難しく、「つくる」ほどうまくいきません。こちらは「とりあえず」という状態までつくって、あとは宿題になりました。

■CO2排出を減らすには

今回はエネルギーがテーマなので、特にCO2排出の削減を中心に考えることにしました。エネルギー源をいかに地下資源に頼っているか、そしてそれが大気中に放出されると、回収が難しく、温暖化をひきおこすというメカニズムを示して、これを中心にすることを合意したのです。とはいえ、ほかにも、硫黄酸化物、窒素酸化物など、汚染もあるので、これも手が回れば考えていきたいと思っています。

さて、おおざっぱな絵ができたところで、全体としてCO2を減らす可能性を考えてみました。ひとつは「つくる」方で、効率アップを図ること。石油精製に使うエネルギーは減らせないか（これは限界的に減らされていることがわかった）、電力をつくるときのロスが防げるかなど。一方使う方では効率アップがどこでできるかを考える。その際、まずはいまと同じ「サービス」を享受して、減らすことを考えてみます。たとえばエアコンの省エネ性能が20％アップすれば、同じ快適さを享受するのに、エネルギーは20％減らせます。

つくる方で10％無駄がなくなり、使う方で20％無駄がなくなれば、同じ快適さを得るのに、それぞれ90％、80％ですむことになるので、全体としては、

0.9×0.8＝0.72

100％－72％＝28％

で、28％の資源使用量を減らすことができるわけです。

最終的にどこまで減らすべきかはまだわからないものの、ひとつの目標値として、4分の1に減らす（75％減）を掲げています。これは「ファクター4」にあたるのですが、これの是非は今回は問わないことにして、ひとつの目標として考えることにしています。

■具体的な削減例を考える

第ここまでが第1回の内容です。このあと、MLではさらに活発な議論が進み、風力発電や燃料電池の具体的な情報が飛び交っているのですが、メンバー全員はついて行けてない状態です。先日行われた第2回では、これまでのMLでの議論や情報を整理し、特に「つくる」の側で、CO2削減をする方法がないか、その方法の問題点と、問題点を克服する方法について考えてました。これについてはまた次の機会にレポートします。

これまでのところ、メンバーの意欲がとても高く、また専門知識を持っている人、インターネットや本から情報をとってきてくれる人が出てきて、ハイレベルな進行になっています。でも専門家の狭い議論に終わることなく、誰にでもわかるわかりやすいメカニズムにまで翻訳して位置付けて、問題解決に動くためのボトルネックやブレイクスルーポイントの発見をしていこうと思っています。

なぜボトルネックやブレイクスルーポイントか？　ここはいま「困難な点」なのですが、逆にこれを解決する方法を持った企業が、環境をよくする決定打を握る企業だということを意味します。つまり困難な点イコール、ビジネスチャンスなのです。そのチャンスを握る企業はどのような企業なのか、またそれはいつごろ実現しそうか。それがつかめれば、先手を打ってビジネスチャンスをつかみ、環境ビジネスを加速させることができるはずです。そういうポイントをなるべくたくさん発見すると同時に、発見するための考え方や方法を身につけていく会にしていこうと思っています。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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