102 第2回環境ビジネスワークショップ

今回は、2月7日に行われた環境ビジネスワークショップの第2回の報告です。この回は、「エネルギーをつくる」をテーマにした回で、自然エネルギーが主な内容です。

■電力会社の功績と問題

第1回終了後からメーリングリストでは風力発電などの導入について議論が進んでいて、具体的な資料も含めて、実質的な議論が続いていました。ただあまりに情報量が多く、また電力会社の専門的な情報も多くて、一部のメンバー以外は「ついて行けてない」状態でした。第2回はこの情報を整理が中心になります。

まず、風力発電に限定し、その実態を見てみます。

風力発電が最も多いドイツでは、2001年の風力発電設備が1200万キロワットあり、国内総発電能力の4.7%を占めています。一方1国の中で総発電能力に占める割合が最も高いのはデンマークで20%(288万キロワット)に達しています。これに対して日本では、総発電能力が30万キロワットほどで、ドイツ、デンマークと比べると、絶対量も比率もごくわずかです。経済産業省が出している計画でも2010年で300万キロワットと、7年もかけてようやくデンマーク並みになる程度の見込みしか立てていません。ドイツがすでに1200万キロワットという風力発電設備を持って、使っているのに、なぜ日本では、これほどわずかな利用しか考えられていないのでしょうか？

その問題を考えるのが、この回の目的です。

参加者のひとりで電力会社勤務のSさんが、風力発電をなぜ「積極的に」使わないのかを説明してくれました。まず、Sさんの説明からにじむのは、経産省の計画は十分「積極的だ」という認識です。リスクをとって、がんばっているというわけですが、その理由を技術的に説明してくれました。

正直いって、すべてがわかったわけではないのですが、大まかに言うと次のようなことになります。

■風力発電の導入に、電力会社が積極的ではない理由

まず上げられるのは、風力発電の特性です。風力発電は「風任せ」で、電力が瞬時に変動します。この変動は、当然、電力需要量とは一致しないので、風力のブレを瞬時に吸収してフレキシブルに出力を変え、需要に合わせる別の発電設備が必要です。わかりやすくグラフにすると、こんな感じです。

上と下の差が常時激しく変動しているのが問題で、この変動を吸収するために、出力を瞬時に変えられる発電設備を精密にコンロールしなければならないというのです。このコントロールに使われるのが、主に水力と石油火力発電です。水力は、ダムから落とす水の量を増減するだけで発電量がコントロールでき、火力も水力ほどではないけれども、出力コントロールできる、わけです。

今は風力発電の絶対量がわずかなので、このグラフの下のギザギザも無視できる範囲だけれど、今後、風力が増えれば、無視できなくなり、電力供給に無理がかかるというのが電力会社の説明です。

ではこの無理がかかると何が起こるのかというと、周波数や電圧や、といった電気の「品質」が不安定になり、家電機器などに影響が出たり、最悪の場合、「ギザギザ」を埋めきれずに、需要に対して供給量が不足して、停電が起きることもありうるというのです。

そのため、風力発電は、総発電量の10％が最大だろうというのが、電力会社のひとつの見解になっているとのことでした。

もちろんこのほかにも、風力発電のコストが、ほかの電源と比べて高いことで、電気代が押し上げられる可能性があること、出力調整をする電源は、定常的に電気をつくる電源より高くつくので、さらにコストが上がる可能性もあります。

また、風力発電が可能な地域が偏っていることも問題で、北海道のように風況のよいところにある電力会社が、この負担をより多く受け、さらにはその地域の住民に過度の負担がかかる可能性もあります。

つまり、技術面とコスト面の、両方で、風力を一定量以上受け入れるのは難しいというのが、電力会社の資料から伺えることでした。

しかし、一方でデンマークでは総発電量の20％という数字があります。これはいったいどういうことなのでしょうか？　議論を通じてわかってきたことは、次のふたつです。

第一に、20％という数字は、あくまでも設備の容量であって、実際に発電している量ではないということ。1000キロワットの風車が実際につくる電気は、風況によって10～60％。年間平均で、30％程度と見られています。つまり、デンマークの場合、設備では20％でも、実際の発電した量ではもっと小さくなる（試算として20％×30％＝6％）わけです。6％という数字は、電力会社から見たときの上限10％を下回っていて、その意味では、デンマークの現状は理解できる、というわけです。

第二に、日本と欧州では電力の系統インフラ（要するに配電する電線のネットワーク）の構成が異なり、欧州の方が多彩な電源を受け入れることのできる構造になっているというのです。日本ではそのままでは、多彩な電源を受け入れるのが難しく、これを変更するにはコストがかかる。

詳しく説明してもらうと、なるほど、このぐらいで限界なのか、と感じざるを得ない気持ちがしてくるのですが……。

■電力会社に多くの責任を預けてきた日本

この一連の説明からわかってきたことは、日本では地域ごとに独占的に電力を供給している9つの電力会社が、発電から供給まで、非常に合理的で緻密に計算された電力供給のしくみをつくってきている、という点でした。

発電の種類のミックスから配電の系統まで、各電力会社がとてもムダのない、合理的なしくみをつくっていることで、日本の安定した電力供給が実現しているらしいということです。他国の電力供給事情は詳しくはわかりませんが、実際のところ、僕たちは停電の危険を考えることはほとんどなく、必要なだけの電力をいつでも手に入れることができています。電力会社の功績は、評価されてよい、ということが結果的にわかってきました。

逆に、責任をすべて電力会社に任せきりにしてきたことで、いざ新しい時代に対応したエネルギー源を利用しようとしても、うまく位置付けることができないらしいという構造的な問題も見えてきました。

日本の電力は、やはり電力会社と国が言うようにしかならないのかもしれない……、少しがっかりした空気が場に流れ始めました。

電力会社のロジックはとても強固で、外野にはなかなか崩せません。実は、電力会社自身も、自らつくったロジックを崩せずに悶々としているように僕には見えます。社会の要請や世界的な潮流がグリーン化に動いているし、それ自身は悪いことではないことも見えてきているのに、自らつくってきたロジックがあまりに強固なので、それを崩すロジックを自分たちも見つけられないのです。クリシン的に言えば、ゼロベース思考ができてないわけですね。

このような現状を変えるには、どのようにすればいいのでしょうか？

■電力会社の自己改革は期待できない

実はこれは、政府機能も同じで、自己改革ができていないが故に、その影響下にある電力会社も自己改革できないのですね。電力にしても政府の行動についても、いまや自己改革はまったく期待できないか、社会の動きの速度の、かなり後をついていく程度の変化しかできないのだということを、理解する必要があると思います。

電力会社が政府の影響下にあるなら、政府の政策決定を改革すれば、電力会社も簡単に変わります。これはひとつのオプションですが、直感的に考えてもわかるとおり、とても力がいります。考えた方がいいけれど、他に道がないかを考えてからでも遅くありません。

そこで、「ドイツやデンマークでできることなら、日本でもできていいはずだ」という問題に戻ってみます。

まず、日本の電力供給のしくみは、本当に効率的なのか？という点を考えてみましょう。たしかに、話を聞く限り、とても緻密で合理的なのですが、その一方で、日本の電力料金は世界有数の高価格です。ワークショップで紹介した雑誌記事でも、民間企業が火力発電に参入したところ、非常に低コストで発電が可能だと言うことがわかり、電力業界に衝撃を与えたとありました。電力会社や政府の説明は合理的に聞こえるのですが、もし本当に合理的（ムダがない）なら、電力料金はもっと安くてよいはずです。電力会社の説明がどれほど緻密で崩せないように見えても、それ自体「井の中の蛙」である可能性が高く、鵜呑みにできないのです。

次に、送電インフラの問題です。今ある電力系統に風力発電など自然エネルギーによる電力を入れれば、問題が出るかもしれません。しかしインフラとて常に時代に合わせて変更していかなければならない時代です。たとえば鉄道では、国鉄からJRになり、そのネットワークが大きく変わりました。15年前の路線図と比べれば、差は歴然とわかるはずです。電力会社も、新しい時代に合わせてインフラを短期間に作り替える必要があります。そのコストは、電力を売った利益の中から出していくべきものだし、常に時代の変化を先取りしていかなければ、インフラ事業の価値は陳腐化してしまうでしょう。こういう視点で、自らを見ていないことが、自然エネルギーの拡大を阻害している大きな原因です。

グリーンピースなど自然エネルギー導入を推進するグループや研究機関の研究によれば、上記で説明した「ギザギザの吸収」は、技術的な問題はないと指摘されています。つまり推進側と導入を制限したい側とで、主張がまったく食い違っているのですが、欧州での導入計画がさらに加速していること、推進側の研究機関にも電力の専門家が入っていることなどを考えると、「難しい」という主張の方が説得力が弱いと言わざるを得ません。

これらの点を考えると、「できない」のではなく、「やりたくない」のだと理解した方がよさそうです。

■ゲリラ戦法で戦う

では、「やりたくない」という企業をどうやって動かすことができるかを考えてみます。

ひとつの案は、政府による強制的なアプローチです。法律を作るなどして、自然エネルギーの導入を義務づければ、電力会社は動かざるを得ません。電力会社も「政府がやれというなら、やります」という言い方をよくします。

しかし、政府と電力会社はこれまでも一蓮托生、同じロジックで動いてきた規制業界ですから、政府が自発的に電力会社に厳しい法改正をすることは、考えにくいものがあります。ドイツのように、選挙で環境優先の政党が勝ち、既存の勢力からの圧力を廃して、自然エネルギーを使うための法改正を行うという方法は、考えられる方法ですが、ここではビジネスを使って、電力会社を動かす方法はないか、思考実験をしてみました。

ワークショップで描いてみた方法は、いわばゲリラ戦法です。どんなに強固に見えるロジックにも、案外ヌケがあるものです。「家庭用自然エネルギー発電」はそのひとつ。家庭で使うことを主目的にした太陽光パネル、風力発電などでは、余った電力は、ユーザーに売った電力と同額で、電力会社が買い取るというルールがあるわけです。

大規模な風力発電や太陽光発電を、「発電事業」として行うには、電力会社が決めている買い取り量の上限規制があり、どんどん参入するということはできないのですが、個人については、上限は決められていません。これは法律ではなくても、電力会社が自ら作ったルールで、すでに利用者も多い。

現状、この制度の利用は爆発的には増えていないために、電力会社のほうも「無防備」な状態です。そこで、ここを利用して、短期間に一気に、たとえば太陽光発電設備を広げてしまう。あまり量が増えれば、電力会社も買い取り制限や、買い取り価格の引き下げを言ってくるかもしれませんが、太陽光発電設備を持つユーザーが一定量を超えていれば、ユーザーの圧力がかかり、ユーザーに都合の悪い条件改定は難しくなるはずです（クリティカルマス戦略）。

■原因を特定し、ビジネスの可能性を探る

このような大きなシナリオを描き、今度は、太陽光発電の普及が進まない理由を考えます。

参加者のひとりが、こんな例を挙げてくれました。今引退した両親の家を建て替えているが、両親は屋根に太陽電池パネルを設置したいと言った。資金的には可能だったが、家が小さかったため、屋根の面積が小さく、設置しても意味がない程度の量子化設置できないことがわかり、あきらめた、というのです。

たしかに太陽光パネルは高価ですが、発電した電力によって初期投資は長期的に見れば（20～30年）回収でき、その後は利益を生みます。一方で、投資する資金の余裕がある人は、屋根にパネルを置くことができない。

ならば、この資金を使って、資金がない人の家の屋根に太陽光パネルを設置すればどうか？　遠く離れた家であっても、そこに自分のお金で買ったパネルをおき、つくった電力を売ったお金を回収すれば、自宅に設置したのと同じことになります。

実はこのようなしくみは、ドイツの環境首都と呼ばれるフライブルグ市ではすでに実現していて、「電力株」として人気のある投資の対象になっています。日本でもおなじしくみを創ることができれば、家庭用の太陽光パネルの量を一気に増やせる可能性があります。日本では今不況といわれていて、政府は大赤字ですが、お金がどこにもないわけではありません。むしろ有力な投資先がないためにだぶついているという側面もあるのです。その資金を、こうして自然エネルギーに投下することができれば、実は3つの結果が同時に起こりうるのです。

(1)太陽光発電の絶対量が増やしてCO2排出を減らし、(2)投資先のなかった資金が環境投資に回ることで、利潤を生み（経済押し上げ効果）、(3)電力会社に「自然エネルギーが利用できるインフラに作り替えろ」というメッセージを強く伝えることができます。この循環によって、環境にも経済にもよい結果を見出すことができるわけです。

もうひとつ重要なことは、こういったことを実現するのに、新たな技術を開発する必要はなく、既存の技術の組み合わせで十分だという点です。あとは金融スキームなどビジネスモデルの開発、そして適切な広告宣伝など、ビジネスをしっかりやればよいのです。もちろん実際にやるとなると、いろいろと課題が出てくるでしょうが、こうしたやり方ができる場所は、ほかにもあるはずです。

■ビジネスを使って市民を動かす

こういったマーケットが開ければ、それを一気に売る。電力会社は焦るかもしれませんが、しぶとく、徹底的に売る。ユーザーをバックにつけて押し切って行くぐらいの迫力が必要かもしれません。

別の言い方をすると、ビジネスを使って市民意識を刺激することでもあります。はじめは「ソーラーパネルに投資する」「将来のために環境にもよい年金を買う」というレベルかもしれませんが、それが認知され、もっと買いたいという人が出てくると、抵抗勢力が「そんなに太陽光パネルが増えたら困る」といったときに、「なんで？？」「いいことなのに？？」という疑問が生まれます。この理不尽さへの疑問が、市民意識を生み出します。欧州では市民意識が高いと言いますが、それは教育の成果もあるでしょうが、自分たちの疑問を突きつけて、事態を変えさせることができるという実感を市民が持っているかどうかの違いが大きいのです。

今回は電力会社の検討から始まって、現状を打破するビジネスモデルの例までたどりつきました。次の回では、燃料電池を扱っているのですが（すでに実施ずみ）、これについてはまた次回に。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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