111 グローバリゼーション考in高知

pacoさんが前回のコミトンおよびcom2-MLでグローバリゼーションのマイナス面に触れていましたね。そのことをちょっと考えていたらちょうどテレビでメジャーリーグでの松井選手の状況を放送していました。そこでふと思ったのが、「プロ野球はまさにグローバリゼーションのマイナス面をあらわすことになるかもしれない」ということでした。

高知とどう関係あるのかよくわからないと思いますが、もう少し続けます。

■松井のメジャー行きが示唆するグローバリゼーションのデメリット

どうして松井選手とメジャーリーグのことがグローバリゼーションのマイナス面をあらわすかもしれないのか？　これまでも野茂選手がアメリカに渡り、イチロー、佐々木、と続くにつれて日本人ファンのメジャーに対する関心は確実に高まってきました。そして松井選手がアメリカに渡ってことでさらにこれがぐっと進んだ。

今後も力のある選手がどんどんメジャーリーグを目指すようになり、また成功をおさめる選手が継続的に出ると、メジャーリーグはますます日本人ファンにとって身近なものになるでしょう。一方で日本のプロ野球への関心は下がっていくおそれがあります。そうなるとビジネス的には、日本のプロ野球関連の産業は縮小していき、その分の金はメジャーリーグにすいこまれていくことになります。そしてメジャーリーグはますます強力な選手を集められることになる。

「それはわかるけど、世界で一番の舞台でプレイをしたいという選手は止められないだろう」という声がありそうです。実際そうだろうし、年俸の面でもメジャーリーグは魅力的です。ただ、メジャーリーグとして必要な選手数がそんなに増えるわけじゃないことを考えると、日本ではけっこう行けた選手も日の目を見ずに終わる可能性が結構ありそう。そしてこういうことが日本だけでなく、野球の盛んな国ではどこでも起きる可能性がある。

つまり、各国のリーグで盛り上がっているうちはそれに伴って各国にそれだけのビジネスがあるし、より多くの選手も脚光を浴びることができる。ファンもより身近でプロのプレーを楽しむことが出来る。ところがグローバリゼーションが進むことで、富は一箇所に集まって他はじり貧になってしまうし、一番のリーグでプレイできる人以外は「二流」とされてしまうおそれがある。そしてファンとプレイヤーやチームの距離は遠くなる。

プロ野球の世界で本当にこうなるかどうかはわかりませんが、ビジネスの世界ではこれと同じ現象が実際に起きています。グローバリゼーションによって、企業も人も世界のトップだけが勝ち組みになり、あとはなんとかやっているか、敗退することになっている。

もちろん世界がつながることにはよいこともたくさんあるし（だから僕も英語教育とかやっているわけです(^_^)）、止めようとしても止められないところもあるでしょう。しかしこういうデメリットがあるということは考えておかねばならないことだと思います。そしてこういうデメリットは、世界という規模でだけでなく国内であっても、「範囲を広げる」ことと「集中が起きる」ことが同時に起きれば出てきます。そんな前置きをしておいて、日本で一番所得が低くて高齢化が進んでいる県の一つである高知に行って考えたことの話をしたいと思います。

■高知の日曜市は「生きている」

もともとはグローバリゼーションと高知は自分の中で全然関係なくて(^_^)、２月の鹿児島に続いて「今年は日本を見よう」の旅行編第二弾として高知に行こうと思っただけでした。高知を選んだ大きな理由はまたしても「ともだちがいるから」(^_^)。「知る」ためにはともだちがいるとだいぶ違うだろうというのと、ともだちに会うこと自体も目的なのとで、これが大きくなりました。その他には前回の鹿児島で幕末・維新の時代に興味が高まったからこの時代に大きく関わった土佐に行ってみようというのと、以前からともだちに聞いていたこともあって高知の自然に触れたいというのがありました。

そして「知る」ためには事前にも勉強しておきたい、と思ったのですが、今回は前回にまして準備の時間が取れなかった。結局僕は「高知に行こう」と決めただけであとは下調べもアレンジもほとんどgirl friendにおまかせになりました。うーん(^_^;。

さて、少しお天気を心配しながら高知に着いて最初に行ったのは日曜市です。ともだちには「地方の顔を見たいということなら日曜市ははずせない」と言われていました。でも実は僕はこれまで日本の「市」に特に魅力を感じていなかったのです。地元の人に使われている場というより、観光客をターゲットにした場、つまりおみやげ屋の集まりと感じることが多かったので。昔の市っぽく見せていたりするとまるで「標本」のように感じることもありました。それはそれで一つのあり方だと思うけど、自分の興味の対象ではなかった。

しかし高知の日曜市はそのイメージとは違いました。なんか「生きている」感じがするのです。なんでだろう？　まず思い当たったのは売っているものが「生きている」こと。たとえばトマトは東京で見たことがないほど赤くて、試食させてもらうと皮がかたいけど懐かしいトマトの味がしっかりする。でもこれだと、東京の店と比較すれば違うけれど、現地のおみやげ屋的な市だって同じ「生きている」感覚はしそうです。

さらに思い当たったのは、作り手個人が売っているということでした。特に生鮮品の場合はテント一つ分のスペースに○○村の□□さんという札をぶらさげ、いろいろなものを少しずつ並べて売っています。すると作り手（売り手）と売っている物が「つながっている」感じがするのかもしれない。ただこれも、おみやげ屋的な市でもある程度は出来るところです。

大きく違ったのは、地元の人がたくさん買いに来ていることでした。取れたばかりのものが、袋とかに閉じ込められることもなく作った人から食べる人に渡る。土佐弁が飛び交う中で日常的に。そういった店が通りを埋め尽くしている。そういう市に「生きている感」を感じたんじゃないかと思います。

さて、前述のグローバリゼーション、農業などでもさかんに自由化が言われていますが、そうなった時にこういう「生きている感」はどうなっていくと思いますか？　逆に「生きている感」を高めたいと思ったらどうするべきなのか。

初日はこの後、ともだちといっしょにこれまた「生きている」感じがした屋台村「ひろめ市場」に行ったり、鏡川沿いを散歩したりと、高知市民の典型的な休日を過ごしながら高知についていろいろ聞くことができました。この話はまた機会があれば書きたいと思いますが、ひろめ市場は商店街活性化や地域の場づくりの試みとしておもしろいと思います。

■元気のない日本人の対極を行くおっちゃん

２日目は「観光ガイドボランティア」の人にガイドをしてもらうということになっていました。事前に電話などでgirl friendがやっていたやりとり、ともだちから聞いていた「あの人たちはすごい」という話から、楽しみにしていたのですが、まさに期待を裏切らないものでした。

ガイドに来てくれたのはビジネスも現役でやりながら、ガイドボランティアもやっているというおっちゃんです。ガイドしてもらったのは坂本竜馬ゆかりのところ、武市半平太など維新関係者の史跡、そして高知城という感じだったのですが、まずとにかくよく勉強しています。まるでドラマを見ているように登場人物、場所、時について情報量豊富に語ってくれます。そして「ドラマを見ているよう」と感じさせたのは、単なる情報だけでなく思いを持って語られていたからでしょう。たとえば坂本竜馬の像を桂浜に建てるにあたって学生たちによる募金運動が始まりだったということを「これぞ土佐人だと思うのです」という思い入れとともに語ってくれました。

しかも自分の思いを一方的にぶつけるのではなく、相手の興味に合っているかどうかに常に気を使っていることも感じられました。それは彼が「いい人」だというのもあると思いますが、ボランティアであれ「プロであろう」とする気概とも感じられました。たとえば僕らの場合は維新の歴史や史跡だけでなく、高知の人や生活についてかいま見られることを期待してガイドボランティアという立場の人に頼んでいました。ある領域に熱心な人は他のところの話になるとけっこう何も話せなかったり話そうとしなかったりなりがち（僕もけっこうそっち(^_^;）です。しかしおっちゃんはそういう話にもちゃんとつきあってくれました。道で十万円拾ったら四国四県の人はどう行動するか、というたとえ話はおもしろかったです(^_^)。

そしておっちゃんと話している中で一番「これはいいなあ」と思ったのは、彼が三つの世界を持っていることです。一つはビジネスの世界。これは普通の人といっしょ。二つ目は自然の中でのものづくりの世界。畑やたんぼで自分のところと日曜市や知り合いに出す分くらいの作物を作っている。そしてガイドボランティアの世界。考えてみるとこの三つの世界は以前に「日本人に元気がない理由」としてあげた三つの理由、

自分が何かの役に立っているという感覚が薄い
アイデンティティをあまり感じられていない
あらゆる意味で「自然」から離れている

に対応するものになっています。おっちゃんの場合は、ガイドボランティアを通じて役に立っている感覚とか「高知の人」としてのアイデンティティをより強く感じているのだろうと思います。聞きませんでしたがビジネスも役に立っている感覚につながっているかもしれません。畑仕事は「育てていくのが楽しい」とおっちゃんは言っていましたが、これは「自然」と接している感覚があるのだと思います。

そして、よいと思うのは、おっちゃんのやっていることが、常人には出来ないようなすごいことではないということです。確かによく勉強しているし、プロとしての気概もすばらしいと思いますが、「あの人だから出来ることで普通の人には無理」ということではない。そういう形の「元気な日本人」「魅力的な日本人」の姿を見つけられたことに、これだけでも今回、高知に来た甲斐があった、と思ったのでした。

で、グローバリゼーションはと言えば、一つにはここではよい面が出ていると思います。僕らもおっちゃんも外に対しての関心を持っていて、日本の中を自由に行き来できるようになっているから話が出来たのですから。しかしもしグローバリゼーションが文化の均一化を意味するなら（どこでもアメリカ文化？）僕らはわざわざ高知に行こうと思わなかっただろうし、おっちゃんも愛着を持って話せる内容がなかったことでしょう。

■人が多すぎると自然が遠くなる

さて、自分や他の人たちがたとえばおっちゃんのような生活をするためには何が必要なのか、自分だったらどういう形でおっちゃんのような組み合わせを持ちうるのか、考えているところです。僕の場合の実現度では「役に立っている」という感覚が一番近いところにあり、「自然に触れる」というのが一番遠いところにあります。とりあえず５月にベランダで野菜を育てるという超小さな第一歩がスタートしましたが、これは自然に触れているというよりもその準備です。

どうしても感じてしまうのが、東京に住んでいたのではあまりにも人が多すぎて（＝密集していて）自然がその分少なすぎる、ということです。確かに少し郊外に出ると畑もちらほらあります。でも県庁所在地の中心から３０分圏内でありながら山がよく見えたり泳げる川や海があったり畑や田んぼや森がふつうの風景という地方の状況とはあまりに違う。

高知にいたら、市内の宿からでも山がすぐ近くに見えました。三日目に訪ねた伊野町（高知市内から３０分強）で僕らは、四万十川よりもきれいだという仁淀川で遊び、山仕事体験（枝打ち－下枝を切り落とす）をやりました。話はちょっと逸れますが、現地で林業を仕事にしている人の好意でやらせてもらった山仕事は特に自然に関わっている感じがしてとても気持ちよかった。渓谷を流れる水の音、木のにおい、緑の風景など五感で自然を感じながら体を動かして自然に関わっているからでしょう（枝打ちだけでなく、現場まで歩いていくのにけっこう力を使います）。これを生業にしている人は木が売れるかとか、作業がペイするかとか考えるでしょうが、都会人としては近場にそういうところがあればタダでも週に１回くらいやってもいいな、と思うくらい。ましてやそれが環境をまもることにつながるのだったら喜んでやりたくなります。

■日本一貧しい県？ Yes and No

さて、そういう「生きている感」とか「元気感」を感じた高知ですが、一方で所得から言えば日本の中で最も貧しい県の一つであってこれは課題であると言われています。また高齢化も最も進んでいる。こういったところについてどう考えるべきなのか。

何も調べもせずに数日滞在しただけで語るのは危険な面もありますが(^_^)、まず印象として受けたのは「東京よりも高知の暮らしの方がずっと『豊か』な感じがするけど」ということでした。自然が近くにあるとかいうのもありますが、家だって一軒家が多いし大きい。季節柄こいのぼりをたくさん見ましたが、東京であんなこいのぼりを出せる家がどれだけあるか。そして家の多くが持ち家であること、畑をやっていればやり方によっては食費が都会より安くなること、特に田舎ではいまだに長期物々交換（さかなをたくさん釣ったから分けるとか）がされていることを考えると、貨幣経済に乗らないところで「豊かさ」を得られる面が多々ありそうです。また自給自足している部分は景気の変動や市場での競争の影響を受けないということも、少なくともしばらくは「豊かさ」にカウントできそうです。

しかし確かに「所得」が低いと問題になるところもあるでしょう。まず自分で作れないものは買わないとならない。たとえば田舎の生活では不可欠だと言われる車。また、農業にしても化学肥料や機械など「他力」を使うほどお金を必要とします。そして行政サービスがもし地域の税金だけからまかなわれるとすると、地域の所得が少ない、産業も少ないということは原資が足りないことを意味します。貨幣経済を動かせていないとそうなってしまう。

■東京集中の問題とその解決策

と、ここでまたプロ野球の話、グローバリゼーションの話が重なってきます。特に明治維新後、日本国内を「グローバリゼーション」した結果、産業が一地域に集中するようになっていった。特に東京にビジネスが集まったり新たに起きるようになり、それにあわせて人も集まった。一方で地方からは若い人が出て行く。消費者としても生産者としても人が出て行ってしまうので地方ではますます産業が成り立たなくなる。人々は貨幣経済に乗らないところと補助金の範囲で「豊か」な生活を維持はしてる。

そして都会でも、効率は上がる一方で消費が横ばいになってきて、生産者としての人が以前ほどいらなくなってきた。となるとそれぞれの出身地にいれば重宝される人材だったはずの人も会社の余剰人員に数えられるようになる。でも貨幣経済の中で食っていかないとならないので働き続けている。「豊かさ」といえば、あまり感じられていない。

では、どうすればよいのか。少しずつ検証しながら考えていこうと思っていますが、今、感じるのは、東京一極集中という構造を変えていく必要があるということです。日本に５つから１０の、人口や経済規模がそれほど違わない核となる都市があって、これらを中心とする圏内ではある程度、経済が完結するようになっているべきなんじゃないか。前述のプロ野球の話の逆を行くわけです。そしてそれぞれの圏内にまた５から１０の小都市があって、そのまわりに町や村が展開しているようになると、今よりも「生きている」エリアが増えるのではないか。

上の話を思い出してみると、まず生活圏内－目の届く範囲に作り手と買い手がいて、やりとりをしているようになって場に「生きている感」が出てくる。そして都会では人口密度が下がることにより、自然が手近になって人が生きてくる。一方で過疎地帯は「通勤圏内」になることや、都会から自然に触れに来る人が増えることで地域が生き返ってくる可能性がある。

もちろんこれはとても大きくて複雑な話なので、こう言ってみたからといって世の中がすぐに動くわけではありません。また「規模の経済」－たくさん作った方がコスト的に有利になる－という傾向がかなり大きな規模まで言える分野では、このようにしない方がよいこともあるでしょう。また、みんなが広く世界を見るようになった方がよいこともある。

でも、大筋ではこんな問題と解決策が考えられる、としばらく頭に置きながら世の中を見て、「本当にそうなのか、どういうところでそう言えるのか」を考え続けていこうと思っています。そして自分が変化を働きかけるべききっかけがあればそうするでしょう。また、自分個人のことについて言えば、ちょうどいい人口や経済規模にある地域を、自分が本拠を構える候補地として見ていこう、と思っています。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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