112 Dライフ11 ボタニカルライフ

久しぶりに、デュアルライフについて書いてみようと思います。11回目になるのですね。今回のテーマは庭造りです。

■庭は嫌い

イギリスではガーデニングがうまい人は、下層階級でも貴族待遇を受けるそうです。イギリス人の人生にとって庭は特別な意味があり、まともな庭を手に入れて始めて人間は一人前になるのだそうな。

だから僕も、というわけではないところが、人生の不思議なところです。

僕が小学生から結婚するまで住んでいた練馬の家は、狭いながらも庭がありました。練馬区というところは東京でも北西のはじで、両親が家を建てた70年代の新興住宅地でした。60坪弱の土地に家を建てて、父が仕事で使っていた小さな倉庫や駐車場をつくると、15坪ぐらいの細長い庭が残りました。母はそこにせっせと植物を植え、花を咲かし、父は僕らのために鉄棒を作ってくれたり、鉄棒が錆びてしまうと、池をつくって鯉を買ったりしました。池をつくったときは僕は小学校4年生ぐらいで、父と一緒に地面に穴を掘り、石を積み、コンクリートを流し、水道を引いて小さなたきをつくるのを手伝いました。父と一緒に何かをつくるのは好きだったんですが、嫌いだったのは植物の世話です。

母親はあちこちぎっしりと花を植えては、踏むなとか入るなとか。踏み石の方に割り込んできているのは植物の方なのに。植木が伸びると、「あんたは身が軽いから塀に上って切りなさい」。けっこう高くておっかないし、遊びに行きたいし。「虫が付いたから農薬をまいて」と、人の顔をハンカチで顔をぐるぐる巻きにして、ポンプ式の農薬噴霧器を渡したり。シロウトだから「濃い方がいいだろう」と多めに農薬を入れたりして、今思うと恐いな～。臭いし、虫ちゃんがかわいそうだし。好きな植物だけをかわいがり、雑草や伸びすぎた植物を邪魔者扱いする言い分も嫌いでした。植物のゆっくりした生長は、子どもから青年期の僕にはいささかまどろっこしく、あまり興味も持てませんでした。

なので、基本的に庭も、ガーデニングも、あまり興味なし、でした。

■植物が育たない

六兼屋をつくったとき、庭仕事はしない、と言った話はコミトン「036 Dライフ(2) ワークスタイル」に書きました。で結局外に出ることになったという話も。このコミトンを書いたのが2001年11月。六兼屋ができてから半年ぐらいの期間の話を書いています。

そして2003年6月になった今の六兼屋は、家ができてから3シーズン目、2年半になりました。できたころの庭は本当になんにもなくて、庭とはとても呼びたくないような荒れ地。天気のいい日が続くと地面は乾いてスコップも立たず、雨が降るとぬかるみになり、ゴム長靴でないと歩けないし、長靴の裏には10センチも粘土土がかたまりになって付きました。これは誇張ではないんですよ、本当に10センチ、重さでうっかり歩くと長靴が脱げるほどでした。

その庭に、最初に植えたのがチューリップ。これは家の工事中だった秋に植えて、最初の年の5月に花をつけました。ちゃんと花が咲くじゃないかと気をよくしたものの、それは単に球根の中にあるエネルギーが春になって花になっただけだったことに、あとになって気がつきます。

最初の年、春になって、まいた種は、多くが全滅。百日草がかろうじて花をつけ、ガウラが2株ほど芽を出した以外は、みごとに全滅です。ワイルドフラワー（野生種に近い、花の種を何種類もブレンドしたもの）の種をたくさんまいたり、なでしこの苗を植えたり、ビオラ（すみれの一種）、パハラジャ（すみれの一種）、マーガレット、シバザクラ、それからそれから、もう数限りないタネ、苗を植えたのですが、もう忘れてしまいました。みんないつの間にか庭からいなくなってしまったから。荒れた土地は、5月、6月になっても雑草ひとつ生えず、その年の秋まで土のままでした。雑草なら勝手にはえて来るという僕の考えは、単なる思いこみに過ぎないことを知りました。木を切ってしまって砂漠化するというアフリカや東南アジアの話が妙に現実味を持って感じられたりもしました。

きれいな花を咲かせようというのはとりあえずあきらめて、せめて荒れ地を緑にしようと、グランドカバーになるという植物をいろいろ植えてみました。土をよくするというクローバー、土地改良用の品種マルチ麦、やはり土をよくするので休耕田などに植えられるレンゲ。面積が広いので、園芸店で売っているような量ではとても足りないので、韮崎の農協で種を注文して、固い土にまいては砂埃のような土をかけて、水をまきました。妻は毎日毎日、日暮れ時から真っ暗になるまで庭に水をまき続けました。その努力のせいかといえば、わずかに芽を出したクローバーだけ。まいた種に対して発芽率は1％にも満たなかったでしょう。

小さなクローバが最初に生えたのは、荒れた土地の中にある、工事用のクルマがつけたわだちなどのほんの少しのくぼみでした。ちょっとしたくぼみはたぶんほかより少しだけ水分が多く、少しだけ風が弱く、植物にやさしいのでしょう。出てきた葉は小さくて、ほんの5ミリほど、茎も弱々しくて、守ってあげなくちゃ、というようなものでした。

それでも1年目の秋も終わりになると、なんとか地面に緑色が増えてきました。

■ハーブを根付かせるノウハウ

2年目になると、ようやく花の苗が育つようになってきました。クローバーが地面を覆って、保湿してくれるようになったこともありますが、実は、日野春ハーブガーデンとの出会いが大きかった。

日野春とは、六兼屋から一番近いJRの駅の名前です（中央本線）。この駅にほど近い販売所を雑誌で知って、ここの苗を買うようになったこと、同時に栽培法や、荒れ地でも育つ苗を教えてもらったことが大きかった。特によかったのは、そば殻です。ここの農園自体も使っていると言うことで勧められたのですが、土地改良にそば殻を使うようにしてみました。がちがちの土を掘り起こし、なるべく細かくして、そば殻を50％ほども混ぜます。そば殻は、枕にも使っているもので、しゃりしゃりと堅くて軽いので、土に通気性を持たせ、適度な保湿と水はけができるし、表面にまいておけば水を保つ働きもあります。たまに「から」ではなく、タネが入っているので、蕎麦の芽が出るのですが、それはご愛敬、さっさととって「貝割れ大根」のように食べてしまえばよいわけです（ほっておくと白い蕎麦の花が咲いてかわいい）。こちらは大きなジュートの袋で500円とお買い得。園芸用の土もたくさん買いました。25リットル袋で400円ほどもするのですが、それをホームセンターで買い、植え付けた苗の近くに入れました。

一株280円～400円もする高い苗だから、育たなければもったいないと思い、土やそば殻にも惜しみなく投資。苗を植える作業自体も大変です。まず、根付いてはびこりだしたクローバーをはずさなければなりません。クローバーは、1年目の終わりにはかなり元気に大きな葉に育ち、根ががっちり絡んで、土を常にじめっとした状態にしていました。このじめじめ感と、根につく根粒菌が窒素を固定して、土をよくしていくのです。

とはいえ、いつまでもクローバーの原っぱにしておくわけにもいきません。クローバーは草丈が膝ほどにも上がって踏み込みたくない感じになるし、何より花園にするのが僕らの計画でした。そこで、土がよくなってきた西側からクローバーをはがしていきました。これが猛烈な作業で、根が絡んで、土から根を持ち上げるだけでも一苦労、ほんの2メートル四方をやるだけで汗だくです。それでもクローバーの根の下には5センチほどの表土ができていて、その下の粘土とははっきり区別できる「ましな」土になっていました。

その上に、そば殻を蒔き、混ぜ、苗を植える穴には買った土を入れて、一株ずつ植え付けていったのです。その甲斐あって、2年目の夏には、花の咲く苗もかなり根付くようになってきました。

といっても、それは、土が比較的よかった西半分の土地だけで、東半分は荒れ地にクローバーの状態。少しの面積でも時間がかかるし、雑草も生えるようになって雑草刈りにも追われ、雨が降れば作業ができないし、と思うようには進みません。無事に根が付いた苗も、成長力はまだまだ弱く、荒れ地に、人間が思うような植物を根付かせる厳しさには日々しみじみしていました。

■雑草と闘う

一方、雑草の方は、お構いなしにやってくるようになっていました。オヒシバ、メヒシバ、スベリヒユ、オオバコ、カラスノエンドウ、オオイヌノフグリ、タチイヌノフグリ、ギシギシ、ノアザミ、セイタカアワダチソウ、そしてどこからともなくやってくるコスモス。ああ、雑草の名前の方がよく覚えている悲しさよ。

苗を植え、育てる合間を縫って、5月～10月は常に雑草刈りに追われます。はっと気がつくと周囲は背の高い緑に覆われ、庭は狭くなり、庭を巡る道は見えなくなり、植えた苗は沈み込んでしまうのです。

エンジン付きの草払い機で2時間草刈りを続けて、庭の4分の1ぐらいがきれいになると言うところでしょうか。刈り取った草は、ネコ（一輪車）にのせて1箇所に集め、堆肥造りに回します。この作業も大変です。

苗や木を植える「庭を造る」作業と、雑草を刈る「庭を維持する」作業、そして道や門や垣根やデッキなど、構造物をつくる作業。来るたびにあれもやりたい、これもやりたいと思いながら、その半分もできずに東京に戻ることになります。

■命が生まれ変わる瞬間

そして今年、2003年は、3シーズン目の初夏を迎えました。春の庭仕事は、3月末から始まります。庭に植えている花のほとんどは宿根性のハーブ類です。秋に地上部が枯れ、雪の下に埋もれますが、根は生きていて、春になると新芽を出して育つのです。霜が降りなくなる季節から、去年のかれた地上部を切り取る作業を始めます。これが4月初旬。ラベンダー、ガウラ、ラムズイヤー、西洋ノコギリソウ、サントリナ、カモミール、スペアミント、マロウ、チェリーセージ、ロシアンセージ、トラノオ、萩、フジバカマ。今六兼屋に植えてある宿根草は100種類にもなります（品種は妻が管理しているので、僕は半分も覚えていない(^_^;)。それでも生き残ったのは植えた数の7割ぐらいでしょうか。地面から5～10センチぐらいのところから枯れた上部を切り取り、さっぱりさせます（切り戻し）。こうして本格的な春の訪れを待つのです。

生き残って冬を越した宿根草は、本当にすごい。4月中旬、日差しが強くなると、枯れているように見えた根から思い切り新芽が吹き出してきます。葉が出て、茎が出て、ぐんぐん伸びて、気がつくと去年より数倍大きな株になるのはラベンダーなど。地面を這うようにして横に広がっていくタイムは、原っぱのようになってきました。カモミールはいつの間にか地下茎を伸ばしていたらしく、一面芽が出て、あっという間に勢力範囲を広げてしまいました。花を摘んで、生カモミールのハーブティーを飲んで楽しみます。一昨年、まいた種からたったふたつ出たガウラは、辺り一面から芽を出し、背を伸ばして、雑草のつけいる隙を与えません。あと半月もすると白い花をつけて、秋までずっと咲き続けてくれるはずです。ひつじの耳のようなラムズイヤーも勢力範囲をこたつほどにも大きくして、花をつけるために茎を伸ばし始めています。

枯れた根から新芽が出て、伸びてくる瞬間。自然の営みを一番感じるのは、このときかもしれません。気候と、土と、植物と、人間が織りなす生命の瞬間。

雑草を見ても楽しい気持ちにならないのは、そこに人間が介在していないからかもしれません。園芸営みとは、人間と自然のハーモニーを楽しむものなのでしょう。

収穫が目的の農業とも少し違うようです。農業ではよりよい収穫のために、時に自然もねじ伏せようとしますが、（僕らがやっているような）園芸では自然の力を貸してもらっているような感じです。自然と植物と人間が少しずつ力を出し合って、ひとつの命の姿を作り出す。話したこともない相手と、話しているかのように、力強く美しい植物が育っていく。そのバランスが、すがすがしいのだと思います。

ちなみに、僕らの庭では肥料や農薬はほとんど使いません。水も、いったん根が付けば、ほとんどやりません。日照りが続いても、暑くても、植物には自力で水や養分をとってこさせる。その代わり、雑草のような競合が厳しくなりすぎないように、適度にとってやる。そのぐらい放任で育てると、負ける苗も出ますが、勝ち残った苗は強いし、病害虫にも強いのだと思います。

そうはいっても、部分的に害虫や病気がひどいこともあるので、仕方なく農薬を使うこともあります。まだ苗が小さいうちに花をたくさんつけたときは、コンポストからとれる有機質の液肥をあげたりもします。

例外はバラですね。これだけは、虫も付きやすいし、養分も必要なので、ちょっとでも虫が付けば化学農薬も含めてクスリを使うし、肥料もたっぷりやります。女王陛下なので仕方ありません。でもその甲斐あって、今年のバラはすごいことになりそうです。

■木も育ってきた

今回は木の話をあまりしませんでしたが、木を育てるのは、花より大変です。というか、育つのもだめになるのも時間がかかるので、いいも悪いもなかなか結論が出せないし、思うようにいかない度合いも、花の比ではありません。木々については、また次の機会にお話ししたいと思います。

ただ、写真を見てもらえばわかるとおり、人の背丈を超える木が、だいぶ育ってきました。高低差のある庭に仕上げたいと思って育てています。

■自然と対話し、存在する

僕らは、こうやって庭に出て、いったい何をやろうとしているのでしょうか。誰に頼まれたわけでもないし、もちろんお金になるわけでもありません。日本では庭造りがうまくても貴族待遇というわけではないし、第一、ずぼらな僕らにはそれほど立派な庭は造れないでしょう。

では何のためにこんなことをやっているのでしょうか？　僕にもよくわからないのです。

自然を感じていたいのかもしれませんが、それなら庭を造らなくても、裏の林に入ればよさそうな気がします。自然を改造したいのなら、もっと人工物に囲まれた庭を造るはずです。写真を見ればわかるとおり、門や垣根も近くにある自然の木をそのまま使っていて、スチール製の門などは使っていません。

もしかしたら、自然と共同作業をしていくのが楽しいのかもしれません。自然と対話し、自然の営みと、自分たちの営みの、ほどよい調和点を探したいのかもしれないなと思います。自然のままの自然がいいなら、僕らの存在はなるべく小さい方がよいのです。森の中に人が来たという痕跡を残さずに去った方がいい。でもそれが庭を造る楽しみではありません。自然をいいとこ取りするものでもありません。根が付きにくい植物でも、土を入れ替え、水をたくさんやったり、砂を入れて水はけをやたらによくしたり、農薬や化学肥料を入れれば、育つでしょう。でもそこまでしなければ育たない植物は育てたくない。だから、砂を入れたり、アルカリ質の管理が必要な芝生は使いません。自然が受け入れる植物で、でも山梨県のこの土地に土着のものではなく、人の手があるから育つけれど、自然を改造しないぎりぎりの調和点。それを、この土地の自然の顔色をうかがいながら、許可を取りながら、少しずつ高次元にしていきたい。そんな営みの結果、花が開き、木々が育つのが、自分たちがここで活きている歴史や結果だと実感できることが、うれしいのだと思います。

人間は自然の一部といいますが、実のところ、あまりそういう感じはしません。自然と対話できる、ちょっと変わった存在。その特異性を見出すために、庭を造っているのではないかと思います。

今年の花が咲き始めるまで、あと少し。庭のようすは、まるやまうぇぶで実況中継しています。

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▲最初に咲いたチューリップ。球根にたまったエネルギーが咲かせただけだった。

▲荒れ地に花の苗を植えてみても、雨が降れば水没して枯れてしまう。

▲かろうじて出てきたクローバーの芽。右半分が僕の靴の足跡。

▲最初の年の5月、庭全景

▲ほぼ同じ角度から。同じ年の9月。

▲最初の年の5月。雑草も生えない。

▲ほぼ同じ場所。クローバーがだいぶふえて、ケヤキのまわりには百日草だけが。

▲サントリナ、2年目の株。苗の時は直径10センチの苗ポットだった。

▲ロシアンセージ。

▲ラムズイヤー、2年目の株。こちらの買ったときは10センチの苗ポット。

▲春、芽吹きに備えて切り戻したラベンダー。

▲今年、咲き始めたラベンダー。

▲西洋ノコギリソウ。すごい繁殖力。小さな苗ポットが2年でこのサイズ。こぼれ種で庭中に芽が出る。

▲ガウラ。白い花が長く咲く。僕のお気に入り。

▲チェリーセージ。セージとは、サルビアのこと。3年目になると株が弱ってきて、今年は元気がない。

▲ジャーマンカモミール。こぼれ種でどんどん増える。

渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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