113 結婚って何？

6月というと一つ連想するのがジューン・ブライド。結婚式が目白押しという人、自分自身の結婚式だよ、という人もいるのでは。おめでたくていいことです(^_^)...と思いつつ、じゃあ自分自身はどうするか、というのはgirl friendとつきあいだしてからずーっと考えています。彼女とは今のところ、今のままでも、結婚してもどっちでもいいよね、と言っています。しかし「どっちでもいい」というのは実は、「どれも課題がある」ということでもあります。それはどういうことなのか。今回はこの「結婚」について書いてみたいと思います。結婚を間近に控えた人には「変なこと言うなよ」という感じかもしれないけど(^_^;。

■夫婦ってすばらしい！と言える？

まず結婚しているみなさん、夫婦ってすばらしい！と言えますか？　先日、girl friendがともだち数人と集まった後で憤慨して帰ってきたことがありました。その仲間の中には結婚してそこそこ時間もたち子供もいる人たちと、つきあっている相手はいるけれども結婚はしていなかったり、結婚してまだ日が浅い人たちがいるそう。時間がたっている人たちは結婚や夫婦についてさめていて「惰性でいる」「やめることはできないからいる」「好きとかそういう感情はもうあまりない」という感じで、日が浅い人たちに「いずれそうなる。特に子供とか出来たら」と言っていたそう。これに対してgirl friendともう一人結婚して日の浅い人は「そんな関係ばかりじゃない」と反論していたとか。

しかし確かに上の「ベテラン」たちが言うようなことはよく聞きます。よく聞くどころか、それが多数派のようにも感じられる。次のような笑い話も聞いたことがあります。日本のオフィスで一番先に帰るのは結婚している女性で、これは家事やら子供の世話やらあるから。次に帰るのは未婚の女性で習い事、遊びその他いろいろやりたいことがあるから。三番目は独身の男性でデートがあったり、遊びに行きたいから。四番目は既婚の男性で、家には帰りたくないけど遊びに行く金も元気もないから。

そういえばこんなこともありました。「今週はgirl friendが体調を崩していたので忙しかった」と誰かにメールで書いた時のこと。「なんか楽しそうでいいなあ」といった返事が返ってきました。上のようなことが頭にあったので、もしこれが、「今週は奥さんが体調を崩していたので忙しかった」と書いたらどういう返事が返ってきただろう、とふと考えました。「大変だねえ」とか「いいだんなさんですねえ」いうのが一般的では。この違いは何なんだろう？　

「長くいればはじめのころのようにはいかないよ」という声がありそうですが、もうちょっと夫婦についてのイメージがポジティブでもいいと思いませんか。もし、結婚ということがそういう状態を作り出したり、外からそのように見えるなら、あえて結婚するのではなく「いたいからいっしょにいる」という今の状態の方がよい、という気がします。かつて６年間結婚していた自分自身の経験に照らしても。
結婚について別の意味のデメリットを挙げる人が特に女性にいます。「○○さんの奥さん」と呼ばれる、（多くの場合）自分の苗字が変わってしまう、といったアイデンティティに関わるところ。

■なぜ結婚するの？

しかし、上のようなことがあっても人が結婚するのはやはり結婚によい面もあるからでしょう。

一つには「確保」でしょうか(^_^)?　みんなの前で「夫婦」の宣言をし、かつそれを登録する（＝籍を入れる）ことでお互いを自分のもとに確保する。自分のもとを去られる可能性、他の人にとられる可能性は下がる。ここには「その人」を確保するという意味もあるでしょうし、年を取っても誰かと「いっしょにいる」ということを確保するという意味もありそうです。

二つ目は「社会的承認」を得ることでしょうか。以前に比べると、同棲していると言ってもまゆをひそめたり驚く人は減りました。しかし日本の社会では、やはり誰かといっしょにやっていきたいと思ったら「夫婦」になっているのが正しい姿だというイメージがあります。またある年齢以上になったら結婚しているのが「普通」というイメージもあります。その考え方にはそれはそれで理由がありそうです。一番大きいのは「安定性、長期性」かな。当人たちだけでなく社会の側でも「子供がちゃんと面倒を見られること」から「アパートに住んでいる人間がころころ変わったり家賃が払えなくなったりしないこと」にいたるまで、安定性を求めている。そこで上のような「約束」が重要になり、またそういう約束を出来るのは一人前というイメージがあるように思います。

しかし考えてみるとこの「安定性」や「確保」といった「メリット」は裏返すとそのまま、結婚のマイナス点になるように思えませんか。

いっしょにいること、相手が自分のために何かをすることが当たり前の権利になってありがたみが薄れる。一方で相手のために何かをすることは義務になってうれしさが薄れてくる。また、「確保」して安心してしまって相手に好かれるための努力をしなくなる。すると相手から見れば魅力が減っていくことになる。

ただ、「結婚に原因がある」と思っていることの一部は他のことが原因で、それを結婚が原因と取り違えているという反論もありそうです。たとえば長いこといっしょにいるからマンネリ化するのであって、それは結婚していなくても長期的な関係になれば同じことは起こるとか。あるいは年を重ねるに従って人はいろいろ変わってくるだけで結婚したこと自体が悪いわけではないとか。しかしこのどちらも、結婚していない場合には「じゃあ、やめよう」とどちらかの意思だけで決め、実態（愛情）と形式（いっしょにいる、いない）を合わせることができます。しかし結婚している場合は、まさに「安定性」と「確保」から、そう簡単に動かせないケースもあります。

■離婚の苦労を考えると結婚できない？

当人同士が「やはり合わないからやめよう」とすぐ納得できた場合は比較的負荷が少なく（それでもいろいろな負荷が、特に女性にはかかると思います）結婚を解消することができます。しかし、そうでない場合、実態はとても結婚生活と言えないものであったとしても協議や調停で合意に持ち込むか、裁判で離婚を認められない限りは夫婦です。そして解消するにはすごいエネルギーがいります。

以前にそういう結婚を解消する相談に乗ったことがありますが、実際、本当に大変でした。結婚という制度を支持するあらゆるものが抵抗要因になります。「いったん決めたことは変えるべきではない」という価値観、プライド、親が悲しむ・反対する、田舎の狭い社会でニュースになって親に申し訳ない、兄弟に影響を与える等々。まだこの時は、別れた後の生活力、財産に関する争いといった問題がなく、なによりも子供がいなかったのでまだハードルが低かったのですが、それでもいろいろな人に大きな負荷がかかっていたと思います。

実態に形を合わせることがこんなに大変になるほど、確保とか安定というのは重要なのか。また最近、たまたま（たまたまなのかな）いくつか「実態と合わないので別れたいのだけどなかなか難しい」という話を聞いて、どうなんだろう？と考えています。

■結婚しなかったらどうなのか

では、結婚しなかったらどうなのか。あるいは部分的に結婚の状態を取ったらどうなのか。「夫婦であると公言し、かつ籍も入れる」というのが通常の結婚ですが、いっしょにいることは公言したとしてもたとえば、

夫婦とは公言せずに籍は入れる
夫婦だと公言するが籍は入れない
夫婦とは言わず、籍も入れない

ということが考えられます。

★夫婦とは公言せずに籍は入れる

このパターンのよい点は、法律が認める夫婦の権利を確保できる/確保しやすい一方でアイデンティティの点では互いの独立性を社会的には保ちやすい、ということだと思います。反面、混乱しやすそうです。まずは「結婚しているの？いないの？」という話。そして「なんで籍を入れているのに公言しないんだ？」という疑問がしょっちゅう出そう。特に本人たちはともかく、親は「めんどうなことはやめてくれ」と言い出しそうです(^_^)。名前の点でも結局どちらかが二つの名前を使い分けることになります。そして関係がうまくいかなくなって解消しようとすると、公言していない分だけましではあるものの、やはり難しくなるおそれはあります。むしろ公言していない分だけややこしくなるかもしれません。そんなことを考えると結局、「公言した方がめんどうがない」となってしまいそうな気がします。となると、

めんどうがあったとしても夫婦のイメージにとらわれたくないが、
法律的な面では夫婦でありたい、

というカップルの場合なら、ということでしょうか。ただし自分たちについての自信がかなり必要そうです。かなりの確率で続けていけるという自信か、実態が変わってしまった時には最初の気持ちと変わらずに解消できるという自信ですね。

★夫婦だと公言するが籍は入れない

いわゆる「事実婚」のパターンです。籍を入れている場合に比べて「いっしょにいようと思うからいっしょにいる」という度合いは強いだろうと思います。夫婦別姓をすべての場所で通せるということも名前にアイデンティティの意味を重視する人には大きい。また、法律的に夫婦であることを確認する局面は少なく、事実上の夫婦別姓への慣れも進んでいますから、社会からは夫婦者として「安定している」「あるべき姿にある」と思われます。一方で法律から夫婦であることのメリットを受けることはできないか、めんどうになります。しかし、たとえば相続にしても遺言できちんとしてあればすむことですし、配偶者控除なども解消の方向にあります。したがって、

夫婦という関係には肯定的だがアイデンティティを重視するとか、
自分たちの意思で続ける夫婦であろう、

という人たちにはよい方法と思えます。しかし、法律のもとでの夫婦と同じ権利
を確保するために必要な手は打つ手間はかかりますし、それを怠ると損をしたり
面倒に巻き込まれたりしそうです。

★夫婦とは言わず、籍も入れない

この場合は、いっしょにいるのはいっしょにいたいからだと、はっきりしています。ある意味、一番わかりやすい。実質を重視していて、世間の見方にとらわれないカップルというイメージもありえます。しかし一方で特に知らない人には不安定な印象を与えやすい。確保を法律に頼ることもできない。保守的な親はこどもがそういう選択をすると不安や居心地の悪さを感じるでしょう。このようなことから、

いっしょにいるのは自分たちの意思からでありたいと強く思い、
障害はいろいろあったとしても夫婦の一般的なイメージにとらわれたくない

という人たちの選択肢と思います。

★結婚という選択肢

ということは、結婚という選択肢を改めて考えてみると、二つの場合にこれをとるのかな、と思います。まず一つ目は、自分たちの関係が大きく変わってしまうことはないと思えるし世間で夫婦についてどういうイメージがあろうが気にならないという人。むしろ「うらやましがられる夫婦になるぞ」というくらいに思っている人たちです。この人たちにとって「確保」というのは本来目的ではないはずで(^_^)、その意味では結婚しなくたっていい。「釣った魚にえさはやらない」などと怠惰な自分になることはないという自信もある。でも親などまわりもハッピーで、法律的にもメリットは受けられ、混乱もないのだから結婚が一番という
もの。

二つ目は、実態と形が離れてしまったとしてもそれはしょうがない、安定が第一という人たち。恋人同士のような愛情を結婚生活に求めるのがそもそも無理だと考えていて、そういう愛情はあきらめるか、どこか別のところで適度に満たすのかな。一方、家庭を持てる人と社会から見られる、親を安心させる、こどもを育てる、役割分担をするパートナーを得る、といったことの手段としての意味を結婚に見出すということではないでしょうか。

しかし現実にはそれほど考えることはなく結婚に「ゴールイン」しているのだろうなあと思います。「いっしょにいたいなあ」とか「いっしょにいてもいいなあ」と思って「そういう場合は結婚するんだよなあ」とわかっているのでそうしたと。

■こどもはどうなのか？

さて、ここまでのところを読んで、「大事な要素が抜けているんじゃないの？」と思った人もいるのでは。「こどもはどうなのか？」ということです。たとえば戸籍上「非嫡出子」（＝夫婦以外の関係で生まれたこども）であることにこどもが傷ついたり、それが知れていじめられたりするのではないかと。あるいは親がいつ別れるかわからない不安定な状態ではこどもはつらいという声もありそうです。これはいずれもあることと思います。しかしこれがあるから結婚しなければならないというレベルのものではない、というのが今のところの感触です。特に実際にそうしている人を身近に見ているとそう感じます。また逆に、「こどもまでいるんだから夫婦ではなくてもそんな簡単に別れはしないだろう」と世間が思うようになることもありそうです。もっとも本当にそうなら、「いたいからいっしょにいる」という関係かどうかも変わってきますが。

一方で、男女の関係が変わってしまうのは結婚から経過した時間よりもこどもが二人の生活に入ってきたことが大きいのでは？というのもよく聞きます。妻は育児に追われ、夫にかまう余裕がなくなってくる。二人だけの時間も少なくなるというわけです。これは自分で体験していないので実感から語ることは出来ないのですが、こどものいる人たちの話を聞いたり彼らの生活を垣間見ると、確かにそういう面もあるなという感じはします。この部分は、男がもっと育児に関わっていく、保育園その他で夫婦の時間を確保するといったことがないと、結婚していようがいまいが、同じ結果になるでしょう。しかし、それだけではないとも思います。やはりお互いに対する意識の問題はそれはそれである。

というようなことを書いてきましたが、そんな話をしていてgirl friendがふと言ったのは次のようなことでした。「でも、わたしはやっぱり、結婚式をやって、みんなに祝福されて、しばらくたってからその時を振り返って『あのときから始まったんだねえ』って話を出来たら一番幸せだと思う」と。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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