115　日本人のよいところって？

「日本人のよいところって何？」と聞かれたら、何を上げますか？　この間、英語のクラスでこれについてディスカッションをしたら、最初はなんと、何も上がってきませんでした(^_^;。確かに特に最近国内のニュースを見ていると「だいじょうぶかよ、日本は」と感じるようなニュースばかりです。元気を感じるところといえばスポーツ界ぐらい？　しかもなんか彼らはごついし頭も茶色かったりして、あまり日本人に見えない、と感じている人もいるかもしれませんね。

でも、改めて日本人のよいところを考えてみるとどうでしょう。もし、あるはずなのに気がついていないとすると、いつの間にか持っていたよさを失ってしまう可能性があります。また持っているものを生かすこともひょっとすると出来ないかもしれない。そこで今回はこのことについて考えてみたいと思います。なお、この話題はコミトンをたたき台にMLで話してみるとおもしろそうだと思っています。なので今回はたたき台的な書き方をしてみます。「ここは同感、こんな例もある」「でも逆のこともあるよ」「他にもこんなのがあるんじゃ？」などあったら、ぜひcom2MLへ！

■高いレベルを追求する

まず僕が日本人のよいところとして最初にあげたいのが、高いレベルを追求するということです。たとえば品質。他にも例はいくらでも挙げられると思いますが、去年、エチオピアに行った時には日本がつくった道路はでこぼこにならなくていいとか、いすゞのトラックはなかなか壊れないとか言われました。お客も値段の安さに誘われて他のところにしたりするのですが、結局戻ってくるそう。

あるいはサービスのレベル。日本の電車の運行を見て自分の時計をなおせるくらいだ、と外人が言っているのを聞いたことがあります（日本の時計ならそんなに狂わないんじゃないかな...）。台風でも雪でも安全確保はしつつあらゆる手段を講じて動かそうとする。僕らはこれが当たり前だと思っているけど、多くの国では「今日はこの天気だから無理。自然現象だからしょうがない」となるんじゃないかな、と思います。

そして上に書いたのは企業の話ですが、企業以外でも、あるいはもっと小さいところでも、この高いレベルは普通の人に支えられているという気がします。たとえば郵便。住所が全然間違っているのにちゃんととどいた経験ってありませんか？　古い話になりますが妹が郵便局でアルバイトをしていた時に聞かせてくれた話によると、ベテランの局員はどこの家に誰が住んでいて最近家族にどういう変化があったかまで頭に入っているそう。この、頭の中のデータベースを参照して届けてくるのではないかと思います。

あるいは庶民の食べ物であるラーメン。これを「追求」しているラーメン屋さんが日本中にごまんとあります。それも普通よりずっと高い値段をつけるならともかく、普通と大して変わらない値段でやっている。

こういったことはまだまだたくさんあげられるように思います。確かにこのような「追求」は時に「そこまで必要なのか？」というところまで行ってしまうことがあります。またサービスの受け手が（本当は必要ない）高いレベルを当たり前と取ってしまって結果的にコスト高になることもあるでしょう。しかし、やはり、すごい、と思います。

■使命感、責任感が強い

上のことにも関連して次にあげたいのが、日本人は使命感や責任感が強い、ということです。というと政治家や経営者を見て反論がけっこうありそうですが、それでも一般的には、そして特に現場では、使命感や責任感が強いんじゃないかな、と思います。

たとえば僕らの英語のクラスにも、仕事が忙しくて来られないとか、終わるぎりぎりになってようやく到着という人がけっこういます。ある人などは、仕事場が教室から歩いてこられるところにあるのに出席出来ない。そして休日も出社しています。

「責任感があってもなくても日本の会社ではそこまでやらないといられないから」という声もあるでしょう。確かにそれもあると思います。でも、会社内のプレッシャーだけでなく、「お客さんに迷惑かけられない」とか「自分が行かないと会議が始まらない」とか「次の工程の人たちが待っているから」といった使命感も感じるのです。それで、自分個人や家族との時間を削っても働く。働いても給料が大して上がるわけじゃないのに。僕は海外でも外資系でも仕事をしたことがないので海外に住んでいた時のお客としての体験と聞いた話からしかわからないのですが、普通の社員がここまで働くのは日本人以外聞いたことがないです。

もっともこの話も「よいところ」とばかり言っていられない面もあります。まず、公私のうち公を優先するあまりに私が圧迫される場合がある。本人はまだ納得してやっているからよいかもしれませんが、家族からすると「本当に代わりがいないのは家庭の方なのに」と感じることもありそうです。

また、現場がこうして身を削ってがんばったことが無理な延命につながり、かえって本質的な問題の解決を遅らせることもあります。第二次大戦での日本陸軍はその例でしょう。（参考文献：「ノモンハンの夏」（半藤一利著　文芸春秋）

■まじめ、まじめ、まじめ

どこかのコマーシャルじゃないですが、日本人はまじめだと思います。上の二つの点を見てもまじめな感じがしますが、これだけではない。たとえば財布を落としたとしても中身ごと返ってくる可能性はけっこうある、と感じませんか。また以前に通販会社の人と話した時のこと。日本では商品を送った後、郵便振替で入金というケースが多いのだが、払わない人はとても少ないと言っていました。そもそも後払いなんて支払方法が普通に使われていること自体すごいと思います。話はそれますが、この感じなら、所得税について源泉徴収をやめて全部、確定申告にしても手間はともかく取りっぱぐれはそれほどないのでは、と思います。少なくともアメリカで出来るのだから、日本で出来ないはずはないと。

海外で有名な日本人のお人よしぶりも、自分たちがこれだけまじめなことから来ているのかもしれません。イスタンブール（トルコ）の宿でも、どうして日本人はあんなに簡単にだまされるのだろう、と話題になっていましたが、ついつい自分と同じように人も考えるだろうと思っているのかもしれません。そういえば、アフリカ、アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、アジア、どこでも日本人が「この国の人は時間にルーズ」と言っているのを聞きました。ということは「特殊」なのは相手の方ではなく、僕らの方なのでしょう(^_^)。

ただ、このまじめさについて、だんだんに失われているという声もありそうです。たとえばしばらく前に、あるスーパーが問題商品についてレシートなしでも返金をするとアナウンスしたことがありました。そうしたら買ってもいない人がたくさんやってきたというのがニュースになっていましたね（まあ、ニュースになるということはまだ普通ではないわけですが）。あるいは都会でのごみの出し方はひどいというような話もよく聞きます。

■謙虚である...いやあそんなことないですよ!?

次にあげたいのは、冒頭に書いた「いい点を何も上げられない」ということ自体から思いつくものです。なんだと思いますか？　「何もあげられない」というのは「単にそんなことは考えたことがなかった」という理由のほかに、謙虚さが表れているんじゃないかと僕は思っています。強みとして言われることは当たり前のことをやっているだけであって、出来ていないことがたくさんあるんだ、と考える謙虚さです。

よく僕らは会議などで発言する際に、「大したことではないかもしれないですが」とか「ちょっとポイントがずれているかもしれないんですけど」という前置きをしますね。これはアメリカ人からすると非常に不思議な前置きで、まるで自分の話を聞かないでくれと言っているように聞こえます。しかし僕らの中では謙遜する、控え目にする意味があります。ものを贈る時の「つまらないものですが」とかあいさつでの「ご指導ご鞭撻」といった言葉もそういう意味を表しています。今はこういう言葉も昔ほどの意味は持っていないかもしれません。しかし全く意味がなくなったわけではなく、また謙遜は美徳であるというイメージは今でも根強くあると思います。

この謙虚さは結果として、世界のあちこちで日本人の好感度をあげることになっている気がします。昨年、世界のあちこちをまわって感じたのは、日本人に対して友好的な人が多いなあということでした。金持ちだから仲良くしているというのもいるでしょうが、金持ちでもアメリカ人は嫌いだという人はけっこういます。特に途上国には。一方、友好的な人に聞いてみると、日本人はフレンドリーだから、偉そうじゃないから、自分たちのやり方を尊重してくれるからいいといった返事が返ってきます。（これは個人についての話で、日本は、ということになると態度がはっきりしないとか、金を持っている割にはリーダーシップを取らないといった声があります）

そしてこの謙虚さと、最初にあげた「高いレベルを目指す」ことが組み合わさると、他者から学ぶという行動にどんどん出られるのだと思います。古くは中国や朝鮮から学び、幕末の頃はオランダ、イギリス、フランス、ドイツから、そして戦後はアメリカから学んできた。そして本家よりも高いレベルまで行くこともしばしばある中で今の日本という国が出来てきたのだと思います。

しかし、このこと（＝他者から学ぶという姿勢）には弊害もあります。一つには、自分たちが持っていたよいものをあまり考えずに捨ててしまう可能性があることです。特に明治維新、および戦後は直前のショックが大きかったこともあって、そういうことが多々起きていたように思います。

もう一つには、自分で未来をデザインしたり、イニシアチブを取るようになかなかならない、ということです。まあ、人には向き不向きがあるように、国民性にも向き不向きがあってもいいとは思います。しかしそれでも、未来をつくっていく力など、ある程度はつけておきたい。そして日本人らしい方法があるんじゃないかな、と最近思っています。

■和を好む

最後にあげたいのが、和を好むということです。日本国内にも戦乱の時代はたくさんあったこと、第二次大戦までの約50年間は何度も戦争を繰り広げてきたことを考えると過去については違うのかもしれません。ここについて僕はまだよくわかりません。しかし自分も含めて今の日本人を見ていると、やっぱり和を好み、戦いを嫌う人たちなんじゃないかな、という気がします。

たとえばアメリカに二つの原爆を落とされたにもかかわらず、そのためにアメリカを嫌いという人は少ないと思います。自分たちが戦争を始めたという引け目はあるのかもしれませんが、それにしてもあの二つの爆弾は終戦に必要だったとは思えない。でも、「いつかはやっつけてやる」というような意識はない。その後、経済で日本が復興してくるに従ってアメリカからの風当たりは強くなりました。しかしこの時も「何言ってやがんだ」とはならなかった。これを卑屈だと見る見方もありますが、とにかく争いは嫌いなんだ、という面もあるように思います。

日本の中のビジネスでも同じようなことを感じます。大手と下請けの関係や銀行と中小企業の関係は厳しいということも聞きますし、そういう世界を僕は直接見たことはありません。しかし、それぞれのところで仕事をしている人たちと話してみると、やっぱり契約でズバッと行くほどドライじゃない。自分たちが立ち行く限りはしんどくともなるべく切ることはしたくないという感じを受けます。社内でも人のメンツをつぶさないようにすることや、人間関係を保つことにかなりエネルギーが割かれています。

時にこの「和を好む」ために、正しいことややるべきことが行われず、ずるずる行くというのもあります。しがらみがあって..というやつですね。日産がゴーン氏によって初めて立ち直ったのも、狭い意味での経営能力だけでなく、一時的に波を立ててもやるべきことを断行出来たかどうかが大きかったように思います。

となると、「和を好む」ことはよいことなのか悪いことなのか。僕はよいことだと思います。血の気の多い人が多いほど戦いは起きやすい。また起きた戦いが泥沼にはまりやすい。また「切るべき時に切れない」というのは、そういう状況になってしまって初めてそれを出来る人を連れて来ることも出来ます。もっと賢くなって、切らなければならない状況になる前に策を打てるとベストですが。

■失われつつあるよいところ

最後に、日本人のよいところの中で失われつつあるという気がするところをあげておきたいと思います。

一つは独特の美意識です。たとえば先日、文楽を観に行った時に感じたのは、人形の繊細な動きでこれだけ感情を表すことが出来るんだ、ということでした。あるいは俳句はどうでしょうか。

古池や蛙飛び込む水の音

と、たったこれだけの文字数の中で世界が表現できます。派手ではないし、どちらかというと静的、しかし美しい世界を理解できる感性を僕らはまだある程度持っています。しかし今後、どうなるのか。

二つ目は自然との関わり方です。pacoさんが里山について書いていますが、日本人はこのように自然と調和することをしてきました。支配するでもなく、支配されるでもなく。これは東洋医学（また元は中国からのものですね）にも通じるところがあると思います。体の中の悪い部分に直接手を下すわけではない。体の中の流れを自然な状態に近づけることで体自体の力を使って健康を得る。いわば体の中の自然と調和する考え方。いずれにせよ自然に対して注意深くあること、自然と向き合う時間を増やすことが必要なはずですが、さてこれからどうなるのか。

最後に「スタイル」（英語だとちょっと変ですね）。世界と同じことをやるとしてもどういうスタイルで僕らはやるのか、ということです。たとえば「リーダーシップ不在」と言われますが、欧米のようなリーダーシップを求め、作っていくのか。別のやり方はないのか。たとえば雅楽には、管弦で16人もいる合奏なのに指揮者がいません。僕の先生によると「笙（しょう）は篳篥（ひちりき）に合わせ、篳篥は笙に合わせる」とのこと。鞨鼓という打楽器がテンポを取りはするのですが、それだけでなくまわりの呼吸を見ながら合わせていきます（僕はまだまだですが）。

あるいはちょうど1年位前にサッカーでよく言われた「闘争心」についてはどうか。韓国と比較され、世界で戦うためにはもっと闘争心が必要だと言われましたが、それが日本のスタイルなのか。たとえば「負けるとか勝つとかではなく『自在』であること」という考え方はどうでしょう？

日本人のよいところ、現在にも過去にも、おもしろいものがありそうだと思いませんか。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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