118ライフデザイン(2) 3つのフレーム

今週は前回に続いてライフデザインについて書いてみます。

前回との間に、「ライフデザインワークショップ」を開き、20名ほどの方に来てもらうことができました。そこでの話を軸に進めます。

■「Style」という視点

ワークショップでは最初にふたつのビデオクリップを見てもらいました。

Judy and Mary(JAM)の解散ツアーDVDから、最後の最後の曲「Over Drive」。もうひとつがThe Brilliant Green(TBG)の初期のライブからの映像で「Rock'n Roll」。どちらもボーカルがロリ系の女の子、楽器が男という黄金律に乗っています。

JAMの映像は解散コンサートの最終曲らしく、ボーカルのYUKIがガンガンに乗せていくステージで、東京ドームの幅100メートルはありそうなステージを走り回り、客をアッパーな状態に高めていきます。演出は完璧で、YUKIの手の動き、表情、ポーズ、シャウトまですべて計算されたムダのない動きです。YUKIをささえるギター、ベース、ドラムスの男性陣は緻密で乗りのよい演奏で答えていきます。ロックコンサートのひとつの頂点といってもよいすばらしいグルーブです。ラストは全員ジャンプで音とポーズが完璧に決まる。

一方TBGのステージは、曲のタイトルは「Rock'n Roll」ですが、いたってゆったりしたスローロック。ボーカルのTommyはさっぱりと整ったかわいさでだらっと歌い続けます。手の振りなんかもほとんどなく、マイクを持っていない左手はどこにやったらいいのか、持てあまり気味。でも音程がYUKIより正確で、ていねいに歌っているのがわかります。バックはアコースティックギター2本の掛け合いだけで、これまたシンプル。ギターの男性陣ふたりは、しかしよく聞くとかなり緻密で計算された演奏をしていて、見た目のだらっと感とは裏腹に、曲、音楽そのものをつくることにこだわっていることが、換算していくとわかるステージです。ただ、これもライブの最終曲なのですが、曲の終わりにTommyがマイクを持った腕を高く持ち上げてキメを試みるのですが、決めたはずの腕はぐらぐら、クチはだらっと照れ笑い、すぐあとの「ありがとう～」も、ゆるゆるです。

僕がこのふたつのステージを見てもらったのは、スタイル、やり方の違いについて考えてもらうためでした。

JAMもTBGも、デビューは90年代半ば、どちらもめざしているのはJ-Rock、バンドはロリ系の女性ボーカルとギター、ベースが男。JAMはドラマーもメンバーで、TBGはドラマーはスタジオミュージシャンがパートタイムで参加する3人バンドです。

音楽をリードしているのはどちらもギター/ベースの男二人、どちらのグループも音へのこだわりはとても深くて、音だけでなく、プロモーションビデオなど映像面の関心も持っているような、トータルアーティスト指向のギター/ベースです。詞をボーカルの女の子が書いているのも共通しています。

しかし、音楽のスタイルはまったく違っていて、JAMはアッパー系、TBGはダウン＆リラックス系。そしてこのふたつのグループを見ていて感じるのは、単に両者が違うということだけでなく、お互いに逆のスタイルをまねしようと思ってもできないか、もしくは、やってみたとしたら、疲れ果ててしまい、ロックをやること自体をいやになってしまうのではないかと感じさせることです。

ある程度共通する「資源」を使ってJ-Rockという音楽をやっても、現れ方がまったく違っている、しかもそれはお互いに互換性がない。逆をやれば「音楽そのものが嫌いになってしまう」かもしれないと感じさせる。

この違いを、僕は「Style」だと思う、とメンバーに投げかけました。

このような違いは、もちろんビジネスにもあります。Toshiさんはグロービスで学校というスタイルの教育をマネージし、つくってきました。決まった教室をもち、常に一定以上の質のサービスを提供し、常に質的な上昇をめざし、企業としての成長を実現する（急成長ではないけれど）ためのしくみをつくり、実際に動かすというアプローチをしてきたわけです。でもグロービスをやめてからはじめた英語のシャワーでは、ブランドを育てたり、しくみで動かしたり、成長をめざしたりというスタイルはやめて、逆に固定費を下げ、やめたくなったらやめられるようなスタイルを取り始めました。量の成長もめざさず、少なくてよいからToshiさん自身の目の届く範囲で実質的な動きが起こるようなアプローチをめざしているわけです。

これは英語のシャワーをビジネスとしてみた場合は「もったいない」状況ではあるわけですが、Toshiさんにとっては今のやり方の方が気持ちがよくて快適で、グロービスのようにやる道は今は取りたくないと考えているわけです。同じように志のある教育機会を提供しようと考えても、グロービス時代のToshiさんと今のToshiさんではスタイルがまるで違う。

こういうスタイルの違いは、周囲をよく見ていくと、あちこちにあり、そこを見つける目を養い、自分ならどうする？という味方をしていくことが、自分らしく生きるという「ライフデザイン」の基本になると考えています。

これは別の言い方をすれば、「自分のスタイルは自分だけのものであって、自分には自分のやり方しかできない」という自覚であり、「人のスタイルのまねをしていると、やっていること自体が嫌になってしまう」ということの自覚でもあるのです。

ワークショップに来てくれた、フリーランスのマーケティングプランナーは、「仕事が嫌いにならないように、マーケティングでクライアントに行く仕事は月50時間に限定している」と話してくれました。僕自身も同じことを考えいていて、たとえば本を書くスピードという点では、最短2週間あれば書けてしまいます。しかしそれではだんだん本を書くことがプレッシャーになり、嫌いになってしまう。8月に出る新刊の執筆では、あえて急いで書くことをせずに、1か月以上の時間をかけてゆっくり書いていきました。その方がよいことばかりではなかったのですが、基本的には書くことに追われず、プレッシャーが最小限ですんだので、悪くなかったと思っています。

■「Favorite」という視点

次に考えたのが、Favorite（お気に入り）という視点です。これは「やりたいこと」「好きなこと」＝what?を考えることとほぼイコールなのですが、「自分は何をやりたいのか」と考えるだけでは、自分がホントにやりたいことは見つからないようだ、という視点で、自分が好きなことを考えていくとどうなるか。

たとえば、僕はかなり以前から環境問題に関心があり、いろいろな本を読んだり自分なりに仮説を立てたりしてきましたが、環境活動をするボランティアにいったり、環境を教える大学に入り直したりといったことはしませんでした。理由をつければつけられるのでしょうが、やはり好きではなかったのです。

結局僕がやったことは、ひとつは「環境問題のMAPをつくる」という情報を総合するアプローチと、農村の地域に実際に家を造り（六兼屋）、自然の近くで生活をしてみるということでした。

環境をやりたい、環境的なことが好きで関心があるという人は多いのですが、環境というくくりでものを考えるのではなく、環境の中でも何が好きなのか、また同じ環境の中でも、何ならやりたくて、やり続けられて、何はやり続けられないのかを考えていくことが重要なのです。

僕の例で言えば、環境ボランティアに参加する人はそれなりにたくさんいますが、それをめざさずに、多くの量いくを総合・統合する知的活動が、僕にできる環境についての活動だと位置付けたところが、僕にとってのFavoriteなのだということです。環境についての研究ではなく、情報を集め、整理、構造化して統合する。研究する人はほかにもいるだろうけれど、情報を統合していく人はあまりないし、それは僕が得意な分野だ。

単なるWhat?を超えて、細部を突き詰めていくことで、自分が好きなこと、やりたいことの本当の姿が見えてくるのです。

ワークショップに来てくれている人から、ゴルフについて興味深い話も出ました。彼はゴルフが好きなのだけれど、グリーンに出るのではなく、練習場に行って練習するのが好きだ、というのです。自分なりの課題をもち、納得のいくスイングや球筋ができるようになるために繰り返し練習する。それが好きなのだと。

だからこそ、練習場にはこだわるといっていました。100ヤード以上はある距離、空間の気持ちよさ、清潔感やクォリティ、さらにコーヒーラウンジが重要なのだとも。練習の合間にコーヒーを飲みながら自分のゴルフを振り返ったり、次にやることを考える。そしてまた練習を再開する。そのためにはラウンジの空間の作り方がよくないとだめなのだ。こういう条件をクリアする練習場は数か所しかない、とか。

彼の場合、人に「好きなことは？」と話すとしたら「ゴルフです」と話して終わりになるか、相手がグリーンの話や○○プロや△△トーナメントの話を始めれば、それにあわせることができるのだと思います。しかし同じゴルフでも、彼が好きなのは練習場での時間です。ゴルフが好きだからといって、ゴルフ場のマネジャーをやっても、納得のいく時間にはならないのでしょう。

人に言うかどうかは別の問題としても、自分自身では「ゴルフが好き」ではなく、「ゴルフ練習場で練習をするのが好き」と理解しておく必要があります。別の言い方をすると、自分が好きなことを「ゴルフ練習場での練習」と位置付けられたとき、それは彼だけのオリジナルな「好きなこと」に変わるのだと思います。

自分の好きなことを糧に生きていこうと考えるときに、自分が好きなことが、一般的で、どこにでもあることだと考えてしまえば、その好きなことで自分が特別お金を稼ぐことができないような気がしてしまいます。しかし実際にはゴルフが好きな人というくくりをすれば「たくさんいて自分は特別じゃない」と感じられても、「ゴルフの練習が好き」と自覚してみれば、「それはけっこう特殊なことかも」と感じられるようになるかもしれません。特殊だと感じられれば、そしてそれがはっきりと自分が好きなことだと感じられれば、「これなら人に負けない」という自信につながります。自信の持てることなら、それを糧に生活をしていく可能性が生まれるのです。

What?ではなく、Favoriteで考えれば、自分に自信ができてくる。この領域をテコにして、やり続けても飽きない仕事を見つけることができる。これがライフデザインの基本ではないかと思います。

■「Money」という視点

最後のポイントが、Money、生活を成り立たせるしくみについてです。

ベースになるのは、自分がどのような生活をしたいのか、というイメージを具体的に描くことです。前回のコミトン116で、創造力を使って自分がめざす生活を描いてみる、という話をしましたが、それはこのMoneyの部分を考える大事なアプローチです。

好きな仕事をやっていくら稼げるのかというのはひとつの考え方ですが、一方で、こういう生活をしたいから、いくら必要、そのカネを好きなことで稼ぐとしたらどうなるか、という考え方もしなければなりません。

僕が本を書いて生活するということを考えてみます。定価1400円の本を書いて、初版7000部発売してもらえれば（決定権は出版社にあります）、初版印税収入は100万円ほどになります。本の場合、印税は通常定価の10％です。増刷すれば仕事をせずに収入になりますが、増刷できるかどうかは書いている時点であてにすることはできませんから、収入の見込みとしては、1冊100万円が基本になるでしょう。

年収（年商）1000万円を上げるには10冊書く必要があることがわかります。実際に本を書くには、企画段階、取材や情報収集、詳細な構想、執筆、校正などそれなりに工程が必要ですから、僕の場合、年間4冊書けばがんばったという感じで、実際3冊ぐらいでしょう。これでは300万円にしかなりませんから、ほかのこともやって収入を増やす必要があります。

僕の場合、講師をやるという仕事もできるのですが、レギュラーのグロービスで受け持つクラスを増やすという方法もあるし、企業研修をやるという方法もあります。その場合、どちらがよいのか、またどんな内容がいいのかを考え、またどんな内容ならニーズがあるかも考えなければならないし、環境のような新しいテーマで研修をしようと思えば内容やターゲット設定、カリキュラムを考える必要があるし、主催してくれる研修会社を探すことも必要でしょう。

一方、これまで何回かやってきたように、自分でセミナーやワークショップを主催してしまうという方法もあります。そもそも自分でやるというオプションを考えつく必要がありますが、考えついただけではだめで、受講してくれる人を集める方法や会場の用意、もちろんないようも決める必要があります。

しかし研修をやるというオプションひとつでもいろいろなやり方があり、それによって得られる収入も違えば満足度も違う、顧客から見たときのイメージも違います。どれが自分がやりたいことか（Favorite) 、どのようなStyleでやりたいか、それによって得られる収入が希望に近いのかで決め込んでいくことになるわけです。

僕の場合、ワークショップ形式は講師の立場に立つという「仕事」の中では一番ストレスが少ないやり方なので、これが一番気に入っています。こういうスタイルをとりながら、収入を上げていく方法が今のところ理想的なので、研修会社からの依頼のときも、ワークショップ形式ならやりたいと話したりします。研修会社のほうも、「何でもやります」といわれるのもよいでしょうが、「こういうのをやりたい」と言ってみると、意外に乗ってくれたり、検討してくれたりするので、言ってみる方がいいようです。どうせだめでもともとですから。

本でいくらぐらいの収入を上げて、研修でどのぐらい、コンサルティングでどのぐらい、とポートフォリオを組んで、だいたいの年間の収入を積み上げてみる。これが希望額に近くならないなら、少ない収入での生活を考えるか、量を増やすか、単価を上げる努力をしなければなりません。僕はなるべく単価を上げることを考えますが、上げすぎれば顧客からの信用を失ったり、来てほしい人が来れなくなったりするので、いろいろな考え方で値付けに自分なりの理由付けをして、やってみるしかありません。

こういうアプローチの他に、今ある仕事の中から考える方法もあります。今やっている仕事がおおよそ気に入っているなら、その中でやりたくない部分をやめてやりたいことだけにしたら、いくらの価値になるのかを考えます。年収1000万円の人にとってやりたくない仕事が3割なら、それはやめてやりたい7割だけを週3日でできないか考えます。うまくできそうなら、会社と交渉して契約社員にしてもらうという方法がありえるのです。今、会社は固定費をなるべく減らしたい時代なので、こういう交渉も以前よりは成立しやすいでしょう。実際に例もあります。仮に交渉に成功すれば、残った2日分の時間を使って、やりたい仕事して、それを売ることを考える。他者とも週2日勤務の契約に成功すれば、今まで通り週5日勤務で、もしかしたら今まで以上の収入を得られるかもしれません。あるいは2日間は、まったく新しいことにチャレンジしてもよいのです。趣味を生かしてネットショップを開くというようなオプションは十分ありえるでしょう。

FavoriteとStyleが明確になることで、そのやり方でいくらの収入がありうるのかが見えやすくなります。いわゆる市場価値がつかみやすくなるのです。自分がやれることの条件がはっきりすれば、契約社員のような交渉もやり安くなるし、何よりそこまで自分の仕事を限定して値付けのできる人なら、独立して仕事を任せられる人として社会が見てくれるようになるので、今の会社も、他社も、仕事を出しやすくなるのです。

さて、このあとに、なぜ40代のライフデザインなのか、という点を重ね合わせたいのですが、だいぶたくさん書いてしまったので、この件はまた次回にしたいと思います。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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