119 変化の時代の生き方

photo by paco

最近、変化についてちょっと考えることがありました。今、変化の時代であり、変化に対応できるように生きるべきだと言われるけれども、それはどういうことなのか。

■変化の時代に何を信じるか

確かに、かつては変わるなどと思われなかったことがいろいろ変わっています。たとえば、かつてはがんばって勉強していい大学を出て優良企業に就職すれば一生食いっぱぐれることはない、給料も上がり続けると思われていました。しかし、どうもそういう時代が終わったようにも見えます。あるいは、ある時期、土地や株式は値上がりし続けると多くの人が疑いもしなかった。しかしそれが崩れて困っている人たちがまたたくさんいます。

ということは、あらゆることは変わると想定しておくべきなのか。平家物語冒頭のように、今は栄えているものでもいずれは滅びる、今は強固に見えるものでも崩れる時が来ると考えているべきなのか。しかし、だとすると、何かを積み上げていくことなどはなかなか出来ない感じがします。また、次はどのように変わるのかを少しでも早く読むことこそが勝負のポイントのようにも思えます。

しかし、これはちょっとさびしい。たとえば職場のベテランや社会・家庭の年寄りの知恵。時代がどんどん変わってしまうから、彼らの知恵はなかなかこれから生かせなくなるのか。子育てでおばあちゃんがアドバイスをしたいと思っても、「おかあさんの頃とは違うから」となってしまうのでしょうか。極論すれば人にアドバイスを聞くことなど意味がなくなってしまうのでしょうか。

でも、逆のことにも最近よくでっくわします。pacoさんの里山ワークショップに出ていた時のことです。「昔の人たちは雑木林と田畑、そして川の間で絶妙の循環をつくりあげていた」　これに限らず最近、日本人の伝統的な知恵を再評価する声は増えてきている気がします。com2MLで着物の話が出ていたのもその一つでしょう。つまり古いものが使えないとは限らない。

とすると、変化についてどのように考えたらよいのか。仮説としてぱっと頭に浮かんだのは次のようなことでした。

まず、やはり変わるものと変わらないもの（ゆっくり変わるもの）がある。
変化には法則性あるいは傾向がある。その傾向はそうは変わらない。
変わらないものの中には、物理の法則のようなものがある。すると、それ自体は変わらないが、そこに入ってくる値が変われば結果は変わる。それをみて法則も変わってしまったように誤解することがある。

これらはまだ思いつきです。でも、こんなことを頭に置きながら変化について考えてみることはちょっと意味がありそうです。そういうわけで長い前置きになりましたが、今回は変化について考えてみようと思います。なお、これもまた「ちょっと考えてみた」という段階の話なので、くっきりはっきりした結論は出ていません。そのかわり、ふだんどんなふうにものを考えているのかというプロセスをお見せしようと思います。

■ここ2、30年で増えたもの、減ったもの

まずは手始めに、どんなことが身の回りで変わってきたのか考えてみることにしました。そこから考えることにしたのは、おもしろそうだからです(^_^)（脱線しますが、僕がものを考える上で「おもしろそう」というのはとても重要です。考えた結果、実現することがおもしろいか、考えること自体がおもしろいようなことか、いずれにせよおもしろくないと考える気がしません）。というわけで、たとえば、20年前、30年前に比べて増えたもの、減ったものをあげてみるとどうでしょうか。

増えたもの、新たに出てきたものとしては、まずは携帯電話やパソコンが筆頭に上がりそうです。となると電気関連、特にAV系がぞろぞろ上げられそうですね。DVD、MDなんてのも割と最近までなかったものだし、ウォークマンもファミコンも出てきたのはたった20年くらい前でした。ビデオやラジカセはもう少し前からありましたが、それでもすごく昔までさかのぼるわけじゃない。そのかわりに減ったものは？　僕はあまり思い当たらなかった。カセットがMDに取って代わられたようなことはあったにせよ、これらの分だけ家の中には物が増えた気がします。楽しみ系に話が行ったのでそちらを攻めると、海外旅行は本当に増えましたね。外国の料理や食べ物を食べる機会も増えた。世界は小さくなった感じがします。そういえば洋書を入手したり外国の放送を見るのもずいぶん楽になりました。

あと、pacoさんのおかげで環境に興味を持ち始めたせいか、昔に比べると増えたと思うのはゴミです。特に多いのがパッケージ（包装）類。スーパーやコンビニでものを買うことが多くなった今、トレイ、カップ、袋などは本当に増えた。スーパーやコンビニといえば、ものの売り方も変わって来ましたね。コンビニやファーストフード、ディスカウント・ストアが増えた一方で、町の商店街にあるようなお店は今の店主の代限りという感じのするところがけっこうあります。

街に目を移してみると、鉄筋の家や高層マンションが増えた一方で、木造の家、それから原っぱはだいぶ減りました。僕が子供の頃は杉並でも原っぱや雑木林、畑もあって（養鶏場まであった）、こどもたちは原っぱを猟場のようにめぐりバッタやトンボ、チョウをつかまえていました。そういえば、今は大人も子供も移動の時以外、あまり外にいないような気がします。代わりに外でよく見かけるようになったのはカラスとネコ。

...というように考えていくと、まだまだいろいろ楽しめそうですが、いったんまとめてみます。上のようなことから、僕らの生活の変化にどんな傾向が見られるでしょう？

まずは「便利になる」というのがあげられるでしょう。携帯電話、インターネット、コンビニ、ATMの時間延長等々。便利になる方向には人はどんどん動いていく気がします。そういえば（上には例を上げませんでしたが）便利とちょっと重なるものとして「楽になる」というのもあります。紙おむつの登場、洗濯機の進化をはじめとして、主婦の仕事に関わる部分にはそういう変化がたくさんありました。楽になるのをビジネスをやる側にあてはめると「効率」につながってきます。生鮮品をあらかじめトレイに入れてしまうというスーパーのオペレーションは、お客が来たらはかったり包装したりしているよりずっと効率がよさそうです。客が自分で商品を取るのも効率アップにつながります。買い物が一箇所で済むという客の側の効率もありました。もちろんコスト安という効率もあります。

「楽」という字から連想できる「楽しみが増える」という傾向もあります。テレビゲームの普及はその代表例。海外旅行や海外からの食べ物の普及もそう言えそうです。ただしここには「それって本当に楽しみが増えたのか」という反論がありそう。昔もみんな工夫をしながら遊んでいたし、それはそれで楽しかった。テレビゲームをやってそれ以上に楽しくなっているのか？　ここには人のまた別の傾向というか欲求があるように思います。

一つには個人化。他人を気にすることなく遊びたい。自分だけのものにしたい。テレビが一人一台になっていたり、携帯電話が普及したりというのはそういう面もありそうです。核家族化や結婚年齢が上がっている/結婚しない（できないのとは違う）人が増えているのもそういうことかもしれません。ただ、「個人化」は単純にどんどん進むわけではありません。人とつながっていたいという気持ちも人にはある。この二つをどう両立するかを考えるのは、これからを考える上で意味があるように思います。

もう一つは非日常を好む面。自分の周りの現実とかけ離れたものも欲しがる傾向が人にはあるように思います。たとえば日常が平穏であればあるほど、刺激的なものをどこかに求める。戦国時代の武士たちが娯楽に静けさを求めたのはこの逆とも言えそうです。やがて海外旅行が本当に当たり前になってしまったら、あるいはそういうことはやりつくしてしまったら、僕らはたとえば庭いじりに向かうかもしれません(^_^)。

■変化の欲求の方向を押さえていると...

と、いくつか例を挙げてみましたが、他にも「より清潔に」とか、単純に所有欲とかありそうです。でも、これを全部上げることが今回の目的ではありません。このように、変化の欲求にはある方向があることを押さえておくとよさそうだ、と確認してみたかったのです。

たとえば世の中の現状を「これではまずい」と思っている人の場合、ただ「変えるべきだ」と叫んだり、やみくもに行動しても風車に向かうドンキホーテになってしまう。でももし、人間の欲求の傾向を利用することができれば、楽に実現できる可能性がある。また人間の欲求自体が問題を起こしているとすれば、それをなんらかの方法で満たしながら問題だけをつぶす方法を考えるべきかもしれません。たとえば携帯やテレビゲームによって人の孤立化が進んでいるからよくない、これをやめさせよう、と言っても、個人化を求める流れを止めることは不可能でしょう。

しかし人には「人に認められたい」「人とつながっていたい」といった欲求もあります。こちらをうまく刺激することができれば、またここで「成功体験」を持ってもらえば、個人化が進んだとしても、人のつながりも失われずに行くことができます。ちなみに英語のシャワーをやっていてこれは強く感じます。みんな第三の場、気楽に交流できる場をすごく喜んでいる。僕としては「ただ内輪で集まる飲み屋にはしたくないよ」と思っているのですが、ただ人とおしゃべりする、ということも人にはとても楽しいみたいです。

話を戻しましょう。変化の方向を押さえているとよい次のケースとして、ビジネスで成功したい人の場合があげられます。上のような変化の方向を先読みするのはすぐ思いつけるところです。「もっと便利に」「もっと楽に」等々考えてみれば、まだまだ満たされていない分野はたくさんあります。もちろん実現は一筋縄ではいきません。でも、便利さや楽しみ追求からいつの間にかはずれて細かい改良をいつまでも追及して「なんだか複雑でよくわからない」などと言われてしまうのは情けない。

またかつてあった「これからはインターネットの時代だからそこに就職しよう」ではあさはか過ぎたこともすぐわかります。インターネットは変化の欲求を満たす一つのツールに過ぎません。インターネットで新たに出来ることが終わってしまったら山は次のものに移ります。ということをわかった上で「インターネットの何かが好きだから、あるいは得意だから」そこでやり続けようと考えてやるというのは一つの考え方。あるいは「変化の先端にいたい」ということで、あるときインターネットに入り、変化が止まったら次の変化の先端にある産業に移るというのもまた一つの考え方です。ただしそれぞれで必要なスキルは変わってきます。

「変化の副作用」も押さえておくべき一つのポイントでしょう。たとえば、楽とか便利ということで、インスタント食品がはやりました。ラーメンとか「○○の素」だけではありません。そばつゆもドレッシングも麦茶も、梅干もおしんこも昔は家でごく普通に作っていたのに、今は買ってくることが多い。で、「それでいいのか？」というのが必ず出てきます。「家庭の味が失われる」「愛情が感じられない」「体によくない」...。そこで、こういったことを気にする人のために「家庭の味」も両立させることを考える。もちろんすべて昔に戻ってしまうのではなく、好みの差が大きく出るところを自分で調節できるようにするとか、やっていておもしろくできるところは手間をわざわざ残しておくとか。

■経験や知恵はどこで役に立つのか

さて、これまで「何が変わるか」について考えてきました。でも、もうひとつ気になるのは「何が変わらないか」です。せっかく積み重ねてきた経験や古くからの知恵を役立てるには、何が変わって、何が変わらないのかを押さえておきたい。

たとえば「変わらないなあ」と思うのは、人間です。一見これまでの話と矛盾するようですが、人には変わらないところがたくさんあると思いませんか。これを示す一つの例がビジネス・スクールで使っているケース（事例）です。ファイナンスやITのように技術が大きく関わっているところでは、ケースはすぐ古くなってしまいます。マーケティングにも、ややそういう傾向があります。ところがリーダーシップやチームワークという分野はけっこう古いケースでも使えます。ケースどころか、戦国時代や三国志にまでロールモデルを求めようとしますよね。これは人間の性がそうは変わらないからでしょう。ほめられるとうれしい、メンツをつぶされるのはいやだ、失敗するのはこわい、失うもののない人は強い...こういったことについて、そうは変わらない。

「でも、変わっていることもある。親となんて全然話が合わないし、最近のこどもたちが言っていることはちんぷんかんぷん」という声がありそうです。それは一つには、上で書いてきた「変化の欲求」が原因なのでしょう。たとえば「個人化」の欲求があるために、親たちの世代の方が「世間」「家」を重視するのに対して、僕らはより「個」を大事にしようとする。そこで話がかみあわないことは確かにあります。

もう一つにはそれぞれ基準点が違うこと。たとえば終身雇用の中でずっとやってきた人にとっての「ふつう」と、終身雇用が崩壊した後で就職した人にとっての「ふつう」は全然違う。

ということは、こういう、流れや状況の違いで補正した上で人を見ていくと、人に関する経験や古い知恵はかなり活用できる気がします。たとえば教育。「楽しければもっとやりたくなる」という人の性は変わっていません。「新しいことがわかったり出来たりすると楽しい」「それを使ってこんなことができるとわかると楽しい」「受身だけでなく自分も参加すると楽しい」「生徒全体としてでなく自分を一人の人として見てもらえるとうれしい」「冗談とか折りまぜてあると楽しいし、実はそこをよく覚えていたりする」といったことはきっといつもある。

だからそういうノウハウや姿勢は長いこと役に立ちます。でもたとえば「こんなことができる」という時の「こんなこと」はその時代によって変わっていきます。またこれらを実現するために使える手段も変わっていきます。そこでそういう部分は常にアップデートしていく。そのように

変わらないものを蓄積していくことと
変わるものを取り入れたり、それに対応していくこと

の両方が出来ると、時がたてばたつほど、すばらしい教育が出来るようになります。

これと同じことをたとえば育児について考えられれば、おばあちゃんの知恵が孫の育児に役立つこともまだまだたくさんあるのでは。何が変わっていて何が変わっていないのか、双方が理解をしようとすることが要件となりそうですが。そして、ただ「何が変わる」だけではなく「なぜ変わるべきなのか」のか、またなぜ「これまではこうなのか」を理解しておくことが重要でしょう。それをじっくり考えていないと、かつて日本人が持っていたよいものをあっさり捨ててしまったのと同じことが起きそうです。

■変化の本質、変化しない本質

さて、変わらないものについて、別の見方もあります。本質は変わらないが状況は変わる、だからそれに対応してものごとの形も変わる。しかし、それは本質が変わったわけではないと。たとえば変わらないと思っていた終身雇用や年功序列は変わってきています。しかし「存続を追及する」という企業の本質は変わっていない。だからこそ終身雇用や年功序列は変わったわけです。なぜ変わったかというと、「状況」が変わったから。たとえば経験のあるものの方が成果を上げられる時代から、そうとは限らない時代に変わってしまったため年功序列では合わなくなった。ということは、ものごとの本質（に近い部分）は変わりにくい、逆に本質から遠いほど、（変わらないように見えても）変わる可能性は高い、と考えておくことはできそうです。

さて、まだまだ「変化」について言えることはいろいろありそうですが、長くなってきたので今回はこの辺にします。最後に、今、頭に浮かんでいることを並べておきます。

産業革命とか幕末、戦後のように大きな変化がおきた時がありました。そのような大きな変化がどうやって起きるのかに少し関心を持っています。よい変化は加速したい。悪い変化は（非常に難しそうだが）止めたい。有事関連法案あたりから気になっています。
上で「本質的」「変わらない」と書きましたが、ボーダーにあるものはなかなか見極めが難しい。そこでずっと頭にあるのが、以前に大学時代の先生が言っていたことです。「我々が『ずっとそうだった』と言っていることの中には、つい最近の50年のことでしかないことも多い。それが『ぶれ』に過ぎないのか、変化のはしりなのかは見極めが必要です」
また別の人が以前に言っていたことです。「これはおかしい、ということは絶対に変わる」それは酒類や化粧品のディスカウントが出始めたことの話をしていたのでした。確かに僕も「おかしいことはいずれ変わる」という感じがしています。金融機関の現状も株や土地がここまで下がったのもそういう一つだと僕は思っています。でも「いずれ」じゃなくて、もっと早く起こすには？

変化について、引き続き考えていこうと思います。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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