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Photo by paco.


 

今回はライフデザインの3回目です。

どんな生き方をするにしても、お金なしには生きられないのが現代。またやりたいことをやり続けるためにも、やりたいことやめざす生活に見合う収入を継続的に得ることが必要です。

こうすれば十分なお金が稼げる!といえればよいのですが、もちろんそんなことを説明することはできません。やりたいことをやることと、お金を手に入れることとの関係を整理することで、自分なりのお金の絵方を見つける切り口をつかんでもらうことができないか、というのが、ここで考えたいことです。

■「今の仕事」でお金についての考え方を練習する

「コミトン118 ライフデザイン2 3つフレーム」の最後のところで少し書いたのですが、お金について考えていくときのひとつのアプローチは、今の自分の仕事を分解してみるという考え方です。今の仕事がある程度気に入っていて、そのまま続けるのも悪くないし、社会的な意義もけっこうありそう、という場合を想定しています。あるいは、年齢的に、近いうちに会社を辞めるという選択は難しいだろう、というような場合も含まれると思います。

ワークショップの時に例として紹介したのですが、「プレジデント」誌2003.05.19号(70p)に、45歳の後藤さんという人が載っています。今、インターネットサイトの運営や構築のアドバイスや運営を行っていますが、ふたつの会社と契約しています。フリーではありません、ふたつの会社の「社員」なのです。

くわしい経緯は記事本体を見てください(5MB近くあります、注意してください。ほかのページも参考までに入っています)。

彼は、自分がやりたいことを社内でできないかと考え、(おそらく)「一人事業部」としてネット関係の仕事をやりたいと提案して、認められました。それも、勤務は週4日だけ。その仕事をやっているのが自分だけなら、部下を管理する仕事もいらないので、自分でコントロールできる仕事だけを受けて、その売上で会社に貢献し、その中から自分の報酬が得られるように交渉したわけです。

「自分のやりたい仕事、しかもこれまで会社では実績のない仕事だけをやる」
「勤務は週4日だけ」

という条件は、社員の立場から見ると、会社には受け入れられないものだと考えるかもしれませんが、あながちそうともいえません。会社にとってのメリットもあるのです。

  • インターネットという、有望だけれどリスクも多い事業を、低リスクで始められる
  • 担当するのは、これまで会社で実績がある人だから、信頼感がある
  • 新分野に取り組める人を外部から採用するのは難しく、コストがかかる
  • 後藤さんはからだが弱く、現状の激務には耐えられない。「使いつぶす」という考え方もあるものの、実績のある人を生かすのもよい方法と考えられる

事業環境の変化が厳しい時代では、固定費を抑えられるのはそれ自体魅力。契約社
員は会計上は「固定費」だが、正社員よりは解雇しやすいという点で、歓迎されやすい。

こういった会社側のメリットを計算し、自分のメリットと一致させることができれば、会社が困難な条件を受け入れる可能性はゼロではありません。中堅企業なら経営者の判断で十分できるでしょうし、大企業なら関連会社の契約社員扱いにするなど、方便を使うことができるようになるでしょう。

その際、重要なことは、自分が提案するやり方で、会社側が低リスクで相応の利益を得られえるということをしっかり理論武装しておくことです。たとえば、

  • 自分がいくらの仕事をすることができるか
  • そのうち自分の報酬としていくらほしいか
  • 会社はいくら受け取れるか

という基本的な採算性を考えます。その際、重要な基礎知識として、企業が仕事を出すメリットがあるのは、おおざっぱに言って、売上から契約社員へ払う報酬が50%以下だという事実です。「半分かそれ以上も会社に持って行かれるの?」とむっとしそうですが、人を雇って仕事をさせるには、福利厚生費などの会社負担分があるし、仕事がなくても雇っておかなければならないこと、オフィススペースが必要なことなど、会社の負担を考えると、「会社と自分が折半」というのはひとつの標準的な解になると覚えておいてよいと思います。逆に、モバイルコンピューティングを活用する、営業だからオフィスのデスクは不要、福利厚生は自前、など会社の負担を減らす条件を出せば、多めに報酬が取れる可能性があります。

金銭面で言えば、「もし自分ではなく、新規に採用してその仕事をやらせたとすると会社の負担はどうなるか?」と考えてみる方法もあります。採用コストは専門職やマネジャークラスではひとり数百万にもなるため、これがなくなるだけで半年分の報酬ぐらいはもらっても引き合う、と計算できます。仮に週4日で、年間の会社の売上が1000万円、自分が受け取る年俸500万円で契約すれば、万が一売上が500万円に低迷しても、会社に実質的な負担はかけていないことになります。

次に、自分がやりたい事業が会社の事業と整合性がとれたり、シナジーがおこせるか。後藤さんの例では広告とサイト運営はかなり近い領域だったために、ほどよい距離として理解されたのだと思います。

後藤さんがここまで考えたかどうかはわかりませんが、会社と仕事、個人への報酬の関係をこの程度まで深めて説明できれば、会社も理解してくれる可能性が出てる、と考えられるのです。

■自分の価値を知る

実は、このような考え方は、よくあるキャリア関係の本に出てくる「自分の市場価値を知る」というのと、ほぼ同じなのです。自分の力では、年間いくらの仕事をすることができて、そこの中から半分を自分が受け取る権利がある。これが自分が得られる報酬の基本的な考え方です。

別の見方をしてみましょう。

今、営業のプレイング・マネジャーをしていて、年収(年俸)が500万円だとしましょう。自分はマネジャーには向かない、営業の現場にいたいとすると、自分が売り上げている学の半分が、自分の報酬になると考えられます。もちろん、物を売る仕事の場合は、原価を引いた粗利を分母にしてください。3000万円分の物を売って、粗利が2割なら、年間で稼ぎ出している粗利は600万円。自分は300万円を受け取ることができる、というわけです。となると、自分のマネジャーとしての報酬は200万円ということになります。

マネジメントをやめて営業専門の契約社員になるとすれば、現状の売上にとどまれば年俸300万円。しかしマネジメントがなくなった分、売上を年間2000万円増やせる自信があれば、500万円で契約できるでしょう。

設計職のように、自分の貢献度がわかりにくい場合は、それを外注するとしたらいくらかかるかをベースにして、貢献度を出すとよいでしょう。

簡単に言えば、今やっている仕事をベースに、やりたい仕事だけを残し、やりたくない仕事を辞める条件で契約社員になるとすると、いくらもらえそうかを計算してみるというのは、重要な一歩になると思います。

■報酬ダウンは避けられない?

しかしこのように考えていくと、たいていの場合、「自分の仕事のうち一部を手放す代わりに、報酬を減らす」という縮小思考のアプローチになってしまいます。つまり好きなことだけをする代わりに、報酬ダウンを受け入れるという考え方です。

まず、こういう縮小均衡の発想で、どこまで減ってもやっていけそうかを考えてみるとよいかもしれません。ワークショップのときも「実際に会社を辞めて独立したら、収入は半分になったが、生活では困らなかった」と話してくれた人がいました。忙しかったときは、深夜残業や接待も多く、個人負担のタクシー代や食事代がかなりの額になった。これらの支払がなくなったので、収入が減っても実質的には変わらない、というわけです。自宅で食事がとれるぐらい働く時間が減らせれば(本来、それは当たり前のことなんですが(^_^;))、当然食費も少なくなります。多忙だとストレスがたまり、買わなくてもよいものを衝動買いしていたことに気がついたという意見もありました。

時代はデフレですから、まず減った場合どうなりそうかを考えてみるのは悪くない発想です。

しかし必ず減ることを前提にする必要はありません。というより、できれば「前より増やす」ことをねらってほしいと僕は思っています。

たとえば、前出の後藤さんは、現在、元もとの会社に週2日勤務、別の会社と契約して2日勤務の、週4日の仕事です。週4日でウェブサイトの仕事ができるなら、別の会社とも週2日で契約することができるはずです。ならば、自分の体力と見合った週4日勤務(2日×2社)という勤務形態も可能のはず。

残念ながら収入がどうなったのかは情報がないのですが、この分野の仕事は、仕事ができる人ならニーズはありますから、満足のいく報酬を得られている可能性は十分あります。以前、マネジャーだったときは激務だったでしょうから、その報酬が高かったとしても、しょせん長続きしていないと見れば、報酬の頂点から上がったか下がったかではなく、自分が望む仕事量に対して満足がいく報酬かを考えればよいのです。

このような「ダブルワーク」は、正社員より不安定に見えますが、実は「安定している=リスクが低い」ともいえる点にも注目すべきです。今は大きな会社にいても倒産のリスクもあるし、事業部が再編でなくなる、事業は存続しても自分が解雇されるといった可能性は決して小さくありません。1社で5日勤務なら、それはそのまま「失業」を意味しますが、複数の会社との契約なら、他方の1社は仕事が続けられる可能性があります。また、もし自分がやっている仕事自体がなくなったり、売上ダウンになる運命が待っていた場合も、1社とは企画の仕事、別の4社とは制作の仕事で契約しておけば、一度の仕事がなくなってしまうリスクを下げることができます。ダブルワーク、トリプルワークは、個人のリスクヘッジのためには、むしろ積極的に活用したい方法ともいえるのです。

■Favoriteをどうやってカネにするか?

さて、「自分にできることを報酬に変えるしくみ」がわかったところで、そもそも「自分が好きなこと、やりたいことはいくらの金を生み出せるのか?」という点について考えてみましょう。

前回のコミトン118号で考えた「Favorite」と「Style」の両方を満たす仕事が、はたしていくらの「売上」を生み出せるのか、という考え方です。

自分がこんなことをやりたいということに対して「それは年間1000万円にはなりますよ」といえれば簡単なのですが、実際には個別の事情になるので、もちろんそんなに簡単にはいきません。あくまで考え方の一例を提示することしかできないのですが、ワークショップのパート2を来週予定しているので、そこで出てきたいろいろな例から、また次回深めてみたいと思っています。

僕の友人で、本業はDTPオペレータ、趣味はマウンテンバイクという女性がいます。年齢は伏せますが、「若者とはいえない」年齢で独身です。休みを見つけては長野県のスキー場にあるマウンテンバイクのスクールに行き、若者、それも男たちに混じって自転車を楽しんでいます。

「好きなことは自転車」という彼女に話したのは、こんな話です。まず「What?」は自転車。「Favorite」は、元気ばりばり、若者ではない人が楽しむマウンテンバイク。その中には、スピードを競うのとは違う楽しみ、自然の中でダウンヒルを下る爽快感などが入っているのだと思います。若い男たちとアウトドアで楽しむというのも、女性にとってはうれしいことかもしれません。

それと、彼女の仕事の能力であるDTPという印刷関係の知識を掛け合わせて、何かできないかを考えてみます。

まず、彼女のような妙齢の女性が男っぽい自転車スポーツの場にいること自体の価値がありそうです。興味がある女性がいても、入りにくいという場合、女性が一人でもいて、しかも「必ずしもうまくないけど、自分なりに楽しんでいる」ということ自体が、安心感と励みになる可能性があるでしょう。このことは彼女自身は気がつきにくいのですが、外から見るとぱっとわかることです。自分の価値を考えるときには、外から見てどうなのかをうまく見つけることがきっかけになります。

もし、「女性でも、体力が少し落ちていても、若くなくても、楽しくやれるということを体現している」ことがひとつの価値になるなら、それをどうやって実際のお金にすればよいかを考えてみます。今の資本主義社会は、ありがたいことに、価値のあることにプライスをつけるしくみを考案すれば、お金が回るようになるのです。

一例としては、「広告塔になる」というアプローチがあります。いきなり「アイドル」のように露出するのをねらうのではなく、たとえば、そのスクールのサイトで「女性や中高年のための楽しみ方アドバイス」というようなコーナーを作ってもらい、そこで自分の実際の楽しみ方や、体力がなくても楽しめるノウハウなどを書いて見るという方法があります。自分の体験なので、情報を新たにとることもありません。パンフレットの下の方に「こんなヒトもいます」として「まな板に乗って」露出するという方法もあるでしょう。

そのうち、これを見てそのスクールに来る人が増えてくれば、それが彼女の生みだした「価値」になります。一定量が見込めれば、「こういう人が来た場合は、自分にマージンをくれ」というか「一定の広告効果があるのだから、年間契約でいくら」としてもよいでしょう。つまり特定のマーケットに対する広告を代行するサービスを提供するわけです。

彼女の場合DTPの知識を応用して、専用パンフレットをつくるとか、ウェブサイトに専用コーナーをつくり、その運営をする代わりに、そこ経由での顧客の分は報酬を受け取るというような契約もありえます。これを延長すれば、自転車ショップにパンフレットを置かせてもらい、そこからサイトに誘導して、さらにスクールに来てもらうというルートをつくれるかもしれないし、いつも行っているスクールだけでなく、ほかのスクールと同様に契約を結ぶことで、「(30代以降の)女性のためのマウンテンバイクの楽しみ」を伝えることで顧客を増やすというビジネスを、展開することができるかもしれません。ここまで来れば「起業」に近くなります。さらに……とこれ以上は妄想のたぐいになりそうなのでやめておきます。

大事なことは、自分のWhatとStyleの接点に自分だけの社会的な価値があるはずだという見方で、価値を探すことです。価値がはっきりすれば、それをお金に換える可能性を、見つけやすくなる。

もちろん、「必ず見つかる」とはいえないし、見つかっても「お金に換える力がある」かどうかは別の問題ですが、まず価値を発見しないことにはMoneyにもつながりません。

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ということで、今回は、自分の価値を絞り込んで発見し、お金に換える可能性について考えてきました。これからも、リファインしながら、このテーマを追いかけてみたいと思っています。「自分の場合、こう思う」という意見を、ぜひ聞かせてください。それをもとに、また情報面でお返しできるかと思います。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「人生に役立つ論理力トレーニング」(幻冬舎)「<意思伝達編>論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解&キーワードで読み解く 通信業界」(かんき出版)、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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