121 住みたい町を探す～行政を見る

photo by paco

この間、コミトン117に今年の後半のプロジェクト？として引越しを考えているという話を書きました。今、少しずつ調べ始めたところですが、引越しに関係あることもないことも、ちょっとおもしろいことが見えてきました。今回はその話を書きたいと思います。

■どうやって場所を決める？

普通の引越しだと、会社の場所がどこそこだからその沿線とか、実家がどこだからとか、土地勘があるとか、ある程度、領域を限定するものだと思います。しかし僕の場合、あまりそういう要因がないので、かえって「どこからさがすかな？」という感じになりました。

まず、コミトンに書いた引越し先の条件は次のようなものでした。

週に 1回はちょっとした自然に触れに楽に行ける
町が生きている（＝「店主」的な人たちがけっこういる）
都心へのアクセスも悪くない（40分程度まで）
できれば庭かそれに近いところで野菜作りがしたい

まず見てみたのは最初の条件から、里山や森林ボランティア関連の情報でした。「自然に触れる」といってもいろいろな形があると思います。僕の場合はpacoさんから話を聞いていたり、高知で枝打ち体験などするうちに、森や緑、そしてそこに人が関わるという形をイメージしたわけです。そこで一番参考になったのは「もりのくににっぽん運動」のサイトにあった「森林づくりボランティア活動情報一覧」という情報です。まずはこれを見ながら東京とその近郊の地域をリストアップしてみました。そして上がってきたのが国分寺市、所沢市、船橋市、横浜市、川崎市といったところです。

次に「町が生きている（＝「店主」的な人たちがけっこういる）」というのをどうやってさがそうか、と考えました。ぱっと思いついたのが言葉そのものから「商店街の元気なところ」をさがしてみることです。これはネットでさがすと「全国商店街振興組合連合会」のサイトにまさに「元気な商店街」という事例紹介があったのでそこを見てみました。これだけからでは「店主」的な人がいるのかとか、どう元気なのかとかはよくわからないのですが、出発点にはなりそうです。里山関連から出てきた地域のうち特に「横浜市は二俣川あたりを調べてみようか」とかまた別に「川越もいいかも」というようなことも出てきました。

もう一つ「町が生きている」ことの指標としてみてみようと思っているのが市民活動です。ただ、これはまだほとんど何も見ていないので、今回は省きます。

そして三番目の条件「都心へのアクセス」。今回の条件で確認するのが一番簡単なのがこれです。ただ、これで「ここ」と特定の場所が決まるわけではないので、他の条件とあわせて絞り込むことになります。またこれは僕らにとってはサラリーマンほど重たい条件ではないので、もし他の条件面でよかったら、アクセスは少し犠牲にするかもしれません。

■家庭菜園がやりたいだけじゃない

そして庭で野菜を作る話。そんな庭のある家が賃貸で、しかも適当な条件で見つかるのかは全然わからないのですが、今のところあまり気にせずにいったんエリアの候補を決めようとしています。ただ、単に庭のあるところというだけでなく、身近に畑がそこそこある場所にしたいと思っています。

というのも、今回ベランダ菜園をやっていても、本やホームページだけだとなかなかわからないことがけっこうある。たとえば家庭菜園の本には病気や害虫の写真がなぜかほとんど載っていない。虫を見つけても病気を疑っても想像するしかないし、目黒では近くに聞ける人もいなさそうです。また、こんな話も。きゅうりが全盛期を過ぎてそろそろおしまいかなあと思っているのですが、まだがんばってつるは伸び、花が咲いています。ただ、なぜか雌花しか咲かない。当然、雄花がないと受粉できないので実にならずにそのまま枯れてしまいます。実になるはずの部分がそのまましおれて黄色くなるのを見るとなんだかかわいそう。もしまわりに畑がそこそこあったら虫がきて自然に受粉することもありそうだし、雄花をもらってきて受粉させることも出来ます。

というわけで、畑がそこそこありそうな住みたいと思うわけです、でも、これがまた、ただ畑があるというだけなら、23区内にも世田谷、練馬にはそこそこありますし、市部ならばほとんどの地域には畑があります。だから大して悩むようなことじゃない。そこでもう一歩進んで、行政が農についてどういう考え方をしているかを見てみよう、と考えました。

今の一般的傾向がそのまま進むと、農業をやる人は減り、それも年配の人ばかりになります。畑や田んぼも減っていきます。しかし僕としてはそれは望ましくないと考えていて、畑や田んぼ、森や林が街とつながっているようになるべきだと感じています。そういったことを行政や地域で考えているかどうかを見てみようと思ったわけです。またそういうところであれば、ひょっとしたら自分が何か手伝えることが出てくるかもしれません（情報を発信していくとか）。

というわけで、まずは里山関連情報で浮かび上がってきたいくつかの自治体のホームページから見始めました。すると「農」に関すること以外にも自治体について興味深いことが見えてきました。

■行政－よらしむべし、しらしむべからず

まずは比較の題材として、今住んでいる目黒区を見てみることにしました。

目黒区は、いつもgirl friendが感心しているのですが、サービスがなかなか充実しています（お金があるからかなあ）。たとえばなかなか豊富な図書館の蔵書は家からネット経由で検索できるし予約することも可能。借りた本を区内のどこの図書館で返してもOKです。これが他の地域でどの程度出来ているのか、大して調べたわけではないですが、僕が前に住んでいた文京区や、今回調べた中でも国分寺市にはネット検索システムはありませんでした。僕自身が一番使っている目黒区のサービスは近くの小学校にある割ときれいな温水プールです。1回300円で一般開放されていて、ゆっくり泳げることと受付にいるおばちゃんがみんな感じがよいことが気に入っています。

また、区による社会教育も盛んで、国際交流・語学、いけばな、お茶、絵画、囲碁・将棋、各種スポーツ、社会問題等々、あらゆる講座をとても安く受講できます。目黒区のホームページからここを見てもらうとその豊富さがわかると思います。なお、その講師は半ボランティアの人が多いようです。

一方で、ホームページを改めて見て、ここが変わるとよいのにと思ったことが二つありました。一つは情報が少ないこと。上述の蔵書検索などはとてもよいのですが、たとえば目黒区についての情報をネットで見ようと思っても人口くらいしかわかりません。全体的にそういう感じで、たとえば「落ち葉ンク」と名づけて落ち葉を集めて活用するという区の施策を紹介しているのですが、ホームページにはいくつかの写真と一言があるだけです。それに参加するために何をすればよいのか等はその場に行ってみるか電話で問い合わせないとわかりません。

もう一つのポイントは上の「情報のなさ」と関わっているようにも思います。それは、区政がどういう方向に向かおうとしているのかの情報がないということです。わずかに「区政の動き」というページに「区民主体の街づくり」というタイトルで少し書かれているのですが、その内容がどうして区民主体の街づくりなのかは読んでもわかりませんでした。このあたりは、次に触れる三鷹市とはだいぶ感じが違います。

これはもしかすると後ろに「よらしむべし、しらしむべからず」という発想があるんじゃないかなあ、という感じがしました。住民が欲しいと思いそうなものについてはそつなくそろえている。そのサービス提供に市民も参加していたりする。しかし「この街をいっしょにつくっていこう」と市民を巻き込むとか、「こういうふうにこの街を変えていこう」と呼びかけるということはあまりない。考えてみるとホームページだけでなく、選挙などでもそういう感じがします。

これはみんながそこそこ快適な生活を出来てしまっている目黒区だからなのかもしれません。そういえば、「農をどう扱っているか」という興味から見てみた世田谷区からも同じような印象を受けました。やはり「世田谷区としてこういうことをやっていくんだ」という区政方針のようなものが表にみあたらないこと。そして区民参加を求めるようなメッセージが表には出ていないことなどからそのように感じたのだと思います。反面WEBに、読むのがつらい人のために音声読み上げサービスがあることなどには「よらしむ」やさしさを感じました。目黒区の場合、「協同のしくみづくりを考える区民フォーラム」といった企画が出ていたので、少し変わっていく方向にあるのかもしれません。

■行政－サービス提供者からコーディネイターへ

一方で三鷹市を見てみると、ここはかなり感じが違いました。ここは里山経由ではなく、このように行政のスタンスに興味を持ち始めたとpacoさんに話したことから「そういえば」と教えてもらったのでした。「おっ」と最初に感じるのは入り口を「市民向け」「訪問者向け」僕みたいな人）「事業者向け」と分けていること。なんかマーケティングの意識を感じます。

そして「行政の役割を直接的なサービス提供者からコーディネイターへ」とホームページの中でもうたっているように、市民や企業と組んでやっていこうという意識が感じられます。「地域情報」の中の「街・産業」というのをクリックすると、街とか主要な産業の説明があるのかと思いきや、出てきたのは街づくりや三鷹の産業を束ねる団体の説明とリンク。たとえばSOHO CITY三鷹というSOHOを推進するプロジェクトが載っていたりします。

もう一つの特徴は情報量が多いこと。それもサービス案内だけでなく、市の政策、主要プロジェクト、統計データなど、かなりの情報があります。逆に多すぎて、もう少し絞ってくれないかな～と感じるくらい(^_^)。また、気合が入っているからなのか、かっこいいけれども難解な言葉をたくさん使ってかえってわかりにくくしてしまっている面も。

しかし、特に主要プロジェクトの部分は、三鷹市がこれからどう進んでいこうと考えているのかを知る上で役に立ちました。またその中ですぐれているのは、ビジョンだけでなく実現を数値でみる目標を設定して、後にこれをまた確認していることです。当たり前にも思えますが、漠然とした目標を設定して、しかも後で全くチェックをしないというのがありがちなだけに、やはりこれはポイントでしょう。

■ずれに余地？

ただ、これまでの情報では街の発展方向に対する考え方が自分の求めているものとは違うという感じがしています。ホームページを見る限り一番強く感じられたのは、テクノロジーを駆使することでよりよい社会になる、特に個人がより自由にやっていける、というものでした。もちろんそこには人と人のつながりもあるのですが、この発想は（これまでの）都市のビジョンです。そして三鷹市でもどんどん減っている田畑や森林についてのビジョンはありませんでした。市内産の野菜を食べましょうとか、庭先販売をやっている農家の一覧とかはあるけれども、「どうしてそうするのか」「そこから農と街をどうつなげていくのか」という話はなかった。となると、緑についてはいわゆる公園の緑、街路樹の緑だけになりそう。空気や水にはつながっても「食べられない」という感じ。

ただ、現時点で上のように見えたからといって、それで「ここは違う」となるわけではないとも思っています。すべてが備わっていたら快適だけれども、自分がそこで街づくりに新たなものをもたらせる余地は少なくなります。潜在的にはあるのに表に出ていないとすれば、ひょっとすると自分が何かできるのかもしれない。まあ農自体は自分にとって全く経験のない領域なのでなかなか難しそう。でも、グロービス、知恵市場、英語のシャワーと、コミュニケーションやコミュニティづくりをやってきたことが生かせるかもしれません。特に、リンクの張られていた「ＪＡ東京むさし三鷹地区青壮年部」は元気よさそうな感じに見えたので、ちょっとそんな期待も持っています。

■農ある街

そして今回の最後に上げておきたいのが横浜市です。もともとは横浜市内の都筑区が先に関心にひっかかりました。都筑区の中央公園で市民の活動として里山を管理しているという情報が上に上げた「森林づくりボランティア活動情報一覧」にあったのです。そして少し見てみると、どうも横浜市全体でそういう動きをとっているようだとわかったのでまず横浜市のホームページを見てみました。

横浜市は、やろうとしていることをホームページにしっかり出しているという点、またそこに市民参加（コーディネイト型）を意識しているという点で三鷹市と似ています。これはたとえば、中期政策プランにみることができます。まあ横浜市は人口352万人と、三鷹市(17万人）とは桁が違うので、そのまま比較するのもなんなんですが。

ここで僕が特に気に入ったのは「農ある街づくり」をうたっていることでした。それはたとえば「恵みの里事業」といったものに特に盛り込まれているようです。地域の農業者が主体になって市民の参加を得ながら地域ぐるみで農に親しもうというもの。実際に行われたのは水田体験や味噌作りの情報が出ていて、これだけだとちょっと厳しいな、という感じがします。しかし、こういったところをとっかかりに先をまた企画してみると、楽しく「農ある街づくり」につなげていけそうな感じがします。横浜市のホームページを見ると、他にも国際交流や教育・育児、環境などでいろいろとおもしろそうだと感じさせるところがありました。

次はその下の区に行ってみました。まだ一部しか見られていないのですが今のところ「現実はけっこう難しそう」というのと「第一歩としてはよいのかも」というのと半々の感じです。さすがというか当然というか、政策はきちんと載っているところが多いし、その内容も横浜市全体のものを反映しています。しかし、実施状況、特に市民といっしょになって何か考えたり、やっているという様子が見えるところはまだ少ない。住民参加といっても「意見を聞きます」にとどまっている（感じがする）のが多い。しかしまさにこれからどうなるか、というところなのでしょう。

今まで見た中でいいな、と思ったのは都筑区のホームページに区民ボランティアによる都筑区の紹介が載っていることと区民団体のホームページへのリンクがわかりやすく行われていること。残念なことに「農ある街」については区政運営方針にもほとんど触れられていないのですが、中央公園の里山倶楽部があったりするので全く芽がないわけではないだろうと考えています。

「農ある街」についてけっこうやっているのかな、と感じたのは横浜市でも一番緑の多い緑区。重点推進施策を見ると新治の森事業の推進や水田保全ボランティア事業、自然活動事業のネットワーク化といったことが上げられています。しかし住民参加という面はまだ弱そうな印象が。

さて、まだ引越し先探しは続きますが、どうなっていくでしょうか(^_^)

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

mail:toshi@chieichiba.net