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Photo by paco.


 

8月12日に、ライフデザイン・ワークショップの続編にあたるスペシャルセッションを、希望者を対象に開きました。第1回の中で、StyleとFavoriteの部分はわかったけれど、もっとMoneyについて深めたいという声に応えるのが目的です。

集まってくれたのは第1回のメンバーの中の、5名の(いっそう)濃ゆい人たちです。

■今の仕事の延長ではなく

前回の「コミトン120 ライフデザイン(3)Money」では、今自分がやっている仕事を分解して、やりたい仕事だけを残し、やりたくない仕事だけにするというアプローチについて考えてみました。

この方法では、自分が今やっている仕事からはみ出すことはできません。多くの
人は、今やっている仕事に肯定的なので、「今の仕事の気に入っている部分だけ
残して」と考えれば、それなりにもっとうまくやる可能性を探すことはできるで
しょう。

しかし、今の仕事を気に入っていたとしても、そもそも今の仕事は自分が望んで獲得したものでしょうか? ある程度の希望はあったにしても、実は会社から命じられた仕事で、やっているうちに気に入ったり、おもしろさを見出した、という場合がほとんどではないでしょうか。

さらに考えれば、今の会社に入ったこと自体が、「金融業に関心があったから」「人と接する仕事がやりたかった」というような動機から始まっていて、でも会社で社員教育を担当して、その仕事が気に入ることになるとは、予想していなかったということもありそうです。

つまり、今の仕事は悪くないと思っていたとしても、それが自分にとって「本当にやりたい仕事」なのかどうかは、まったく別の話だ、ということです。

この「本当にやりたい仕事」を探すための方法が、「コミトン118 ライフデザイン(1)3つのフレーム」で紹介した、「StyleとFavorite」で、このアプローチは、本来は「今の仕事」は無視して、進めることが重要です。

今回は、「StyleとFavorite」を深めることで、それをMoneyに変える可能性について考えてみます。

■結論を急がない

「StyleとFavorite」を深めて、Moneyに変えることについて考えようとするとき、最初にやりがちなのが、「結論を急いでしまう結果、可能性を自分でつぶしてしまう」ことです。

今回参加してくれたYさんは、自分が原子力問題に知識があるだけでなく、この問題について考えたり調べたりすることが本当に好きなのだということを感じていました。原子力問題についての意見や質問を聞くと、古い資料をひっくり返したり、関係者に電話やメールで確認したりすることがまったく苦にならないことに気がついていたのです。

Favoriteとは「頼まれなくても、お金をもらえなくても、ついやってしまうこと」「ずっとやり続けても飽きないこと」で「そのことの中でも特にどこがどのように、好きなのか」が明確になっていることです。その意味では、Yさんにとって原子力問題はFavoriteであると言ってよいはずだし、実際Yさんにも、その自覚がありました。

ライフデザインでは、Favoriteをうまく使ってMoneyに変えると、満足度の高い生き方ができると考えられるので、原子力問題に対するYさんの思いをなんとかMoneyに変えられないかと考えたいとところなのですが、実際にはYさんは、自力では考えられませんでした。

Yさんは、「原子力問題でお金を得るには、反対派に属して、電力会社などを攻撃する」ことでしか、お金にすることはできないと思いこんでいたのです。でも反対派になることはYさんの望むところではなかったし、それならば原子力というFavoriteはやっぱり本当のFavoriteではないのだと決めつけてしまいました。

Yさんのミスのひとつは、結論を急ぎすぎてしまったことです。原子力がFavoriteだとしたら、そのFavoriteでお金になりそうなのは、反対派の急先鋒に立つことだけだ、というように、Favorite→Moneyにつながるルートを「反対派」一本だと決めつけていたことです。ライフデザインでは、どのようにMoneyを生み出すかを考える以前に、FavoriteとStyleを考えぬいて、「何が実現できればうれしいのか?」をしっかり押さえ、そのあとに「その実現したものを価値としてお金に換えるためには、どうしたらいいか?」と考えなければなりません。しかしYさんは「何が実現できればいいか?」を押さえつける前に、Moneyに変えられるには反対派に属するしかないという結論に飛びついてしまい、そこで考えが止まってしまったわけです。

もしかしたら、原子力問題についての活動でお金を得られるのは、現状では反対派だけなのかもしれませんが、本当にそうなのか、簡単に結論づけることはできません。「お金にならない」という結論を急いで出してしまえば、「本当にやりたいことは何なのか」について考えが深まらないうちに止まってしまいます。

Moneyにつなげられるかについて考えるときに、いきなり「お金になる」「ならない」の結論を出そうとしては失敗します。自分のFavoriteとStyleをさらによく検討し、それが「社会に何かしら役に立つのか」という視点で、FavoriteとStyleを整理し直すステップが必要です。Moneyとは、社会に何かしらの価値を提供できたときに初めて自分に還流してくるものですから、一見お金になるものであっても、お金にならないものであっても、結論に飛びつかずに、提供できる価値がリアリティを持つまで考え続ける必要があるのです。

■必要としている人は別のところにいる

では、YさんのFavoriteである原子力についての情報は、誰にとって役に立つ情報なのでしょうか?

Yさんは以前は推進の立場の仕事をしていて、後に別の仕事に移りました。賛成派ではないものの、今の反対派の意見もおかしなことがわかるために、賛同しかねます。既存のどちらにも属さずに、「どうあるべきか」を考えたい。しかもYさんには「技術的、科学的な裏付けをもちながら考える力」があることも見えてきました。

こう考えてみると、YさんのFavoriteは、技術や科学の知識に裏打ちされている上に、賛成派でも反対派でもない中立的な情報として提供すること、決めることができそうです。

ではこのような情報は、社会的に価値がある情報なのでしょうか、あまりないのでしょうか? ワークショップのメンバーの意見は「そういう情報こそほしい」と言っています。賛成派(推進派)でもなく、反対派でもない立場の人が、情報を整理し、推進派、反対派の主張の問題点を指摘してくれれば、複雑な問題にどのように取り組めばいいのか、自分の意見を決める参考になる、というわけです。

今回はほんの数人のメンバーの意見しか聞けませんでしたが、その中からも「その情報は意味がある」という意見が出たぐらいなので、少なくとも価値がゼロということはなさそうです。

Yさんは当初、「必要としている人は反対派にしかいない」と思いこんでいたわけですが、実際には賛成、反対いずれでもないところに、価値を理解する人がいたのです。この発見は重要な発見です。

■価値を理解する人はどのぐらい必要?

では、このように自分の社会的な価値を理解したり、必要としてくれる人は、どのぐらいいればよいのでしょうか? たったひとりでは、いくらなんでも少なすぎるようです。

マルチメディアクリエイターの高城剛は、「自分はニッチでマイナーことが好き」と言っています。そして自分がやるようなことを支持してくれるひとは、どんなに多くても日本の中で15万人ぐらいだろう、といっています。

メガヒットや世界的な賞も受ける彼の仕事から見れば、15万人がMAXという発言は、いささか控えめにすぎるといえます。でも逆に言えば、どんなにニッチでマイナーであっても、自分だけが好き、というものは実はほとんどなく、一定規模のファンを見つけることは可能だ、という意味でもあるのです。

ある個人が、望む報酬を確保するために、「私のStyleとFavoriteによって生み出されるもの」に価値を見出してくれる人がどのぐらい必要なのでしょうか? この数をリアルにとらえられることが、Moneyを考えるための次の重要なステップになります。

知恵市場のようなわかりにくいコンテンツでも、無料版NewsLetterを受け取っている人が1万人弱、有料版が1000人弱あります。広く知らせる努力はまったくしていなくても、個人が伝えられる範囲とクチコミによる紹介などでこのぐらいの数字を確保することは実際に可能です。

携帯インターネットのコンテンツでは、どんなニッチなコンテンツでも、1000人の有料会員は自動的に集まってくる、という話を聞いたことがあり、これは知恵市場での僕の経験に近いものです。

別の見方をしてみると、「中立的で、技術やサイエンスに基づいた原子力の情報がほしい人は、日本人1億2000万人のうち、どのぐらいいそうか?」と考えると、たとえば10万人ぐらいいてもおかしくはないのでは?と感じます。100万人いるかと言われると、ちょっとぎりぎりの数のような気がします。原発関係の本の売れ行きや、この関係の情報サイトのアクセス数を調べてみると、もう少し具体的な数字が出てくるでしょう。自分のFavoriteなことをほかの人も好きだとしたら、それは最大どのぐらいの人数か、これを知るために日ごろからいろいろな観察やデータを集めておくことは、大事な情報になります。(ただし、集めた情報が悲観的なものであったとしても、絶望する必要はありません。少ないなりに、何をすればよいのかを考えればよいのです)。

この数字をつかむには、本の売れ行きを考えるのも有効です。一般書、ビジネス書では、初版6000〜8000部、2万部出れば小さな成功作というぐらいの市場です。10万部出れば大ヒットでしょう。出版ビジネスは意外に小さなシングルヒットを積み重ねる市場なのです。大きな書店や、amazon.comであるカテゴリーを見て、10冊の類書が出ていれば、本のマーケットとしては常時10万〜20万部ぐらいある、ということになります。この数字が、「あるテーマについて常時お金を払う可能性があるユーザー数の、ひとつの目安」になるわけです。

■Moneyの現実感をつかむ

仮に母集団を10万人と見積もって、そのうち10%に自分のやっていることを知らせることができ、さらに10%が自分のやっていることにお金を払ってもいいと思うぐらい価値を感じてくれるとすると、実際には1000人の人がMoneyを還元してくれる人になると考えられます。知恵市場のように有料情報を発信して月額500円を取ると、「500円×1000人=50万円/毎月」が売上になります。諸経費を50%と見ると、月25万円×12か月=300万円が収入ということになります(ほぼ、現在の知恵市場の収益構造がこれにあたります)。

このかけ算をベースにして、月額単価を倍の1000円取れれば年収は600万円、人数も倍にできれば1200万円が確保できることになるわけです。

このモデルは「情報発信して月額でフィーをもらう」というものですが、ほかにもいろいろな収益につなげる方法があります。「セミナーをやって講演料をもらう」「社内研修で教える」「本を書く」「具体的に相手に即して相談に乗り、教える(コンサルティング)」など、自分の知識を直接相手に買ってもらう方法もあります。教える場合のなら、1時間あたり、講師料はどのぐらい取れるのか。いろいろな講師に聞いて相場を聞いてみると、年間何本の講演をするといくらになるのかが見えてきます。ひとつの目安は、2〜3時間、半日で、10万円ぐらいでしょうか。これより少ない場合も、多い場合もありますが、半日で100万円とる人は少ないでしょう。逆に半日1万円では、講師というよりきつめの肉体労働者になってしまいそうです。その中間あたりに相場がありそうです。つまり、「実際に誰かに聞く」「想像する」の両方をやってみると、見当がついてくるわけです。

本を書く場合は、印税のしくみを知っておく必要があります。著者の印税は、通常は本の定価の10%です。1500円の本で初版6000部なら、本を書くことで保証される収入は90万円ということになります。増刷になれば増えますが、増刷はあてにすることはできませんから、初版印税で自分の収入を想定し、本を書くことと収入の関係を捕まえておく必要があります。その際重要なのは、「本を書く」だけで全収入を上げると考えない方がいいということです。本を年2冊書いてざっと200万円。インターネットの有料情報で300万円、個別のコンサルティングで200万円……、といった具合です。

もちろん、Favoriteの内容によっては、ほかにも方法があるでしょう。物をつくって売る、物を仕入れて売る、食べ物を提供する、ツアーのガイドのように実際に手助けする、それぞれ想定される単価と利益率、顧客数のかけ算で、収入が出てきます。がんばれば自分がほしい程度の収入になりそうなら、チャレンジする価値があるわけです。

■「南の島でのんびりする」を提供する

もうひとり、Iさんの例を考えてみます。Iさんは妻子を持つ会社員ですが、季節ごとに長い休みを取って、ハワイやグアムなど、南の島に家族で長期滞在します。「のんびりする」ことが目的で、あまり遊びの予定を詰め込まず、ゆったりと楽しみます。

Iさんは仕事でも前向きな人なので、いくつかの領域でFavoriteを考えていたのですが、「南の島」はその中に含まれていませんでした。僕が「南の島でのんびりするというのは、意外に難しいことだし、やりたいと思ってもできない人が多いのでは?」と話題をふると、「そういえばそうですね」ということになりました。Iさんは「いずれはハワイに移住したい」という理想を持っていて、具体的な地域や家のイメージまで持っていました。

南の島に行って、「本当にのんびりする」という体験は、それ自体、意外に貴重なことです。具体的にどのようにすればいいのか、そのガイダンスの情報提供や、実際に現地でガイドをやる、コツの伝授などは、「あるとウレシイ」と思う潜在ユーザーは、それなりの人数、いる可能性があります。もちろんユーザーがいるという以前に、「南の島でのんびりする」ということを人に伝えたり手助けすることが、Iさん自身にとってやりたいことなのかをよく考える必要があるでしょう。どのStyleがいいかも考えを深める必要があります。情報提供だけがいいのか、情報提供より実際に案内する方がいいのか。「住む」と言うところまで考えれば、家や土地のブローカー(販売仲介)という仕事も考えられます。「南の島が好き、のんびりするのが好き」というFavoriteとStyleを先に考え、それをMoneyに変えるとしたら、どんな可能性があるのかを考えるという順番が重要で、Moneyを稼げるとしたら本を出すしかない、というように結論から逆算して考えないようにすることが重要です。

■急がない

「南の島」というFavoriteのうち、具体的にどのStyleならどんどんやりたくなるのかを決めるには、よく考える必要があり、その場の雰囲気でぱっと結論を出すことではありません。盛り上がってひとつの結論に飛びつくのではなく、ゆっくり楽しみながら、そしてあれこれ情報を集めて精度を上げながら、結論に近づいていくというしぶといアプローチが大切です。一気に盛り上がっても実現は容易ではないし、盛り上がったのにうまくいかないと、自分でも嫌になってしまいます。盛り上がらないように自制しながら、しぶとく可能性を求めて、自分の考えをひとつに収斂(しゅうれん)させていく。こういうゆっくりとした前進ができるのも、30〜40代という、年齢だからこそです。20代以前だと、こういうのんびりしたアプローチ自体にいらだってしまい、自滅することが多いのです。

急がず、でも歩みを止めずに、なにができるかを考え、深めていく。それを積み重ねられることこそ「ずっと考え続けることができる」「ずっとやっていても楽しい」「ついやってしまう」というFavoriteの条件であり、あえて時間をかけることで「本当にFavoriteなのか?」を確認することができるのです。目安としては、「こんなことができそうだ」に至るまでに半年〜1年、実際に行動に移して2〜3年といった時間をかけた方がいいのです。最終的に、5年ぐらいたってみたら、本当にやりたいことで収入を得るめどがついた、というぐらいでちょうどいいと思います。

時間をかけても変わらない思いがあるほど、Favoriteが強いということだし、それだけ時間をかけられたということ自体が、自分の思いを強固に、後退できないものにするのです。FavoriteとStyleの強固な自覚が、Moneyを生み出す原動力になる。

Favorite × Style = Money

であって、

Money ÷ Style = Favorite
Money ÷ Favorite = Style

ではない(よい人生はかけ算ではあって、割り算ではない)。

この原則をしっかりつかむことが、自分らしい生き方への第一歩になるのです。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「人生に役立つ論理力トレーニング」(幻冬舎)「<意思伝達編>論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解&キーワードで読み解く 通信業界」(かんき出版)、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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