125 仕事の忙しさを解決する

photo by paco

最近、以前に増してあちこちで「とんでもなく忙しい」という話を聞きます。英語のクラスでも3ヶ月に6万円も払っておいてほとんど参加できない人がいます。来られても終了時間ぎりぎりという人もいます。グロービスでも「仕事が忙しくて勉強する時間どころか睡眠時間もろくに取れない」という話をよく聞きます。また別の集まりでは、久しぶりの飲み会を楽しみにしていたのに仕事が終わらず参加できなかった人が何人かいました。過労で倒れた人も知り合いに数人います。どうしてそんなに忙しいんだろう？　これが続くとしたら、みんなだいじょうぶなんでしょうか？　あなたはどうですか？　今回はこの、忙しさを解決する方法を考えてみたいと思います。

■会社に原因がある場合

まず第一に考えられるのは会社に原因がある場合です。大きく分けて

会社のやり方の効率が悪い
無茶なアウトプットを求められる

の二通りが考えられます。

前者については効率をよくする方法を考えればよいわけです。もちろん、簡単に考えられない場合もよくあります。たとえば「会議が多いし長いしなんとかならないのか」というような話、分析してみると意外といろいろなことがからんでいて難しい。しかしそこは論理思考力の見せ所。会社にとっては効率がよくなるし、自分にとっては忙しさや無駄な仕事を減らせてwin-win。がんばって考えましょう(^_^)。もしよい方法を考えたのに「それはやりたくない」と言われるようなら...その場合はその会社にとどまる意味を考え直すべきかもしれません。その会社が勝ち残る可能性も、自分がそこで努力に見合ったものを得られる可能性も低いおそれがありますから。

一方で無茶なアウトプットが求められる場合について。最近よく聞くのは「ビジネスの状況が厳しくなって、以前より高い効率が必要になっている」ということです。以前よりも少ない人数で同じだけあるいはそれ以上の仕事をすることを求められている。それだけ忙しくなる。あるいは顧客から以前にましてスピードを要求されている。たとえばシステム開発の会社ですね。これに答えるためにみんな土日返上、深夜残業の突貫工事で働いている。これでは日本人のQuality of Lifeはいつまでたっても上がらないような気がします。

「そんなことは言っていられないのさ。食うか食われるかの戦いなんだから」という人もいるかもしれません。でも、この戦い方を続けたら、どうなるんでしょうか。もちろん会社が勝負に負けてつぶれたら人も仕事を失います。でも、このやり方で会社が勝ち残ったとしても人はぼろぼろになりそうです。なので、僕だったら、そういう我慢比べではないビジネスのやり方を考えます。あるいはそういうやり方をしているところに移る方法を考えます。もちろん1年やそこらでは不可能かもしれません。なので早い段階で考え始めます。自分がぽっきり折れるのが先か、消耗戦から脱出できるのが先か、ですね。

■我慢比べをしないとしたら？

我慢比べではないビジネスのやり方について二つの考え方を上げておきたいと思います。一つは、効率とか量的成長を最優先するのではなく、「いい仕事」と「自分が楽しくやれる」ということを最優先するという考え方です。自分にとってちょうどいい量に取り組んでいる時、特にそれが好きな仕事だったりすれば、人は心を込めて仕事が出来ます。その時、人は「仕事師」かもしれないし、趣味といえるくらいのめりこんでしまうかもしれない。それほど好きな仕事ではなくとも、志のある人なら常に「いかによい仕事にするか」を考えながら取り組むでしょう。その結果として出てくる成果は、無理やり量をこなしたり我慢比べをやっている組織の仕事とは比べ物になりません。たとえば教育ビジネスではこれは如実に出ます。サービス業、たとえば飲食業などでもそうでは。当然コストなどの問題はあるでしょう。しかし、値段の安いものよりも価値のあるものを選ぶ顧客は少なからずいるというはここ数年の僕の実感です。

考えてみるとこの話は前回のコミトンでpacoさんが書いていた「機械化」や「単純作業」の話と通じるところがありそうですね。むちゃくちゃ忙しくなった時に仕事は、「こなすべき作業」になり、人間はまるで機械になります。どれだけいい仕事をするかよりも、許される最低水準でなるべくたくさんの量をこなすことに頭が行きます。一方でちょうどよい量の好きな仕事に取り組む時には、人は一見、単純に見えることからでも人はいろいろなことを学べて、それを知恵に変えることができる。そしてとてもいい仕事が出来る。それは個人の成果だけでなく、企業のアウトプットにもあらわれると思います。たとえば熱烈なファンのいる商品（三つくらい、ぜひイメージしてみてください）を見てみるとそんな感じがします。

もう一つの考え方は、システムや戦略で勝負するというものです。社内の知見を蓄積・活用する、マーケティングに力を入れて先進的なイメージを作る...環境対策を戦略に盛り込んでいくというのも一つの手でしょう。ひたすら人力に頼って量を達成する方法は、いわば昔のガレー船でこぎ手の奴隷を増やすようなもの。これに対して、システムや戦略で勝負するという方法は、強力なエンジンを開発したり、抵抗をものすごく減らした船体を開発するようなものですね。

いずれにせよサラリーマンの場合、会社がどういう道を選択するかに影響を及ぼすことは出来ても自分で決めることは出来ません。しかし、会社が取る道によって自分の動き方を考えることはできます。

■上司に原因がある場合

サラリーマンの場合、次に上司が問題になりそうです。結局は会社全体につながっている場合も多いのですが、会社が課題を持っていたとしても上司の力と動き方によってかなり職場は変わります。また上司と自分がどうコミュニケーションするかによっても忙しさをかなり変えることができます。

意外と多くの人が気がついていないのは、上司と交渉できるということです。交渉と言うと抵抗があるかもしれません。どういう形で仕事を出来たら自分やチームのアウトプットが大きくなると思うのかを話せる、ということです。もちろん「生意気なことを言うな」とか「言うことは分かるがこれ以上しょうがないんだよ」と言われるケースもあるでしょう。しかし普通の人が思っている以上に「わかった、なんとかしよう」と言われるケースは多いはずです。

そもそもメンバーの様子を見渡しながら最適な体制をつくることはマネジメントの主要な仕事です。チーム内での仕事と人の配置はもちろん、外から人をひっぱってきたり、自分のところで受ける仕事の量を調整したり。言い方を変えると、部下が長期的にむちゃくちゃ忙しいというのは上司の責任です。とは言いながら、上司も短期的なプレッシャーに弱い人は多いもの。部下が何も言わなければ、しんどいかなあとは思っても有能な人間にどんどん仕事を投げてしまいます。最悪の場合、部下は仕事が好きで（帰ってもやることがないとか）やっていると思ってしまいます。以心伝心でわかるとか、話さなくても察してくれるとは思わない方がいい。

そこで、自分がどうしたいのか、そうすると会社やその上司にとってどうメリットがあるということも含めてどんどん話していくべきです。もちろん、自分の仕事ぶりによっては、「そんなことを言うならやめてもいいよ」と言われることもあります。したがって「こいつにやめられたら困るよな」と思われるだけの仕事をしておく必要はあります。しかし、それをやっていれば、交渉はいろいろ出来るし、やるべきです。優れた上司なら、それくらいのビジネス力を持った部下を評価します。もしそういう話を全然出来ないような上司だったら？　その場合は異動なり転職なりに向けて動くことも可能です。これもまた交渉。会社が決めるのを待つのではなく、会社や上司を相手にビジネスをやっているつもりで考えていくとよいと思います。

■自分でやりたくてやっている？

最後は自分に原因がある場合です。まずは「これをやろう」と思うことが多すぎてむちゃくちゃ忙しくなってしまった、という場合が考えられます。このケースは「自分で決めているんだからしょうがないさ」とも言えます。実は僕自身、かつてこの状態にありました。「これをやりたい」「これをやろう」ということを次々思いついてしまう。人に振ろうにも自分しか出来なかったり、自分がやりたいことだったりする。別に忙しいこと自体を望んでいるわけではないのですが、既にキャパ一杯だけど本を書きたい、新しいカリキュラムを考えたい、知恵市場もやりたい、どうしてもやりたい、じゃあやっちまえ。これは忙しくて当然です。

こういう場合、一つには「やりたいんだからやれば。一時的なものかもしれないし」という考え方があります。僕もそう考えて、とにかく時間と体力を確保しようとしました。会社から30分以内のところに住む、電車があっても疲れていたらタクシーで帰る、マッサージに通う、モバイルPCを持ち歩いて電車やエスカレータに乗っていてもメールを読む...。食事をする時間がないのでカロリー・メイトで終わり、ということもけっこうありました。旅行に行くのも人任せで飛行機に乗る直前まで仕事をしていて、乗ってから「で、どこに行くんだっけ？」と聞いていたり着いても半分くらいはホテルで寝てた、ということもあります。やりたいことをやっていて、それが短期的なら、こういうのも一つのやり方だと思います。

ただ、これを長く続けると、いろいろ弊害が出てきます。まず体が疲弊してきます。また、家族のいる人だとここにもひずみが出てくるでしょう。自分の頭の中もすごく偏ってきます。そして、いくらやってもやりたりないというような焦燥感や飢餓感が出てくることもあります。

僕の場合はそれがひどくなる前に「全部やる必要はないんだ」と割り切ることにしました。当時僕はビジネス・スクール事業の責任者をやっていて、幸いなことに需要が非常に大きかった。そのためになんとか供給をしかも高い質で満たすことにきりきりしていました。しかし、ある瞬間に「全部なんかやらなくたっていいんだ」ということに気がつきました。内容は忘れましたがamazon.comの創設者ジェフ・ベゾスの言葉がきっかけでした。それからは、余裕を持って楽しく仕事が出来て、かつ十分な質で提供できるだけしかやらないことにしました。

そう考えたとたんにすごく楽になりました。調達のためにかけずりまわる必要がないので、現在提供している内容を高めるところに時間がさけます。また無理な供給をしないのでトラブルが減ります。需要＞供給という状況にあるので「こういう人に合うと思います」というのを十分に絞り込んでマーケティングしていくことも出来ました。それがサービスに対する信頼やしかるべき人からの関心を高める効果を持ちます。こういう好循環がまわり出すと、さらにやりやすくなる。やがて供給体制を拡充するところにも取り組む余裕が出てきます。

今もやりたいことはいろいろあるのですが、全部やるのではなく、少し余裕がある状態で止めています。いい仕事をしたいというのもありますが、自分の起きている時間を、ビジネス、プライベート、シチズン（市民）というそれぞれの領域にバランスよく配分できるとQuality of Lifeが上がるのではないかなと考えているからです。

今の日本人、特に都会人の生活はどうかするとこの8割近くがビジネスにさかれていて、プライベートが残り、シチズンはほとんどゼロ、という感じです。少し目覚めた人はプライベートを削ってシチズンとしての活動をしていたりする。僕自身もそうだったし（ビジネスってけっこうおもしろいんですね(^_^)）、まだまだ転換途上です。でも、思い切ってビジネスの時間を減らすと、全体としてもQuality of Lifeが上がるし、ビジネスの部分でも、厚みのある仕事が出来るのではないかな、と思っています。

■自分のキャパが足りないのは増やすしかない？

次に、やらなければならない仕事でも自分のキャパが足りないというケースもあるでしょう。段取りが悪い人、力の注ぎ方のバランスが悪い人、コミュニケーションや問題解決などのためのパワーが足りない人等々ですね。一つの解決策は「鍛える」ということです。これは多くの人がやっている/やろうとしていることなんで、あえてこれ以上説明する必要はないでしょう。

一方で触れておきたいのは、キャパが足りないとしても、キャパを上げるばかりが方策ではないということです。たとえば不得意なことはやらないで済む道を探すことが考えられます。日本人はオールラウンド・プレイヤーになりたがる傾向がありますが、ビジネスはチームを組んでやることが多いので、得意なことを特に受け持って、不得意なことは人にやってもらうことも可能です。各人の特質を見極めてそういうフォーメーションを組むのは本来、マネジメントの仕事ですが、そう出来ていないことも多い。ならば自分から言ってしまうというのも一つの手です。

もう一つは報酬の方を下げるということです。自分の働き具合が十分かどうかは成果と報酬のバランスで決まります。つまり成果を高めるのでも、報酬を下げるのでもいいはずです。もちろん、「ある程度以上やってくれないと、いる意味がない」というところは超えておく必要がありますが。

しかし、これはきっと自分として抵抗がある選択と思います。報酬が減ることのダメージはもちろんですが、意外と大きいのは、自分の価値が下がってしまうように感じたり、自分をあきらめるように感じてしまうことではないかと思います。でも、それで生活するのに必要な収入は稼げるのなら、自分をすり減らしたり、「あいつは給料泥棒だ」と言われ続けるより報酬を下げた方がよいかもしれません。ちなみに僕の場合、グロービスで働いていたころに比べると今の収入は2/3以下です（サラリーマンであるのと自分で事業をやっているのでは費用計上が違うので単純比較できないのですが）。でも、それでつくりだせた時間でゆっくりしたり、プライベートやシチズンの活動を出来る方が自分のQuality of Lifeは上がると感じています。

さて、あなたの忙しさは...？

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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