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photo by Toshi.

 

9月8日から9月14日まで、少し遅めの夏休みということでマレーシアに遊びに行ってきました。

楽しそうな人に会いに行こう

マレーシアを選んだのは、またしても、ともだちがいるから(^_^)。昨年の世界旅行以来、「現地にともだちがいるとその地を深く知りやすい」と味をしめているわけです。特に彼(日本人)は日本にいたときから仕事だけでなくいろいろなことに興味を持っている人だったので期待していました(^_^)。そしてもう一つの理由は手ごろな距離にあること。実はgirl friendが妊娠5ヶ月で、これ以降はしばらく海外旅行は難しそうだから海外に行っておきたかったのです。でもあまり遠くはきついので、7時間で行けて二人ともまだ行ったことがなかったマレーシアが有力候補に挙がっていました。

しかし変な話ではあるのですが、選んだ直後は「マレーシアはおもしろそうだ」とか「ぜひ行ってみたい」という感じはしていませんでした。そもそもまずとりたててイメージを持っていなかった。日本で見る電気製品はMADE IN MALAYSIAがけっこうある、というくらいです。一応首都クアラ・ルンプールとともだちのいるペナンに行こうと思っていたのですが、人からも「KL(クアラ・ルンプール)は普通の都会だよ」と言われていました。ガイドブックをぱらぱらと見ても東マレーシアにはダイバーに人気のスポットがあったり、オラウータンに会えたりして自然が豊かそうだ、とわかったのですが、妊婦が楽しむにはちょっとつらい。

というわけで最初は、「一応選んでは見たものの、おもしろいのかな..」という変な感じだったのです。ところがネットや本でもう少しマレーシアについて調べ出すとこれが「実はけっこうおもしろいかもしれない」と変わってきました。

ところで、単なる観光以上に旅行を楽しみたい場合、一つの方法は下調べをしていくことだと思います。もちろん、何も先入観を持たずにぶっつけで行くというのも手ですが、僕の場合はある程度知っていた方が楽しめます。それも「どんな珍しい食べ物があるか」とか「どの店がよいか」という情報だけでなく、どんな歴史があったり、どんな国の状態で、そこでどんなふうに人が暮らしているのか、といったことを調べます。

この点、最近はWEBでいろいろ検索できるし、本もamazon等で検索ができるので非常に便利です。たとえば本はamazonで検索をして「マレーシア凛々」というのがおもしろそうだったので図書館で借りました。またWEBではたとえばJalanJalanというホームページで現地に住む日本人たちが、つい最近開通したKLのモノレールについてのレポートから、ごみ問題、洪水になってしまった村の様子等々いろいろレポートしています。そしてそんなものをみるうちに感じたのはまず「マレーシアの人たちって、会っていて楽しそうだ」ということです。洪水になってしまってもなんか悲壮感がなくむしろ楽しんでいるみたい。ちょっと行き当たりばったりな感じはいっしょに仕事をすると困るかもしれないけど、でも楽しそう。そのノリがマレーシアにいる日本人にまでうつってる。これは人と会えるだけでも楽しいかもしれない、と思い始めました。

■マレーシア-多民族がうまく共存して発展してきた国

ここでちょっとマレーシアという国の基礎知識を。マレーシアはほとんど赤道直下にありマレー半島とボルネオ島西部からなります。赤道直下と言ってもものすごく暑いわけではなく、僕らが行ったころはむしろ東京の方が暑いくらいでした。でもまあそれなりに暑く、一年中そういう感じです。面積は日本より15%ほど小さめだけれども人口は2300万人しかいません。このうち約10%が首都クアラ・ルンプールに集中しています。

人口構成としてはマレー人(イスラム)60、華人(中国系)30、インド系(多くがヒンズー教徒)8。この多様性はマレーシアの一つの大きな特徴と言われています。もちろん多民族からなる国は他にもいろいろあるのですが、宗教や文化がこれだけ大きく違う民族がうまく共存しているというのは珍しい。ここも僕の興味を引いたところでした。なお、マレーシアはこの状況に対して「ブミ・プトラ政策」という独特の政策を取っています。「ブミ・プトラ」とは「土地の子」という意味で、この政策はより早くマレーシアにいたマレー系にさまざまな特権を認めるというもの。たとえば雇用機会や教育機会が人口比によって割り当てられます。すると、より教育熱心な中国系は厳しい競争にさらされ、まだそれほどでないマレー系は楽に大学に入れたりするわけです。ブミ・プトラ以外にも、国教はイスラム教(信教の自由はある)、国語はマレー語となっているのですが、これらは中国系やインド系の不満を生まないのか。

経済では、電気機器の製造、農林業(特に木材)、鉱業(石油も出ます)など。高度成長を続けてきたのが、97年に通貨・金融危機に直面。この際、IMFの支援を仰がずに独自の経済政策を推進し、米国などから強い批判を浴びたものの結局、成功。2000年にはGDP成長率8.5%を達成しています。そして、この一連の流れのリーダーシップを取ってきたマハティール首相に興味を引かれました。いわゆる西側の考え方に真っ向から対立する考え方を、しっかりしたロジックを持って説明し、実際に行動に移し、そして結果を出している。しかもそれをグローバルな競争で不利なはずの途上国でやっている。

というように、「とりたてて目立ったものってなさそうだけど...」と思っていたのが、下調べをするうちにだんだん変わってきました。「人が楽しそう」「多民族がどのようにいっしょにやっているのだろう」「マハティール首相がやってきたことを実際に見てみたい」。そんな興味を持って旅立ったのです。

ところで、こう書くと万全の準備をして行ったように見えますが、いつものことながら実際は間に合わなかったことも多く、行きの飛行機でもずっと資料を読んでいました。でも7時間、楽しく過ごせます(^_^)。

■タクシーで知るその国

さて、そんなふうにしてクアラ・ルンプール国際空港(KLIA)に着いたのですが、空港ではまたきょろきょろしながら出口に向かいます。空港はその国のいわば玄関になるのでいつもちょっと興味を持って見ているのですが、とりわけ今回は興味を持っていました。この空港は黒川紀章氏の基本設計によりアジアのハブ空港を目指して98年に完成した「森と共生する空港」空港ということなのです。確かになかなかかっこいいデザインで、でもかっこよさを追求するあまりに無機質だったりやたら華美だったりするわけでもなく、悪くない感じでした。ただ、「森と共生」は、建物のあちこちに樹木が見える以外は「そうかなあ」という感じでした。上空から見ていても空港の敷地が広いだけに森を「切り開いた」という印象の方が。敷地面積は100平方キロ(成田空港の約10倍とか)あるとのことです。

そして市内に向かうわけですが、この時の交通手段もその国を知る一つの機会となります。たとえば今回、僕らはタクシーを使いましたが、KLでもペナンでも空港からのタクシーはクーポン制を取っています。つまり値段交渉とかメーターをにらみながら着いてみないとわからないということがないわけです。そして一般のタクシーはKLIAで客を乗せることを許されていません。国によっては強烈な客引き合戦もある一方でこの施策、マレーシアの行政の雰囲気をちょっと感じます。何も指定せずにクーポンを買おうとしたらベーシックではなくプレミアムの方(やや高い)を出してきたおばさんの行動もマレーシアだからなのか、どうなのか。

タクシーは走りこまれているけれども十分快適なオートマのマークII。後で街で見ていると多くのタクシーがマレーシア国産車(プロトン)だったので、これは珍しかったのかもしれません。市内まで1時間ほどかかるのですが、乗ってちょっとすると、いつものようにgirl friendが話しかけます。「KL出身なんですか?」最初、ちょっととっつきにくい感じもしたのですが、気さくに話に乗ってきました。

旅行していても現地の人とちゃんと話をする機会は意外とありません。意識してそういう機会をつくらないと用事があるから話すというだけで終わってしまいがち。かといって道を歩いている人にいきなり話しかけても警戒の目で見られてしまうかもしれない。そんな中で、タクシーの運転手との話は違和感のない、よいタイミングです。

この時もKLの渋滞、治安、市内外でどんどん進んでいる建設、民族間の関係、マハティール首相の評価等々についていろいろ話を聞くことができました。こういった情報はもちろんいろいろなところにも載っているんですが、現地の人がどう「感じている」かというのは違った意味を持ちます。中国系の彼がマレー系を優遇するマハティール首相の功績を高く評価していたことには「へー」と思いました。また、ブミ・プトラ等によって自分たちは不利な状況にあることはわかりつつ、「それでも経済は中国人が握っている」と誇らしげに言っていたことに、この国の微妙なバランスを感じました。

彼は、街を歩くときの注意や空港へ行くときの注意などもしてくれたし、誠実な感じだったので、マレーシアについての評価はまずここで上がりました。その後も何回かタクシーを使ったのですが、全体としてはいい印象を持ちました。中にはメーターがついているにも関わらず乗車時に高めの金額を持ちかけたり、早朝料金などと存在しないもの(深夜料金はある)を言ったり、前の車をあおりながらやたらと飛ばすタクシーもありました。でも、あまり英語は得意でないのに楽しげにずっと情報提供してくれる人がいたり、給油中の時間分を料金からちゃんと引いたりと、特にKLのタクシーは誠実でいい感じの人だったな、と感じています。なお、東京に帰ってきて妊婦特別扱いということでタクシーに乗ったら、制服をきちっと着て、道の指示に対して「はい」ときちっと答える以外は無口に走っていたので改めておもしろいなと思いました。外はもちろんシートもきれいだしドアは自動、メーター以外の料金なんてありえない。でもトランクの荷物は自分で出し入れ。いろんなところからその国が見えてくるものです。

■「普通の都会」で異国を楽しむ

さてホテルに到着したのは夕方。その日は夕食に出るくらいとしてもあと丸々2日、KLに取ってあります。そこで何をするか。観光目的だとKLは「普通の都会」になってしまって特に目立つことはありません。でも僕らの興味は前述のように「多民族がどう暮らしているのか」「この国がどういう方向に向かっているのか」といったところだったので、のんびりプラプラ街をほっつき歩いても、そこそこおもしろいのではないかと思っていました。

たとえばショッピング・センターの入り口にあるカフェに座って見ていると、いろんな人が通りかかります。額に紅の点を打ったインド系の女性、イスラムのおきてに従いスカーフ(現地ではトドンと言われます)をしたマレー系の女学生、より厳格なのか中東で見かけたような目以外全身を黒い布で覆った人も時々います。一方で中国系の人は日本で見るような装い。肌の露出が多い人もいて、マレー人はどう思っているのだろうと思います。でもインド系やマレー系の顔立ちでも(僕らにとって)普通のかっこうをしている人もいます。ちょっとびっくりしたのは、けっこう夜遅く、9時過ぎくらいでも子供連れでショッピングや外食をしている人が多かったことでした。特に中国系は外食をすることが多いように見えました。

ショッピング・センターに入れば、どんな店が多いのかが興味を引きます。まず目立ったのは携帯電話の店が多いこと。日本のデパートくらいのかなり広いスペースでその半分近くを携帯電話の店が占めていたりします。機器は日本よりもやや小さめ。後で「日本人は小さいものが好きなのにどうして携帯は大きいんだろう?」と聞かれましたが、メールのために大きな画面がほしいからじゃないか、という結論になりました。この他には靴屋も多い。特に女性用にはたくさんの人が入っていて、次から次へと試してます。フードコートにどんな店が出ていてどのように人が入っているかを見るのもおもしろいもの。やはり中華、マレー、インド料理が多いのですが、イタリアンや日本食も少しずつ出てきています。雰囲気としては屋台の方が生き生きした感じがして好きですが、観察のために一回食べてみました。

そして街のウォッチングで一つ特に興味を持って見ていたのは、民族間での違いです。短い滞在での印象なのではずしている可能性もありますが、人口比に対して中国系の存在感を感じました。彼らが経済力を持っているせいか、まず街でよく漢字をみかけます。またこれは後で聞いたことですが、マレー系のエリートが役所で働きたがるのに対して中国系はビジネスの世界を好むので、これも表で中国系を見かけることが多い理由かもしれません。また、対応できる幅というのもありそうです。たとえば食事に際してイスラムであるマレー系が豚肉を多く使う中華を食べることはあまりなさそうです。一方でヒンズー教徒が多いインド系の場合、牛肉を食べません。しかし中国系はインド料理も食べればマレー料理も食べます。これが逆に結婚などに及ぶと、中国系がマレー人と結婚してイスラムになることはあってもその逆は少ないという話を聞きました。

そんなことを見ながらKLをうろうろしていたのですが、人や生活をゆっくり見るのに欠かせない要素が一つKLにはありました。それは身の危険をあまり感じないということです。確かにここでもペナンでもバイクに乗ったひったくり等が問題になっていて、いろいろな人から「注意した方がいいよ」と言われたのですが、それでも感じる危険の度合いがこれまで行った国の中ではかなり低いというのが実感でした。

そういうのってどうやってわかるのだろう、と思う人もいると思いますが、僕らはなんとなくそういうことを感じ取っています。改めて何からそれを見て取っているのだろう、と考えてみると...たとえば建物のサイズに対して人が少ない、ものが壊れていたり汚い、物乞いや押し売りが多い(貧富の差の象徴)、人々の目つきが鋭い等々。つまり「どれだけ荒れているか、すさんでいるか」というところだと思います。

この点でKLはかなり安心して歩けるところでした。もちろん持ち物や服装に気をつけているなど必要な注意は払っているのですが、屋台で楽しげに話しながら食事をするたくさんの人たちや、きれいに手入れされた植え込みから感じられるのは、上のような「荒れた」感じとだいぶ違います。屋台が雑然とひしめき合って時々どぶっぽいにおいがしても、ものの消費量に比べれば清潔です。そういうところではリラックスして、街のウォッチングをできる感じがします。

■緑の中でのマレーシア・トーク

さて、KLにいる間に街とは別にもう一つ行ってみたいと思っていたところがありました。FRIMと略称で呼ばれるマレーシア森林研究所。市内からタクシーで30分ほどのところなのですが、かつてはスズ鉱山の鉱跡と畑と藪だったところを森林に戻しています。ここの木々はすべていわば出生証明を持ち、森林生態系の知識を積み上げると同時に森林からの産物を有効利用するための技術を開発発展させてきたとのこと。すごいと思ったのは、これを1926年からやってきたということです。現在はレジャーや教育目的に開放されているということなので、行ってみました。タクシーの運転手も知っていたのでけっこう有名なようです。

とりあえずインフォメーション・センターを訪ねてみると、ガイドツアーもあるとのこと。何時にスタート?と聞いたらなんのことはない、僕らしかいないのでいつでもOK。対応してくれた感じのよい中国系の男性が自分でやってくれるようです。2時間程度で金額も80RM(2600円程度)だったのでこれはいいや、とお願いすることにしました。ガイドツアーそのものにももちろん興味はあったのですが、そこそこちゃんとした話をできそうな現地の人と2時間話ができるということも僕らにとっては魅力でした。

実際にいっしょに歩いてみるとそこそこどころではなく、かなりおもしろく話をすることができました。おそらく50代後半だと思うのですがそこそこ起伏もある森の中を元気に歩きながらいろいろな話をしてくれます。森や木々についてもそれはそれでおもしろかったのですが、僕らの質問に答えてしてくれるそれ以外の話、つまりマレーシアや彼自身の価値観の出てくる話が特におもしろかった。

まず、KLで話したタクシーの運転手同様、彼もマハティール首相の功績を高く評価しているというのに「へー」と思いました。そして、いろいろな事柄について彼の意見がマハティール首相の言うところとよく似ているのです。たとえば貧富の差が大きいといろいろな問題が起きるので、自分が勝ち組にいたとしても富の再配分が必要である(彼はどちらかというと勝ち組になります)という話をしていました。つまり自分たちにとってある意味不利であるブミ・プトラ政策を肯定しているわけです。別にただの外国人旅行者を相手に情報統制がかかっているわけではないと思うので、彼が本当にそう思っているとすればすごいことだとこれは思います。

もう一つすごいと思ったのは、環境に対して意識が高いのは当然としても、経済や国政についても知識や意見を持っていることでした。たとえば国産自動車プロトンの生産力が、まだ操業開始したばかりのホンダの現地工場に比べて低すぎるというような話が出てくるのです。一方で、森での仕事について「時間をかけて未来に意味を持つ仕事をやるのはやりがいを感じる」と言っているのを聞いて、価値観的にも共感し、そういう人がこの国にもいる、ということにうれしくなったのでした。

...というように、まずKLからスタートしたマレーシアでの滞在の中で僕らは「ここに来たのはなかなかあたりかも」という思いを深めていました。それは一つには安心かつ快適でいられるということ(屋台の食べ物も安くてあたりが多かったです(^_^))、もう一つには多民族国家のような未知の世界の魅力、そして思っていた以上に共感できる部分が多そうといううれしさが合わさったものだったようです。

この後、僕らはペナンに向かいます。そして現地でビジネスを行う日本人のともだちと、日本の企業で働いたこともある華人のともだちという違ったタイプのサポートを得ながらまたさらにマレーシアを知ることになります。この話はまた次回に書きたいと思います。

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Toshi/高橋俊之(たかはしとしゆき)。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」(ダイヤモンド社)、「ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術」(東洋経済新報社)。

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