131引越しで応対を考える

photo by paco.

夏から考えていた引越し先が決まりました。結局、横浜市の都筑区になり、今月末に移ります。情報をくださった方、ありがとう。その経緯とか、どんなところかという話はまた別の機会にするとして、今日は引越しにあたっての手続き関連で話していて感じたことを書きたいと思います。しかし、引越しというのは本当にいろいろなことが必要ですね。

■「お役所仕事」じゃない役所

まずは家の契約で必要になったのが役所の書類です。住民票や課税証明を取りに行ったところ、ここで感心しました。住民票に何を載せるかというところで、大は小を兼ねるとなんでも出すようにgirl friendがチェックしたところ、窓口の人が「プライバシーだから必要な情報だけしか出さない方がいいですよ。アパートの契約なら...」とアドバイスしてくれたのでした。ここの役所だけではありません。別のところで僕が課税証明を取った時もそうでした。目的を確認してそれならこれだけ出せばだいじょうぶと、あるフォーマットをすすめてくれました。そのくらいのことは当たり前だよ、という考え方もありますが、「お役所仕事」などと言われてしまうくらいだからか、こういう対応を受けるとうれしくなってしまいます。

しかし、他にもいいなあと思ったことがありました。印鑑証明をお母さんのかわりに取りに来ていた人がいたのですが、本人ではないので委任状がないと出せないのですね。それを窓口の人は事務的に言ってしまうのではなく、理由を簡単に言ってかつ「お手数かけて申し訳ないんですが」という言い方をしていました。別に窓口の人に落ち度があるわけではないし、必要なことなので謝る必要はないんですが、手間をかけて申し訳ないですねえという感じで言っているのを見ると好感を感じてしまいます。

このことをふとまた別の時に思い出したことがありました。銀行の課題について書いた本を読んでいた時のことです。知り合いに頼まれて通帳と印鑑を預かりお金を下ろしに行ったところ、本人でないことがたまたまわかり、その後まるで窃盗犯であるかのような扱いを受けたという人の話が出ていました。その人は非常に憤慨して人に話し、その話は本に載るまでになってしまったわけです。

しかし、本当に窃盗犯だった時のリスクを考えると、銀行が預金の引き出しに対して十分な注意を払わなければならないのは確かです。だから銀行が取っていた「その人を確認するものを提示してもらう」「本人に連絡を取って確認する」といったことはすべて正しかったと思います。その人が「自宅の番号では昼間はつかまらないのでこの携帯に電話してくれ」と言った時に「それがご本人の番号という確証がない」とした判断も正しかったと思います。でも、その人も顧客も怒ってしまった。仕方がないことなのでしょうか。

そうではないと思います。これらのチェックそのものは間違っていません。ただそれをどのような態度で行ったかということと、その時の説明の仕方が問題だったのだと思います。たとえば「大変失礼ではありますが、お客様の大事な財産をお預かりしている関係上、いくつかご確認させていただけますか」「ご本人がそのような依頼をされたことと、お客様がご本人から依頼を受けた方であることの二つを確認する必要があるのです」としていたらもっとよい結果になったのではないかと。もちろん態度の上でも（窃盗容疑者ではなく）お客様に対するように行われていればの話です。「めんどうくさいなー！」と思ったとしても、思慮のある人なら納得できたのではないでしょうか。人によっては「やるべきことをきちっとやっている銀行」と安心したかもしれません。

役所に話を戻すと、そういった意味で、役所の窓口対応はけっこうがんばっているよなあと僕はここ1年くらい思っています。たまたま目黒区がそうなのかもしれませんが、上の話だけではありません。、全体的に「はい、次！」という感じではなく、フレンドリーな態度で対応してくれます。用事がすむと「お疲れ様でした」と言ってくれるのも、こちらの手間を理解してくれている感じがしてなんかうれしい(^_^)。きっちりやることと、親近感のもてる対応をすることは両立可能だと思うのです。

そして興味があるのは、どうして役所でこれが出来（てきてい）るのだろう、ということです。商売と違うので、愛想良くしたから客が増えるというわけじゃない。利用者にアンケートをとってそれで評価しているとかあるのかな？見た記憶はありませんがそうかもしれませんね。「区民に愛される役所に！」とか運動をやっているんでしょうか？僕のようにあまのじゃくな人間だったらそんなことを言われると逆らいたくなってしまいそう。役所の人と話す機会があったら、聞いてみたいと思っています。

■できない、わからないの言い方

今回の引越しで、思わぬところで苦労しているものがあります。インターネットへの接続です。以前ならまだ珍しいのでいろいろ注意していたのですが、もう世の中ですっかり市民権を得ていると思っていたのが油断でした。

まずCATVが入っているのはわかっていたので、それで行こうと思いCATVの会社に電話したところ、その建物ではCATVでインターネットを使う工事が行われていないと言われました。そして工事はオーナーの承諾がないと出来ないと言われました。それで僕はCATVをあきらめ、ADSLにするかと思ったのですが、あとで資料を受け取って改めてよく読んでいたら、あれ？となりました。工事といっても建物の構造からするときっと大げさなものではなく費用も2万円程度の話なのです。
つまり

「承諾がないとできない」というより、
「承諾があればできる」ことです。

でも、このCATV会社は内容は同じでも逆の言い方をしていることでビジネスを逃している可能性があるというわけです。これと対照的なのがYahoo!BBです。たとえば「光収容でもあきらめないぞ！キャンペーン」というのがあります。電話回線が光収容の場合、そのままでは使いたくともADSLを使うことが出来ません。その収容替え工事の費用（8100円）を彼らが負担するというのがこのキャンペーンなんですが、金額の負担もさることながら、こういうことをキャンペーンとして打ち出していく姿勢が「違いだなあ」と思います。また「あきらめないぞ！」とか言われると（「ぞ！」がポイントですね(^_^)）、八方ふさがりの中に味方があらわれたようで、うれしくなってしまいます。Yahoo!BBのサービスが実際にどうなのかは使っていないのでわかりませんが。

というわけでCATVで行く手もあったのですが、ネットで調べたところこのCATV会社のインターネット対応はあまり評判がよくなかったのでやめ、ADSLで行くつもりで動き始めました。ところがそこではたと気がついたのがパソコンを使うであろう二階に電話の線が来ていないということです。てっきりCATVでネットを使えると思っていたので気にしていなかったのですが、ADSLを考えた瞬間に問題になってきました。なお正確には、電話の口らしきものは階段を上がりきったところにあったのですが、モジュラージャックの形状ではなかったのでそれがそうなのかは僕も確信がありませんでした。そこでこのあたりの話をアパートの管理会社と話し始めて、またおもしろいことが見えてきました。

まず24時間対応という電話番号に電話してみると、その日はその会社の定休日だったので代行会社の人が出て「わからない」とつっけんどんに言われました。そこで次の日にまた電話をしてみると事務らしき人が出て、やはり、自分ではわからないと言われました。あとでわかったことですが、この人の場合、そもそも質問を理解できていませんでした。

ここでこの会社のマネジメントになったつもりで考えてみると「電話に出る人がちゃんとわかるようにしておく」というのが一つのオプションです。ただ、それはそれでやるとしても「わからない、とうまく答える」方法をマスターさせるのも重要じゃないかと思います。たとえば代行の人であれば「緊急の場合の対応のために定休日も含めて24時間やっているんですが、緊急外のことはあまりわからないんです。申し訳ないです」と言えば、僕だったら「ああ、そうか」と思います。事務の人でも話の途中で「申し訳ないんですがおっしゃっていることを理解できているかどうか不安なので、担当にもう一度説明していただけますか」と言ってくれた方が、うれしい。というように「わからない」時の言い方「も」用意しておくことで、イメージがよくなるのではないかなと思います。

結局その後、二階に電話線の口はあるが線は来ていないことがわかりました。当然その線を引く費用がかかる（1万円程度）のですが、ためしにと思い、管理会社にまた交渉してみました。電話ならリビングにだけあればよいかもしれないが、今時その程度の物件に住む人がインターネットを使うのは常識でしょうと。CATVでも電話線でもいいけど用意しておくのが普通じゃないの、というわけです。

電話では事務の人が受け、担当から折り返し電話するということでかかってきたのが翌々日。結局、「申し訳ないのですが..」で、ダメということでした。その言い方は気持ちが感じられるものでしたし、しつこく交渉するのは好きではないので了解した上で「参考までに」と改めて上のことを意見として言っておきました。

ただ、それはそれとしてこの時、もったいないなと思ったのがこの時にかかった時間です。翌々日までかかっているというのは、客から見れば普通は減点で、人によっては「待たしておいて」と怒るかもしれません。いったん電話して「通常は難しいんですが、聞いてみます」としておいて「申し訳ないんですがやっぱりダメでした」と言った方が印象はよかっただろうと思います。これは会社にとってもそうですが、営業担当としても、お客さんと気持ちのいい会話が出来て楽しく仕事が出来るのではないかなあと思います。

■いっしょにものごとをやりたい人

実は上の話で見直してしまったのが今の大家さんです。今のところの大家さんは個人ですべて管理しているのですが、そこそこ年配にもかかわらずCATVはインターネット対応、しばらく前には光ファイバーについてのアンケートも来ました。この、いきなり光ファイバーにしてしまうのではなくアンケートをとっているところに経営のセンスを感じます。もちろんネットのことだけでなくいろいろなところで、住んでいる人と自分のwin-winになるように考えているのが伝わってきますし、僕らの生活のイメージを持てているという印象を受けます。もし彼が持っている物件が僕らの要件に合っていたら、少しくらい高くてもそこに住みたかったなあと思いました。

さて、ネットに話を戻すと、今度はどこのADSLにするかというのを決めなければなりません。ある会社に電話をしたらおもしろかったのは、自分の売上にならなさそうだとわかった瞬間に「早くこの電話を切りたい」という感じになったことでした。また別のところに電話して話していた時には、そこで申し込めば他の条件はほとんど同じで5000円のキャッシュバックがあるにもかかわらず、結局やめました。なぜやめたのかその瞬間はよくわからなかったのですが、後で考えてみると、気になったのはその人の話し方でした。

その人はすごいスピードで話していました。ADSLはプロバイダーとADSLの提供者が別になりえたり、さらにNTTがからみ、ADSLにもスピードの種類がありとなかなかややこしいものです。僕の場合は一応調べてから電話をしているので何を話しているのかはわかるのですが、それでもそういう話を早口でまくしたてられると「この人、相手のことが見えていない」と感じてしまったのだと思います。加えてこの人からの連絡が遅かったこと、以前に話した電話の移設の件で話をしたNTT東日本の担当者が感じよかったことが頭にあったので、そっちにしよう、と思ったのでしょう。「5000円は大きいよ」という人もいると思いますが、僕はこういう場合「１、２回飲みに行けば5000円くらいすぐ使うよね」と考えてしまいます。

そしてNTTの人に電話をしたのですが、この人と話をしていてまずやりやすいのは、ポイントを押さえているということでした。それも彼らにとってのポイントだけでなく、こちらにとってのポイントを押さえています。たとえば前に話した時には他の会社にするかもしれないという話をしていたのですが、「もしひょっとしてこちらにされる場合には来週の月曜日までにご連絡いただければ希望日での開通が出来ます」と僕が聞く前に言ってくれました。これがあると僕の方はこの期日をにらみながら動けるのでとても便利です。また技術的なことはすべて理解できているわけではないのですが、ここがポイントというところはだいたい押さえてくれているようなので安心できるというのもあります。

もう一ついいなあと思ったのは、ちょっとおおげさですが、いっしょにプロジェクトをやっているような感じでやってくれることです。たとえばそこは回線が光収容なのでメタルの回線を確保できるかどうか確認する必要があったのですが、この確認を「遅くともあしたまでには」と言いつつ、一時間以内にやってくれました。そして、その時に「回線、確保できます！」と言った感じが元気がよくてすごくうれしそうだった。そういう感じだとこっちもなんかうれしくなってしまいます。その後もADSLモデムの話やプロバイダーのことなどいくつかやりとりをしているのですが、今のところいい感じで進んでいます。まだ引っ越してすべてつなげてみないとわからないのですが、うまく行ったら次に何かやる時もこの人には相談したいと感じています。

■自分で自分に突っ込む？

長くなってきたので最後のエピソードを。壊れた古いディスプレイを処分したいと思ったのですが、今はリサイクルセンターに送るようになっていますね。ところが17インチのブラウン管ディスプレイはかなり大きいのでこちらに箱がありません。送り先に電話をして「箱とかないんですか？」と聞いたところ、最初は「それはお客様に用意していただくことになっているんですよ」という返事が返ってきました。でも「そんなでかい箱、普通持っても取ってもいないでしょう」とちょっと強めに言ったところ、「箱でなくとも破れにくい袋でもいいんですが...」と返ってきました。これは案内にも書いてあったので知っていたんですが、この後が予想外でした。

彼は続けて「じゃあ、破れにくい袋って言ったってどういうんだ、て話なわけですが..」と言い出したのです。この自分での突っ込みには思わず笑ってしまいました。確かにどんな袋でも17インチのディスプレイなんかいれてぶらさげた日には破れそうです。その後に「ゴミ袋を重ねて..」というような技を紹介してくれたんですが、それで本当にだいじょうぶなのか、というのはちょっとあやしい。でも、なんかそんなふうに笑えたことで、まあいいや、と思ってしまったのです。そして、ここで笑えたのは、おかしかったというのももちろんありますが、その人がこちらの気持ちになって言ってくれていることも感じられたからだと思います。

まだまだ他にもいろいろあるのですが、長くなってきたので今日はこの辺にしたいと思います。でも、量販店の人の対応を見ていてもけっこう違うのでおもしろいです。自動車ディーラーの営業担当はもっとカラーがはっきり出たのでこれも興味深かった。また機会があればそのあたりの話も書いてみたいと思っています。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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