132 食える緑のある町に移る

photo by Toshi.

前回書いたように、今年後半の計画のひとつにしていた引越しをこの間しました。人からは「速かったですね～」と言われるのですが、７月のコミトンに「今年後半の計画」と書いていましたから、実はけっこう時間がかかっています。でも、のんびりやっていただけでこれにかけた時間がすごく長かったわけではないし、プロセス自体も楽しめたので、まあよかったかなと思っています。というわけで、今回は思い立ってからここに行き着くまでのことを書いてみたいと思います。

■覚悟してたけど、なかなか見つからない

まず、コミトン121「住みたい町を探す」で書いていた条件は

週に 1回はちょっとした自然に触れに楽に行ける
町が生きている（＝「店主」的な人たちがけっこういる）
都心へのアクセスも悪くない（山手線内に40分程度まで）
できれば庭かそれに近いところで野菜作りがしたい
- （まわりに畑がそこそこある環境で）

ということでした。これにあてはまるかも、ということで最初に行ってみたのが三鷹市です。行政と市民がいっしょになっていろいろやっている、またそういうことを出来る「店主」的な人がいる、とpacoさんに聞いて興味を持ちました。実際、pacoさんに紹介してもらった人に会って話をしてみたり、そういう人たちが集まって話をしているMLに入れてもらってしばらく見ていてもなかなかおもしろそうだなと感じました。でも、具体的に引っ越すことを考えた時、結局、他をあたることになりました。

まず一つには希望に合う物件（家）があまりなさそうだったということがあります。不動産屋の話によると「賃貸で庭いじりを出来るようなものはなかなかない」ということ。これは当たる前からそうだろうなあと思っていたので、やっぱりそうか、というところでした。また少ないながらも見せてもらったものは物件のわりには「高い」というのがありました。都心に毎日通勤する人にとっては東京駅まで30分かからない駅から徒歩10分以内というのは価値がありそうですが、週に２、３日しか都心に出ず、車で移動するという手もある僕らにとっては高いと感じたのです。でも、一番大きかったのはおそらく、密度の感覚だと思います。都内では珍しくないことですが、建物がぎっしり詰まっていて道は狭く、それに対して人や車は多い。これは今の自分たちの感覚ではないな、と思ったのでした。

そこで次に向かったのは横浜市です。コミトン「住みたい町を探す」で書いたように、「農ある街づくり」をうたっていることから興味を持ったのですが、その中でも緑被率44%と緑の多い緑区（緑被率－航空写真で上空から見た時に緑で覆われている率。三鷹市は23%。今いる都筑区は38%）からスタートしました。

不動産屋に行ってみてまずわかったのは「このあたりでは庭付きの賃貸は珍しくない」ということでした。今、僕らが住んでいるところもそうなのですが、テラスハウスと言われるタイプのものだと１Ｆにリビング・ダイニング、バス、トイレ、２Ｆに他の部屋という配置になっていて、リビングの窓の外には少しスペースがあります。ここが土ならば（コンクリートのうちっぱなしというところもあります）ちょっとした家庭菜園ができる。コストの点でも妥当という感じでした。

そこで、まわりに畑があるということを条件に複数の不動産屋にさがしてもらいました。ところが思ったよりもここで時間がかかります。不動産屋の担当もいろいろさがしてくれるのですが、今ひとつ「いいじゃない！」とならない。緑区だけでなくとなりの青葉区も含めて探してもらったのですが、やっぱり見つからない。

まあ「畑のあるところ」とか「土の庭」といったところが選択肢を狭めていることはわかるのですが、それでも見せてもらえたところはそこそこあります。何が違うんだろうと考えてみると、一つは家の中の要因で、家作りのコンセプトが違ったようです。広さはけっこうあるのにその割には設備（キッチン、風呂から内装等々）が今ひとつというものが多い。築年数が１０年前後のものが多いのですが、その時代この地域では、広さを確保はするものの設備をけずって家賃を抑えるという発想だったのかもしれません。また不動産屋の話だと「賃貸だとそこはなかなか...」ということでした。しかしその頃住んでいた都立大（目黒区）あたりだと賃貸でも設備のしっかりしているところはあります（当然、家賃もそれなりなのですが）。これはこのエリアと自分たちの感覚が合っていないということなのかなあ、とも少し思いました。

もう一つはまわりの環境です。これは「空気」としかいいようがないのですが、特に緑区では、活気とかエネルギーがもっと欲しいと感じたのです。一方で青葉区は、写真でよく見るような新しい家の並んでいる様子が印象的でなかなかきれいだったのですが、自分たちの生息領域ではないなあと感じました。もうちょっと未完成でカオスなくらいがいいという感じたんですね。

■ニーズの似たエリアにターゲット

そこでgirl friendと相談して作戦を少し変えることにしました。まずはエリアを少し東の都筑区に変えます。当初、ここは流入によって人口が急速に増えていて幼稚園が足りなくなるくらいという情報を聞いていたので、混雑の苦手な僕らは避けていました。しかし、それだけ人が最近たくさん入ってきているということは、最近の物件も多いはずです。また、このエリアに入ってきている層のニーズはこどもが出来たばかりというように僕らに近い。

車で走ってみると、まだまだ畑も森もかなりあります。道幅も広く、平日に動いている限りは渋滞の悩みもなさそう。幼稚園がなければその時は仲間を募って自主保育という手もあるよね、と考えたわけです。おりしも知恵市場コミトンの読者から育児の体験に基づいて都筑区おすすめという情報も寄せられました。

そして時間の節約のため、見る物件を築５年以内のものに絞りました。新しい物好きというわけではないのですが、ここ２０年くらいの住宅については健康への配慮も含めて最近のものの方が優れているし自分たちの好みに合っていると思ったのです。

ちなみに「ご予算は？」というお決まりの質問に対してはずっと、「気に入って金額が妥当であれば特に制限はない」という言い方をしていました。自分で仕事をしているとサラリーマンよりも収入の上下は自分で決められます。本当に「これはぜひ欲しい！」と思うようなものが見つかったら、そのために働くのはやぶさかではありません。そこで、だいたいイメージしている金額はあるものの、自分の想像を超えるようないいものが出て来ることも少し期待して、そんな答えをしていました。

■自分たちの好みの家が見えてくる

そして最終的に決めた今の家を見てみると...幸か不幸か金額は想定の範囲内でした(^_^)。築４年ですがきれいで、ちょうどなじんできた頃かなという感じです。各部屋は典型的な日本の部屋、つまり諸外国から見れば狭い(^_^)。しかし荷物を入れてみてわかったのは、限られた空間を絶妙に使うよう考えられているということです。たとえばダイニングとリビングに家具を入れた後、見てみると、ものとものの間隔はこれ以上狭まるときついがこれなら十分快適というおさまり方です。洗面所やトイレも収納を含めて最低限のスペースしか取られていない一方でバスタブはゆったりしていてきれいだし、玄関や階段も圧迫感のない広さです。たまたま自分の好みにあっただけかもしれませんが、このメリハリはけっこう気に入っています。前に都立大で住んでいたところ（築15年）と比べてもスペースの使い方として進んでいる感じがします。

なお、もう一つここで確認できたのは、自分たちはそれほど広いスペースを必要としないということでした。これは都立大の家で「こんなに一部屋のスペースはいらないな」と感じていて、今回、リビング以外は広さを求めませんでした。一番時間をすごすことになる書斎は５畳のスペースに二人の机を置いていますが快適です。これは持ち物が少ないということもありますが、快適と感じるために必要な面積も自分たちの場合はそれほど広くないということだと思います。面積が狭くてすめば光熱費なども含めてコストは下がるわけで、仮に家を建てることになった時にはその分、素材などに重点を置くことが考えられます。

さて、家の外に目を向けてみます。まず窓から見てみると、以前に住んでいたところに比べて緑（畑と木々）と青（空）の割合が上がり、灰色（建物）の割合が下がっています。これはとても気持ちがよい変化なのですが、かといって全部緑と青が好きなわけでもない、と感じています。たとえばpacoさんの八ヶ岳の家に行くと、僕にとって、住むには人のにおいがしなさすぎる（遊びに行くのはいいんだけど(^_^)）。その意味で、今の状況はちょうどいい感じです。

今度は外に出てみます。要件にしていた庭は約15平米確保できました。このコミトンを書き終えたら、何をまず植えるか考えようと思っています。上に書いたようにまわりにも畑がたくさんあるので、いろいろ参考に出来そう。girl friendは散歩に出かけた時、収穫をしていた人に話しかけ、さっそく大根をもらってきました。機会があったら畑を手伝わせてもらうこともできるかもしれません。お隣さんは期せずして三方が外国人（国際結婚）。まだどんな人なのかはよくわかりませんが、おもしろい交流が起きるかもしれません。

■このまちは違う動物かも

最初の要件の中に「町が生きている（＝「店主」的な人たちがけっこういる）」というのを上げました。その一つの形、たとえば商店街が生き生きしているという意味ではこのエリアはちょっと違いそうです。都筑区は最近開発されたエリアなので、そもそも商店街というものがありません。日常の買い物は駅に隣接したショッピング・センターか、車で行ける大型店でされているようです。レストランも大きな道路沿いにはよく名前を見るチェーン店しか目に付かなくて、でかでかと原色でかかげられた看板には美しくないなあと感じてしまいます。一家の周りも人がにぎやかに出歩いているところではありません。越してきてすぐいろいろな人から「空き巣に気をつけたほうがいいですよ」と言われたのも平日の昼間は人が少ないことを示しているのだと思います。しかし、だから町が生きていないかというと、それはまだわからないし、けっこう可能性がいろいろある、と思っています。

まず、このエリアを検討し始めてからわかったのは、グロービスや英語のシャワーに来ている人の中にこのエリアに住んでいる人がたくさんいるということでした（きっと知恵市場コミトンの読者の中にもけっこういるのでは）。２５人から３０人のクラスに３人はいるという感じです。その人たちの仕事としてはだいたい会社勤めですが、意識の上では「店主」的な感覚を持っています。そこで、このような人たちといっしょに何かやれたらおもしろそうだ、と思っています。

たとえば今考えているのは、自宅で論理思考の勉強会をやること。僕にとってはビジネスというより実験・研究の場で、みんなにとってはわいわい集まっていろいろ考える場。そこからまた具体的に地域での活動を立ち上げられるかもしれません。特にこの地域の場合、まだ歴史が浅いために地域活動・文化活動がそれほど多くないようなので、そう感じます。

地域によってはいろいろな活動がすでに行われているところもあります。目黒区などはそうで、国際交流等々地域活動・文化活動がいろいろ行われていました。前述の三鷹市もそうです。もちろん都筑区やとなりの青葉区でもすでにそういう活動はありますが、まだ歴史が浅い分だけ、まだまだ少ないよう。この状況をマイナスと捉える人もいるでしょうが、僕の場合は既にある活動に入っていくよりも自分で立ち上げる方がやりやすいので、プラスかなあと思っています。

というように、「町が生きている」といってもいろいろなタイプがあり、ここでのそういう姿はにぎやかな商店街といった従来の形とは違うものかな、と思っています。いわば違う動物という感じですね。この「違う動物」という感覚は移動についても感じます。

歩いていける範囲には商店もスーパーもありません。歩いていける範囲にあるのはいくつかのチェーン・レストランと自動車修理工場くらい。コンビニですら車で行った方が便利そう。都心へ出るのも同じです。電車を使いたければ昼間は３０分に一本のバスに乗っていくことになります。でも車を使うと、第三京浜の都筑IC近くなので英語教室のある三田まで４０分以内（帰りは深夜なので３０分）で行けます。

近場も車を使えるとなるとだいぶ様子が変わってきます。増えている人口に対応してセンター北やセンター南駅を中心にショッピングセンター等の施設はかなり充実しています。うちから車で１５分ほどのセンター南駅近くにはシネマ・コンプレックスもあります。週末の中心部は道路も施設も混雑してしまうようですが、平日に動けば豊富な施設をゆっくり楽しむことが出来ます。

このようなことから、車を一台増やすことにし、pacoさんの環境レクチャーに影響されてプリウスをオーダーしました。もっとも今乗っているのはマツダのロードスターという二人乗りのスポーツカーで、あまり環境にやさしいとは言えません(^_^;。しかも来年の２月にこどもが生まれたら、二人がそれぞれ別々に車で出かけることも実はあまりないかもしれない。結局、その機会に合わせて違う車に乗りたいという僕のぜいたくのような気もします。でも、こちらに越したことで家賃も約８万円下がったので、そんなのもいいかなと思っています。

■状況が変わってしまったら？

と、これまで書いてきたことはいいことづくめのように見えますが、気になることもあります。それはこのエリアの開発が進み、人口が著しく増えていることです。これがさらに進めば、せっかくの畑も住宅に変わってしまうかもしれません。道路その他、快適なインフラもキャパシティを超えて常時、混雑状態になってしまうかもしれません。実はすぐ近くに今も地下鉄の敷設工事をしていて、数年後には駅まで徒歩３分と言われています。

そうなったら...大きな流れを止めるのは難しいと思いますが、まず一つには、何かできるのかどうかいろいろ考え、トライしてみるのもそれはそれでいい経験かなと思っています。上に書いた論理思考勉強会の題材にしてもよいかもしれません。それでも難しかったら、その時は賃貸の身軽さを生かして、別の場所に動いていくのでしょう。そもそも自分にとっても家族にとっても人生の段階が変わって最適な場所のイメージ自体が変わっている可能性もありますし。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

mail:toshi@chieichiba.net