138 木質ペレットの事業化

▲木質ペレット
Photo by paco.

先週、長野県伊那に、「木質ペレット製造工場」が完成し、竣工式がありました。これに先だって、お披露目直前の新工場を見学し、伊那のペレットの関係者とミーティングをしてきました。今、この木質ペレットの本格事業化についてが僕の大きなテーマになりつつあり、うまくいけばおもしろいことになりそうです。今回は木質ペレットの事業化について、基本的なところを整理したいと思います。

■木質ペレットって何？

まず、木質ペレットについて説明します。以前からコミトンではペレットについてもちらちら書いているので、覚えている方もいるかもしれませんが、おさらいもかねて。

木質ペレットとは、木を粉末に砕いて「おがこ」にし、それを乾燥させて、固めてつくった粒状の素材のことです。ペレットが今いちばん身近に手にはいるのは、実はペットショップです。スーパーマーケットやペットショップにいって、ネコのトイレ用、ウサギやフェレットのトイレ用として売っている、木質の粒は、主に海外から輸入された木質ペレットです。5kg入りの大袋で、1000円程度で売られています。

僕が飼っているウサギさんも使っているのですが、粒の状態でトイレに入れ、そこにうさぎがおしっこをすると、この粒は水分で崩れて、もとのおが粉に戻ります。針葉樹が使われているので、松などの成分がにおいを吸収するし、殺菌力もあるので、トイレ用としては優秀です。木質100％の素材なので、そのままゴミとして燃やしても何の問題もありません。

しかしペレットの主要な利用先は、ペット用ではなく、燃料です。ペレットを燃やすストーブやボイラーがあり、ここで完全燃料させると、木のもつエネルギーの80％以上を取り出すことができ、またCO2以外のNOxなどの有害物質の排出も低レベルです。もともと木質以外のものはいっさい使っていないので、クリーンな燃料なのです。

■ペレット工場を見学する

今回見学したのは、伊那市にある上伊那森林組合が、県などの助成を受けてつくった最新のペレット工場です。僕も実際に工場を見たのははじめてだったのですが、思ったより大規模な工場で、ちょっとびっくりしました。しかし順に見ていくと、製造工程はとてもシンプルです。

工場全体のサイズは、中規模の建屋2軒分、ざっと、50メートル四方という感じでしょうか。製造工程は、大きく4つに分かれます。

(1)おが粉製造

原料は葉以外の部分なら、木のどの部分でも使えます。基本的には間伐材や角材をとった残りの製材くず、樹皮、枝、根など。上伊那の製造ラインでは、受け入れ部分として、30センチ程度までの丸太のまま流せる投入口と、枝や樹皮など、丸太の形になっていない部分を流す部分からなっていて、ここにフォークリフトなどで投入すると、コンベアにのって粉砕器に行きます。粉砕器は大型モータで回転刃をガリガリ回し、大音響を発しながら、幹でも枝でもがんがん粉末にしていきます。今日本にあるおが粉製造機の中では最大級のものです。つくられたおが粉は、いったんストックヤードの貯められます。この段階では、木は水分をたっぷり含んだままで、しっとりと燃えにくい状態です。

(2)乾燥

ストックヤードからコンベアでふたつ目の建屋に送られ、そこで高温の温風が吹き出すチェンバーでおが粉を乾燥させます。温風は、先につくったペレットや余ったおが粉などを燃やしてつくるでの、石油など化石燃料は使いません。おが粉の段階では70～50％程度の水分が含まれていますが、これを30～20％以下になるまで乾燥させます。

(3)圧縮成形

温風乾燥されたおが粉はすぐに冷やされ、いったんストックされます。この状態では発火しやすいので、密閉しておきます。その後、ペレット製造の心臓部、圧縮機に送られます。ここでは乾燥おが粉に200℃程度の高温を加えると、木質の中のリグニンという成分が溶け出し、これが接着剤の役割を果たして、冷やすと固まります。遠心力で穴からにゅるにゅると出るようにすると、外気で冷やされて円筒形に固まるのです。仕様によりますが、太さ5ミリ～13ミリ程度、長さ10～15ミリ程度が仕上がりサイズです。できあがったペレットは、選別機で仕様のサイズになっているものと、細かい粉末に近いものをわけ、仕様にあったものは袋詰めに、合っていないものは別の配管を通って、乾燥と圧縮成型用の熱源として燃やされます。

(4)袋詰め

仕様にあったペレットはコンベアに運ばれ、サイロに保管されたあと、自動製袋機で袋詰めにされます。一般用には10kg入り、大口需要先用に600kgのふたつの袋に詰められると、出荷OKです。そのほか、袋詰めされずにトラックで需要先まで運ばれるものあります。

以上の工程を通じて、トータルで見ると、投入した木質資源のうち、18～35％程度が熱源などとして必要で、残りがペレット燃料のエネルギーとして使えるものです。製造工程で必要な量が、18～35％と幅があるのは、投入する木質資源の水分量とエネルギーによるからです。水分が多い部分が多くなったり、樹種によっても、また伐採した季節によっても木の水分量が変わるので、製造に必要なエネルギーが違うのです。

また、これとはべつに、コンベアなどラインを動かすために電力が必要で、これが月額数百万円相当になります。原理的には、ペレットを燃やして発電してこれをまかなえば、電気代は不要ですが、設備投資が過大になるために、電力は電力会社から購入します。

この工場設備で、1時間あたり、最大で1トンの生産が可能です。現状は7時間稼働で年間1700トン程度を見込んでいますが、フル稼働では24時間生産の稼働率60％で5000トン程度まで生産可能でしょう。

■木質ペレットって何？

さてこうしてできたペレットの、燃料としての性能を見てみましょう。

木質ペレットのエネルギー量は、1キログラムあたり、4300～4800キロカロリーといわれています。これは、樹皮や枝を原料にした場合と、全木を原料にした場合で原料のもつエネルギーが違うためで、間伐材の全僕を使えば高カロリーのペレットになり、同じストーブで燃やしても暖かくなります。逆に言うと原料のブレンドによってエネルギー量がかなり変わるために、製品のもつエネルギー量の安定化は、事業としてみると重要な要素になります。

灯油との比較で見ると、灯油は1リットルで8250キロカロリーですから、おおざっぱに言って、ペレット2キログラムで灯油1リットル分の熱量（エネルギー量）となります。体積で比べると、比重がペレットの方が軽いために、ペレット3リットルで灯油1リットルがエネルギー量です。まとめると

              灯油   ペレット   熱量
         ───────────────────────
               1L       3L     8000kcal
               1L       2kg    8000kcal
         価格 40円      80円?  8000kcal

という関係になります。

一方、気になる価格ですが、灯油は1リットルあたり、40円程度、ペレット1kgあたりは30～40円程度が相場になります。同じ熱量で換算すると、ペレットは60～80円となり、1.5倍～2倍の値段になってしまします。

CO2の排出量は、灯油が地下から掘り出したもので、それをCO2として大気に放出するわけですから、すべてが温暖化効果を上げるものとして作用します。一方ペレットは、もともと樹木が大気中のCO2を吸収してつくったものなので、いったん排出されても再び樹木が吸収すると見ることができ、排出量は実質的にゼロと見ることができます。この、CO2排出量が実質的にゼロという状態を、「カーボン・ニュートラル」と言います。

灯油でもペレットでも、CO2が出ることには代わりがなく、樹木が吸収するCO2に「灯油から出たもの」「ペレットから出たもの」という区別があるわけではありません。しかし、同じ森林生長量を維持したとすれば、ペレットは年間の生長量分の範囲内で使っている限り、大気中にCO2を増やしていないと考えられるのに対して、灯油が放出したCO2を吸収しようとするとさらに大きな森林生長量が必要になると考えられます。このような考え方から、ペレットや薪のようなバイオマス（植物資源）燃料は、カーボンニュートラル、つまりCO2排出は実質的にゼロと考えるのが、一般的です。ちなみに本では森林の絶対量が多く、生長量も十分大きいため、ペレットとして燃やしても十分にカーボンニュートラルが成り立ちます。

■製造コスト

ではペレットの製造コストは、どのようになっているのでしょうか？

製造コストは大きく、

  ペレット製造-----+-----原料
                   +-----ラインを動かす電気代
                   +-----工場設備の減価償却
                   +-----設備のメンテナンス費用

のように3つの要素からなります。

ペレットの原材料は木質資源で、その中でも間伐材や製材端材など、不要物です。従来なら産業廃棄物として処理しなければならないものであるために、これをペレット工場に送れば、林業や製材業からペレット工場に処理費用としてお金が流れることになります。

           【廃棄物処理業としてのペレット工場】

       <林業/製材業>                     <ペレット工場>
           森       → 間伐材・端材 → 廃棄物として受け入れ
           ￥         → 処理費用 →          ￥

この処理費用を、これまでの廃棄物処理の半額にすれば、林業や製材業者は廃棄物コストが半分に削減でき、ペレット工場は原料をマイナス仕入れ（お金をもらって原料を手に入れる）ことができるようになります。しかしこの場合、ペレット工場は「廃棄物処理業」になり、国や自治体のさまざまな規制を受けると同時に、処理についての責任を負うことになります。ペレットが売れ残った場合などに、処理できていないことになり、工場の位置づけが危うくなってしまいます。

一方、間伐材などを原料として購入して製造するという位置づけにすると、「燃料製造業」という位置づけになり、廃棄物として原料を受け入れることができなくなりますが、代わりに規制は受けなくなります。この場合は、原料を「購入」する必要があり、ペレット工場から見ると製品の製造原価が上がり、販売価格が上がって、価格競争力に問題が出てしまいます。

           【燃料製造業としてのペレット工場】

        <林業/製材業>                       <ペレット工場>
              森      → 間伐材・端材 →  有価物として受け入れ
              ￥      ← 原料調達費用 ←         ￥

伊那の工場は、廃棄物処理ではない、通常の製造工場としてつくられているために、原料調達を以下に低コストで行うかがひとつのキーになります。

ラインの電気代は、前述のように年間数百万円という単位、工場設備は全体で1.6億円相当、そのうち半分程度が補助金によってまかなわれているので、8000万円相当が事業からの収益で償却しなければならない分です。通常の6年程度での償却と考えると、均等割りで償却するとすれば、1300万円ほどが年間の償却費になります。設備の耐用年数は、正確には未調査ですが、もっと長いと思われるので、償却後の製造原価はかなり下がります。メンテナンス費用については未調査です。

■ストーブの価格は？

需要先で使う機器は、一般家庭や事業所などで使うストーブか、公共施設の温水需要（暖房・浴室給湯など）用のボイラーに分かれます。

ペレット用のストーブは現在は輸入物の大型品が多く、取り付け比を含めて30～50万円程度と高価。ボイラーも正確には未調査ですが、灯油用と比べて高価です。

■事業化を考える

さて、データはだんだん出てきました。この状況で、あなたならどんな事業計画を立てるでしょうか？

目に付くのは、現状でも製品（ペレット）が競合である灯油より価格が高く、またそれを使う機器（ストーブ・ボイラー）も高価格。そのわりにメリットはCO2排出削減が目立つのみ、のように見えます。

この状況下で、何とかペレット事業を軌道に乗せようと思っているのですが、現状、日本国内では、岩手（葛巻林業）、大阪（高槻）、埼玉（西川地区）などで工場が稼働しているものの、事業として成功しているといえるところはまだありません。しかし海外では、北欧を中心に利用が進んでいて、事業としても採算ベースに乗っています。

ブレイクスルーの方法は何か、これから検討するところですが、まだ未調査の部分が多く、はっきりとは言えない状況です。知恵をアイディアを結集してブレイクスルーしなければならないでしょう。自治体からの補助金関係も、ゼロと決めつける必要はないものの、それだけに頼ったプランは望めません。

これから具体的なプランづくりに入りますが、あなたのアイディアも募集中です。フラッシュアイディアでもかまわないので、ぜひ教えてください。また投資を含めた事業への協力者も募集中です。
paco@suizockanbunko.com

経過については、順次コミトンでも書いていきたいと思います。

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▲高温乾燥機。右からおが粉が投入され、温風にさらされて乾燥する。乾燥されたおが粉は左方向に流れていく。

▲グリーン機械がの欧州製圧縮成型器。心臓部は意外に小さい。

▲袋詰め機。黄色い袋が600kg用。手前のコンベアがあるラインに10kgに詰められたペレットが出てくる。

▲ペレットストーブのひとつ。大型TVと比べてみるとわかるが、意外に大きい。これでも小さい方。事業化のボトルネックのひとつ。

▲燃焼中のペレットストーブ。ペレットが、大きめのお椀ぐらいの燃焼容器にぽとぽとと自動投入される。

渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

mail:paco@suizockanbunko.com