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photo by paco.

 

早いもので今年もあと10日になりましたね。今年はどんな年末でしょうか。僕は窓の外の大根畑とすすきと青空を見ながら引越しは当たりだったなあと思っているところ。そして今年を振り返りながらぼちぼち来年の計画を考え始めました。今回のコミトンはその話を書こうと思います。

2003年を振り返って

2002年は4ヶ月を世界旅行に使って外を見ていたのに対して、2003年は日本の中を旅行したり、英語教室をやりながら、主に内の部分を見ていたように思います。内というのは自分の内面というのもあるし、自分が直接関わる世界だったり、日本という意味だったりします。そして、2002年にいろいろ見て、それまでと違ったことを考え始めたのを、2003年は少しずつ実際にやって試し始めるステップにありました。

■学びの場作り

たとえば学びの場作り。英語のシャワーで最近やっていることについてはコミトン137に書きましたが、結局そこで何をやろうとしているのかというと、こういうのがあったらいいんじゃないか、と自分が思う「学びの場」をつくろうとしているのだと思います。あるといいとしても本当につくれるのか、試してみてる。

たとえば、英語という入り口を提供することでいろいろな学びが本人の中から始まる場。理想像としてはいいけど、本当にそう出来るのか。生活にすぐ役立つことならともかく、世界の反対側のこととか? 実際にやってみると、やはり学びがスタートする場合とそうでない場合があるのですね。いくら世界の深刻な問題でも、遠い世界のことと見えるうちは学びはスタートしない。それがたとえばその遠い世界の人と知り合い、その人に友情を感じられるようになってからだと変わってくる。

それからどこまで学びが広がるのか、というのもおもしろいところです。たとえば外を見ることで自分の中にある日本的なものを意識するようになる人がいる。「もったいない」に直接あたる英語がないことで驚いたり、たった一輪の花で豊かさや美しさを表現する日本人の感性に改めて感心したり。

さらには英語も日本語も関係なく、コミュニケーションについて、場作りについての学びも起こりました。先日も「差し入れを山ほどしてくれた人にメンバーからお礼のメールがほとんどないのだけど一言言っていい?」というメールがあるメンバーから来ました。わざわざ聞いてきたのは僕がよく「もう少し待って」と言うからなんですが、「よろしく~」と頼んだ後に出てきたメールは読んでいてあったかくなるお叱りメールでした。こういうことは実は何回も起きているのだけど、そのたびにコミュニケーションが進化している感じがします。

そんな中から人と人のつながりも強くなり、いっしょに遊びに出かけたり、探求したり、仕事をしたりといろいろ起きているよう。考えることと動くことの両方が起きる方向にあるので、これをさらに発展させていけるといいなあと思っています。そのために何をして、何をしないのか。「自律的に動いていく場」をつくりたいので、難しいのは誰であれ先生役の人が手を出しすぎてはいけないというところですが、少しずつやり方が見えてきている気がします。

■旅行から見えた日本の美

去年もそうだったのですが、旅行がくれた示唆は今年も興味深いものでした。まず、日本について自分が好きなところを再発見したというもの。たとえば「まじめさ」です。鹿児島ではビジネスホテルから小さな温泉、ラーメン屋に至るまで人の接し方に心を感じられたし、観光名所でもちゃんとした観光地をつくろうという意識を感じました。今年の旅行で一番印象に残ったガイドボランティアのおっちゃん(高知)の印象もまじめそのもの。興味を持つ人の多い維新の歴史についてかなり勉強しているのはもちろん、話し方から、僕らのようにちょっと人とは違った興味を持つ相手の希望にこたえることまでまじめさ、一生懸命さを感じました。これがさらに進むと「○道」(剣道、茶道...)という世界に行くのかもしれません。といっても格式の話ではなく、極めていくという意味です。この、よい意味での「○道」は日本人の持つ強みであり活路になるんじゃないかと思っています(強みとか活路とか言っているうちはまだ「道」ではないかもしれませんが(^_^))。

もう一つ、再発見した日本の好きなところは「共に活きる(活かす)」という感覚です。たとえば長崎の「おくんち」には、祭りが活きることで町が活き、人が活き、自分が活きるのだなあという印象を強く受けました。「活きる」のは人だけでなく、ものもそう。九州や高知で「野菜が生きている」と感じたのですが、それは単に新鮮ということではなくそこに「活きてくれ」という人の意志を感じたのです。そういえば今年、プロ野球の川相選手が犠打世界一で話題になりましたね。これを「美しい自己犠牲」と呼ぶ人たちもいます。でも僕は「犠牲」というより、それが彼とチームの両方が「活きる」形だったというように考えたいと思っています。

■これからの社会についてのヒント

旅行はまた、これからの社会について考えるヒントもくれました。たとえば貨幣経済から少し離れたらよいんじゃないかということ。貨幣経済にどっぷりつかっていると、お金がないと何も出来ない、非常に困る、となりますが、少しでもそこから抜けるとだいぶ景色が変わって見えてくる。まずは自分が必要とするものを自分でつくる、というのがあります。これは熊本や佐賀の農家で特に見ましたが、実際は自分で「つくっている」というより、自然の力を「もらっている」ように見えます。また、それだけの力を自然が持っているのが見えてくる。

貨幣経済から少し抜ける方法は自給自足だけでもなさそうです。たとえばあまっているもの(もっと言えばゴミ)を活用するという方法もある。また、人に動いてもらうにしても、その動機はお金だけじゃない。僕らは今年の旅行で常に現地の人を頼って観光客では見られないことに出会えたのですが、これもその一つでしょう。彼らの中で僕ら直接のともだちは半分くらい。残りはともだちのともだちで僕らは会ったこともない人たちです。それでもいろいろつきあってくれるのは、ともだちのつながりからだということも大きいでしょうが、実は人間は他の人の面倒を見るのが好きだ、というのもあるように思います。得体の知れない相手じゃ怖いでしょうけど。

これからの社会についてもう一つ感じたことは、地域である程度完結するようにしていきたいということです。最初にここまで思ったわけではなく、高知市内から間近に山が見えたり、日曜市に農家自身が売りに出てきているのをいいなあと思ったのが最初です。しかし、どうして多くの人がそういう環境に住めないのかと考えると、「都会にいかないと仕事がない」というのが大きい。ということは各地域で経済がある程度完結するように持って行けばよいんじゃないか、と。

完結することのよさは自然の近くにいられること以外にもあります。ものごとが目に入るところで完結するようになるというのは、たとえば人が生まれ、活動し、やがて死んでいくといったことが目の前にあるということです。人だけでなく、自然もモノも目の前で生まれ、死んでいく。そういうものを見ていると社会がもっと健康な方向に向かっていく気がするのです。

そのためには東京の機能を分散させることになり、効率が悪くなるとか、国際的な競争力が落ちるといった声もあるでしょう。確かに規模の経済がものすごく大きくものは集中させた方がよいでしょう。しかし前述の「共に活きる」ということを考えると、効率だけが価値ではないと感じます。

旅行について最後にあげておきたいのが、高知で会ったガイド・ボランティアのおっちゃんです。ビジネスをやり、ボランティアで地元についてのガイドをやりつつ、農業もやっている。その結果、飯の種はちゃんと持ちながら、自然と関わり、外の社会と関わり、自分のアイデンティティも掘り下げている。このような人に実際、会えたことは大きくその後の自分に影響を与えました。

■自然と地域社会に一歩近づく

2003年のレビューはこれくらいにしたいと思いますが最後に一つ。高知のおっちゃんに出会ったこともあって、その後、僕らは地域社会と自然に少しずつ関わることを考え始めました。その少し前からベランダでトマト、ナス、キュウリの苗をたった三本育てることを始めていたわけですが、これが思っていた以上に楽しめたのも後押ししました。そしてこの体験に味をしめ、もう少し自然に近いところに引っ越すことを決めたわけです。引越し先さがしも地域や家を考える上でおもしろいものでした。

今、庭には苺と、球根がいくつか植わっています。季節柄、野菜などにはまだ手をつけていませんが、girl friendが近所の農家の人と話をするようになったので、春になったらいろいろ教えてもらったり、畑を手伝わせてもらえるかもしれません。girl friendといえば、今年は彼女といっしょに仕事をすることが増えました。英語のクラスでTeaching Assistantとして手伝ってもらっている他に、彼女が取り組んでいる日本を知る活動「和散歩」からねたを提供してもらっています。一方で僕も、和散歩が月に1回程度行う活動にはだいたい参加しているので、それぞれが得意領域でイニシアチブを取りながら一つの大きな共通テーマに取り組んでいるようになっています。

■2004年は---子育ては楽しめる?

さて、そして2004年。2003年について、最後は家族の話が出てきたのでまずはそこから書いてみます。2004年の2月にこどもが生まれる予定なので、子育ては一つの主要プロジェクト?にしようと思っています。ここ数年、よく旅行をしていたので僕らを旅行好きのカップルと思っている人もいて「こどもができると旅行はしばらく難しくなりますね」と言われます。でも僕らの場合、旅行は未知の世界に触れる手段の一つなので、今度は目の前にある未知の世界に触れていくという、ちょっと別の旅になると思えばいいと思っています。またいろいろな人から、こどもによって自分の思考に新たな次元が出来たという話を聞くので、それも楽しみにしています。
また、育児の大変さ(特に母親について)もよく聞く話。僕はあまのじゃくな人間なので、そう言われると「そうでもなかったよ」と言ってみたくなってしまいます。どうなるかはまだ全然予想がつきませんが、girl friendもこどもも自分も楽しめたらいいなあと思っています。

■「食える緑」の次の一歩

次に、2004年はベランダ菜園からもう一歩進みたいと思っています。一つには庭で野菜や緑を育てること。もう一つには近くの畑などで「農」について少し学ぶこと。しばらくは長期間、家をあけないでしょうから、土や作物と接していくにはよい期間になりそうです。

しかし実は気になっていることはその先にあります。うちのまわりには畑とか原っぱ、林がけっこうあるのですが、その近くを通りながらいつも「これがいつまで残るだろう」と思うのです。というのも、このエリアでは地下鉄の建設が進んでいて4年後にはすぐ近くに駅ができることになっています。となると、今は最寄り駅から徒歩30分、バスは1時間に1本のこのエリアも、ごく普通の住宅地になってしまう可能性がかなりあります。景気が伸び悩むなどによって住宅建設が進まなければそうはならないかもしれませんが、その時は畑が減ってススキの原っぱが増えそう。畑をやる人が年老いて行くからです。出来ればそのどちらでもない方向「食える緑のある街」に保っていきたい。そのために何が出来るのか。このあたりは横浜市でやっている活動や政策にもアクセスをしながらさぐっていきたいと思っています。

■学びの場のパワーアップ

上のように体を動かす一方で、学びの場のパワーアップは引き続きやっていきたいと思っています。まずは英語のシャワーにおいて。最近、改めて思うのは三つの楽しさがあると学びが進むということです。一つ目は「中身がおもしろい」ということ。知的好奇心を刺激するものもあれば、感動によってひっぱられることもあります。二つ目は「場作りに加わっているから楽しい」ということ。これが起きると、ちょっと苦戦している人も含めて集団全体が伸びていきます。また、特に大人にはこれによりクラスに来る動機が増えるのが大きい。日本人のよさである責任感という面もあるのかもしれません。三つ目は「自分のペースに合っているから快適」というもの。今年は、のんびりやったら先に行った他の人より自然な英語を使えるようになった人が数人出た。こういう人を増やしたいんですが、「他人を気にしない」というのが特に男性には難しい。そこを工夫していきたいと思っています。

また2004年は英語だけでなく論理思考についても学びの場のノウハウを考えていきたいと思っています。実は既に11月から興味のある人に集まってもらって自宅で勉強会をやっています。ここで改めて「何が難しいのか」「どうやったらわかりやすくなるのか」「どういうトレーニングをやると効果が上がるのか、また楽しくやれるのか」を模索していきたいと思っています。

なお、この勉強会には地域につながるということも期待しています。たとえば上で触れた「食える緑のある街」を保っていくためにどうするかということが考えられ、実際に行われたらいいなあと。まあ実際にそこまでになれば論理思考とは別だてになるのでしょうが、その入り口やきっかけには出来るかもしれないと思っています。話はそれますがちょっと思いついたことを(^_^)。その時にはきっと長崎のおくんちについて触れたような「お祭り」的色彩を出せるといいんじゃないかと思っています。みんなでつくって何かが出来る、みんなもそこで成長する、そして楽しい、というような。

さて、最後に2003年にやろうと思っていてやらなかったことについて書いておきます。やらなかったのは本を書くことと、海外との継続的な接触を作ること。この二つについて今思っているのは、時期が来れば自然に起きるだろう、ということです。それが2004年に起きるのかどうなのかはまだわかりません。本については、ここしばらく自分にとっても未知の方向に走っているのでこれがもう少し見えてきたら書きたいと感じるように思います。海外との接触については、アンテナを伸ばしながら日々過ごして、ビビッと来るものが出てきたら動くのだろうと感じています。

というように2004年はこれまでより地に足をつけて過ごそうと思っていますが、さてどうなりますか。みなさんもよいお年を。

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★今年2003年のコミトンは、今週号で最後です。

来週12月29日は第5週のためお休み、新年は1月5日号からです。今年もご愛読ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

 

Toshi/高橋俊之(たかはしとしゆき)。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」(ダイヤモンド社)、「ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術」(東洋経済新報社)。

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