143T 年賀メールの返事がくれたもの-2004

photo by paco.

先週末は関東地方にも雪が降りましたね。東京にいたころは「雪が降っても何もいいことがないよなあ」と思っていたのですが、横浜に移って少し変わりました。うちの窓から見ると駐車場、畑、原っぱ、いくつかの家々と風景が広がっています。5センチでも積もってこれが真っ白になったらきれいだろうなあ、車が出しにくくなったりちょっと不便はあっても、それだけの価値はあるんじゃないかなあ、などと思っていました。結果的にはそんなに降らなくて残念でしたが。

さて、もうみなさんは新年ムードもほとんど抜けたころと思います。僕もそうですが、まだ一つだけ、新年モードから抜け切れていないものがあります。それは年賀メールへの返事への返事です。元の年賀メールは3、40行くらいあって、去年やっていたこと、これからやりたいこと、今考えていることなどを数枚の写真とともにHTMメールで送っています。入れる写真を人によって変えたり、内容をいじったりと一人ずつ書いていくので、けっこう時間がかかります。でも、去年やってみて、なかなかいいな、と思ったので今年も続けてみています。

何がよいかというと、返ってくるレスポンスが楽しい。けっこうな数、返ってきますし、1、2行で終わりということはあまりなくて相手の近況がいろいろ伝わってきます。そして、こちらが考えたことに、それぞれの人の視点からコメントが返ってくる。同意見とか、違う考えを持っているとか、いずれにせよ僕にとっては次の一歩の参考になります。また、ともだちといっても意外と知らないもので「こんなことをやっていたんだ、考えていたんだ」とわかったり。意外なところで価値観や興味が重なるとわかって、さらに話をし始めることもあります。さらには、返事への返事を書いているうちに自分の中で見えてくることもある。そんなことがあるので、時間がかかっても楽しんでやっています。今日は、そんなやりとりの中で見えたこと、考えたことを書いてみたいと思います。

■こどもはいい？

まず、今回一番おもしろいと思ったのは「こどもはいいよ～」というコメントが多かったことでした。新年早々でもあるし、まもなく子供が生まれる人に「大変だよ～」とはあまり言わないかもしれませんが、「がんばらないとね」というのが多いのかと思っていました。しかし予想以上に子供や育児についてかなりポジティブなコメントが多いのにはびっくりしました。たとえば、

　「いろいろ教えられることがあるよ」
　「正面から向き合うとおもしろくて本当に楽しいですよ」
　「育児には時間をかけてね。僕は学生だったり、プータローだったりでたぷり時間があったので上の子とは本当に長いこと一緒にいた気がします」
　「大変なことも多い中にもいろいろと喜ばされたり、癒されたりと子供が生まれる前とは違った価値観をもてるようになったような気がします」
　「子供を持つことによって得られるものは素晴らしいことですので、夏にでも親バカ論議をしましょう」

という感じです。この人たちが特別なのか、僕が思っていたよりも世の中の人たちは育児を楽しいと感じているのか、あるいは彼らのこどもたちがまだ小学生以下でまだかわいい？からなのか、わかりません。でも、ちょっとうれしい驚きでした。まあ正直なところ、何が楽しいのかはまだよくわからないのですが、それはこれからのお楽しみです。

一方で、やや難しさも感じつつ、これは意識していきたいと思ったことが二つありました。一つは大学時代のゼミの恩師からのもの。

「教育の仕事に50年近く携わってきた自分ですが、私が学んだことの大半は、書籍や大先生の御高説からではなく、自然とそこに生きる生き物のたたずまいと、何も『知ってはいない』幼子からでした」

教育者がこう言ってしまってはまるで自己否定のようにも見えます。しかし考えてみると僕がこの先生から教わったのは特定の知識ではなく、このようにものごとを見ようとする姿勢だったんじゃないかと思います。それが、考える力をつけることも含め、自分の成長につながっていった。いわば「学び方を教わっていた」という感じです。実は、先生に言われるまでもなく、僕としてはこどもからたくさん学んでやろうと楽しみにしています(^_^)。でも、先生にこう言われると「ああ、それでいいのだ」と、とてもうれしくなります。

そして、こどもも同じように学べる環境をつくることも意識して行きたいと思っています。僕やgirl friendがこどもに「教えて」しまってはそうなりません。学ぶ材料、特にいろいろな人に接触する機会をつくってあげることと、僕ら自身の学び方を見せることでサポートする。ついつい教えたくなりそうでなかなか難しいことだと思いますが、そんなことを意識していきたいと思っています。

そのことの難しさを予感させることを別の人が書いてくれていました。

「でも確かに子供とかかわることで、見えてくるもの、自分が変わるものがあります。私の場合は、我が子といえど、価値観、性格、行き方が違う、私とは違う生き方をしていくということを納得して、生き方を見守る、応援するというたいへんしんどい経験をしています」

僕らの場合、まだそういう時期には時間がありますが、自分たちなりの価値観をわりとはっきり持っている二人なので、それと大きく違う方向にこどもが動き出した場合はショックが大きそう。そんなこともありうる、と少しだけ今から意識して行こうと思っています。

子供に関してあと一つ。ちょっと気になったのはその時のパートナーとの関係について誰も触れている人がいなかったことでした。僕らの場合、世界旅行、引越、仕事等々をプロジェクトのようにいっしょにやりながら、自分たちの組み方をつくってきている感じがしています。しかし世の中を見ていると、子供が出来た後、父・母という役割があまりに強くなり、互いの関係が影を薄くしている印象があります。僕らはむしろ、出産とか育児によって互いの関係を深めて行きたいと思っているのですが、さて、どうなるやら(^_^)。

■競争社会の限界とその先

年賀メールに書いた中で反応が一番多かったのは、競争社会の限界とその先について書いた部分でした。テレビを見ていても「こういう厳しい時代ですから」という言葉を何度も耳にします。しかしそこでがんばるとお互いの首を絞めあってますます厳しくなる。競争社会の構造的問題-ほんの一握りの勝ち組をのぞいてはみな敗者になるおそれがある-が影を落とし始めているように思います。

一方で、実はその先の世界へのヒントとして競争とか支配といった概念の一つ上の次元にある感覚が日本には以前からあるんじゃないか。たとえばラーメンなどはそれぞれの味を追求している(一種「道」の域に達しているのでは)店が全国に健在している。どれが上とか下とか比較のしようがない価値がちゃんと存在するようになっている。あるいは日本の庭や里山といったものにも表れている「共に生きる」(活かす)という発想もある。

もとに書いたのはそんなことですが、ある人はこれに対して「競争がもたらしている価値もある」ということを書いてきました。ラーメンにしてもたくさんのプレイヤーがひしめいて戦っている東京が一番うまい、と。確かに競争によって質が上がっている部分というのはたくさんあると思います。逆に競争がないから現状に安住してしまっていると言われる世界もたくさんありそうです。そういうことを考えると競争はやはり必要なものにも思えます。

しかし「競争社会の限界」に賛成というメールも多かった。特に、しばらく前にアメリカから帰ってきた友人が、

　「こうした競争社会になると、色々な面でアメリカで見られるような社会現象が日本でも見られるようになると思います。治安悪化、虐待、差別、貧困、暴動と、それに対する防御コストの上昇などがその一例かと思います」

と書いていたのには、やはりそう思うんだ、と感じました。では、結局何なのか、これからどうするべきなのかは、徐々に考えていきたいと思っていますが、今持っている仮説は次のようなものです。

まず、競争は手段の一つに過ぎません。競争があって、勝てば多くのものが得られ、負ければしんどい、ということで人はがんばる。それは確かにあると思います。しかし競争以外にも「がんばろう」とか「よいものをつくりだそう」と人が思えることはあります。たとえば「人に喜んでもらいたい」「人に認めてもらいたい」「自分がやっていることは価値がある」と思う人は、競争があろうがなかろうががんばります。たとえば知恵市場com2でも時々書いているKuriさんは、

「まさしく、何のために、という部分で、私は今、十分、自分のやっていることに誇りを感じていられる。誰かが私たちの通帳にお金を振り込んでくれる。それでちゃんと生活もしていける。それって、本当に本当にありがやりたいことだな、と思っているところです」

とメールに書いていました。あるいはとにかくそのモノ、たとえばバイクとか、音楽とかが好きだから、それに入れ込んでいるからがんばるという人もいるでしょう。そこには競争もあるだろうけど、競争に勝ったから売れたからOKじゃなくて、自分が納得できるかどうかが大きい。それが本来の「道」の領域じゃないかなあとも僕は思っています。こういったものを人々がもっと意識できる世の中にしていければ、競争ばかりに頼らずともよくなるかもしれない。

一方で、競争をもっと「フェアに」にするということも考えられそうです。100m走なら、スタート時にある人は50mの位置にいて、ある人は0mのところにいる、というのはまともな競争とは普通、言えません。しかし現実の世界ではそういう環境で競争していることがよくあります。コネのある人とそうでない人が同じ会社を受ける、教育にたくさんの投資をしてもらった人とそうでない人が同じ試験を受ける、企業でも国でも似たようなことがあります。まあ考えてみればオリンピックの100m走だって似たようなことはあるのですが、これってある意味ではフェアじゃない。

かといってこれらすべてを是正するのは大変です。しかし、競争に参加する「機会」をもっと多くのプレイヤーが得られるようにすることはある程度できるし、すでにされている面もあるし、もっとやっていくべきではないかと思います。たとえばラーメン屋をやりたい！と本気で思っている人のための教育や資金提供が税金で行われるとか。継続的な補助金や保護と違うのは、提供されるのが競争に参加する「機会」に過ぎないということです。しかし上で上げたメールにあったように競争社会の弊害として治安悪化や貧困が起きるのは、敗者、それも競争に参加すら出来ない敗者に「機会」がないからじゃないかと思うので、機会さえ見えれば弊害は減るのではないか、という仮説を僕は持ち始めています。これはおいおいに機会を見て少しずつ検証していきたいと思っています。

■元気な地域が出てくる芽

さて最後に、年賀メールの返信を読んでいて特にうれしくなったことが二つありました(こどもについての話を入れると三つですね)。一つは上でもちょっと触れた「価値を感じられることをやっている」という人が増えていたことです。そしてもう一つは、地域が動き出している、という感じがしたことです。

たとえば北海道からのメール。そこには道東の厳しいまでの自然の中で自然と共存する生活を徐々に進めている、また、そんな経験の上に立って雑誌作りや広告の仕事をしていると書かれていました。彼はそれを「弟子屈という道東の場所の、「位置エネルギー」みたいなものを利用してビジネスを展開したいと考えています」と書いていましたが、この「位置エネルギー」ということばは気に入ってしまいました(^_^)。一方で南の端からも。「たまがてぃ!」でcom2でもおなじみmidoriさんのメールには、奄美に関連してやりたいことがいろいろ書かれていました。奄美を好きな人が集まるサイトをつくったり、シマ唄にある学びや「伝え」の機能を掘り下げてみたい、さらにはその中から普遍的に生かせることもさぐってみたい等々。

日本の両端だけではありません。名古屋に住む雑誌記者のともだちからも、名古屋を見ていると、実は世の中だんだんよい方向に向かっているような気がする、というメールが来ていました。トヨタの牽引力が大きいとはいえ、地方でも世界に誇れるものが生まれていることで雰囲気がよくなっている。でも人々はガツガツしてはいないし、実は豊かでもあると思うと。これには賛否ありそうですが、名古屋出身で、かつ東京でも記者として長年仕事をしてきた彼の意見は頭においておこうと思っています。この他にも、再生事業の一環として地方の温泉を復活させようと動いている人がいたり、東京圏に住みながらも、実家のある新潟の地域プロジェクトをやろうとしている人がいたり、ちょっと前に比べるとずいぶんいろいろ動いていて、日本はおもしろくなるかもしれない、と思っています。

僕自身はこの「地域」ということについて、これらのメールに刺激されて次のようなことを思っています。僕にとって地元というのは東京やその近郊エリアです。そこはもちろん都市という「位置エネルギー」は強烈に持っていますが、これについて僕がいまさら貢献出来ることはあまりない。一方でそこでは、コミュニティの意識が希薄だったり、自然から縁遠いイメージがあったりします。これは一見マイナスに見えますが、そんなところでおもしろいコミュニティが出来たり、食える緑を維持していくことがもしできれば、それはそれでインパクトがあるんじゃないかと。まだまだどこで何をするのか、具体的には何も見えているわけではないのですが、そんな感じで自分の気持ちのウォームアップはだんだん進みつつあります。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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