150 音楽と趣味とライフデザイン

▲ photo by bibi.

今回は、音楽の話です。
でも、考えているうちに、音楽から趣味全般のこと、ライフデザインのことにつながってきました。

「趣味はなんですか？」と聞かれると、意外に答えられない自分に気が付きます。無趣味な人間というのは、あまりかっこいいものではないので、答えられないとちょっと悔しいのですが、趣味といわれてぱっと出てこないひとつの理由は、好きなことの多くを仕事にしてしまっている、という現実があります。書くこと、本を読むこと、自然や環境を学ぶこと、自然を相手に遊ぶこと、パソコンなどのデジモノ、映像、ネットワークコミュニケーションなど、ふつうだったら余暇の時間に楽しむようなことの多くを、何らかの形で仕事につなげてしまっているので、趣味といいにくくなってしまっているわけです。

別の言い方をすれば、仕事の多くがかなりと趣味に近いということになるのですが、こうなるとだんだんイヤミな感じにもなるので、口ごもってしまったり。

■音楽は聴いていますか？

そんな中で僕の趣味らしい趣味は音楽です。もっぱら聞くばかりですが、ずっと新しい音楽を聴き続けていたいというのは、僕の生きることの大きな楽しみであり、目的です。

音楽とのつきあいは個人差が大きいのですが、10～20代にかけて音楽を聴き続けるものの、その後はあまり聞かなくなってしまう人が多いようです。音楽は若い世代のもの、大人になり、結婚、家庭をつくり、子どもができ、というように成熟の時期にはいると、だんだん音楽から離れてしまうわけです。聞き続けている人も、以前聴いていた曲をそのまま繰り返し聞いているか、あるいはジャズやクラシックを聴くタイプの人もいます。ジャズやクラシックも、演奏は新しくなっても、曲そのものやテイストはすでに完成の領域に入っているので、安心して聞ける音楽といえそうです。エモーショナルな（気持ちを高揚させる）ものというより、慣れ親しんだ音で心を安らかにする効果を求めているように思えます。

僕が聴いてきた音楽は、基本的にその時期の旬の音楽です。未完成だけれど、チャレンジングで、クリエイティブな音楽。音楽は魂の栄養だと僕は考えています。若い頃聴いた音楽、クラシック、ジャズを聴き続けている人にとって、音楽は「魂の安らぎ」だとしたら、僕にとっては音楽は魂を活性化させるエネルギーなのです。

■RAP!

というわけで最近僕が聞いている「魂の栄養」はラップです。「35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」の中にも引用したKick The Can Crewが最近最大のヒット（マイブーム）で、彼らの音楽を通じて僕はラップという音楽の良さがはじめてわかりました。ラップそのものはニューヨークの黒人系の音楽ですでに10年以上の長い歴史があるので、以前から知っていたのですが、気になってはいたものの、好きにはなれませんでした。

Kick The Can Crewを聞き始めて気が付いたのは、ラップは「詞を聴く音楽」だということ。そしてリズムを楽しむ音楽だということです。なんだ、そんなの音楽の基本だろうと思うかもしれませんが、それこそラップの本質です。

音楽は、メロディと詞、リズムから成り立っています。詞のない音楽はありますが、まあそれはおいておくとして。日本では幼児期から音楽を詞とメロディとして身につけていく傾向があります。学校の音楽でも、習い事のピアノでも、「たくさん練習して間違えないようにね！」という期待感のうらにあるのは、メロディや詞を間違えないことを意味しているようで、学校の音楽会でもメロディが間違えなければ、リズムが狂ってもあまり気にしません。音楽の中でリズムはあまり重要なポジションを与えてもらえていないのです。

ラップの特徴は、メロディがないことです。まったくないわけではありませんが、基本的にメロディがなく、代わりにリズムが重要です。リズムに乗せて早口で正確に言葉を発音することがラップを特徴づけているわけです。メロディが軽視されているという点で、「音楽じゃない！」という拒否反応があったりするわけですが、リズムがあっさり無視される傾向がある日本人に、メロディなしのラップを拒否する権利はありません(^_^)。

で、Kick The Can Crewですが、彼らのラップのよい点は言葉が非常に明瞭なことです。聞き取れないぐらいの早口でも、言葉は非常に正確に発音されている。彼らの曲の詞の中にも「すごく動くベロ」という一説があるのですが、ベロを早く正確に動かして、言葉を確実にリズムに乗せ、リズムの中から意味を伝えようとするのがラップのおもしろいところです。

言葉がメロディにではなく、リズムに乗っているという気持ちよさとともに、明瞭な発音で意味が伝わってくる。とはいえ、いきなり彼らの曲を聴いても、たぶん言葉の3分の1も聞き取れないかもしれません。どこが明瞭なんだと。聞き取れないのは自分が彼らのリズムに乗れていないからで、リズムに乗れいると、言葉がかなり明瞭に伝わってくるのですね。

■メッセージ

たとえばKick The Can Crew「sayonara sayonara」（アルバム「magic number」）では「さよなら　さよなら　おれのきらいなところだけ」というフレーズが繰り返されます。そのあと、「いいとこ残し（もにゃもにゃ……）つかみたい　いつかみたい風景」が続き、このメッセージが印象づけられます。この曲は、次の自分への強烈な決意なんですね。

この曲にあるような未来への夢の実現や、その裏側にある夢を追う人間への批判や非難がKick The Can Crewの詞の大きなテーマで、「オレたちは正当に評価されていない」という強い思いと、だからこそそのままの自分で認めさせてやるというメッセージが響いてくるわけです。

という話をすると、Kick The Can Crewのメンバーはすごく若いのかなと思うかもしれませんが、メンバーは27～30歳。売れないままに音楽をやり続けるには、けっこういい歳です。売れないけれど、音楽を続けたい、自分たちの音楽は必ずビッグになれるはずなんだぜ、という不安と確信が彼らの音楽の中で明確に表現されているのです。

長渕剛や尾崎豊のようなエンカレッジ系の音楽はうっとうしくて好きではないのですが、Kick The Can Crewは共感できる。理由はよくわからないのですが、たぶん、Kick The Can Crewの自己簡潔性、共感を求めず、自分たちの気持ちだけをストレートにしゃべっている（歌っているのでさえない）姿がきっぱりして気持ちがいいのかも知れません。歌うということが、人の共感を求めることで、本人が安心感を感じるのが尾崎や長渕の歌だとすれば、Kick The Can Crewは共感を求めないきっぱりした自尊心が、僕の生きている姿勢に近いのかもしれません。人といっしょにつるむことをよしとしない潔さを感じ、そこから僕自身を肯定することできるようになり、自分自身をエンカレッジできるのかもしれません。

ちなみにKick The Can Crewの音楽は、Little、MCU、KREVAという3人男が別々に書く詞の合体物で、その点、この3人はつるんでいるので、僕とは違うわけですが、僕も妻とつるんでここまできたので、その点は近いのかもしれません。ちなみにKick The Can CrewのメンバーではMCUがすでにきれいなおねいさんと結婚しているし、ホモっぽいところはありません。

■音楽をむさぼる

最近はKick The Can Crewにはまっていますが、どんなにすばらしいと思う音楽でも飽きてしまうのが残念なところ。これを音楽の消費と見るのか、自分なりの消化と見るのか、浪費と見るのかは悩ましいところではありますが、常に新しい栄養を求める自分の魂に敬意を表して、ヒマがあるごとにCD店に行ったり、ネットの音楽祭をと回ったりして、新しい才能を探しています。

ラップ系ではEast End、ケツメイシあたり。

でもKick The Can Crewと並ぶ最近のもうひとつのヒットはGarnet Crowで、彼らはKick The Can Crewとは対照的にメロディとアレンジに特徴を持つJ-POPグループです。所属事務所が大阪のGIZAで、GIZAといえば倉木麻衣や愛内里菜などのガールポップ専門レーベルとしてなかなか信頼の置けるところ。Garnet Crowも女性2名+男性3名という編成でジャパニーズガールポップの正当をしっかり受け継いでいます。

倉木麻衣、愛内里菜もけっこう聞きますが、宇多田ヒカル、ELT、浜崎あゆみなんかも聞いちゃいます。ayuのデビューはかなり衝撃的でした。17歳だったかな、この年齢、あのルックスで、この音楽性。その後の活躍は実際すばらしい。「35歳からは……」にも取り上げたJudy and Mary、the brilliant greenもナイスでしたが、花の命は短くて。新しい音楽を出し続けられるミュージシャンは多くありません。男性ではミスチル、スピッツあたりも聞きます。

最近はJ-POPを聞くことが多くなっていますが、このあとはK-POP、つまり韓国のポピュラー音楽もけっこう注目しています。まだこのアーティスト、というところまでは見えていないのですが、洗練度も上がってなかなかいい感じです。

洋モノでは、ハウス系、ワールドミュージック系を聞いてましたが、3～4年たつとすっかり忘れてしまうものですね。グラミー賞を取るような音楽は、およそ聴かないというのも、まあ僕のポリシーかもしれません。

■音楽は聴くだけ？

さて音楽の楽しみといえば、聞くことばかりではなく、演奏するというのもあります。が、残念なことに演奏の才能には恵まれないらしく、いろいろチャレンジしたあげく、演奏や歌うことは、あきらめてしまいました。

自分史を振り替えれば、小さい頃から姉と一緒にピアノをやったり、小学校の時はブラスバンドのクラブでフルートを吹いたり、中学ではフォークギター、高校では合唱と、それなりに演奏の楽しみも味わってきたのですが、どれも続けるだけの「何か」をつかむことはできませんでした。

今の時代は音楽を「やる」としたら、まずカラオケなですが、僕の場合、カラオケには乗り遅れ組で、やってもあまり楽しくありません。カラオケが出てきたのは僕らの世代が10～20代の頃で、そのころのカラオケといえば100％演歌。おじさんたちにカラオケは人気があったのですが、カラオケのある店に行くと、へたくそな演歌を聴かされてうんざりという経験しかないために、カラオケはもっとも「忌むべきモノ」というイメージがすり込まれているのですね。

最近はようやく少し抵抗感がなくなり、娘もカラオケをやりたガールなので、家族で行ってKick The Can Crewを歌ったりしていますが、基本的に抵抗感が消えていないので、それほど楽しめません。今後、カラオケが自分の中でどういう位置づけになっていくか、ちょっとした時限爆弾のようで楽しみでもあります。

■大好きなことでライフデザイン？

というわけで音楽が「趣味」のpacoですが、「大好きなことでライフデザインをしよう」という本を書いたこともあり、自分にとって音楽は飯のタネにならないのかと考え始めました。飯のタネにしてしまえば、数少ない「趣味」が待たなくなってしまいかねないのですが、考えるだけならいいだろうということで、好きな音楽でライフデザインができないか、ちょっと考えてみます。

ライフデザインの基本は、FavoriteとStyleで、僕の場合、Favoriteは音楽、それも新しめの音楽を聴くこと、でも単なるヒット曲ではなく、でもそれほどポリシーがなく、でも自分では好きになるものとキライになるモノがはっきりしているのも事実です。

Styleは「聴く」。好きになると聞きまくりなので、CDは必ず買い、クルマの6連装プレイヤーで六兼屋の往復は聴きっぱなし。ふだんはデジタルメモリプレイヤー（SANYO PD-20）にwma形式に変換した曲を入れて、これまたCD6枚分（たいていはクルマに入っているマイブームの6枚）、聴きっぱなしです。仕事で移動中の時はもちろんですが、家で原稿を書いているとき、料理をつくっているとき、皿を洗っているときなど、あらゆるタイミングで僕の耳にはイヤホンが入っています。たぶん、1枚のCDを僕ぐらい何回も聴く人はいないと思います。以前はポータブルCDプレイヤーを腰にぶら下げていたのですが、邪魔だし音が飛ぶしで、うんざりしていたのが、デジタルメモリプレイヤーが登場して、軽くなり、たくさんの曲が入り、音も飛ばないので、音楽を浴びる人にはよい時代になりました。

さて、ざっとここまで考えて、次のThanksの発見が非常に重要なプロセスです。僕の音楽とのつきあい方（FavoriteとStyle）をベースにして、誰かを楽しませたり驚かせたりして、Thanksを受け取ることができるでしょうか？　その可能性があるとしたら、どのような形でしょうか。

ひとつの可能性は、音楽について文章にして読んでもらうという方法で、僕の音楽についてのちゃんとした原稿はこのコミトンがたぶん一番最初です。喜んでもらえているでしょうか？　文章と似たものとして、講演やセミナーがあって、僕が音楽についてしゃべると、来てくれた人がおもしろがってThanksをくれるというしくみですが、まあこういうことが起きるような話ができるような気はしません（もちろん可能性としてはありますが）。他に、音楽情報サイトをつくって、好きな人に情報提供するとか、コミュニティを運営するという方法もあり、これの方がまだ可能性がありそうです。でも、あまりやりたいことではないようです。音楽は、これまでのところ僕にとってはとてもプライベートな楽しみであって、だからこそ、数少ない趣味のひとつなのだと思います。音楽情報サイトは、僕にとって「できる（能力がある）」し、「thanksももらえる」（可能性がある）し、FavoriteとStyleの面でもいい線を行っているのですが、「あまりやりたくない」という気持ちがあり、たぶん「できるけどやりたくないこと」なのでしょう。

少し視点を変えて、「音楽を演奏して楽しんでもらう」「自分が好きなタイプの音楽をプロデュースする」という選択肢もあります。前者は、現段階ではこれまで続かなかったというコンプレックスもありThanksをもらえるとは思えないし、音楽という「土地勘」のない場所でプロデュースをしても、いいものができそうな気がしません。

う～ン、結局のところ、音楽ではライフデザインは成功しないのでしょうか。

ひとつ可能性があると思っているのが、音楽を演奏する場所をプロデュースするという道です。僕らの世代も含めて、既存の商業ルートには乗らないけれど、音楽としてすばらしく、商品性もある程度ある音楽はあるのではないかと思います。300人のホールは使えなくても、50人のホールで、ペイするぐらいの興行は誰も手をつけていないし、意外にニーズがあるように思えます。

会場も、50人ぐらいなら古めのオフィスビルのワンフロアで十分でしょうから、古めの雑居ビルをリフォームし、コンサートが開ける会場をレンタルするか、主宰すれば、けっこう新しいことができそうだし、僕自身、音楽が楽しめてハッピーになれそうな気がします。演奏する人からは会場があってよかったと感謝され、観客からも演奏を喜んでモラルという点で、Thanksをもらう可能性は十分あるのです。しっかりしたThanksをもらえれば、Moneyに変える方法あるでしょう。

音楽が好きという趣味を詳しく見ていきながら、自分が持っている技術や知識をクロスさせることで、新しいことをしてみる。これがライフデザインの基本です。このプランは、そういうもののひとつですが、このプランはけっこうわくわくするので、やってみたらチャーミングかもしれません。

ほかにも可能性はきっとあると思います。現段階では音楽Moneyをつくるつもりはないので、趣味として楽しんでいくと思いますが、そういうものであっても、ライフデザインで飯のタネを探すことができることをちょっと感じてもらえればと思います。

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さてみなさんは、音楽、楽しんでますか？

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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