153T 論理思考な人になりたい？

photo by paco

この間、girl friendと朝食をとりながらFMを聴いていたら、新しいDJが自己紹介をした後で「こんなふうに山あり谷ありで来ました。今は山です！」と言っていました。すかさずgirl friendが「ということはこれから谷ってことかな？」とラジオにつっこみ、さらに「こんなつっこみばかり言っていると嫌なやつになりそうだよねえ」と自分につっこみ。二つのつっこみ両方に笑ってしまいましたが、でも、どう思います？　嫌なやつになりそう？　そんなことない？そんな彼女に、僕といっしょにいることについて、冗談（半分本気？）で聞く人がいます。「いっしょにいるといつも理屈でつっこまれて大変じゃない？」

論理思考が数年前から注目されるようになり、そういう思考を身につけたいと思う人もだいぶ増えてきました。でも、「論理思考な生活」ってどんな感じなのか今ひとつわかりにくかったり、「それって本当に楽しいのかな」という疑問もあるよう。そこで今回は、自分自身をモデルに「論理思考な人」について描いてみたいと思います。ただし、あくまで僕がモデルなので、一例だと思ってください。

■結論は直感で出す？

と、いきなり「自分をモデルに」と書いてしまいましたが、本来は「本当にToshiはロジカルなのか」という疑問をクリアしてから入らなければならないところです。でも、自分を知る人たちからは論理思考な生活を送る人（クリティカル・シンカー）の一人だと思われているようなので、ここはそういうことにしておきましょう(^_^)。（このアバウトさが一つ、何かを示唆していると言えるかも知れません）

で、さっそく始めるとよく人に「Toshiさんっていつもロジカルに考えているんですか？」と聞かれます。そんなイメージがあるけど本当にそんなことってありうるのだろうか、という顔をして。これに対する答えは、「そんなことはないですよ」です。直感ですぐ答えが出ることや直感でしか答えが出ないことについていちいちロジカルに考えたりしないのはもちろんですが、それ以外にも結論は直感で出しているケースがけっこうあります。

たとえば誰かが「英語のシャワー」を受けられたら今すぐ受けたい言っている、けれども何か問題があるとします。その人にはお金がなくて受講料を払えないとか、既に定員を超えているとか。そこでYesと答えるかNoと答えるかはけっこう直感で決まっています。特に一見普通でない（ちょっと無茶な？）結論を出す時にはかなりの確率で直感が答えを出しています。その後ろにあるのは「おもしろそうだ」「やってみたい」「きっといいことがある」というようなものです。

こういう局面でも自分が普通の人よりロジカルだとすれば、答えを出した後で「どうしたらフェアな形でそれを実現できるのか」をロジカルに考えるという部分でしょうか。別の言い方をすると、Yes/Noを決めるためというより、Yesとなった時にHow（どうやって？）を考えるために論理思考を使っているようです。

他にもロジカルに考えないケースがあります。それはロジカルに考えることが楽しくない場合。たとえば名前を考える時。商品名でもこどもの名前でも、全てをロジカルにやろうとすれば、要件を洗い出した上でそれにあてはまる単語や漢字を辞書からリストアップするなどからやるのでしょう。今はデジタルなデータもネットなどにありますから、かなり容易に出来そうです。でも、それでは味気なくてあまり楽しそうじゃない。ちょっと思いついた時に書き留めておいたり、人とああでもないこうでもないと話しながら候補をあげていく方が楽しいですよね。そういう時には、ロジカルでなくとも楽しい方を取ります。ロジカルな自分があるとすれば、ここだけは満たしておきたいという要件をリストアップしておいて、思いついた名前とそれを突き合わせるところ。あと、人の意見を否定する時に「○○の要件に合わないよね」と言うところでしょうか（僕が却下しているのではなく、要件が却下しているのだと...）。

■わがままを通すために考える

というようにロジカルでないことはけっこうあり、そこには「どうしたいのか」とか「楽しいか」というのがからんでいることが多いようです。しかしこのロジカルじゃないところが逆に僕を論理思考に走らせ、結果的に論理思考力も高めるという働きもしています。今のままでは実現しない楽しいことを実現するために、と言えばちょっとかっこいいですが、要は「わがまま」を通すために論理思考という武器を使うという感じですね。後で書きますが考えることはもともと好き、でも「楽しい」「そうしたい」というにんじんがぶらさがると、がぜん考える気が起きるようです。

たとえば、満員電車で通勤するより自宅で窓の外の緑を見やりながら仕事をしたいなあと思ったら、それができるように考えていく。あるいはこどもが生まれて、なるべく小さいうちのこの子と時間を過ごしたいと思うと、どうすればそうできるかを一生懸命考えはじめる。一生懸命考えはじめるというのは正確な表現ではありません。「よし、考えよう」と意識してがんばって考えるというよりは、ふと気がつくといつも頭のどこかで考えているという感じです。

プライベートの世界だけではありません。ビジネスをやっている時も実はそうです。自分で仕事をやっている今はもちろんそうですが、企業で働いていた時も僕の場合は「どうしたいか」が先にあったことが多いように思います。たとえば、よいサービスを提供して口コミとリピートで売上を伸ばしていくことを戦略の柱とする。でも、そうした最大の理由はそれがビジネス的にベストな選択だったからではなく「その方が楽しいから」でした。もちろん経営会議で話す時にはビジネスの選択としてそれが正しいことを説明します。でも実は、その方法でやりたいから、それがやれるように一生懸命考えて、いろいろアイディアが出てくるし、がんばる、結果として業績も上がったということだったなと思います。

■やりたいことなんて特にない

上のようなことから「どうしたら論理思考を鍛えていけるのでしょう？」と聞かれると「自分がやりたいことをやればいいんだよ。そうすれば一生懸命考える」と言っていました。するとある日「自分がやりたいことや望むことがなかなかわからないんですよ」と言われました。

確かにそういうことはありそうです。僕らは子どもの頃から「どうすべきか」とか「何が世間で評価されるか」を叩き込まれてきました。一方で「自分がどうしたいのか」を考えるよう励まされてきた人も鍛えられてきた人も少ないと思います。じゃあどうするかは別の大きなテーマになってしまうので今回は少しだけ。

まず実は僕自身、「やりたいこと」とかずっとなかったし、今でもそういうところがあります。小学校の頃に野球がすごく好きで「プロ野球のアナウンサーになりたい」と思って以来、「やりたい」とか「なりたい」と本当に思ったものはありません。Pacoさんのコミトンで音楽とか車の話を読んで「ほー」とか思うのだけど、自分自身は「そういえば高校の頃はさだまさしが好きだったな」とか、「自分ではよく覚えていないけど小さい頃は車がものすごく好きだったらしい」といまさら思い出したくらい。大人になってからそういうディープなはまり方はしていません。「世界の中で自分の一番気に入ったところに住みたい」とか思ってあちこち行ったけど「ここだ！」と思ったことはないし、「今日、何食べたい？」と聞かれても「おいしいもの」という感じです。要は「これが好き」「これがやりたい」なんて特にない。

それじゃあ「やりたいことをやる」というのと矛盾しちゃうわけですが、それはこんな感じになっているようです。まず一つには、自分には好きな「もの」はなさそうだといつからか割り切れるようになった。自分は「車」が好きとか「俳優」になりたい、「起業家」になりたいというふうに「もの」を好きになることはなさそうだと。でも「やりたいこと」「好きなこと」がないかというとそうじゃなくて「こんな関係」とか「こんな状態」といった目に見えないものが好きなんじゃないかと。そう考えると「顧客と仲間のようにやれるビジネスが好き」とか「ビジネス/プライベート/シチズンのバランスを取りたい」「循環するしくみをつくれると楽しい」というようにいろいろ見えてきます。

そして、上で書いたようにある意味ぱっとしない自分を認めてしまうことでさらにいろいろ見えてきました。たとえば僕が自分の車ロードスター（マツダ）を好きな一番の理由は「中も外もデザインが気持ちいい」ということ。あと「エンジンの音がなんか好き」というのもあるけど、いずれにせよ車の性能とはなんの関係もないし、そもそもどう性能を見るのかも知りません。デザインも造形に詳しいわけではなく単にこの車が「かっこいいと思った」だけ。世の中的にはそんな自分をつい恥ずかしく思ったり、「それじゃ損だよなあ」と思うのだけど、「でも、それが自分なんだ」と認めてしまう。そんな感じでかっこ悪かったり規格外の自分も含めて自分の思っていることを認めてしまうと、「ああ、こういうのが好きなんだ」というのがさらにいろいろ見えてくるみたいです。たとえば「ただわいわい騒いでいる場は苦手。新たな場に入っていくのも。自分がイニシアチブを取れる場作りは好き」「打たれ弱い。争うのは嫌い。でも問題のある現状を変えたい」「金とか権力にはきっと興味ないけど何かで認められることは重要」とか。

■冷静と情熱の間

さて、今、上に書いたことを見ると、実はここでやっていることが「ロジカル」だとわかりますか？　って、これまで「ロジカル」というのがどういう意味なのか説明せず、しかも論理思考、ロジカル、クリティカルなんてことばを気分で使い分けています。それがまた僕のスタイルだったりするんですが、それはおいといて(^_^)、辞書の定義はともかく、人が「ロジカル」という時に「そのままを見る」とか「冷静である」ことがよく含まれています。「この愛は続かない」「自分は一流のサッカー選手にはなれない」など、夢のないことでも事実が指し示していれば、それを直視する。あるいはすごくロマンチックな状況でも感情に流されず全てを押さえて行動する。ロジカルな人にはそんなイメージもありますね。

「それって夢がないよなあ」と思う人もいるでしょう。しかし、ここは論理思考をどこまで追及するかを決める重要なポイントだと思います。そこまでロジカルになるより気分に浸っていたいとか、わからないままの方がいいと考えるか、それともそういうところでもロジカルになりたいと考えるか。

僕の場合はそういうところで論理思考を追求してしまうタイプです。それも望むと望まざるとにかかわらずそう「なってしまう」タイプ。感情がかなり動いている状況でも、まるでそれをスポーツの試合であるかのように斜め上から見ている別の自分がいます。これは才能と言うよりも性（さが）と言う感じで昔はいやだなあと思っていたのですが、しばらく前からはどうせそうならその方向で楽しめるようにしようと考えることにしました。

なので普通なら頭をリラックスさせて、感情は少し開放して過ごしているような時、たとえばgirl friendと過ごしている時でも、普段通りロジカルあたまは動いています。親とメールをやりとりしていても、これは重要だなと思う時はかなり考えて書きます。ちょっとテレビドラマをつくっているような感じがすることもあります。「ここで相手（視聴者）にほんわかした気分になって欲しい。そのためにはどう展開するべきか」というような感じ。

そう聞くと、ひいてしまう人もいると思います。その気持ちはそれでわかります。でも僕自身は次のようなことから「これでいいんじゃないかな？」と思っています。それは、「それがほんとう」だから。存在しないものを演じているのではなく、深く考えようが考えまいが伝えたいことを、より確実に伝えるために考えているだけだから。「冷静」と「情熱」の両方を持ちながら動いているという感じ、と言って伝わるかな。（蛇足ですが「冷静と情熱の間」ということばを見て僕がぱっと思ったのは「それって『ふつう』ってことか？」ということでした）

■考えることは楽しい

もう一つあげておきたいこと。それは考えることが楽しいということもよくあるということです。特に、何かもやもやしたところを「こういうことだよ」と明らかにしていくのは楽しい。たとえばこの間、ある人が「オリンピックが商業化してきたのがなんか好きじゃない」ということを言っていました。こういうのを聞くともうむずむずしてきます。なんとなくわかるのだけど、どういうことなのかもうちょっとクリアにしたい。いろいろ聞いてわかったのは、次の二つのことでした。

オリンピックをみんなのものにしておきたい。誰かだけがそこから儲けたり、金のあるものだけが見て楽しめる、勝てるというのはいやだ。
金のために不自然・非人間的な手段まで取って勝とうとするのはいやだ。

大したことではないし、これがわかったからって何か得するわけではないのだけど、でも、これを考えるプロセスそのものを楽しめてしまう。

そんな感じなので本を読んで効率的にノウハウを知るよりも、自分で考えてノウハウをつくりあげる方をついつい選んでしまいます。英語教育はその典型。先人たちがいろいろな成功や失敗を重ねてきていて、その情報はきっと山ほどあるだろうなあと思うのだけど、そういうのはあまり見る気がしない(^_^;。観察しながら自分で「こうじゃないか」と考え、試してみたい。それがうまく行くとすごくうれしいし、問題があればまたしつこく考える。特に自分が関心の高いことについてはそんな感じになります。

そんなに考えるのが好きならどうしてコンサルタントとかやらないの？と聞く人もいるかも。でもその場合は「人のことを考えるより自分でやる方が好き」という別の条件が優先されるみたいです。

■ずーっと考えている

そういうふうに考えることが好きということもあって、いつも考えるネタを持っています。また、何かをずーっと考え続けることが出来る。ずーっとといっても四六時中一つのことを考えているのではなく、それをテーマの一つとして持ち、関係することが現れるたびに思い出して考えるという感じです。たとえば９１１以来持っているテーマが「世の中から戦争をなくしたい」ということ。おそらく争うというのは人間の本能の一つで、なくならないと思うのですが、殺し合いはやめたい。身近なものから国際的なものまで争いを見るたびに「手を出す以外にこれを解決する方法はあるのだろうか」と少しずつ少しずつ考えています。

「ずーっと考えている」というので思い浮かぶことがもう一つあります。それは論理思考における僕の特技で「何をやっているのかをなかなか忘れない」ということです。記憶力の話ではありません。「何のためにやっているのか」をなかなか忘れないということです。これは当たり前のようでいて意外とむずかしいことで、ついつい目先のものに引っ張られてしまうことがとても多い。たとえば教育では「出来るようになる」ということが最大の目的なのにアンケートで「楽しい」「満足」と書かれると安心してしまいがち。どうしてそれが出来るのかというと、一つは意識してそうしようとしているということだと思うのですが、もう一つにはきっと「何のために」という部分に自分のやりたいことが入っているからじゃないかなと思います。

さて、一つのタイプの「論理思考な人」について書いてきましたが、これで少しイメージがつかめるでしょうか。ラジオやテレビにつっこむ人にはなりたい？　それともなりたくない(^_^)?

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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