155T 育児日記－最初の大変化を乗り切る

photo by Taohi.

この間やって来たと思った春も、もうぼちぼち夏に席を譲ろうとしているのかと感じるこの頃ですね。そんな季節の変化を感じるなあと思ったら、春の気配の中、うちにやってきたこどもも早や２ヵ月半になりました。おかげさまで順調に大きくなり、少しずつ変化も起きてきています。今回はこの２ヵ月半に感じていたことを書いてみたいと思います。

■産院のポリシーを選ぶ

まずは時間を２ヵ月半前に戻して、出産直後の病院からです。出産についてもそうですが、出産後についてもいろいろ考え方があるよう。たとえば母子がどこで過ごすか。うちの場合は母子同室、一応こども用の小さな小さなベッドがあるのですが、自分のベッドにこどもも寝かせている母親が多く、同室というより同床という感じです。そして授乳、オムツ換え、お風呂、泣いたらあやすなど、直後から自分で面倒を見ています。新生児室を設けてこどもはそこで面倒を見、出産を終わったばかりの母親はまず休む、そして授乳から徐々に自分でやっていく、というタイプの病院とはだいぶ違いますね。

どちらがよいのかというのは、何を重視するかによると思いますが、「自然」に近いのは最初から母子を密着させる方でしょう。母子の関係をスムーズに構築していくためにはその方がよい気がします。また、退院すれば自分（たち）で全てをやらなければなりません。それを考えると、わからないことがあれば聞けて、家事もやらないでよい、いわば補助輪つきの状態のうちにフルで体験しておくとよいのかもしれません。

しかしそれでも出産という重労働の直後から２４時間体制で新生児の面倒を見るわけで、やはりなかなか大変のようです。実際girl friendも初日の後、「出産直後は興奮状態で眠れなかったのが、うとうとしてきた頃に泣き続けるので育児ノイローゼになりそうになった」と言っていました。結局、この時は１時間ナース・ステーションで預かってもらってその間に休むようにしたと言っていましたが、もう少し預かってもらえるとよかったのだが思います。それができたのかできなかったのか、実は聞かなかったのでわからなかったのですが、なんとなく出来ないような感じがしたそう。

これは別にここのサービスが悪いということではなく、ここの出産・育児についての考え方だとそうなるだろうなあと感じたのだと思います。ここの場合「自分たちでやろう」と「なるべく自然に」が考え方なのだと感じていました。だから出産は分娩台ではなく、自分の好きな姿勢を選べる。切開もなるべくしない。母子同室で自分で面倒を見るようにし、なるべく母乳で育てられるようにフォローしていく。食事も野菜が多くて和食中心のものでした。

これがまた他のところに行くと違うポリシーになるのがおもしろい。ちょうど先日、出産をしたともだちのお見舞いに行ったのですが、そこのポリシーはおそらく「快適に」なのでしょう。無痛分娩で立会いもフルにOK（病院によっては不可だったり制限されたりします）。妊娠中からエアロバイクなどを使ってかなり運動し、出産翌日からまた運動開始。母子同室ですが夜は預かってくれ、部屋は全室個室。母乳育児を推進してかなり前から指導はするけれども、食事などは「好きなものを食べればいい。ストレスが一番よくない」という感じです。これは、どれがベストということではなく、自分の考え方に合ったものを選べるとよいのだと思います。「でも初日は３時間くらい見てもらえるともっとよかったなあ」とgirl friendは言っていましたが(^_^)。

■親はみんなこどもを愛してる？

以前にコミトン「男にとっての出産」で、こどもに対してまだあまり特別な感情はないと書きました。今はどうなのだろうと考えてみると、まだ少しずつというところかなあと思います。人にはよく「かわいくてしょうがないでしょう」と言われますが、正直、自分ではよくわかりません。もちろんかわいいとは思うのですが、それは赤ちゃんのしぐさや表情がかわいいからそう感じているだけかもしれません。実際、真っ赤な顔をして（あっという間に真っ赤になるのにびっくり！）泣きわめいている時などは全然かわいいと思わないし、もし長い時間ぐずられたりしたら、自分の方も疲れてきて「いい加減にしろ！」とか言いたくなったり、ひょっとしたら嫌いになってしまうかもしれない、と思います。

なんでこんなことを書いているかというと、親だったらみんなこどもを愛しているとよく言われることに対して、違うんじゃないかと思うからです。確かにこどもに対して愛情を持つ親は多いでしょう。でもそれは本能というより、育児の中ではぐくまれていくものだと思うのです。逆にそれがどこかで不完全だと愛情が育っていかない。ということは、意識してよい環境を作っていければ、よい形で愛情が育っていくのではないか、と思うのです。

といってもそんな目新しい話ではなく、とにかくこの子育てという体験を楽しいものにしていこうと、いろいろ試してみているだけです。たとえばこどもに嫌な泣き方（くにゅくにゅ泣いているのはあまり不快ではないので(^_^)）をさせないように、車で移動中に大泣きされたらあと15分で着けるところでも車を30分停めて授乳する。その時間にいらいらしないですむようなスケジュールで動く。そんなことの積み重ねです。

そういう意味ではこれは生まれる前からスタートしているとも思います。たとえば僕らの場合はビジネスもそこそこやったかなと思えるくらいやって、あちこち世界も放浪もして、自由気ままな生活にまあ未練のない状態で子育てに入りました。今度はこどもがいる生活という新しい世界と、しばらく腰をすえて向き合おう心の準備があるので、今のところはその分、若干ゆとりをもってこどもに接することができているように思います。まあ、そんなことはふつう当たり前で、元がわがままな人間だからそのくらいやっておかないと欲求不満になる危険があるのかもしれませんが(^_^)。

それはそうと、自分にとって予想外によい体験だったのは「赤ちゃんのにおい」でした。生まれたばかりから２ヶ月くらいまでの赤ちゃんというのは、なんともいえない、いいにおいがしますね。あれは母乳のにおいだと思うのですが、それこそ癒し効果のありそうな、戦闘モードの人たちもあんなにおいをかいだら和らぐんじゃないかという気がします。おそらくどんな赤ちゃんでも生まれたばかりはそういうにおいがするのでしょうが、自分の体験の中ではそれが自分のこどもとつながってよいイメージをつくりだしています。夜遅く帰ってきて、彼女が寝ている部屋に入ると、部屋に入っただけでそのにおいがしてきて、とても暖かい気持ちになれます。それを楽しみにドアを開けたりしていたのですが、残念ながら赤ちゃんのにおいも成長とともに変わっていくよう。今は記憶の中だけに残っています。

■泣くのなら、止めてみせようホトトギス

上に書いたように、こどもが泣き叫んでいるのは勘弁してくれという感じなのですが、一方で泣き声が聞こえると飛んでいってしまう自分もいます。といっても責任感とか「かわいそう」という殊勝な心がけではありません。早く泣き声から解放されたいというのもありますが、それ以上にあるのがチャレンジの感覚。「泣く子だまらせ」というスポーツかゲームをやっているような感じです。

というわけで、こどもが泣き出すのが聞こえると、別の部屋にいてもすごく忙しくなければ飛んで行きます(^_^)。そしてあやしながらなんで泣いているのかを見極め、静めることにトライする。もしおなかがすいていることが原因だと僕ではお手上げなのでgirl friendに渡すことになりますが、そうでなければ泣きやむまでトライが続きます。最近はだいぶ短い時間で泣きやませることができるようになってきました。この原稿を書いている間も、彼女をひざの上にのせて揺らしながら話しながらというような時もありました。

おもしろかったのは何かで知った「レジ袋をがさがさこすりあわせて聞かせるとおとなしくなる」というもの。おなかの中にいる頃に聴いていたお母さんの血流音に似ているので安心するというのですが、これは本当にきいています。でもこの音をICレコーダーで録音してパソコンから流してみてもダメでした。また血流音とオルゴールを組み合わせたCDというのもあるのですが、レジ袋ほどの効き目はないようです。まあ、こんなことは１年もすればきっとだんだん必要なくなることなので、有効期限の短いノウハウなのでしょうけど、楽しく出来ているからいいか、と思っています。

■母乳育児はスローライフ

しかし、僕よりもずっと長い時間こどもに接していて、他人が代わりようのない役割を担っているgirl friendを見ていると、母というのは本当に大変だなあと思います。ちなみに彼女の場合、僕が普通の人よりもうちにいる分、僕を頼ることも出来るのですが、半面、こどもの泣き声が仕事をしている僕の邪魔にならないよう、一人でいる人以上に気を使う面もあります。

そして母乳育児はまさにスローライフ、スローフードですね。哺乳瓶から飲むよりもはるかに時間がかかります。計ったことはないですが、最低でも２、３０分はかかっていると思います。また吸う力をすごく必要とするので特に最初のうちはこどもも途中で疲れてやめてしまい、またすぐにおなかがすいて泣き出します。結果として授乳にはかなり時間がかかります。特に夜中はそれだけ睡眠が削られることになるわけで、これは本当に大変そう。また、外出しようにも１、２時間ごとの授乳を考えるとなかなか外出できないことになります。

そんなことからgirl friendも最初はかなりまいってきていました。これは体力的な面もありますし、他のことが出来ない、外にも出られないという精神的な面もあります。しかしこどものことを考えるとぜひ母乳育児で続けたいというのはあり、そこで彼女が考えたのが次の二つのことでした。一つは母乳の出をさらによくすること、もう一つは時間をずらして母乳を使えるようにすることです。

母乳の出をよくするために彼女は自分でマッサージをしたり、入浴直後に授乳するなどもしていましたが、上の両方の目的に特に役立ったのが搾乳機です。余裕のある時にしぼっておいて冷凍し、必要になったら解凍して哺乳瓶でのませるというもの。彼女に言わせるとしぼっている時はちょっと「むなしい」そうですが、けっこう重宝します。

まず、母乳というのは出すことによりさらに出るという性格があるそう。なのでこどもが眠っているときなどを狙ってしぼっておくことで、その後出る量を増やすことが出来ます。また、外出したい時や少し休みたい時などは、冷凍の母乳があれば僕が哺乳瓶で授乳できます。ただ、ここで一つ困ったのは普通の哺乳瓶だと吸出しが楽なのでたくさん飲んでしまい、ストックが足りなくなりそうなことでした。これは出の悪い哺乳瓶の情報をネットで検索して、母乳育児訓練用の哺乳瓶を買ってくることで解決しました。

■ハハのハハは強力応援団

上のような負担を感じていた彼女にとって大きかったのは、彼女のおかあさんが京都から来てくれたことでした。退院直後から１ヶ月間は毎週、金曜から月曜にかけてやってきて、家事と育児の一部をやってもらえたのですが、これは非常に大きなサポートでした。その後も月に１回は孫の成長を楽しみにやってきてくれています。

もっともこれは当初から予定していたことではなく、最初は自分たち二人でやっていくことを考えていました。「退院の時は行くから」と言われて断るのも申し訳ないな、と思って来てもらったようなところもあります。しかし結果的にはすごくよかったと思います。

まず、いわゆる産後の肥立ちというのが僕らのの予想していた以上に大変だったこと。１ヶ月くらいまで、立ち仕事や階段の上り下りはきついと言っていました。家事は僕が手伝うことも出来たのですが、彼女に言わせると、僕に頼んだ場合はどうしても「やってもらっている」という感じがしてしまうとのこと。それに対してお母さんの場合は、「やりたくてやっている」というオーラが出ているので気兼ねしないでよいと。確かにお母さんは料理にしても楽しそうに腕を振るっていましたし、こどもをあやすにしても本当に好きだという感じです（僕には、どうして赤ん坊にあれほど次から次へと話しかけることが出てくるのか理解できません）。夜もおかあさんがこどもといっしょに寝て、授乳の時だけgirl friendを起こすということをしていました。

もう一つよかったのは、一つの参考材料が出来たということです。特に最初の頃、僕らが抱っこするのと、おかあさんが抱っこするのとでは、こどもが泣きやむまでの時間が明らかにおかあさんの方が短かったのです。「どうしたらそうなるのか」と聞いても説明は難しいようでしたが、見ながら研究することはできますし、何よりも「もっと泣かせないことは出来るはず」とわかった。もし僕らだけだったら、「そのくらい泣くのは仕方がない」と思っていたかもしれません。

しかし、人によっては「時代が違うので育児についての考え方が違う」とかえって苦労してしまうケースもあると思います。僕らの場合、その点は恵まれていて、食事の内容からこどもの扱い方まで今のところ、食い違うところが全くない状態です。特に、おかあさんが最近の考え方もどんどん仕入れるタイプの人であることは大きかったように思います。もちろん、普段はいっしょに過ごしていないこともあり、勝手が違う面はお互いあるのですが、それはそれで人間関係や家族のあり方について具体的に考えるよい機会だったとも思います。あと、やってくるたびに家の中にものがどっと増えるのはちょっと困りましたが(^_^)。

■一番の出産祝いは...

最後に、もう一つおもしろいなあと思ったことを。今回の出産にあたって、うれしいことにいろいろな人がお祝いをしてくれました。出産祝いもいろいろもらって、僕らが買ったのはチャイルドシートと、例の、出の悪い哺乳瓶、あと体温計くらいです。中にはありすぎてちょっと困ってしまっているものもあります。また中にはちょっと変わった出産祝いも。英語教室の有志たちは「ものはもう、たくさんあるからいいよ」という僕らのわがままに配慮しつつ、けんけんがくがく議論の末、箱根に記念植樹をしてくれました。景色もとてもよいところだそうなので、いずれこどもも連れて見に行くのを楽しみにしています。

一方で、僕らから今一番欲しいものを頼んだともだちもいました。girl friendと話して出てきたそれは、「お弁当持って遊びに来て！」というもの。特に最初の１ヶ月、girl friendは体力的にも、こどもの世話という意味でも外にもあまり出られない状況です。何か気分転換が出来るといい。一方で大変なのは家事。そこで誰かがお弁当を持ってきたり、うちで料理をしてくれて、楽しいおしゃべりを出来たら、今はプレゼントとしてそれが一番うれしいかも、となったのでした。というわけで何人かの気兼ねなくその辺を言える人たちにお願いして、楽しい時間が実現したのでした。今度は僕らがこどもを連れて彼らのところに押しかけたいと思っていますが、さてそれはプレゼントのお返しになるのかどうでしょうか...(^_^)。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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