161T 自然の力でやってみよう

photo by toshi.

関東地方も少し前に梅雨入り。うっとおしい時期というイメージが強い季節ではありますが、緑は一段と色濃くなる季節でもあり、植物にとっては恵みの季節なのかなあとも思います。うちの庭でも野菜、野草とも、ぐっと生い茂ってきました。そう、今年の2月にコミトン145「『農』とかかわる-自分の生活をゆっくり変えていくプロセス」で「農」(「農業」までは行かない)に関心を持ち始めたと書きました。それが少しずつ進んでいるので、今回はこの話を書きたいと思います。

今、うちの庭では約10平米を使って、カボチャ、キュウリ、トマト、ナス、コマツナ、ネギ、ピーマン、トウモロコシ、エダマメ、サヤインゲン、サトイモ、バジル、ミツバ、青ジソが育っています。やはり家庭菜園などをやっている人に見せると「ずいぶん欲張っていろいろやってるねえ」と言われてしまうのですが、「特定のものを自給自足したい」というより、「いろいろあった方がおもしろいよね」という方なのでこうなりました。girl friendともども都会育ちでどれがどんな芽なのか花なのかもろくに知らない二人ですから、カボチャの花が咲いたり、サトイモの芽が出たり、はたまたカタツムリがインゲンの葉をばりばり食べているのを見ても「へえ～」と感心しています(もちろん放置はしないのですが)。まだ、いくつかの作物がようやく小さな実をつけ始めたばかりで、成果が出るかどうかわかるのはこれからなのですが「農」の第一歩は楽しめているというところです。

■不耕起--何もしない栽培？

もう一つ、人に話すと「変わったことやるね～」と言われるのが、不耕起栽培です。不耕起とは文字通り「耕さない」ということですが、そんな方法を試してみようと思ったのは変わり者、怠け者だからではありません(それもあるかもしれませんが(^_^))。

そもそもなぜ通常は畑を耕すかというと

耕して土をふかふかにすることで作物の根が広く深く張れて水分・養分をれだけ吸収するようになる
肥料を土にすきこむことで土が栄養豊かになる

ことが主な狙いだと思います。しかし考えてみると、自然界では人間が耕すように土がひっくり返されることはあまりありません。それでも野草は元気に育っています。これはどういうことなのか。不耕起栽培を推奨する人たちの説によると、雑草や土中の生物(ミミズはその代表例)が豊富にいる土壌では、これらが土をふかふかにし、養分も供給しているとのこと。

もう少し説明すると、雑草が根を伸ばし、それがやがて枯れることで根のいったん通った穴が空洞化し、ふかふかな土を作り出します。またミミズが土等を食べて排泄する時に土を粒状(団粒構造と言います)にします。この団粒構造というのは、水はけがよいのに保水力もあるという、植物にとっては非常にありがたい性質を持っています。粒状の土が粒の中には水を保つが、過剰な水は粒と粒のすきまを通り抜けてはけていくわけです。養分についてはミミズが高めるのもありますし、地下では枯れた根が、地上では枯れた草が、微生物等によって徐々に分解され、養分を供給するというわけです。

ならばどうしてわざわざ人は耕すなどということをしているのでしょう。歴史的なことはわかりませんが、農薬や除草剤を使う現代の農業の場合、ミミズや微生物、雑草がぐっと減ってしまうので上のようなメカニズムが働かないというのは想像がつきます。しかし、農薬を使わずに作物を病気や害虫から守ることが出来るのか?　除草せずに作物がちゃんと生長できるのか?　

不耕起栽培についての本を読んでいくと、前者については、そもそも農薬や肥料で作物にとっての環境や栄養が偏ったバランスになるので病気に対して弱くなる、また農薬によって害虫の天敵もいなくなってしまうので害虫がはびこると説明されています。そして除草については、根こそぎ取るのではなく様子を見ながら刈ったり土をかぶせていくことで(ある程度)共存し、かつ利用できるとあります。つまり、近代農業では、畑を作物製造工場として純化しようとするから自然のバランスが崩れて問題が起きやすくなる。そしてそれを解決しようとするアクションが、また自然のバランスを崩すという悪循環に陥っているというわけです。

逆に言うと、今回僕らが試してみようと思った方法は、自然を支配・コントロールするのではなく、自然の力を借りて自然と共存しながら作物を得ようという考え方です。そして肥料や農薬、さらには耕すための機械を動かす燃料やそれを買うためのお金を、投入しては消費してしまう消費型ではなく、生産・消費活動はしながらも土を育てる、いわば蓄積型であるということでしょう。そんなうまい話があるのか、まして素人がやってうまく行くのか、疑問はいろいろわいてきます。しかし、価値観的には合うし、おもしろそうだし、素人のお気楽菜園だからこそ試せるとも言えます。そこで、とにかくやってみよう、とスタートしました。耕さない、農薬は使わない、肥料も少しだけ、雑草は抜かない、という方法です。

■土を見る

そこでまず、3月の末に庭を30cmほど掘り返しました。「それって耕しているってことじゃない?」と言われると思いますが、その通りです(^_^)。実は一番最初は全く耕さないわけには行かないようです(^_^;。一つには家の庭などには石がごろごろ埋まっていて根を張る障害になるということ。実際、人の頭くらいあるやつも含めてかなり石を掘り出しました。もう一つには地中に浸透しにくい栄養素をすきこんでおきたいこと。元肥としてリンサンと石灰だけはすきこみ、買って来た腐葉土も土にまぜました。「そんなの関係なく野草は生えているよ」というつっこみはできそうなのですが、後でつっこみようのない理由がわかってやりなおすのももったいないので、とりあえず本の通りにやってみました。それでも鍬などを使ったちゃんとしたやり方ではなく、シャベルで掘り返してカツンときたら石を拾い出すくらいのずぼらなものですが。

次に、近くの緑道脇から、ススキの枯れ草とその足元でたまっていた落ち葉を取ってきて土の上にかぶせました。これは草マルチ/有機マルチといって、土の乾燥・過湿を防ぐ等いろいろな役割を持っています。この中で特に興味深いと思ったのは、雨降り時の葉への泥はねによる病気を防ぐということ。植物を育てている人にとっては常識なのかもしれませんが、土は植物全体にやさしいわけではなく、むしろ葉にとっては危ない環境であるというのは僕にとって発見でした。

この頃から、身の回りに見る土がいろいろ違って見えてきます。一番元気に見えるのは緑道沿いや原っぱでいろんな雑草が芽生えてきているしっとりした黒い土。一番、無機質に見えるのは草一つなくトンボでならされたグラウンドの土。畑の土は、作物が育ちつつあるところ以外は赤茶色に乾いてさらさらしていて、グラウンドと緑道端の中間くらいに見えます。これが錯覚なのか、実際にそうなのかは、これから徐々にわかってくることでしょう。ちなみにうちの庭の土は、草マルチで覆われたところを覗いてみると落ち葉といっしょにやってきた団子虫などが忙しく歩き回っていて、土も湿り気を帯びていて、生きている、また徐々に活気が出てきている感じがします。一方、草マルチからはみだしたところは乾いて赤茶色くなって小さな砂漠のように見えました。

そして数日して肥料が土になじんだと思う頃、girl friendが作ったレイアウトに基づいて種を植えます。庭を4つの畝に切ってあって、日あたりについての好み等相性のよいものを同じ畝に組み合わせてあります。また作物には同じ仲間のものを同じところで作り続けると病気などになる連作障害というのがあるので、来年はローテーションできるようにも考慮してあります。植物にとって欠かせない窒素を土中に取り込んで土壌をよくするということで豆類もいれました。トマトとピーマンはまずプランタで苗を作ることにして、他のものは直まきです。

■つまづく、つまづく

と、段取りよくスタートしたように見えますが、実はその後、あちこちでつまづいています(^_^;。まず最初は、草マルチとしてまいた枯れ草や落ち葉が強風で飛んで行ってしまったことでした。雑草でも作物でも10cmくらいの高さまで生えていればそれで抑えられるのですが、まだ何もない状態なので飛んでしまって、どこへ行ったやら。一部は近くの家の庭の芝生に舞いおりていました(^_^;。こんなことへの対策は数冊そろえて見ていた本のどこにも書いていなかったのですが、考えた末、つる性の植物を伝わせるネットを地面にかぶせることで解決しました。

次は種を深くまきすぎたこと。原因は不耕起どころか種まきなど小学校以来縁がなかったこと。5センチはあるような「穴」を掘って種を埋めていたのですが、ちっとも芽が出ないのでなんか変だと調べ始め、原因がわかったのは約2週間近く後でした(^_^;。知らないのは僕らくらいかもしれませんが、光の好き嫌いにより差はあるものの、標準的には種の大きさの2倍程度の深さがよいそう。ちゃんと見れば本のいずれかには書いてあったのですが、結構アバウトな性格が災いして気がつきませんでした。しかし種をまいた深さが問題だと気がつかなければ、うちの土は作物に向かないと勘違いしていたかもしれません。それほど植物について何も知らなかったのです。

この話をしたら「初心者は普通、苗を買ってくるよ」と人に言われたのですが、やっぱり植物が芽を出すのを見るのは何か格別の感動があるように思います。結局、気がついてからほとんどのものをまきなおして、そのほんとんどが芽を出しました。そしてそのたびになんかとてもうれしい気分がしたのです。そんな小さな喜びも重要なことなのかもしれません。でも、中にはセンチュウ防止用に植えたマリゴールドのように、どういう芽なのかもわからずじまいになっているものもあります。隙間に植えていたので、他の作物に気をとられて草マルチをいじっているうちに芽をつぶしてしまったのかもしれません。サトイモは全然芽が出ないと買い足して植えたら、今はたけのこのように出まくっています。地温がかなり上がるまで出ないものだったのでした。

この他にも細かいながら失敗はいろいろやっています。ほとんどは不耕起に関係ないことで、基本的なことがわかっていないのが原因。適当に耕していたので、きゅうりの支柱が硬いものにあたって十分深く入らないとか、一部、後で苗を買って来たもののポットに水を注ぎすぎて根土が崩れてしまったとか、まだまだたくさんあります。少し脱線しますが、このあたりにはちょっとしたビジネスチャンス、すくなくともニーズがありそうです。こんなド初心者は珍しいかもしれませんが、基礎から一通り教わりたいと思っている人はけっこういるはず。実際、横浜市の市民農業大学講座に今回申し込んでみたものの、高い倍率で入れませんでした。公共機関のものは金額が安すぎて直接の比較にならないのですが、今後、そういうことに関心を持つ人はますます増えそう。自分でやりたいとは思いませんが、誰か今やってくれたら僕も行くのになぁと思います。

■今のところ、ほぼ順調...だと思う

上のようにいろいろ失敗はしているものの、不耕起栽培としては今のところ、そこそこうまく行っているのかな、と思っています。といってもスタートで出遅れたこともあってベンチマークがしにくいので、作物を見て「元気そうだ」というだけで言っていますが。

5月に種を植えてから約1か月半。農薬は全く使っていませんが、病気も害虫の被害もあまり受けていないようです。例外がコマツナでアオムシにかなりやられていて、人間と競争状態です。これは一つにアオムシの天敵がまだ来ていないのが理由だと思うのですが、もう一つには、そもそも虫の多い季節に小松菜を作ろうとするのが間違っているのではないかな、と思いはじめました。コマツナは虫の少なくなる秋からでも作れる野菜です。その時期に作ればいいじゃないか、と思って今作るのはやめてしまいました。ただ、あちこちのすきまに少しずつまいてあるやつをみると、あまりアオムシにやられていないよう。チョウもコマツナが集まっているところを狙って卵を産むのだとすると、これも一つの対策かもしれません。

この他にはトマトの一株が葉を何者かにかなりの勢いで食われるので夜にチェックしたら一匹の大きな芋虫でした。インゲンの葉をばらばらと食われたのを同じように夜に見てみると今度はカタツムリとナメクジでした。どちらもごく少数の発生で、それを取り除いたら被害はほとんどなくなりました。というわけで、病気も虫もまだこれからが本番かもしれませんが、ここまでは悪くない、と感じています。また、クモを見かけることが増えてきている感じがするので、虫の天敵もだんだんやってきているのかもしれません。カマキリやナナホシテントウ、できればカエルなんかもやってきて、ちょっとした生態系がここに出来るといいのですが。

肥料は元肥をのぞくと、ごく一部にボカシ肥という有機肥料と草木灰を使ってみています。これは半ば実験で、今のところは生長の遅い株やちょっと元気のない株にだけやってみて、葉の色や伸びで他の株に近づくかどうか見ています。水にせよ肥料にせよ気をつけているのは不足よりも過剰にならないこと。ちょっと前、かんかん照りの暑い日が続いた時期がありましたが、元気なく見える葉を見ると人情として水をやりたくなります。しかし、トマトなどは本来、南米の高地生まれで日夜の大きな気温差に降りる露くらいで育っているとも言います。今、日本で育つ品種に同じことがあてはまるのかなあと少し疑ってもいるのですが、なるべく自然任せにするつもりで、限界点をウォッチしています。

雑草は時がたつにしたがってどんどん出てきてますが、作物の近くで日あたりに影響しそうだと低めに刈って草マルチに加わってもらい、あまりに多いなと思う場合は土で覆ってしまっています。離れたところだとかなり背が高くなるか、花が咲くまでは放置しています。丈を伸ばしているのは、それだけ深く根を張って土をふかふかにすることに貢献するのではという期待から、花が咲くまでというのは、種が出来てからだと増えすぎて困りそう、ということです。しかし現実にはたった10平米の家庭菜園でも全部見られるわけではなく、種もそこそこ落ちていそうです(^_^)。

草マルチの落ち葉を拾ってくる際に見つけるといっしょに連れてきていたミミズは、たまに見かけるくらいで、増えているのかまだよくわかりません。でも、時々、移植のために草マルチをどけて掘ってみると、土はふかふかして黒っぽくなっていて、以前よりも「おいしい」感じの土になってきている気がします。まだ2か月なんで半分は気のせいで
しょうが(^_^)。

■手を動かしながら前に進む

と書いてきたように、ジグザグながらもぼちぼち進んでいますが、最初の収穫という意味でも、ちゃんとした不耕起という意味でも本番はこれからです。完全な不耕起にこだわるつもりはないのですが、共存共栄・蓄積型で、ちゃんと収穫を上げたいと思っています。まあ、本業でやっている人たちの追求する奥深さに比べればお遊びなんですが。少し落ち着いてきたので次にやってみようかと思っているのが、花を植えること。緑が茂ってくると不思議なもので他の色が欲しくなってきます。でも、あまりゴージャスなやつよりは、ちょっと野草っぽいのがいいなあと思っているところです。この他、西風を弱めるため小さな木を植えたいとか、生ゴミを利用して堆肥やボカシ肥を作ってみようかとか、いろいろ思いついてきます。よく人には「菜園とか庭って全然イメージに合わない」と言われるのですが、早朝とか夕方、あるいは夜に庭に出てみると空気が生きている感じがして気持ちよくて、ちょっと時間を忘れてしまいます。実はけっこう合っているのかもしれません。

また、これを我が家で楽しむだけじゃなく、人やコミュニティと関わりながらやれないかというのもかねてから考えているところ。ちょうどこの4月から、100mくらい先に広々とあった原っぱで5階建てのマンションの建築が始まりました。目の前の畑は生産緑地なのでそうすぐには変わらないでしょうが、このエリアの人口が増えていることを考えると、まわりの土や緑はやはり減って行きそうです。きっかけをさぐりながら、その時に実感を持って動けるためも合わせて土いじりを続けてみようと思っています。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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