162P ライフデザイン、20代のアプローチ

ライフデザインについて書いた本「渡辺パコの35歳から好きなことででお金を稼ぐ」以来、「生き方」についての取材や意見交換の機会が多いのですが、最近特に多いのが「20代のライフデザインはどのようにすればよいのか？」という質問です。

僕の本は、タイトルの通り、30代～40代にとってのアプローチについて書いたもので、35歳ぐらいまで、「自分なりやってがんばってきたと思うけれど、さてこれからどうする？」という場面で使えそうな考え方を提示しました。

では、「好きなことでお金を稼ぐ」ようなミドルエイジを迎えるために、20代は何をすればいいの？という疑問が出るのは、当然といえば当然です。

本に書いたようなライフデザインのアプローチは、20代でやればいいかというと、やはりそういうものではありません。30代には30代の持っている経験があり、20代と一番違うのは「これ！というものは見つかっていなくても、多くの経験を通じて、自分に向かないものはわかり始めている」ということ、そして「もうそろそろ、迷っている時間的な余裕がなくなりつつある」ということが実感としてわかり始めているということの、2点です。

ではこのふたつに欠けている20代は、30代半ばになるまで何もすることはないのでしょうか？　本を書く段階ではそのような観点で考えたことはなかったのですが、最近改めて考えてみると、やはりやっておくべきことはある、ということが見えてきました。

少し説教くさい親父みたいになりそうな気がするのですが、興味のある人もいるということで、書いてみようと思います。

■20代はたくさん仕事をしよう

「20代のライフデザインはどうすればよい？」という質問を投げかけてくれた人と実際に話していて、20代（特に前半）に何をやってきたのか、実感を持って思い出せなくなっていることに気がつきました。あたりまえですが、時間がたつということは、そういうことなのですね。

改めて考えてみると、「今と比べると」ということになりますが、ずいぶんたくさん仕事をしてきたなあ、ということです。それも仕事の基礎になるものを、反復してやってきたことは、やはり今に活きているという実感はあります。

僕のやってきたことだと、20代はひたすら企画書作成と取材、原稿書きを繰り返してきました。採用PRの仕事をしていたので、採用のパンフレット（会社案内や入社案内）、学生向けのダイレクトメール、リクルートなどが出す採用媒体の中に掲載する広告。こういった広告の企画やコピーライティングの仕事が月に何本も来て、かたっぱしから受けていたのが、僕の20代です。

業種を問わず、媒体を問わず、頼まれたものはどんどんやっていたのですが、妻（結婚する前も含めて）は「よく飽きないねえ」と言っていました。実際、少し飽きてはいたのですが、新しい仕事が来ること自体、楽しかった。いろいろな人が僕をあてにして頼んでくれるのもうれしかったし、同じような企画や原稿の仕事でも、クライアントが違えば内容も変わるし、同じ会社でも毎年やっていると、趣向の違う企画を作るべく、頭を使いました。

1日5～10人、1週間ぶっ続けて取材することもあるし、その間も取材が終わって家に戻ってから、企画書を書いて夜中にファクスを入れたり（メールもまだあまり使われていなかったし）、自分の生産性を確かめるかのように、原稿書きのスピードの限界に挑戦したりしたので、「自動販売機」と呼ばれたこともあります（僕にとては名誉なことでした）。

スピードを上げ、クォリティを確保するために、道具に投資し始めたのもこのころで、小型機種が出始めたころのワープロ（専用機）を個人で買い、会社に持ち込んで使って、「生産性が上がるのか？」を身をもって実験していました。実際ワープロで書いてみると、最初は手書きの方が早かったのですが、だんだんスピードがついてくるし、手書きと違って両手を使うので、手が疲れずに済むという利点がわかり、ワープロが離せなくなりました。

と、細部を書いていくときりがないのですが、今と比べて思うのは、興味がある分野の仕事なら集中できるのがこの時期だし、飽きないのもこの時期で、それで仕事の技術を深く身につけたり、自分なりのやり方が見えてくるのも、この時期にたくさん仕事をすることの良さだと思います。

最近は20代をフリーターで過ごす人も多いのですが、フリーターで過ごすなら、仕事以外の夢の実現のために、たとえば音楽をやり続けるとか、演劇をやり続けるとか、集中してやることがあるのなら、その分野で身につけられることがたくさんあると思います。しかしフリーターの中には、これといって集中することもなく、かといって仕事もアルバイトで半端という人も多いようで、これでは自分の核になるものが身に付かずに30代半ばを迎えることになります。

こういうことはずいぶんやったなあ、と思えるような時間を、35歳ぐらいまで過ごすことが重要かなと思います。

■自分なりの「小さな冒険」を積み重ねる

もうひとつ、20代でやったなと思うのは、あちこち行ったり、いろいろなものを見聞きしたりということを、たくさん積み重ねたということです。

海外旅行には毎年ぐらい行って、特にアジアや太平洋地域など、先進国以外の地域にけっこう行きました。それもパッケージツアーに乗るのではなく、往復航空券と最初の日のホテルだけをとっていき、あとは向こうで決めていくという旅行をたくさんしたので、同じように観光地に行っても、時間の使い方や見え方がけっこう違っていたのではないかと思います。たとえばバンコクに行ったときは、行きの飛行機の中でタイ語を覚えていたら、隣のタイ人のおねえさんがタイ語をいろいろ教えてくれました。チェンマイ出身といっていたのですが、「僕がバンコクに行く、ホテルもまだ決めてない」というと、「友だちがホテルで働いているから」と、教えてくれました。それでさっそくついた翌日行ってみたのですが、これが下町の棺桶屋街の奥にある汚くて古い3階建てのホテルで、その女性から預かった手紙を見せたら、「安くしとくよ」と部屋を見せてくれたりしました。さすがにあやしげな地域だったので、丁重にキャンセルして、別のホテルに行ったのですが、そんなダウンタウンでも、街の子どもたちは元気で、外国人と見るとよってきては学校で習いたての英語で（僕らよりうまかった）話しかけてきたりしておもしろかった。

こういう、自分だけの経験やそこに行かなければできない経験を積み重ねることは、20代ならではの良さでしょう。体力があるというのもあるけれど、向こう見ずに動けるのは、予想をつける能力が低いからというのもあると思います。今なら飛行機の中で会った女性のようすから、「この人紹介だと、安宿だな」というようなあたりをつけることができるし、それが大きくはずれることはないのですが、20代はあたりがつかない分、おもしろがって実際に行くことができる。これは大きな違いです。

国内もあちこち行ったのですが、古い輸入車を買い（シトロエン 2CV）、リアシートをはずしてキャンプ道具を詰め込み、妻とふたりで1週間の休暇を車でキャンプしながら、伊豆で泳ぎまくったり、というようなこともしました。今にも壊れそうな車であちこち行くこと自体がスリルだったけれど、子どもができて一緒に行くとなると、やはり子どもを犠牲にしにくいので、もっと＜ましな＞旅行になってしまいます（子どもが独立したら、またやるかもしれません）。

ぼろい名画座で映画をたくさん見たり、友だちとクルマを分解したり組み立てたり、そんな小さな冒険を積み重ねていくことが財産になるということは、あとで気がつくことです。

■パートナーと深くつきあう

20代の人にぜひやってほしいと思うことのひとつが、パートナーを探し、深くつきあうことです。

僕は妻になる人と20歳の時、大学で出会っているので、もう彼女と一緒ではない人生より、彼女と一緒の人生のほうが長くなりました。一人の人と長くつきあったので、そのぶん「数」のほうは少ないのですが、まあもともと持てるタイプでもないし、その点については納得しています(^^;)。

人によって、「ひとりの長くより、たくさんの人とつきあいたい」と思い、またそれによって多くのことがわかるということもあると思いますが、僕は一人の女性と深くつきあえたことで、人間について、また夫婦関係というパートナーシップについて、そして社会の最小単位としての家族について、いろいろなことがわかりました。

長さだけでなく、内容のほうも盛りだくさんで、彼女がうつになって（引きこもり状態になり）、回復のサポートしたり、別姓結婚をしたいという彼女の思いが理解できずに、ケンカしたり泣かせたり悩んだり。一緒に暮らす前後、生活スタイルをつくるときにも、食事を誰が作るか、家事を誰がやるのかなど、悩ましいことばかりでした。実際、料理も含めて、すべてのハウスキーピングについて僕の方が早くて、ほぼちゃんとできるし、彼女は多くの家事が苦手、でも彼女は仕事を持たなかった、ということで、折り合いをつけるだけで半端ではない言い合いを続けたりしました。

こういう深いつきあいをすべての人がやるべきだとは言いませんが、その後、離婚する友人たちを見ていると、ふたりのコミュニケーションが浅いし、深くコミュニケーションをとろうとしていないんだなと感じることが多く、しっかりしたコミュニケーションがつくれないことが、望まない離婚や家庭崩壊につながるということを感じます。

夫婦関係を深く築くには、しばしば理不尽な（理屈では説明しにくい）問題にぶつかり、解決しなければならなくなります。解決してみると、理不尽に見えたこともその問題なりの理屈（ロジックというか、つながりというか）があることに気がつくのですが、そういう経験が「不条理に見えるものにも裏側にロジックがある」ということを学ばせてくれたし、それが今の僕の仕事にも役に立っています。

と、ここまで僕の20代について、振り返ってみるとこう感じる、ということを少し書いてみたのですが、20代当時の僕に聞いてみれば、同じ状況についても違う表現をしたと思います。少なくとも、それが将来につながるからやっていたというわけではなかった。というより、そもそも「つながり」がうまく見えないのが20代、というか若いときの特徴であって、そのころは「これももしかしたら先々少しは役に立つかもね」という程度にしかわからなかったのだと思います。

なので、あえてアドバイスとしてまとめるなら、「密度のある時間を過ごす」ということになるかもしれません。過ぎていく時間に流されるのではなく、意図的に時間あたり、1年あたりのやることを多くしたり、そこから何がわかったかを考え、整理する時間を増やす。そんなことを意識するとよいのではないかと思います。

■「高校生の自分」に夢を聞いてみる

35歳ぐらいまでで、僕が意識していたもうひとつのことは、10代の頃の気持ちを持ち続けるということでした。といっても、30近くなって高校生みたいなことはできないのはいうまでもないし、それでは進歩がありません。

「中学や高校生の自分が、どんな大人になりたかったか、あるいはどんな大人にはなりたくなかったか」

そんなことを時々思い出し、今は10代の自分から見て、なりたくない大人に見えないかな？と言うような見方で、自分をチェックしていたような気がします。

僕が10代の頃感じていたのは、「魚の目をして満員電車に揺られる大人にはなりたくない」ということでした。実際に社会に出て満員電車に乗ってみると、自分も魚のような無表情な目をしているのかなー、嫌だなーという思いもしたのですが、だったらせめて、満員電車に毎日決まった時間に乗る生活はやめようと思い、26歳ぐらいのころ、勤めていた会社のなかにできた「契約社員制度」に応募し、正社員をやめました。

これによって時間が少し自由になり（勤務時間が多少フレックスになった）、給料は自己申告の契約制になり、フリーランスに近づいて、仕事が少し自分の掌（なたごころ）に入ったように感じました。この契約社員の数年で僕は独立して仕事をする準備ができたし、仕事と金の流れも感覚的にわかるようになりました（僕が受け取る年棒は、僕が年間に売り上げる原稿量の2分の1というシンプルなものだったのです。つまり、会社がのれん代と仕事がなかったときのリスク負担、金融機能などを果たす代わりに、1/2をピンハネするという経済原理を学びました）。

「魚の目をしていない大人」とは何か？　それを、満員電車に毎日揺られない、仕事を自分の意思で取る（選ぶ）、お金の流れを理解する、といった具体的な要素に分けて考えることができるようになっていたわけです。

10代のあなたの夢、あるいはこんな大人になりたい/なりたくないという思いは、どんなものだったでしょうか？　大人になり、今それが実現できていますか？

中学や高校の時の自分に今再会したとして、そのころの自分に恥じない、毛嫌いされない自分でしょうか？　10代の自分に尊敬される自分になっていますか？　

10代の自分がなりたかった大人になることは、Quality of lifeのひとつの形なのではないかと思います。

■人生は意外に短い

今、30歳だとします。社会に出てほぼ10年。あと同じ10年を続けて40歳になったら、今の自分の延長に、自分がなりたかった大人が見えているでしょうか？

もしまだ夢の実現が遠いと感じているなら、それを40～45歳ぐらいで実現しているとしたら、それまでに残されている時間を考えてみます。

30歳なら、あと10～15年。社会に出てから今までと、同じぐらいの年数で、「なりたい自分」がおよそ実現できている？というように考えてみるわけです。そう考えてみると人生は意外に短いというのが感じられるのではないかと思うのですが、この「意外に短い」という感覚がわかると、「短い人生で実現できることは限られている、だったら自分に向かないものは捨てて、向くもの、やりたいものに集中しよう」という気持ちが湧いてきます。

20代ではまだこういう感覚は持てないと思いますが（僕自身そうでした）、それでも「無限に長いわけではない」ということを感じる機会が持つことは、良いことだと思います。

「人生は何かをなすには短か過ぎるが、何もなさないのには長すぎる」

という格言が、確かフランスだったかにあります。こんな言葉を実感するには、フランス映画を見るのがいちばんいいのですが、そういえば、僕は20代の頃、フランス映画もたくさん見ました。ハリウッドの映画もおもしろいけれど、ヨーロッパの映画は人間の生き様に対する深い洞察が隠されているものが多いので、ぜひ見てください。自分がどんな人生を送るといいのか、感じる機会をつくれると思います。

ということで、バラバラとした感じになってしまいましたが、20代のためのライフデザインのアプローチについて、考えてみました。これから、このテーマで本を書く予定なので、またワークショップを開いて、20代の方の意見も聞いてみようと思います。興味のある人は、ぜひ来てください。また改めてご案内しますが、興味のある方はメールで名乗りを上げていただくと、僕も弾みがつきそうです。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

mail:paco@suizockanbunko.com