168P 小学生に要らないこと、必要なこと 2

photo by paco.

今週は、先々週に引き続き、小学生の学びについて考えます。

コミトンの読者にとっては釈迦に説法だと思いますが、ここに書いていることは僕が、僕の娘（小学校5年生）を育てるにあたってやってきたことという観点で書いているのであって、このやり方がすべての子どもに有効か、向いているかという点については検証できていません。あくまでこういう考え方ややり方もある、という意味で参考にしてください。

■学校に何をどのように伝えるか？

前回、漢字や計算について「できた方がいいこと、できなくてもよいこと」という視点で書きました。「たしかにそういう考え方はあるな」と共感してくれる人もいるのですが、そういう人たちから次に出てくる質問は、「学校では実際どうするのか？」という点です。

計算や漢字など、学校が求めている細かな学習内容について、「そこにあまり力をとられるよりは、別のことをしたい」ということになると、学校から見ると、勉強の面で手を抜いている形になります。教師はハネやトメ、書き順まで正確に書ける子どもに育てることが存在意義だと確信していますから、そのままにしておくと、残されたり、繰り返し追試になるなど、面倒なことになってしまいます。それでは本末転倒ですから、うまく状況を変える必要があるわけです。

簡単に言えば、それは「特別扱いしてもらう」「でもそのように見えないように」というのがやり方です。

そのための理由として便利なのが、体調です。体が弱い、持久力がない、寝付きが悪い、など体の不調になりやすいので、「ほどほどにやっておくことにしておく」というメッセージにしておくと、教師は納得しやすくなります。健康第一というわけです。

あいにく健康で元気、体力もあるということになると、こういういいわけが使いにくいので、精神力や集中力の話にしてもよいでしょう。「体は元気だけれど、心は意外にナイーブで、限界を超えると勉強を受け付けなくなる」とか、「かえって能率が落ちる」というような理由を考えておきます。実際、漢字や計算が大好きという子なら、どんどんやらせればいいわけで、一般的にはできればやりたくないということが多いでしょうから、やらせすぎると心に問題が起きるというのは、あながちウソともいえないでしょう。

こういった理論武装は、子どもと一緒に考えておくほうがよく、僕も「こういうことにしておこうか」「そうだね」というような会話をよくしています。この作業は子どもに「世の中は要領よく渡っていけばいいのか」という考えを植え付けるように思うかもしれません。でもその一方では「これはやらないけれど、あっちはやろう」という境界線を明確にすることでもあります。漢字なら、まず意味がわかるようになろう、次に読みができるようになろう、書けるようになるのは最後（できなければあきらめる）というように、優先順位を決めることでもあります。この優先順位は、なるべく親が実際にそのようにやっているとおりの優先順位でもあると思います。

こういった理論武装ができたら、折を見て担任に話をしておきます。個人面談の時でもよいですが、たまたま漢字や計算のテストがあって、勉強に苦労していらいらしているようなときに、担任に電話を入れて会いに行くというほうが効果的です。親がイレギュラーなタイミングで訪問すると教師はちょっとびっくりしてていねいに聞こうとするし、タイミングも今まさに勉強がきついとか、覚えきれないなどの問題を抱えている（ことにしておく）時のほうが、説明も説得力が出ます。

事情を説明するときに注意することは、決して教師を非難せず、カリキュラムや教育内容を非難・批判しないという点です。あくまでも「うちの子はこういう事情があって思うようにできない、勉強は半端になるけれど、必要以上に叱らないでほしい、よけいにできなくなる」というように、あくまでこちらの（子どもの）問題であると言っていくことです。

その上で、「学校が求めている勉強内容をパーフェクトにできないかもしれない」、でも「漢字の勉強がここでほとほと嫌になり、勉強嫌いになったら、その方が影響が大きい」というように「長期的にみて、ほどほどにしておくほうが結局メリットがある」というメッセージを出します。

こういうと、「このぐらいの勉強で限界ということになると、あとあと困ることになりますよ」などと教師が脅してくることもよくありますが、脅されてもうろたえないこと。かといって怒ったりせずに、「たしかにそうですよね」と受け入れつつも、「でも人間にはできることとできないことがありますから」などと、簡単には屈しないところを見せつつ、さらに「子どもはこれから先10年以上、勉強というもの続けなければならない、でも担任のあなたがその間ずっと面倒を見られるわけではないですよね。勉強を続けるということが重要で、嫌いになって逃げるようになった最悪です」それともあなたが将来まで責任をとってくれるのですか？と言外ににおわせて脅しかえすと、それ以上は何も言えなくなるでしょう。最悪の場合、さらにたたみかけてひどいことを言われることもありますが、そこまでするような教師は、「人格的に問題あり」ですから、もともと真剣に相手にしない方がいいでしょう。

僕らの場合、勉強内容だけでなく、六兼屋に行くので出席そのものが4分の3ぐらいになるとか、学校に行く日も1～2時間遅刻していくとか、給食の時は牛乳を飲まないとか、かつての常識で考えたら「あり得ない」ようなことをしているので、それぞれのことについて、繰り返し担任と話す機会をつくっています。あくまでこちらの事情を聞き、教師の言い分を聞き、でもこちらの言いたいことを言いきった上で、「ご協力をお願いします」と頭を下げ、にこやかに帰ってくることが重要です（けんか腰には決してならない）。場合によっては校長や教頭にも話をつけておくといいでしょう。担任は管理職が納得していることは、やりやすいものです（このあたりはどの組織も同じ）。

■TV番組を活用する

さて、こんな方法で子どもを学校の「やらなくてもいい勉強」から解放した上で、代わりに必要なことを親がinputします。といっても教師の代わりに「教える」必要はありません。子どもと一緒に勉強すればいいのです。

僕がよく使っているのはTV番組です。単なるお笑い番組だと「教材」になりにくいのですが、「ウルルン滞在記」や「世界ふしぎ発見」程度に情報があれば、いろいろと学べます。といっても、みんなで黙々と見ていたり、笑っているだけでは学べないので、親が感心したり、怒ったりしてみせるのがきっかけになるようです。勉強のきっかけにするためにやっていてもつまらないのはいうまでもないことで、実際のところ、そういうテレビの見方を僕自身がしているということかもしれません。

親が感情を込めて見ていると、子どもはそのタイミングで内容に関心を持ちます。「なんでここで泣いているの？」というような感じです。できればその場で、なぜ泣いているのか、背景を説明してあげるといいのですが、それが難しければ、CMの時間まで待って教えるとか、内容があるならビデオで撮ってから見ると、途中で止められます。

「このおねえさんはうちが貧しいから、家を出て街に働きに出なければならないんだよ。おねえさんが働くと、親にたくさんお金が入る。それを知っているから、おねえさんも、悲しいけれど街に行くんだ」

というような感じです。内容は年齢によってかなり変わってくるでしょうが、小学生になっていれば、かなり難しいことでも、単語をかみ砕けば、十分以上の理解力があります。ちょっと難しいかな、ぐらいのことを説明するといいようです。

小さいうちは、大人が関心を持つことには子どもも関心を持ちたいという気持ちがあり、小学校高学年ぐらいになるとだんだんそういう影響力は落ちていきます。影響力がある低学年のうちからおとなが何に関心を持っているのかをかみ砕いて伝えるようにしていくと、あとになるほど親と同じ関心事が蓄積されていきますから、理解が深まって、継続的に知りたいと思うようです。

きっかけにするのはテレビ番組でなくてもよくて、新聞でも雑誌でも本でもいいでしょう。でもやはり映像の持つ力は大きいので、親子ともに興味を持ってみられる番組をつくり、解説付きで見る習慣ができるといいのではないかと思います。

■社会の仕組みを教える

実際に最近僕が教えている、というか、一緒に学んでいる番組としては、
「素敵な宇宙船地球号」（TV朝日）
「地球大好き環境新時代」（NHK教育）
「その時、歴史は動いた」（NHK総合）
あたりをわりとよく見ていて、このへんの番組の内容はコミトンなどでもよく書いているので、「なるほど」という感じかと思います。

他に、ちょっと変ったところでは、
「御宿かわせみ」（NHK総合）
「ロッカーのハナコさん」（NHK総合放送終了）
があります。「御宿かわせみ」などは、平岩弓枝の娯楽時代小説のTV化なので、勉強するようなものではないのですが、「奉行所（警察+裁判所+都庁）」「ご用にする（犯人を捕まえる）」「部屋住み（パラサイトフリーター、ただし自分で選んだのではない次男坊）」など、ちょっと変った用語が出てくるので、社会の仕組みと合わせて適宜、教えます。奉行所を教えていると、現在では警察と裁判所は機能が分かれていることや、奉行の権限が大きかったので、汚職をすると最悪、よって分権化が重要、などを教えることができます。

「ロッカーのハナコさん」は「ロッカーに住みついたやり手OLの幽霊」ハナコさんの物語なので、会社が舞台です。コミックが原作なので、ウソっぽい設定が多いのですが、営業や企画の仕事、取締役は個室を持っていてランチにもお金がかけられるなど、会社の中の役割や身分差などについても教えることができます。「こんなこと、実際の会社の中であるわけはないさ」というのもいいのですが、学びという点では、むしろ「実際の会社もこういう漫画じみたところはあってね」というように、リアリティが持てるような展開にした方が、興味が持てるようです。見ている番組を親がバカにすると、子どもはそれを「学ぶ必要のないゴミのような番組」というように理解するので、そういう番組をわざわざ見ている親自身もばかげて見えてくる可能性もあると思います。楽しむところは娯楽として楽しみ、現実味のあるところは社会の縮図として教える、というような感じで見れるとよいのではないかと思います。

■犯罪や欲望を教える

もちろん、教える中身はよいことばかりに限定する必要はありません。犯罪や欲望についても教えていくべきでしょう。

ニュースで報道される犯罪や事件がなぜ起きるのか、背後にある欲望や動機を一緒に考えたり、悪いことをしたという犯人が、そんなことをしなければならないような背景があったのではないかというようなことなど、いろいろな視点で話すことができるはずです。

最近では子どもの犯罪も目立つので、「命を粗末にしてはいけない」などと教えたくなるのですが、そういう言い方をしてもたぶん伝わらないでしょう。犯罪者に家族を殺され、残った人の悲しみの日々や、被害者を増やさないために積極的に行動していることなどを紹介する番組（「クローズアップ現代」や「報道ステーション」あたりでも時々やっている）をみて、残された人の悲しみを共有した方が、「命の大切さ」がわかるのではないかと思います。

■問いかけから学びをつくる

実際にこういったことをやっていくときには、親が伝えたいことを「教える」のではなく、子どもの「問いたい気持ち」をうまく引き出し、疑問をたくさん持つようにリードすると、うまくいきます。

警察幹部が不祥事で頭を下げている映像が映れば、「この人たちはなんで謝ってるの？」という疑問が出てくるかもしれません。ここぞとばかり教えたいところですが、ぐっと我慢して「どうしてだと思う？」「想像でいいから考えてみて」と聞き返します。まず、質問には質問で返すというやり方が、子どもにはすごく有効です。

ここで出てくる答えは、意外にあたっていることもあるし、はずれていても、その子の理解のしかたがわかるので、答え自体がおもしろい。それ以前に、質問すれば答えてくれるというような、知識の自動販売機のとして親が存在しているのではなく、一緒に考え、考えること自体をおもしろがる人として理解してもらうのがいい。親も一緒に悩めば、子どもは親に親近感を持つし、場合によっては子どもの考えのほうが正しく、親のほうが気づかされることもあるでしょう。

問いかけとして、「辞書で引いてみて」「ネットで調べてみたら？」ということもよくあります。辞書は、4年生のときに電子辞書を買ってあげたのですが、これが引きやすく、持ち運びに便利なので、辞書を気軽に引くようになりました。最近では聞く前に自分で辞書を引くのがあたりまえのようになっています。

インターネットで検索をかける方法も、2～3年生ぐらいにはマスターしていました。ローマ字を早めに教えて、漢字変換で読みを選べるようになれば、かなり難しい言葉でも調べられるようになります。and検索や、読みや仮名を変えて調べてみるといったテクニックも、少しやってみせれば簡単に使いこなすようになります。

ジャストシステムの「ドクターマウス」というソフトを使うと、画面上に表示されているテキストの部分にマウスポインターを持って行くだけで、その単語の意味を検索して表示してくれます。日本語（国語辞典・漢字字典）だけでなく、英単語も調べられる（英和、和英）ので、ネット上で出てきたページも、なんとか読みこなせるようになるのにそれほど時間がかかりませんでした。

こういった方法を、タイミングよく教えていくことで、子どもはどんどん調べ方を覚えていきます。いったん「自分で調べる」ことが習慣になれば、興味が湧いたことをその瞬間に知り、知的欲求を満たすことができるので、ストレスがなくなり、学ぶことが楽しくなっていきます。

実際、こういうことを家庭でやっていると、宿題や教科書をやっている時間なんかない！というぐらいの状況になります。そこまで、好奇心を高められると、こちらも見ていて頼もしい感じです。

知ること、学ぶことは、本来、人間にとって楽しく、わくわくすることです。学ぶことそれ自体が、人間にとっては快楽なのです。もし学校の勉強が楽しくないなら、それはやはり何かが間違っている。もちろん楽しいこと100％ではないにせよ、楽しいことをするために、感じも算数も少しはやらないとね、と気がつかせるように持って行ければ、単調な作業も、短時間なら意欲的に取り組めるようになるようです。

知り、学び、おもしろがれる人になるために、あの手この手で環境を整え、リードしていく。これが子どもを育てるおもしろさのひとつなのではないかと僕は考えています。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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