171T「農」とかかわる－最初の収穫で得たもの

photo by Toshi.

まさに記録的な暑さとなったこの夏もだんだん終わりの気配を見せていますね。この暑さ、農業にはどんな影響を与えているのか、近くの農家の人に聞いてみると、暑さに加えて雨が降らなかったことが悪影響を与えているそう。地中の水分が足りないことはカルシウム等、必要な栄養素の吸収を妨げてしまうとか。その結果、内側の一部の葉が黒ずんだキャベツなどが出来てしまいます。

一方、うちの菜園はというと、水が足りなければまいてしまえばいい、というのもあって、わりと順調でした。あれだけ暑いとへたってしまうものもありますし、台風の影響もあったのですが、初めての菜園としては上々だったと思います。不耕起等なるべく自然に、という試みも悪くない感じ。キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、トウモロコシ、カボチャ、エダマメ、インゲン、バジル、シソ、ミツバなどがすでに収穫できています。夏野菜はだいぶ終わり、今は秋・冬の準備をしはじめたところ。そこで今回はコミトン145「『農』とかかわる-自分の生活をゆっくり変えていくプロセス」の最初のラウンドを振り返ってみたいと思います。

■家庭菜園が持つ意味

まず最初に「なんでこんなことやっているんだっけ？」というのを確認しておきましょう。「こんなこと」というのは二つの意味があります。一つは菜園などやりだしたということ、もう一つはそれをわざわざコミトンに書いているということ。前者について詳しくはコミトン145に書いているのですが、一言で言うと「もう少し自然に近い生活を」と考えた結果の一ステップです。ずっと都会で過ごしてきた生活から、少し緑の多い環境に移る。それも、ただそこに住むだけでなく自然と関わって物を作り出したい。さらには、自分でやるだけでなく、そういう環境を持った社会にして行くことを狙ってみたい。とはいうものの、あまりにこれまでの自分からは遠い世界なので、まずは家庭菜園で試してみようと。

一方、これをコミトンに書いているのは、こんなこともライフデザインの一つのあり方だと思うからです。「デザイン」と考えないと、「最近、野菜作りにはまっててさあ」という感じで、単に趣味が一つ増えただけの話です。でも上のように考えると、価値観の変化をライフスタイル全体の変化につなげられるかもしれません。また、社会についての問題意識を行動に移していくきっかけになるかもしれません。さらにはキャリアにも影響を与えるかもしれない。そんな可能性を持った第一歩（大一歩？）の例かなと思うので、ここに取り上げています。もちろんしばらくやって「やっぱり違うや」となる可能性もあるのですが(^_^)。

■自分でやってみることの意味

「まあ、やってみよう」とスタートしたのですが、実は最初でつまづいていました。どう始めたらよいのかがわからないのです。普通の方法での栽培については初心者向けに書かれたものもあるのですが、不耕起栽培の本をいくつか見ても、不耕起栽培のメリットや、回り始めてからどうするかということばかりで、「最初はどうするのか？」があまり書いていない。結局、あちこちにある情報を寄せ集めて推測し、土作りをやってみました。少しおいて土をなじませた後、種をまき、最後に近所で拾ってきた枯れ草を土の乾燥防止などのためにかぶせます（草マルチ）。ここで種を深くまきすぎたり、草マルチが強風で飛んでいってしまったりと予想外の失敗もありました。はたからみると「あんなに枯れ草撒き散らして、いったい何をやっているんだろう？」と感じだったと思います(^_^;。種のまきなおしで出遅れたこともあり、自分でも「だいじょうぶかなー、うまくいかないとかっこ悪いなー」と思っていました。

しかし遅ればせながら次々芽が出てくると、少し強気になってきます(^_^)。「普通、初心者は種からやらずに苗を買うよ」と言われても反論。苗からなら去年やったし、種からやるのと苗からやるのでは大きく違うからこそ、種からやらないといけないと。先を考えると「ブラックボックスを早めにつぶして行く」というのが一つの判断基準でした。

どこまで「農」への興味が続くかはわかりませんが、もし１０年続けばそれなりにいろいろな可能性が考えられそうです。半分冗談、半分本気で人に言っているのは、「農業をよくわかっていれば、世界のいろいろなところで役に立てる可能性がある」ということ。しかしそのためには、何がどうしてどうなっているのかを分かっている必要があります。それにはなるべく自分でやっておきたいところ。日本だと、土からして野菜の苗づくり用だとか、なんの花用だとか出ており、種から育てるにしても楽をしてよいものを使えます。しかし、ベンチマークにしたりどんなものか見てみる等目的がある時以外はあえてそれらは使わず、より原始的な素材を使いながらメカニズムをつかんでいこうと思っています。なお、今回の場合、保険と比較のために苗も買ったのですが、自分で種から育てたものもそん色なく、成長しました。苗の植え方が下手だったというのもありますが(^_^;。

■意外に楽しいという発見

と、えらそうに言っていますが、芽は出たものの、まわりの畑に比べると成長がゆっくりで頼りないので５月ごろは「何が違うのかなー」と毎日、首をひねっていました。でも病害虫にはほとんどやられずにみんな育っていきます。被害を受けたのはたまに大物の虫が出た時。朝、見るとトマトやインゲンで、かなり大きく食われています。そこで夜に見に出て、大きなイモムシやカタツムリを発見。退治すると、その後はぴたりとおさまりました。

ここで気がついたのは、夜に見て回るといったことが苦痛ではなく、むしろ楽しめていたことです。夜の菜園は昼間とはまた違います。まず、昼間以上に植物が呼吸をしているような独特の空気があります。これはそこにいて気持ちがいい。クモなどが活発に活動しているのは頼もしい感じ。上のような虫たちを見つけるのはちょっとハンティングのよう(^_^)。なお、夜に限らず、何か作業をするのも、ただ見てまわるのも楽しいというのは思いがけない発見でした。

作業をすることには、次のステップにつながるというワクワク感があるのでしょう。苗を植えるとか追肥をやるとか、枯れ草を取って来て敷くだけでも、そんな感じがあります。ただ見てまわっても楽しいのは、生長があるからでしょう。朝見るたびに新しい芽が出ている、新しい葉が出てくる、つぼみが出て花が開いた、株全体がずいぶん大きくなったとか、いよいよ実がなった、実が赤くなってきたとか。そういう意味では伸びた部分を支柱にくくりつける作業も生長を感じられてうれしい気がします。じゃあそれなら花でも木でも楽しめるのかというと、やはり今のところは最終的に作物になるというのが大きなポイントのよう。その過程もまた楽しむということなのでしょう。

■自然の持つ力を引き出すために考える

さて、病害虫にやられなかったというのはなぜなのかと考えてみると、やはり不耕起のメリットを得られたのでは、という気がしています。ここでいう不耕起とは、耕さないことというより、「対症療法に頼る前に自然の持つ力を引き出す」という不耕起の基本コンセプトの方を指します。

まず、作物が健康な状態にあれば虫もつきにくいし病気にもなりにくいということでしょう。たとえば窒素などの栄養が多すぎると植物はこれを吸収しすぎ、それを分泌物などから察知した虫がたくさんやってきたり、弱って病気になったりするようです。では植物が健康であるためには何が重要かというと、一つには適度な栄養の状態。もう一つには土が適度な水分を含んでいること。栄養は「多いほどいい」という発想を捨ててコントロールすることが一つのポイントでしょう。水分については枯れ草を土の上に敷きつめる草マルチや雑草の存在が特に機能したと思います。

次は作物のまわりの環境です。これには地上と地中がありますが、現時点で目に付いたのは地上の方でした。農薬を使っていないせいか、作物や他の草が育ちだすと、クモやハチ、カマキリの姿を見かけるようになりました。彼らはいわゆる害虫の天敵になるので、害虫の数が抑えられるようです。その意味では、雑草を抜かずにいたことはこれら天敵たちのかくれがをつくるメリットがあったよう。雑草には他にも土の保湿や作物の暑さよけによいという長所もあります。しかし確かに作物の生育を妨げてしまう面もあるので、そのバランスを考えながら時々刈り込んでいました。

こういった自然のメカニズムを生かして、ものをつくりだしていくという感覚は気持ちよいものでした。化学肥料や農薬で（一時的に）収量を大きく上げるよりも自分の価値観に合いますし、自然のメカニズムがうまくまわるようにいろいろやってみること自体もおもしろい。たとえば、まだ試していませんが、ソルゴーという緑肥作物を植えてアブラムシを引き寄せ、それにつられてやってくるアブラムシの天敵で他の虫もやっつけるという方法があるそう。しかもこのアブラムシは作物にはつかないというので、いずれ試してみてもおもしろいかも、と思っています。

もちろん、上のような先回りの話ばかりでなく、問題が起きてしまって、さあどうするかと考えていたこともあります。しかしそこは真剣勝負でないための気楽さ(^_^)、対策を考えていてもあまり悲壮感はありませんでした。たとえば栄養不足のためにトウモロコシの下葉が黄色くなっていったり、カボチャやトマトの枯れるスピードが少し速いように感じていた時がありました。本を見てみると、マグネシウムが足りない時の症状のようなのですが、困ったのは対策が書いていないこと。マグネシウムを含む苦土石灰を直接まくと作物をいためてしまいます。少し作物から離して畝間にまいてみたのですが、あまり効果があったように見えません。さらに考えていたところ、トマトがその性格上、茎であっても土をかぶせればそこから根を出す（＝吸収を出来るし土から病気になりにくい）というのが目に留まりました。そこで苦土石灰をなじませた土をつくり、それを盛り土のようにかぶせていくことを試してみました。劇的ではありませんでしたが若干の効果はあったような気がします。

こういったことを考えていくのは、自分にとっておもしろいことであり、かつ得意な領域でもあります。知識量はまだまだ全然足りませんが、それを獲得するのもまた楽しいところなので、けっこう楽しめるのでは、と思っています。

■いよいよ収穫！

さて、花が咲き出すとゴールが少し見えてきます。カボチャの黄色い花に始まり、やがてインゲンが白い花をつけます。紫色のナスの花と、キュウリとトマトの黄色い花は去年も見たもの。おもしろかったのはトウモロコシで、てっぺんに雄花がプロペラのように開き、下の方に絹糸のような雌花が顔を出して、風で受粉します。６月から７月にかけては作物に限らずいろんな花があちこちで開き、そこを忙しそうにハチたちが飛び回っていて、とてもにぎやかな感じでした。目黒でベランダ菜園をやった時には自分で受粉しないとほとんどダメという感じだったのですが、ここでは何もしないでもハチたちが受粉してくれます。これには「いいなあ」と感動したのですが、こういう当たり前の自然の営みを再発見して「うまくまわっているよなあ」と感じると同時に「そんなのずっと忘れていたなあ」と問題意識を感じるということが今回しばしばありました。

６月後半からはいよいよキュウリとインゲンから収穫開始。続いてナス、バジル、シソ、エダマメ、トウモロコシ、トマト、ピーマン、カボチャと続きます。キュウリは最盛期には一日５本くらい採れ、近所やらあちこちで配っていました。バジルも似たような状態になりつつあります。

トマトは暑さが強烈過ぎたせいか一時、実の着きが悪かったのですが、ここに来て盛り返してきています。トマトは味の意味で、自分で作ることのメリットを一番大きく感じさせる作物でしょう。やや水っぽいトマトがちまたには多いですが、自分で作ると「ちゃんと味がする」気がします。エネルギーが詰まっているという感じもします。トマトではそれが特に強烈に感じられるのですが、他の野菜でもそういう感じはします。

たとえばトウモロコシ。実は僕はあまりトウモロコシが好きではなく、特にゆでたり焼いたりしてそのまま食べるのは通常パスしてしまいます。今回も「作るのはおもしろかったけど、食べるのは他の人によろしく」というつもりだったのですが、試しに食べてみたら、なかなかよかった(^_^)。程よく甘い（甘すぎない）味はもちろん、プチプチとした食感と、いいにおいがするのです。インゲンも普段は水っぽい感じがしてあまり好きでなかったのですが、採れたやつをゆでて食べてみると、みずみずしいけど水っぽくはない、噛むとぐりっと切れる歯ごたえと、インゲンらしいにおいがいい感じです。そういえばこどもの頃はインゲンが好きだったということを今回思い出しました。他のものもそれぞれ感じたことがあったのですが、きりがないのでこの辺にしておきます。

■菜園が人をつなぐ

家庭菜園の効用は作物だけではありませんでした。上に書いたように、朝夕、庭に出ている時間がけっこう長いのですが、植物や野菜に関心のある人だと、同じように庭に出ていたりします。そこで塀越しに話が始まります。特に雑草をそのままにしていながらいろいろな野菜が育っていることは興味を引くよう。そこで野菜のことから始まった話が他のことにも及んでいき、よく立ち話をするようになりました。これは世界旅行の時にあちこちで見た風景と似ていていいなあ、と思ったりします。

うちにやってきた人たちは、有無を言わさず？その時の野菜を食べさせられたり、持って帰らされたりします。興味のある人もない人もいると思います。でも、たった１０平米のスペースからこれだけのものが生まれるというのを目の当たりにするのは、それなりにインパクトがあり、いずれ何かの変化につながるかもしれないと思います。

散歩をしていても近所で畑をやっている人と話すことが少しずつ出てきました。特にうちの目の前の畑で何かをやっていてそれが何だかわからない時には、すぐ出て行って「それは何をやっているの？」と聞くようになってきています。僕の場合、自分から出て行って人と打ち解けるにはかなり時間がかかるので、これは大きな進歩(^_^)。

■次のステップ

さて、今は秋冬野菜の準備をしているところで、ここはまだ未知の世界であり、それはそれで楽しみなのですが、来年の春夏については、

もう少し作物の量と形をよくすることと、
さらによい環境をつくること

をトライしてみたいと思っています。たとえば、トマトは一株から２０～２５個くらい（現状は数えていないがおそらく１５個以下）、かつ今よりも少し大きめのものが出来るとよいなあと思っています。同じように個数をもう少し増やしたいのは、ナスと豆類、形を整えたいのはキュウリ。これらのためにポイントになるのは初期の根の張りではないかと思っています。根が張ることで水分・養分の吸収力が高くなる、つまり成長力が高くなるのではないかと。ではそのためにどうするかは初期の施肥の仕方だと思うのですが、これもただ多ければよいというものではなさそう。これから調べてみるつもりです。

よい環境のポイントはなんといっても土でしょう。まだ始めたばかりですから、ふかふかの土というわけにはいきません。水はけの悪い部分もあります。これを、深く根を張るタイプの植物を植えて根穴構造の発達を狙ってみたり、落ち葉をかきあつめてきて微生物やミミズに活躍してもらったりしながら、改良したいと思っています。

うちの庭でやるのはそんな感じですが、次のステップへの布石も少しずつ打っておきたいと思っています。今、考えているのは四つのポイントです。一つはこの近くでもう少し広い場所を借りられないか見ていくこと。これは散歩をしながらちらちら見ているところです。二つ目は従来の農業のやり方も少し体験しておくことで、うちの前の畑をやっている農家の人にお願いしているので、この秋からスタートできるかもしれません。三つ目はこれを親子で参加する教育に仕上げていくトライ。四つ目はこのエリアに限らず次の住まいの場を少しずつさがしていくこと。もう少し自然に近くて、かつある程度の文化レベルとエネルギーを持ったところがよいなあと思っているのですが、これは少し長期戦です。

ここからどういう方向に向かっていくのかは、まだわかりません。教育に農を取り込むのか、地域に取り込むのか、それとも海外でやってみるのか、はたまた結局、興味が他に移ってしまうのか。しかしいずれにせよ、しばらくは楽しめるのではないかと思っています(^_^)。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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