172P 未来を考えながら、ライフデザインする

photo by paco.

今年の8月は、20代のライフデザインについて、バーチャルとリアルでいろいろな話をしてきました。僕自身、20代を過ごしてきたのに、時間がたつと忘れているものだなあと思うこともあり、いろいろな意味で新鮮でした。

前回のコミトン170「20代でスケール感のあることを考える」を受けて、実際にMLなどで20代のメンバーに考えてもらったのですが、なかなか難しいようです。なぜうまく考えられないのかなと、考えてみたのですが、遠い未来の話や広い範囲の渡ることを考えるための軸がないからかもしれないと感じています。そこで、今回はスケール感のあることを考えるための「軸」について考えてみようと思います。

■今の仕事の過去を知る

一般論として、遠い未来は広い範囲のことを考えるのはなかなか難しいと思うので、まず、今の自分の仕事の未来について考えてみることにします。具体的には、まずは10年先ぐらい。次に、30～40年ぐらい先で、自分が健康なら、まだ社会と関わっているだろう年齢です。この作業は、20代に限らず、その上の世代の方にも日常的に考えてもらいたいことで、年齢が上になるほど、考えやすくなると思います。

とはいえ、10年先ならともかく、40年先となるとなかなか考えられないので、事前にウォーミングアップをしておきます。

40年先のことはわからなくても、30～40年前のことなら知る方法があります。1970年のころ、自分の会社、業界や仕事はどんな状況だったかを、調べてみるわけです。今は、ネットでこういった情報を簡単にとることができますから、どんどん使っていくことにしましょう。

あるいは、自分が今扱っている製品やサービスが、40年前にはどんな状況だったのかを調べてみるという方法もあります。自分が使っているブランドは、何年に生まれたものか。携帯電話会社にいる人にとっては、せいぜい15年ぐらいしかさかのぼれないかもしれませんが、逆に携帯のように急成長した分野なら、その15年で社会がどのように変わったかを考えたり、会社の先輩に聞いてみるとわかってきます。さらについでに、固定電話の歴史についても考えてみれば、100年ぐらいはさかのぼれるはずです。自分の会社のことだけでなく、競合会社の動きも見ておきたいところです。

今扱っているブランドや製品と合わせて、仕事内容についても考えてみます。たとえばマーケティングが今の仕事なら、マーケティングをいう担当ができたのはいつごろか。それ以前は、その仕事はどのようにやっていたのか。客先はどんなところで、競合に勝つためにはどんなことをやってきたのか。以前と今の、共通点と違うところを探す気持ちでみていくといいでしょう。

■趣味の世界で、過去を考えてみる

こういうやり方でうまく想像できない人もあるかもしれません。実際、20年と少ししか生きていない若い世代が、自分が生きてきた倍以上前のことを実感をもって考えるのは難しいことです。僕が20代だった1980年代に、1940年代のことを考えることは、うまくできませんでした。ただ、ひとついいわけができるとすると、僕の20代から見た40年前は戦争中で、政治体制も異なり、途中の混乱の時期を挟んで物事が連続的に進んでいなかったために、とてもわかりにくかったのです。親の世代も「今はいいね、昔は大変だったよ」というばかりで、歴史の断絶を感じるばかりでした。その点今の20代から見た40年前は、大きな変革もなく、多くのことが連続的ですから、考えやすいはずだなと思います。

ちなみに僕は、いまは自分の年齢を超える長さの時間を、わりとスムーズに考えることができます。以前はできなかった戦前のことも、今は「断絶感」より「連続感」をもって考えられるようになり、同じく明治期や江戸時代後期ぐらいまでは、想像できます。これは年齢の問題も大きいのでしょうが、イマジネーションの鍛え方も大きいのではないかと思います。

ちょっと話がずれました。会社の沿革をみてもうまく考えられないようなら、少しアプローチを買えて、モノやコト、それも会社とは関係なく、自分が好きなカテゴリーのモノやコトの変遷を考えてみるというのはどうでしょうか。

クルマが好きなら、ここ40年ぐらいのクルマの変遷をみてみる。ファッション、スポーツ、電気製品、お菓子、ある街の歴史でもいいですね。クルマは、趣味性が高いことも手伝って、わりとよく歴史を感じることができます。しかも20年前ぐらいのクルマまでは、みたり、自分で買って乗ったりすることもできる。つい今朝も、CMですが、こんな情報が出ていました。実際、僕が歴史感覚を磨けたひとつの理由は、古いクルマに何代か乗ってきたからかもしれません。一番古いクルマは、1990年ごろ乗っていたシトロエン2CVで、クルマの製造は1980年代のモノでしたが、1948年の設計からほとんど内容が変わっていないために、40年以上前の時代の雰囲気を肌で感じることができました。

一番感じられたのはグロバリゼーションです。1950年代では、クルマは先進各国が自分たちの文化をベースにクルマを作っていました。フランスにはフランス人の気質や文化、土地柄をベースにしたクルマがつくられ、シトロエンも「広い」「遅い」「合理的」「乗り心地がいい」といったキャラクターがはっきりと出ていました。フランスの国土の多くはなだらかな平地で、エンジンに力がなくても、いったんスピードに乗ってしまえば、そのままゆったりしたカーブの続く道を走り続ければいい、という国で、そこにフランス人の合理性が加わって、小さく、シンプル、遅いけれど、いったん走り出せばまっすぐに疲れずによく走る。という2CVが生まれたのです。

もちろん最初からこんなことを考えたわけではなく、古いクルマのもつ「おかしいなあ、ヘンだなあ」という点を毎日みていると、「なんでこうなんだろう？」と考え始め、当時の時代状況について、本で読んだり、フランス映画を見て感じたりすることがおもしろくなってくるのです。

女性であれば、ファッションの変遷史も興味深いかもしれないし、家具やインテリアも、今は70年代ブームですから、休日にでも目黒通りの家具屋を何軒か回ってみれば、70年代の雰囲気を感じたり、それをきっかけにインテリアブックを読んでみたくなるかもしれません。

20世紀後半は、50～90年代まで、10年単位でざっくりと整理することができますから、自分の興味のある分野についてでかまわないので、改めて振り返ったり、自分がわかっている以前の情報をとってみてはどうでしょうか。

特に意識してもらいたいのは、今との連続性です。違うなーと分けてしまうのではなく、違って見えるけど、目的は変わらないとか、価格は変わったけれど、性能はあまり変っていないとか。変らないところ、ゆっくりと連続的に変っているところに注目できると、これから先、何が起こるのかをイメージする力になります。

■変化しないところ

このように過去をみていくと、激しく変化している部分と、実は変っていない部分があることに気がつきます。

たとえば、クルマで言えば、数名を載せて動く箱で、サイズは幅1.5～2メートル、長さは3.5～6メートル、ゴム製のタイヤがあり……という部分は実は100年前からほとんど変わっていません。クルマを使うには、デコボコが少ない、一定の幅の道が必要で、これが一定のサイズを前提につくられているからです。こういう部分は、おそらくあと50年ぐらいでは変らない部分で、100年たっても同じかもしれません。実は僕らが子どものころは、21世紀には車からタイヤがなくなり、宙に浮いて走ると考えられていたのですが、これは未だに実現していないし、たぶん、今後も難しそうです。

燃料は、ここ100年ずっとガソリンまたは軽油でしたが、これが今後どうなるかがひとつのポイントになりそうです。

電話はどうでしょうか？　音声のみで離れた人と話ができる（映像は伝えられない）、相手と同時に話ができる（トランシーバーのように交代に話すわけではない）、話す相手は1名のみで、グループで話すことはできない、などの特性は変りませんが、サイズはずいぶん小さくなりました。電話の基本は、持ち運べるようになったことが大きな変化ですが、それ以外の電話の機能はあまり変っていないようです。

これに比べて大きく変わったのは、実は料金ではないでしょうか。かつて、NTTの電話を引くためには、電話加入権の他に電話債を買う必要がありました。電話債は、加入権料（いわゆる電話回線を買うお金）の他に、債券（たしか30万円とか？）を強制的に買わされて、電話インフラの資金として使われてきました。電話は今のように気軽に手に入るものではなかったのですね。電話債が廃止されたのはいつだったか調べられなかったのですが、1980年ごろだったのではないかと思います。

自分の仕事や好きなことの分野で、何が変わり、何が変わらないのか、特に変化しないところを中心に情報を整理してみてください。

■未来を読み解くキーポイント

さてそろそろ未来の話に行きましょう。未来を知るということは、「未来学」というような専門の学問もあるぐらいなので、難しいことです。でも未来は誰もみたことがないので、逆に、誰もが自由に思い描くことができます。

といっても漠然と考えてもやりにくいので、今度は変化がおきてきそうなところをいくつかピックアップしてみましょう。

●情報化・ネットワーク化
インターネットや情報家電、ユビキタス技術が、仕事面で、生活面で、趣味の面でどんな影響を与えつつあるかを考え、その延長に未来を考えてみます。たとえばクルマに情報端末が乗るようになってきていますが、あれが進むとどうなるか？　道や街の情報を教えてくれて便利そうですが、自分ならどんな情報がほしいか。逆に、そのクルマがどこを走っているかがわかり、監視されるようなことはないか。家電がネットワークにつながって、外から電源のオン/オフができるようになると、何が変わるのか。それはどんなことに活用されるとうれしいのか。

●国際化
国境を越える動きはどんどん加速する方向。これまでのように商品が日本に来る、日本から出て行くというだけでなく、業務の一部がそっくり中国やインドにアウトソーシング、ということもあたりまえになりつつある。アジアや米国との関係はどうなっているのか？　ひとつの参考例として、EUがやっているような地域統合の動きもありますが、経済面では政治面よりずっと早く国際化が進んでいます。経済的な国境線がどんどん「薄く」なったときに、今の仕事や生活に、世界がどう入り込んでくるのか。たとえば米国では、国際化によってプログラム開発の仕事がインドに移転してしまい、米国人プログラマは慢性的な失業状態に置かれつつあります。日本でも、NECが新入社員をインドで研修すると発表し、僕の知人のプログラマはインドから日本に来たプログラマを社内で競争状態になり、プレッシャに負けて心を病み、失業しかけています。日本にも国際化の波は確実に押し寄せてきます。人事など日本語を使う仕事は海外に流出しにくいのですが、中国やベトナムには、基本的な日本語の読み書きができる人がけっこういて、事務的な日本語なら十分扱えるようになっているとのこと。こういう事態が、自分の仕事をどう変えていくでしょうか。

●環境
環境面の悪化は仕事やビジネスにどんな影響を与えるのか。自分の仕事は直接間接に、環境の悪化にどのように影響を与えているのか（必ず、あなたの仕事も環境を悪化させています）。環境経営についてはいろいろ情報がありますが、たとえば僕の連載も参考に。
http://biz-inno.nikkeibp.co.jp/
環境面についてはいつも書いているのであえて繰り返しませんが、これから30年ぐらいの変化には、もっとも影響を与えると思います。

●貧困
いわゆる南北問題。あるいは、社会の（所得）格差は国内でも世界でも、どんどん加速してしています。勝ち組負け組といったりしますが、そういわれると勝ち組にはいることをめざしたくなります。でも、勝つことで負け（貧困）を産み、貧困が増えすぎると、商品やサービスを買える人も減ります。買ったつもりが、実は勝っていないのかも？　今地球では、12億人の人々が1日1ドル以下の、現金経済の外に置かれた生活をしています。情報をとってみては？　たとえばこんなサイト。

貧困の問題は、実は先進国と途上国の問題ではなくなりつつあり、先進国内にも貧困が発生し、途上国内にも豊かな人々がいるという、世界に共通する問題になりつつあります。身近なところでは、自分も日本国内の「貧困層」になる可能性があるということだし、逆に、貧困層が必要としている援助の仕事が増える、あるいはそれを自分がやることになるという可能性もあるでしょう。ちなみに僕の20代の友人のひとりは、国連の機関からの依頼で、東南アジアの途上国に、国造りの仕事をしに行くために退職しました。リタイアした後に、途上国に行って、企業や農家のもとで指導をしている日本人シニアもおおい。

●少子化
先進国では子どもが少なくなり、特に日本ではあと数年で人口は推計によっては今年、あるいは2006年にピークというものもあります。

いよいよ人口が減っていく中で、ビジネスの環境はどう変わるのか。特に子どもや女性を対象にしたビジネスでは、大きく変化するはずです。もちろん、悪いことばかりではありません。人口が減れば、国単位での消費エネルギーや資源は減る方向に働きますから、よい面を見ていく筆があります。

●高齢化
高齢化も同じく重要です。少子化と同列に語れますが、高齢化と少子化は実はかなり違う話。たぶん、高齢者が社会でもっと貢献できるようにするアプローチと、身体が弱った方が幸せな最期を迎えられるようにする方向があるのではないかと思います。

もちろん他にもいろいろな軸があると思いますが、多すぎても混乱するので、まずは身近なところに影響しそうな点を上げてみました。

過去から未来へ、変るものと変らないものを考え、変らないものは延長し、変るものは変化の方向を捉えるようにすると、結構長いスパンでうまくものが考えられるようになります。自分の未来を拓くためにも、少しずつ考えてみることをおすすめします。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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