175T プロ野球合併問題で、考える

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アメリカでは大統領選挙が近づき、「ブッシュ大統領を支持する人が○○％でリード」とか連日やっています。国内でも「郵政事業の民営化について賛成の人が○×％」とか「自衛隊のイラク派遣に賛成する人は△□％しかいない」と、よくやっています。しかし、こういうものを見て最近気になってしょうがないのは、この賛成とか反対の判断が、十分な情報に基づいてなされているのか、ということです。「なんとなく民営化というとよさそう」とか「戦争は良くない→イラク派遣もよくない」というような、気分みたいなもので答えられているのではないかと。

そうだとすれば、それをもとに「世論はこう」と言われるのも、逆に「だからそんな統計は意味がない」と言われてしまうのも、どちらもまずい。かといって、人々が「自分はよくフォローできていないのでわからない。専門家がよく考えてくれることを望みます」と言い続けているのでは、個人が自分で考えようとしないという日本人の弱点が変わりません。情報が足りない状況でも、どういう情報が必要なのか見極め、自分なりの判断をして行く、そういうことが普通に行われるようになるといいと思います。

■感覚的な賛成・反対にどれだけ意味があるのか？

そんなことをまた最近感じたのはプロ野球の合併とストについての賛否議論です。テレビなどでさかんに「ストについてどう思いますか？」「合併についてどう思いますか？」とファンにインタビューしていましたが、答えが賛成にせよ反対にせよ、今ひとつ根拠が心もとない。12色のミサンガをつけて「みんなでやろう！」という選手会になんとなく共感、横暴・尊大な印象を与えてしまった野球機構(経営側)になんとなく反発、でもゲームは見たいし、儲かっていないならやめるのもしょうがないかなあという感じ。選手会は120万もの署名を集めましたが、そうなるとこの署名に果たしてどれだけの価値があるのでしょう。

そこで、今回のコミトンではプロ野球再編問題を扱ってみたいと思います。もっとも、世の中もっと深刻な問題が山ほどある時に、この問題でそんなに大騒ぎしているのは変で、コミトンでそんなことを扱って欲しくない、という人もいるかもしれません。確かにこの問題でこんなに大騒ぎをしているのは僕も変だと思います(^_^)。ただ、多くの人が社会のことに関心を持ち、動き、それが結果に少しでも影響を与えそうな状況という意味では、これも(スタートとして)よいのではないかと思うのです。ということで前置きが長くなりましたが始めたいと思います。野球に興味のない方は、議論が起きている状況で自分の意見を決める一つの事例として読んでもらえればと思います。

■12球団維持でメデタシ、メデタシ？

まずはプロ野球をあまりウォッチしていない人のために簡単に説明を。騒ぎの発端は、6月頃、大阪近鉄バッファローズとオリックス・ブルーウェーブというパ・リーグ2球団の合併話が出てきたことでした。理由は大阪近鉄バッファローズが年間30億円もの赤字を出していて親会社にも負担が大きすぎること、売却先が見つかりそうにないことです。日本野球機構=球団経営側の組織はこれを進める方向で、さらには他の合併話も進行中であるとか2リーグ制から1リーグ制への移行もありうるという話がのぼりはじめました。これに対して関係者やファンの間でもいろいろ議論が出てきましたが、選手会は合併反対を主張、経営側に話し合いを求めます。しかし巨人渡辺オーナーの「たかが選手が..」という発言に象徴されるようにあまり相手にされません。買収先としてライブドア社が名乗りを上げたものの、これも機構から相手にされません。選手たちは12色のミサンガをつけてオールスターゲームに出たり、署名運動を展開。最終的にはストライキを示唆し、経営側と話し合いに入ります。いったんはストライキが回避されたものの、もう一歩の合意に及ばず、プロ野球70年の歴史で始めてのストライキを2日間実施。その後、話し合いを重ねて合併については合意、ただし「来期中に12球団に戻すことを視野に入れて新規加盟者の審査を行う」こと等で折り合い、次のストライキは回避された、というのがつい先日9月23日に報じられたところです。

さて、今回の結果ですが、これでよかったのでしょうか？　また選手会がストライキを行ったのは策としてよかったのでしょうか。そもそも何が争点だったのでしょう？

9月19日までの報道から見る限り、ストライキ直前の9月17日の交渉で合意できなかったのは、選手会側が「最大限の努力」と言う言葉にこだわり「来年から新規参入」とすることを求めたのに対して、日本プロフェッショナル野球機構側(経営側)はこの文言を拒否。来年についても無理とした、とあります。しかし、これだけ見ているとよくわからないと思いませんか。もはや言葉の問題に見えたり、実務での現実性の話で部外者にはわからないことかもしれないと。最後はもう少しクリアな形で決まったように見えますが、途中の段階では何がポイントなのか、かなりわかりにくくなっていました。

「もっと争点をシンプルに考えようよ」という人からは、「要するに選手会は球界の縮小につながりかねない合併や球団数減に反対、経営側はビジネスの観点から合併はやむなしと言っている」と出るかもしれません。では「どちらに賛成なのでしょう？」と聞かれると、純粋なファンは選手会に、ビジネスに考えの及ぶ人は経営側に、というのがマスコミからインタビューを受けた人の答えのパターンでした。でも、これでは何も前に進まない感じがします。この人たちもそう感じているようで「よく話し合っていい道を見つけて欲しいです」とよく聞かれました。

そういう状態だとストの妥当性について考えるのは難しいですが、最初の段階では、より真摯な姿勢と映った選手会に同情的な結果、ストやむなしとしている人が多かったように思います。しかし(再試合が行われないとすれば)スト自体が球団経営に影響を与えること、優勝争いの行方や選手のタイトル争いにも影響を与えかねないことなどから、もしストが長引けば、「そこまでして来期の12球団にこだわる必要があるのかなあ」と選手会への共感が薄らいでいったように思います。しかし、判断がそんなふうに感情に流されたものでよいのか？　もっと判断の基準というのをびしっと置けないものなのか。

少しイシューを違ったように取る人もいました。「選手会も合併はしょうがないと思い始めていて、やっぱり合併される球団の選手の身の振り先を気にしているんじゃないの」という人たちです。たとえば野球にそれほど詳しいわけではないものの一つの社会現象として興味を持ってみていたgirl friendに「選手会はどうして合併を一年延期とか言っているのだと思う？」と聞くと「その間に選手の行き先とか決めるんじゃないの」と返ってきました。そうだとするとファンの受け止め方もだいぶ変わってきそうですが、さて、どう考えたらよいのでしょう。

■まず理想から考える

こういった議論に対する自分の意見を考えるにあたって、一つの有効な手はまず自分なりの理想形(あるべき姿)を基準点として設定することです。そして現状をそれと照らし合わせてみる。それからその間のギャップをどちらが正しく捉えているか、どちらが有効な対策を提示しているかで判断する。

今回のケースなら、日本プロ野球界にどうあって欲しいかを考えます。「おもしろい」「経営的に成り立っている」というのはもちろんですが、もう少し具体的に「どうなったらもっとおもしろいのか」(逆になぜ今はおもしろくないのか)、「どうあれば経営が成り立つのか」(どこが経営的に問題なのか)を考えてみます。もちろんその分野の専門家ではないし、判断する材料も考える時間もあまりないでしょうから、おおざっぱなところしか出来ないでしょう。しかしそれでも、かなり役に立ちます。

たとえば「おもしろさ」の部分について試してみます。実は僕は小学生の頃、全球団の登録選手をそらで言えたほどの野球ファンかつ巨人ファンで、将来の夢に「プロ野球放送のアナウンサー」と書いていました。その後、そこまでの熱はなくなったのですが、それでもプロ野球に対する興味はそこそこ維持してきました。ところが近年、徐々に興味が低下しつつあります。

その理由を考えてみると、まずは各チームの顔が以前ほど見えなくなってきていることがありそうです。フリーエージェント制度等により、巨人にはキラ星のようなスター選手がぞろぞろ入ってきているのですが、それがうれしいかというと、もうそれは巨人じゃないという感じがしています。むしろ彼らが元の球団にいてそのユニフォームと切り離せないように感じられる彼らと巨人が対決する方が楽しい。手ごわい彼らと巨人生え抜きのベテランや巨人で育った若手がしのぎを削るのが見たい。特にそういう(元)スター選手が巨人では代打要員になっているのを見ると、そう思います。

もう一つ、とても気になるのは特に優れた選手がメジャーに行ってしまうこと。ファンとしてはメジャーで活躍する日本人選手を見るのはそれはそれでうれしいですが、野茂の抜けた近鉄、イチローの抜けたオリックス、松井の抜けた巨人。魅力と言う点で日本プロ野球の魅力低下に大きな影響を与えているのは否めません。しかもこの流れは始まったばかりですから、今後はますます進む恐れがあります。その結果、日本プロ野球はスター不在、「これからスターかも」選手と、「元スター」選手の集まりになってしまうかもしれません。それではつまらない。もっと輝いている選手にいて欲しい。

経営面についていえば、ファンとしてというより、ビジネスに携わる人間として問題意識がふつふつとわいてきます。プロ野球が厳しい原因として選手の年俸を上げる人もいると思います。しかしオリックスや近鉄の試合を見れば(あまり見る機会がなくプロ野球ニュースなどでちょこっと映る程度ですが)「あんなガラガラのスタンドで経営が成り立つわけがない」と思います。しかし、高校野球なども含めた野球人気、サッカーのJリーグは30チーム近くあること(J2の9チームを含む23チームが黒字、かつ黒字チームの数は増えている)を考えると、もっと観客を入れることは可能なはずだ、と思います。

そこでひっかかるのは上で上げたポイントともに、テレビ放映が圧倒的に巨人戦であること。「観客動員数で見てもわかるように巨人ファンが多いんだよ」「読売グループの経営努力だよ」というのはそれはそれであたっているのかもしれません。しかしそれが変えられないとか、他にありえないわけではないことはJリーグからも感じられます。たとえば放映権料収入も含めて年間の売上の中から球界としてもっとプールし、それを球界全体のPRにもっと使っていくことは出来るはずです。また、いろいろな球団がもっとスポットを浴びることを狙って、セパ交流戦を行ったり、地域とつながることでファンを増やしていくことも考えられます。

以上は僕が思いあたるところをざーっと上げたものですが、こういった自分なりの「今、プロ野球にとって何が必要だと思うか」ということを整理してみると、野球機構であれ、選手会であれ、言っていることが妥当なのかどうかを判断しやすくなります。僕の場合は、球界のしくみの問題とメジャーへの流出に対する策が取られない限り日本プロ野球の人気はさらに下がり、結果として球団経営もさらに苦しくなると考えています。それは12球団だろうが11球団だろうがいっしょです。ということは、12球団体制維持だけならば、今回の決着もメデタシ、メデタシではないし、それを目的にストを行うのはナンセンスということになります。しかし、野球機構と選手会の考えについて判断するには、ここでもう一つ、気をつけるべきことがあります。

■メディアに出ていることが正しいとは限らない

もう一つ気をつけるべきこととは、メディアに出ていることが正しいとは限らない、ということです。特に「○○がこう言っている」というのは要注意。本当にその人がそう言っているのかどうか、どういう文脈で言っているのか、他に何を言っているのか等を確認してみると全然違ったというケースはよくあります。また、そもそも取材者がこちらの言っていることを理解していないことも多いというのは、僕自身も前職でしばしば取材を受けて感じていたことです。

今回、こういったことを特に感じたのは選手会についてでした。報道はともかく選手会自体は何を言っているのだろうとホームページを見たところ、報道から受けていた印象とは違うことが見えてきました。一番のポイントは、選手会が本当に要求していたのは12球団の維持ではない、ということです。では何を要求していたかと言うと、選手会が報道関係者や経営側に送った文書からすると、

今こそ球界の将来のために何が必要なのかを議論するべき(合併では問題は解決しない可能性を示唆している)
合併以外の可能性をもっと検討するべき(現状では十分とは言えない)
球界の将来を考える場に自分たちも含めて欲しい

の三点が主なポイントと読み取れます)。また、この(1)のために選手会はかねてからドラフト(新人獲得)で逆指名をなくし、弱い球団から選手を指名できるようにすることや、プロ野球界全体としての収益分配システムの導入、セパ交流戦の開催など、プロ野球界全体がおもしろくなり、発展することを狙った提案を行ってきています。

この姿勢はスト決行時点でも維持されています(若干、主張が12球団維持に寄っているふうにも見えますが)。前述のようにメディアでは選手会が12球団維持と文言にこだわったように報道されています。確かにそれはあるようですが、重要なのはその理由でしょう。ホームページに上がっているプレスリリース等を見ると、選手会はほぼ一貫して最後まで、あせって合併に走ってはエネルギーとバファローズというチームへのファンを失い、縮小するプロ野球という印象を与えてしまう、そのエネルギーをまずは本質的な解決に向けよう、そしてその方策の一つが合併だと結論づけられるならそれを受け入れよう、と述べているように思います。それが受け入れられず、真剣に検討すらされなかったと取った結果、ストライキに入ったと。(ただし各球団の選手会長も含む個別の選手となると選手会公式発言とは少し違うかもしれません。どうも公式発言の趣旨を理解していない感じも時々します)

結局、最終的な合意についても「12球団維持」が一番メディアに取り上げられていましたが、僕はこれとともに、合意事項の最終項で「NPB(野球機構)は、選手会との間で、プロ野球構造改革協議会(仮称)を設け、1年間をかけて、ドラフト改革、エクスパンション・ドラフト制度の導入、選手年俸の減額制限の緩和などについて徹底的に協議する。」とあったことが非常に大きかったと思っています。というのもこれは、プロ野球の未来について検討を行うこと、それについて球団よりも真剣と思われる選手会がほとんど初めて球団といっしょに議論することを意味するからです。

さて、ストライキについては妥当だったのか。ストライキの目的、および選手会が持っていた他の手段を考えた時、僕は妥当だったと思います。上に書いてきたように、僕は選手会が、プロ野球の現状を変えるべく真剣に話し合う場に着くために交渉を行ってきたと理解しました。それは言うまでもなく正しい目的だと思います。一方でストライキ以外の方法では経営側は選手会の要求を真剣に取らなかっただろうと思います。

しかし、ここで一つの問題は、そういう目的だったとすると、ストライキには違法性が出てくる恐れがあるということです。詳しくはわかりませんが、経営側が言っていることから判断すると、労働組合にストライキが許されるのは雇用に関連する事項であって、経営に口を出す場合ではないと。選手会側はこれをわかっていて、プロ野球界の特殊事情(各球団の登録選手人数が制限されている)から、合併への反対は雇用に関する事項である、と言っています。しかし、これはストに合法性を持たせるためのものであって、本当の目的は「未来を考えるため」だろうと思います。そして法律がどうであれ、その目的ゆえに彼らを支持したいと僕は思います。

■プロ野球の未来

プロ野球合併問題についての判断はここまでで終わりです。最後に、興味のある方のために、理想的にはこうあったらいいだろうなあというプロ野球の運営形態について少し書いておきます。

まず、球団単位の経営ではなく、プロ野球全体での経営であった方がよいと思います。各球団はゲーム上のライバルであっても、経営上のライバルであってはならない、各球団の思惑が球界全体の発展を妨げるようではまずい、と思うからです。さらに言えば、全体としても会社のような営利組織よりはNPOであった方がよいかもしれません。そうすれば利益を出すために野球を使うことよりも、野球を発展させるために金を稼ぎ、使う方向に持っていけるからです。もちろんこれには現状得をしている球団や親会社、特に巨人からの反発は強いと思いますが、現状彼らが受けているメリットを金銭で精算するなどは考えられると思います。

次にメジャーへの流出対策。最高の対策は、(無茶に聞こえるかもしれませんが)メジャーよりも強いか同等になってしまうことだと思います。日本人の場合、海の向こうまで行きたいと思うのは、年俸よりも最高の場でプレーしたいという動機でしょう。確かにパワーではメジャーが勝っていますが、イチローや高津、しばらく前では長谷川の活躍が示しているように、日本(人)の方が優れているという面も既にあります。サッカーなどに比べても「世界」との差は小さいし、以前に比べても小さくなっています。おそらく日本人ならではの戦い方をするのでしょうが、メジャーにあこがれるにとどめず、メジャーに負けないところまで行くつもりで全体を強化していけばよいのでは、と思います。それがまた一つの目標としてみんなをドライブできるのではないかとも思います。

そして球団の所在地。今回、仙台という可能性が出ていますが、これはよいことだと思います。各地域に誇りに思えたり愛着を持てるものが増えるというのは、少しでも地域の活性化につながりそう。日本人のQOLが上がるためには地方の魅力が増し、人が東京から分散していくことが一つ大きな要素だと思うので、こういった分野からも進むといいなあと思います。そういう意味では日本ハムが北海道に移ったこともよいことだし、四国、北陸、中部にも欲しいところ。これがうまく行くと、ファンが巨人一辺倒から分散するとともに、選手の行きたい球団も徐々に分散して行くのでは、と思います。

具体的な策はまだまだいろいろ思いつくのですが(^_^)、このくらいにしておきます。今回は何かの問題について、自分の意見を決めるやり方を考えてみました。数字の分析はほとんどなく、情報もかなり限られたものです。しかしその中でも類似の例や常識を駆使しながら、争点について自分の意見を考えていくことは出来ます。そのために重要なことは「理想の形」や「現状の問題のポイント」を自分なりにまず考えてみること。それに照らしながら当事者たちが何を主張しているのかを確かめることが重要なのでは、と思います。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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