177T 少しずつ未来を考えるようになる

photo by paco.

pacoさんが20代の人たち向けに「未来を考える」という話をここのところ書いていますね。実を言うとpacoさんは僕にも「どうやって未来を考えるようになったの？」という質問をしてきました。そこで改めて考えたのですが、どうもそれはpacoさんとは違ったやり方であったようです。こんなやり方があるという意味でも、いろいろなやり方があるんだという意味でも参考になるのではないかと思うので、今回はこのことについて書いてみたいと思います。

まず最初に言ってしまうと、僕は20代の時に未来のことなど、ほとんど考えたことはありませんでした。社会についてもあまり考えたことはなかったと思います。自分自身とか自分の周りの小さな世界のことで精一杯で、とてもそんな余裕はなかった(^_^)。そういう意味では今、20代とかそれ以前から世界のことを考えようという人はすばらしいと思うし、なかなか難しいことに挑戦しているなあとも思います。

では僕はそんな状態からいきなり30代になって変わったのかと言うと、そうではないようです。いわゆる「未来」について考えてはいなかったが、（ラッキーなことに）そこへの階段を少しずつ登っていて、かつ後でそれをできるための力を養っていたというのが、今、振り返ってみると感じられます。もっとも当時の僕はそんなことを意識していたわけではないのですが。

■自分を表に見せることから始まる

新卒時の就職で僕は、あるベンチャー企業に入りました。ベンチャーと言っても創業から10年以上たって年商40億円社員100人以上になっており、株式公開の準備にちょうど入ったという会社です。なぜここに入ったかという理由の半分は「他になかったから」というものでした。というのも当初、僕は就職するつもりがなく、大学院に行こうと思っていました。学者（国際私法）になるつもりだったのです。ところが当時、プライベートでとても疲れることがあって、院に入るための試験に向けて勉強する気力がなくなってしまいました。それでしょうがないやと就職することにしたのですが、就職活動のピークはすでに過ぎています。それでもまだ間に合ったところを二社あたってみたのですが、準備万端・気力充実の人たちと太刀打ち出来るはずもなく、不合格になってしまいました。

しかしその時に会ってくれたある人が「きみのやりたいことを聞いていると、すでにここまで出来上がっている会社よりも、これからつくっていく会社の方が合うかもしれない」と、上で書いたベンチャー企業を紹介してくれたのです。その後、その会社の社長と会って話したりして「この人のところなら、やりたいようにいろいろできるかもしれない」と感じ、それ以上探さずに行くことに決めました。

仕事が始まってみると、これはなかなか自分にあっているかも、ということを感じ始めました。おりしも株式公開を前にして業務の流れや会社の仕組みを、あるべき姿に持っていこうとしているところで、僕はそれを販売管理について行う部門に配属されました。まずよかったことの一つ目は、まだ社内で誰もやったことがないことに取り組めるということ。上司は営業から来た人で「売掛管理とかはよくわからない。きみ、ちょっと賢そうだからやって」という感じだったので、この間入ったばかりの新入社員である僕が、監査法人の先生たちと販売管理の仕組みについて話し合っていました。もちろん上司は何もしていなかったわけではなく、決まったことを必ず守らせるというところを、抵抗する営業のマネジャーたちに対して頑強に行っていました。

二つ目は、変に「現実的」にならず、現状を理想（＝この場合はあるべき姿）に近づけていくように考えることが出来たことです。株式公開のために守らなければならないルールがあるわけですが、それは単なるルールではなく健全な経営への意味があります。それとはけっこうかけ離れたところにある現状を、営業や事務の担当者とやりとりし、上司の助けを借りながら変えていくことが出来た。これは「仕事とは現実を理想に近づけることなんだ」と思い込む？貴重な体験となりました。なお、1年たたないうちに上司は他のところで必要とされて異動してしまい、僕は本部長直轄、つまり実務の責任者になってしまいました。

さて、「それしかなかった」状況で転がり込んだのに、このような体験が出来たのは、ラッキーだったとまず言えます。しかしそれだけでなく必然もあったのかも、とも思います。それは意識していたというより、今から振り返ってみれば、なのですが、僕が「自分を表に見せていた」からではないかと。

上のような状況で就職活動をしたこともあり、僕は面接マニュアルといったものを全く見ていませんでした。一応自分なりに考えて面接などに臨んでいたのですが、相手のニーズに対して自分を売り込むというより、自分はこう思う、というのをそのまま話していた記憶があります。話すだけでなく、行動にもそれが出ていました。たとえばみんなが紺かチャコールグレーのスーツを着てリクルート活動をしている時代に、みんなと同じは嫌だと違う色のスーツで行きました。こういったことから、よくもあしくも自分の特徴がとてもわかりやすく表に出ていただろうと思います。

相手から見ると世間知らずとか、組織に適応できそうにないと思われたことも多かったと思います。でも「こいついいかも」「あそこならなんとかはまるかも」と思う人もいた。その場合は、それが本当にはまるところになる可能性が高かった、ということじゃないかと思います。

僕のようにろくに世間を知らないままに自分を出していくというのは、あまり得策ではないかもしれません。しかし、世間にあわせて、相手に合わせて、ということばかり考えていると、自分が消えてしまったり、志望には行けても楽しくなかった、となりかねない。未来についても、環境に適応しているだけではなかなか見えてこないでしょう。未来とは「こうしたい」と願うものという面があるからです。よくわからなくても、自分や自分が思うことを出していく。それが自分に合った環境に出会ったり、未来に近づける、一つの重要なポイントではないかと思います。

■キャリアという未来を自律しながら未知の世界へ

さて、上に書いたように、僕にとって最初の、未来を考える体験とは「あるべき姿に近づける」ことを社内でやれた、という体験でした。次の体験は「あるべき姿がまだ見えないものを模索する」という形でやってきます。次に僕が担当したのは情報システムを使ったマーケティングでした。当時はまだまだITあまり行われていなかったし、やり方も確立したものはなかったのです。

「担当した」と書きましたが、ここでちょっと普通のパターンと違うことがあります。それは実際は仕事が「やってきた」のではなく、僕が「取りに行った」ということです。1年くらい、上で書いた仕事をやったところで、「そろそろこの仕事はだいたい見えた。違うことをやりたい」と思い始めました。そこで少し仕事の領域を広げつつ自分の下に人を入れてもらい、彼に仕事を引き継ぎ始めました。そして半年たって24歳になる頃、「あそこに異動したい」とマーケティングに行くことを希望して移してもらいました。

この後、「自律」（「自立」とは違う）というのはキャリアについて僕の一つのキーワードになって行きます。マーケティングが本当に自分のやりたいことなのかとか、それが役に立つのかとかは正直あまり考えませんでした。ただおもしろそうだから移った。それを「まねしたらいいよ」とは人にあまり言えませんが(^_^)、自分から仕掛ける、キャリアを自律する、ということはまねするといいと思います。僕はその後の異動はすべて自分から仕掛けて来ました。実はこれ自体、未来を考えたりつくったりする訓練とも言えます。

もちろん、ただ「やりたい」と言えば移れるわけではありません。たとえば上のケース、それまでの販売管理の仕事で、情報システムは単に自動化のツールではなく情報を活用するツールになると気がついていたので、いろいろ試していました。ツールがまだそれほど使いやすくなかったこともあり、それを出来るのは社内で他におらず、マーケから見ても僕が使えそうだ、となったのだと思います。

情報システムの理解を持ってマーケに行ったことで僕は、未来を切り拓く経験を出来ました。やっていたことは顧客の属性に合わせてＤＭを打つとか、顧客から情報を収集するとか、今になってみれば大したことではありません。しかし僕にとっては道がないところに道を作るよい訓練になりました。それと一つおもしろいのはまわりが誰も知らない領域というのは、お目付け役が少なくてやりやすいということです。未知のものは不確実なのでこわそうな感じもしますが、そうばかりとは限らないと。

■みんなの役に立てたかも－未来への入り口

その後も1年単位くらいで新しいこと（あくまで社内）に自分を動かしていっていたのですが、その中で二つ、未来を考える上で、自分にとって大きなことがありました。一つは25,6才の頃だったと思いますが、初めてみんなのQOLを上げる仕事を手がけた、ということです。といってもそんな大げさな話ではありません。ある問題があって営業も製造もお客さんもみんな困っている、でも誰も解決できていない、というのをある程度解決することが出来たという話です。

今ならばソフトウェアのアップデートやアップグレードは簡単にネットワークを通じて行うことが出来ます。しかし当時はインターネットはありません。開発のスピードが求められるゆえに出荷後にソフトウェアに問題が見つかって、お客さんが困り営業が対応に走るということが残念ながらよくありました。時に大きな問題が出ると該当製品の顧客リストを出して製造から緊急作成を行なったソフトを発送するということなどもありました。しかし正規の手続きという形ではなかったので説明が不十分でさらなるトラブルになったり、顧客リストが更新されていなくてお客さんにとどかない、ということがよくあったのです。

開発が完成度の高いソフトを出せばいいんだ、と言ってしまえばそれまでですが、現実には期限の中で製品を出していこうとすると、なかなか厳しい。そこで僕が考えたのが、ソフトウェアのアップデートをシステム化することです。3ヶ月ごとにアップデートされたソフトウェアを抽出し、それを使っているお客さんに送るようにしてしまう。問題修正だけでなく機能アップも含めることで、お客さんには定期アップデートの費用を払うことに納得してもらう。緊急のものがあればそれはそれで送ることを仕組みに組み込んでおく。これにより、お客さんは最新のソフトウェアを使えるようになります。営業はトラブル対応の頻度が減り、製造は計画的にソフトウェアのアップデートを行えるようになりました。ソフトウェアのアップデートがあるからとお客さんの情報の更新もより確実に行えるようになりました。

もちろんすべてがスムーズに行ったわけではなく、お客さんに説明することが増える営業や、サービスが顧客直になると顧客を直販にされると警戒する販売代理店への説得などが必要になりました。しかし、総じてみんなが協力してくれたのは、よりいい感じで仕事が出来そうだ、つまり仕事の中のQuality of Lifeがよくなりそうだという感じがしていたからじゃないかな、と思います。

この時、僕は「ビジネス」＝より儲けようということはあまり考えていなかったように思います。確かにこういったことが会社の競争力を高めることは期待していましたが、それが僕にやる気を一番出させていたわけではありませんでした。それよりも「問題を解決したい」とか「もっといい仕事を出来る環境にしたい」、もっと言ってしまえば「あるべき姿にしたい」とか「みんなが楽しくなるようにしたい」ということが自分を走らせていたのだと思います。それは僕にとって「未来を考える、未来をつくる」ことに向かう、一つの大きなステップだったと思います。

■自信が出てくると外に目が向き始める

もう一つの大きなこと、それは留学です。この時、初めて外に目が向きました。きっかけは入社して3年たったゴールデン・ウィークに「そろそろ仕事も一段落してきたなあ」と思ったこと。たまたまMBAの記事を新聞で見つけて「そうだ、留学しよう」と、これまた安易に決意しました(^_^)。それから準備を始めて年明けに願書を出し、翌年の秋（26才）からミシガン大学のビジネス・スクールに行くことになります。

もちろん何も考えていなかったわけではなく、自分なりの問題意識はありました。小さな会社にいることは、いろいろなことができる、自分で考えてやれる、というメリットがあります。しかし一方で「もっとよい方法があるかどうかわかりにくい」「身近にお手本が少ない」というデメリットがあります。そこでこの後者を埋めるために「世界の一流企業ではどうやっているのか見に行こう」と思ったわけです。また元々、海外で生活したいと思っていたこともありました。

と書くと、「やりたいことをやっている」という感じがすると思いますが、実はそうばかりでもありませんでした。僕は本来、臆病で、知らないところに出て行くというのはかなりストレスを感じます。社内でいろいろ挑戦してきたのも、ずっとはたから見ていて様子が分かっているから出来たことでした。それが外に出て行く気になったのは「自分にとって必要だから」と無理をしたわけではなく、少し自信がついてきて、自分のキャパも少し大きくなってきたからだと思います。二階に上がるには階段を使うもので、一気にジャンプする人はあまりいないのですね(^_^)。

変化には自分でも不思議に思っていました。たとえば本番スタートの前の準備で6週間いたスタンフォード大学でのサマースクール。ここではともだち一人とともにネットワーキングのための名簿作りを呼びかけたのですが、それまでの自分だったら考えられないことでした。なんでそんなことが出来たのだろうと考えてみると、自分しかやりそうにないとか、得意そうだと感じたからかもしれません。確か100人分くらいだったと思いますが、データベースは仕事でずいぶん使っていて勘所を押さえていたし、入力もすぐ出来る自信がありました。

でも、まだこの段階では外への動きはぼちぼち、という感じでした。秋からのビジネス・スクールでもネットワーキングに積極的というわけではなく、こいつは付き合いやすそうと思う人とともだちになっていた程度。まだまだ引っ込み思案でした。

ただ、最後の学期のマーケティング戦略のクラスでちょっとおもしろいことがありました。グループ対抗のマーケティング・ゲームの戦略として、他のチームがやりそうもないことを提案し、最初はしぶっていたメンバーにうまく説明することが出来てチームがすごく盛り上がったこと。結局、その戦略を貫き通して大きな利益を上げ、教授には「こんな戦略をとったチームはこれまでなかった」と言われました。このことは外でも何か仕掛けられるかもしれない、という小さな自信につながったかもしれません。

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そして約2年後（28才）、留学から帰って来て、スタンフォードの時の縁がきっかけで同年卒業のMBAネットワークの幹事の一人になります。この頃、大きかったのはパソコン通信の存在です。それによって成功したということではなく、むしろ企画倒れに終わったのですが、他の人はまだまだ知らないことを自分は知っているということがまた自分を突き動かすことにつながります。何か自分が言うべき、言ってもいい、ということを感じたのでしょう。MBAの人たちは総じてITに疎く、アメリカでもワープロや表計算ソフトくらいしか使っていなかったのです。

パソコン通信は別の形でも自分を外の世界とつなぎます。ニフティの中をいろいろ覗いた末、ビジネスマンフォーラムを定期的に読みはじめ、「どうしたらこの技術を普及させられるか」という当時よく行われていた議論について自分も考えるようになります。この頃が自分にとってほとんど初めて、実際に世の中を変えることを自分のものとして考え始めた頃です。

一方でMBAの連中との交流も続き、ベンチャーの勉強会などやりながら経営について具体的に考えるようになりました。ニフティでの議論は組織を下の方から見ていることが多かったのですが、机上の経験しかないとはいえ、こちらでの議論は組織の上の方からの視点を持っていました。

というように外へと目や意識は向かいながらも、実際に僕にとって一つの「未来」が形になるまでには、まだ時間が必要でした。しばらくは上のように外との交流を続けながら、社内で変革を仕掛けていました。しかしいくつか仕掛けたものもすべて壁にぶち当たり、この会社と自分のポジションではもう難しい、それよりは外で自分がもっと生きるところ、役に立てるところを探そうと動き出したのが31才になった頃です。それから約半年後の95年7月に前の仕事場であるグロービスに移りました。「なぜこれをやらなければならないか」を説明するのにエネルギーを使いきってしまうのではなく、「どうやってやるか」を考えることに集中できる環境はすごく快適でした。それは自分の中で、未来を考えるための材料と力がある程度備わってきていたからだとも思います。

一方でITについて考えていたことが形になるのも同じ頃です。これからのマネジャーはワープロや表計算ソフト、そしてメールをthink and actのためのツールとしてこう活用する、という講座を95年の4月にグロービスで開講しました。仕掛けたのは前年の秋（31才）で、この時、僕はまだグロービスに入社しておらず、MBAのネットワークを通じて知り合ったグロービスの社長に話を持ちかけ、ビジネスマンフォーラムで知り合ったともだちと、当時の部下をスタッフに、グロービス側の担当者と協力しながら講座を立ち上げました。帰国してから既に約3年がたっていました。

この後30代前半は、講座のコンセプトを「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」と名づけてＰＲしていったり（pacoさんと出会ったのもその頃）、知恵市場を立ち上げたりと、忙しく外に対して仕掛ける日々が続きます。しかしこうして振り返ってみると２０代においては、けっこう行き当たりばったりだったし、目の前のことからスタートして少しずつ未来や外の世界を考える方向にステップアップしていたようです。その中でも常に持っていて、未来への行動につながったことは何かと考えてみると、自分から動くこと、損得だけでなくやりたいかどうかで考えること、そして、「こうなったらいいな」とか「こうあるべきだ」と思うことをやれることからやってみることだと思います。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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