178P 政治と陰謀

今週は、ちょっと久しぶりに政治の話です。

9.11以来、ずっと気になってきたのが、「陰謀」。9.11以後、知恵市場でもいろいろな考え方を紹介したり、議論をしてきたのですが、いわゆる「公式見解」以外の意見として、「陰謀説」がありました。

陰謀説についての本やウェブサイトを読んでいると、だんだん「そうなのかな」という気持ちになってくる一方、疑問も残って、「やっぱりそんなことはないだろう」ということで、公式見解に戻って何となく安心する、というのがひとつのパターンだと思います。

では、公式見解だけでそのまま納得できるかというと、やはり納得できない点が出てくる。そういう中で、僕たちは、政治が動くメカニズムをどう考えたらいいのか、僕自身ずっと考えてきました。

まだまだ結論は出ていないのですが、今回は考えてきたことを、途中経過ということで書いてみようと思います。

■つぎつぎと登場する陰謀説

まず、陰謀説にはどんなものがあるか、9.11と、最近気になっているものをピックアップしてみます。

9.11では、「ブッシュ政権は9.11テロを事前に予測していたのに、故意に防がなかったか、もしくは故意に引き起こした可能性さえある」という説が今なお、否定しきれずに流れています。田中宇（たなかさかい）、ジョン・コールマンなどがその代表格。ブッシュ政権はテロとの戦いという戦争状態を作り出すために、故意に米国本土の経済中枢をねらわせたのだというわけです。

真珠湾＝陰謀説というのもあります。太平洋戦争の発端になった日本軍による真珠湾攻撃。当時の大統領であるルーズヴェルトは知っていたにもかかわらず、また真珠湾の司令官による進言があったにもかかわらず、これを無視し、日本軍に真珠湾基地を無防備な状態で攻撃させ、これを機に、世論を対米戦争に導いたという主張もあります。

「アポロ計画では人類は月には降り立っていない」という説もあります。当時の技術はおろか、現在の技術でも、人類を生きたまま月に立たせ、また帰ってくるなどということは不可能で、あれは政治的なショーだったという説です。

他にも、第一次世界大戦に米国が参戦するきっかけになった「ルシタニア号撃沈事件」も、陰謀説があり、陰謀説から現代史をみると、世界は陰謀ばかりに見えてきます。

陰謀とは、「ひそかにたくらむ悪いはかりごと」ですから、いい意味には使いません。となると、陰謀説で世の中を見ていると、世の中は悪意で満ちていることになり、そういう意味でも精神衛生上よくないし、できれば悪意はない方がうれしいので、悪意が含まれていない「公式見解」の通りなら、いいのになと思うようになったりもします。

■陰謀説は疑問への答えを探すことから始まる

では、それにもかかわらず、陰謀説が消えないのはなぜか、ということについてずっと考えてきたのですが、その大きな理由が、「疑問はあるのに答えられていない」という点にあります。

9.11で代表的な疑問を上げてみましょう。これまでコミトンでも取り上げてきた点です。

世界貿易センタービルに飛び込む旅客機、特に2機目の突入は、非常に急角度にカーブしながら、でも正確にビルにつっこんでいるが、旅客機は基本的に安定して飛べるように設計されていて、旋回性能は高くないはず。となると、あれほどの急旋回は相当な技術がいるはずなのに、ハイジャッカーはフロリダで軽飛行機の訓練を受けただけであり、それも成績はよくなかったという。その程度の技術で、あのような曲芸的な突入ができるのか？　ゲームのフライトシミュレータで昼間の空港に降り立つのだって、かなりの練習がいるじゃないか？　もしできるなら、「あれは意外にできるんですよ」という、民間パイロットの証言があってもよさそうなのに、聞いたことがない。
ニューヨークでのWTC突入後、さらに米国の中枢そのものといえる国防総省ビルに別のハイジャック機が突入するが、なぜ米空軍はこれを防げなかったのか。
国防総省ビルの、突入直後の映像を見ると、そこにあいた穴はつっこんだはずの航空機より明らかに小さかった。突入したのは本当に旅客機なのか？

ほかにもさまざまな疑惑があります。たとえば、
http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/brian_quig.html

こういった疑惑に対して、「公式見解」やそれを支持する立場の人から、ひとつひとつ反論が出ていることもあり、それはそれで説得力がある場合もあります。しかし、疑問に思う人の疑問をすっきり解消してくれるものとは言えません。

といっても、公式見解の立場に立つ人から見れば、「ちゃんと説明しているのに、まだ＜わからない＞というのは、単に頭が悪いだけか、いつまでも細部に疑問を投げかけることで、本質から目をそらそうとする、それこそ陰謀じゃないのか？」という意見もあります。

このあたりの議論は[com2]MLでも以前やってきたので、あえて繰り返しません。しかし、「公式見解」→疑問出し→反論→それでも納得しない、という流れの中で、どちらの立場の人も、自説を「信じている」状態になっていることもまた事実と言えそうです。

■「裏の意図」という考え方

では、公式見解への疑問から始まったこの論戦は、永久に平行線なのでしょうか？　片方は「政府のやっていることは正しい」といい、一方は「陰謀だ」というだけで、結局結論は出ないのでしょうか？

この、「公式見解vs陰謀説」の対立をずっと見てきて、ふと気がついたのは、「裏の意図」という考え方でした。公式見解を発表する政府や公的機関は別にして、その支持者の立場で考えている人（ブッシュ政権やルーズベルト政権の熱烈な支持者）は、公式見解を支持しつつも、それだけでなく、「口には出さないけれど、政治や軍事では常識」を理解し、それを公式見解支持の材料に使っているようなのです。

たとえば、9.11の犯人が未だに特定されないことについて、公式見解を支持する人は、「今はまだテロリストとの戦い最中で、犯人の足取りについて正確なことを発表してしまえば、相手に利することになる、そんなことは軍事や外交の常識」という説明をするわけです。一方、疑問を呈する人は、「常識かどうかなんか知らない、市民が知りたいと言っていることで、情報を持っているものは、正しく公開すべきだ」と考えます。

正しく公開すべきなのに、公開しないとすれば、それは「裏の意図」があるからだと考えるようになるのですが、「公式見解支持派」にとっては「裏の意図」は軍事や政治の常識ということになり、「陰謀説派」にとっては、「裏の意図」は、特定の人々に利をもたらすために意図されたはかりごと＝陰謀と解釈される。

とはいえ、どちらの立場に立つにせよ、「公式見解だけですべて」とは考えていないという点では、実は一致していて、公式見解以外の情報を「そんなことは常識」と肯定的に考えるか、「そのぐらいのことは公開して当然、公開できないなら、裏に悪意がある」と考えるかの違いになってくるのではないかと思います。

僕が9.11後に一番感じたのは、この点で、公式見解だけを見ていたのでは、少なくとも、動きの背後にあるメカニズムは説明されないのだという点です。いずれにせよ裏読みが必要で、裏の読み方によって、二通りの立場に分かれてくるのです。

■大衆を納得させるためのテクニック

真珠湾攻撃は米国政府の一部の人間による陰謀だという説を考えてみます。ルーズヴェルト政権はもともと日本と欧州、二正面での戦争を行いたかった。でも、米国民はそれを支持していなかった。そこで国民に納得させる必要が出て、そのために考えられた「作戦」が、日本に真珠湾を先制攻撃させることだったというわけです。本来なら、日本軍の真珠湾攻撃を防ぐことができたか、防げなくても被害を最小限にすることができたのに、あえてそれをしなかった。

実際、真珠湾の前までは、米国市民の70％以上が日本との戦争を望んでいなかったにもかかわらず、真珠湾以後、対日戦争への支持が圧倒的になったという事情があります。

民主主義国家の為政者が、国際紛争を戦争で解決すべきだと考えたとしても、国民の支持が得られなければ、為政者が宣戦布告をすることは難しい。本来であれば、なぜ戦争が必要なのかをねばり強く説得するべきということになるのでしょうが、「ねばり強く説得」していたのでは、結局相手に利することになると考えるのが普通です。そこで、民主的な手続きによるねばり強い説得という手順を省くために、国民の大多数の考えを180度変えるようなショッキングなできごとを引き起こし、一気に世論を変えて、戦争に持って行くという手法が考え出された、というのが、陰謀説を採る、たとえばジョン・コールマンの説明です。

実は、民主主義というコンセプトを発明した、近代の哲学者、たとえばジョン・ロックなどは、「民主主義国家間では戦争は起きない」と考えました。戦争は国王などごく少数の権力者が、その意思を国民に押しつけるときに初めて起こるのであって、国民の大多数は、戦争になれば戦いの犠牲になるだけなのだから、民主政府が戦争を提案しても、国民は納得しないと考えたのです。

真珠湾や9.11のようなショッキングなできごとをきっかけに大きな戦争に突入する支持を獲得してきたという歴史と、ロックらの主張を考え合わせると、戦争を意図した民主国家の政府が、実際に戦争を行うためには、意図的に真珠湾攻撃や9.11事件を起こしすことが、もっとも確実な方法だという手法をとる政府があったとしても、理解できます。

実際、米国の合衆国憲法では、徴兵制で集めた民兵を、合衆国以外の場所に派遣して戦争を行うことが禁じられています。大統領は、就任の時にこの憲法を「守る」ことを宣誓するのだから、第一次大戦も、第二次大戦も、米国の参戦は憲法違反という大罪を犯したのだ、とコールマンは主張します。憲法は最高法規であり、これを改正（修正）しない限り、憲法違反は国家反逆罪だというわけです。

このような反逆的な行為が堂々と行われているにもかかわらず、国民も議会もそれに反対しないのは、真珠湾や9.11のようなショッキングな事件の直後で理性を失っているからであり、理性を失わせるために、意図を持って事件を誘発したのだから、つまりはそれは「陰謀だ」というのが、コールマンや田中宇の説明になるのです。

コールマンは、「300人委員会」や「フリーメーソン」、「イルミナティ」というような秘密結社が世界にはあり、そのメンバーが米国や英国政権に入り込み、操っていると主張します。目的はこれら秘密結社による独裁政治だというわけです。このあたりになると、僕には判断のしようがなくなります。

ただ、ひとつわかるのは、民主国家では、為政者が大規模な戦争を行うには、民主的な手続きで国会を説得するようなプロセスはやはりあり得ないということは理解できます。一般国民が戦争を望むという事態は、想定しにくいからです。激しくショッキングで不利な状況を引き起こし、それによって国民の意思を一気に戦争に向かわせ、超法規的な手法にも支持を集めるというプロセスをとる以外には、戦争を始めることが難しい。そしてこのメカニズムに気がついていれば、戦争という目的のために、このメカニズムを活用しようという権力者が現れたとしても不思議ではないということまでは、わかります。

■近くなのに、距離があるように感じていること

ではそもそも民主国家の為政者（たとえばブッシュ政権）は、なぜ国民の意思に反して、大規模な戦争を起こそうと考えるのでしょうか？

9.11では中東や中央アジアの石油や天然ガスの利権だという主張もあります。しかし、それが大規模な戦争の動機になるのかどうか、僕のような一般人にはぴんと来ませんでした。たしかに石油や天然ガス資源は、戦略上重要ということはわかりますが、それは陰謀を引き起こすほどのものなのかが、わからない。現代は、他国の地下資源はその国のもので、その国を支配したとしても、ただで奪い取れるわけではないし、いずれにせよ買うのだから、陰謀という不誠実と引き替えにするようなものではないのではないかと感じらました。石油「ぐらいのこと」で、若い米国民を戦場に送り込み、死に追いやるような大統領はいないだろうと、米国人も考えているのではないかということです。

これは米国人だけでなく、日本人にも当てはまります。日本は国内での民族対立もほとんどなく、150年前までは自給自足の国だったので、どこか、日本人の日常生活は、日本という国で完結しているような気がしています。もちろん仕事やニュースでは世界の情報が飛び交っていますが、それでもイラクでの戦争は、アフガニスタンの飢餓は、結局他人事です。

でも、実際には、日本人の生活は、世界の国の協力になしにはまったく成り立っていません。たとえば今日食べた食事。日本の食糧自給率は50％を切っているので、食卓に並んだ食事の半分以上は海外からのものです。もし海外からの物流が途絶えれば、食事は半分以下の貧しさになります。エネルギーの自給率はもっとずっと低く、暖房も冷房も照明も、20％も使えないでしょう。

僕らは、日常生活を世界の国に頼っているにもかかわらず、他国で起きていることに他人事のように無関心です。他国が食糧や資源を売ってくれなければ、日本の生活は成り立たないのに。

一方、為政者は、そのあたりの事情を知る立場にあります。そして為政者が世界との関係づくりに責任を持ち、世界からものを集め、世界に日本の物を売れるようにすることが求められています。つまり、国民の多くは無関心だけれど世界に頼っていて、政府は国民が関心のないこと（世界との関係）に対して、大きなエネルギーを割く立場にある。一方で、時にある国と戦争してでも、関係をはっきりさせなければならないとしたら、政府はどうするか？

「実は、我が国はあの国とは関係が深かったんです、今まであんまり知らなかったと思うけど。それで、その国がよからぬことを主張して、オレたちに不利益を与えようとするので、軍を送って、一発かましてきたいんだけど、みんなのうちの若者を兵隊としてかり出してもいいですか？」と国民にまどろっこしい説明をしても、たぶん国民は納得しないでしょう。

「その国と仲良く、戦争をしないで、なるべくいい条件で必要なものを売ってもらってきてよ」と無責任なことをいい、日常生活が永遠に続くと思いこんで遊んでいるだけでしょう。

「所詮説明してもわからないんだから、説明抜きにわかるようにするしかないね」と考え、9.11や真珠湾を誘発する。そういう考え方も、為政者の立場としては、「あり」なのではないか？　という考え方もありうるでしょう。一方、「ちゃんとした説明は抜き」で「コソコソやるんだから、それは陰謀だ！」という陰謀説による理解もあり得ます。つまり、

国民に知らせようとしない政府が、民主主義を冒涜しているのか？
政府の立場を知ろうとせずに無理を押しつける国民が、民主政治から堕落させているのか？

ただはっきりしているのは、民主国家が大きな戦争を始めるときには、政権に立つ人が、戦争という手段で何かを解決できる、戦争をやろうという強い意図が必ずある、ということ。これ抜きに「やむを得ず」はじまる戦争は、まれです。その意味で、民主国家間では戦争は起きないとしたジョン・ロックの意見は、半分正しく、半分間違っていたのです。

折しも、大統領選挙。この選挙戦の、背後に隠れた意図が、きっとあるのでしょう。それは「常識」なのか、「陰謀」なのか？

■参考文献

「9.11 アメリカは巨大な嘘をついた」

「真珠湾日本を騙した悪魔」

「人類の月面着陸は無かったろう論」

「アポロは月に行ったのか?―Dark Moon 月の告発者たち」

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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