179T やる時はやる　

photo by paco.

あなたは決めたことを割とやれるタイプですか？　たとえば新年に今年はこれをやろうと思ったこととか、何かの時にふと思い立つダイエットや運動とか、仕事の中で新しいことにトライしてみようとか、勉強を始めてみようとか、何かを「やろう」と決めることはよくありますよね。しかしそのどのくらいを実際にやりとげられているかというと、なかなかこれが難しいというのが一般的なところでは(^_^)。そして毎度、「もっと意志を強く持たなきゃ」とか、「ちゃんとやっている人を見習わなきゃ」と思ったりする。

それはそれでいいと思うのですが、よく見てみると、意志が強かろうがそうでなかろうが「やる時」ってあるように思います。同じ人でもやれる時とそうでない時があったりもする。ならば、意志の力を強化する他に、人間ってのはどういう時に「やる」のかを押さえておくとよいのでは、という気がしてきます。そして何かをやろうと思い立った時には、それが続けられるような環境をつくっていく。これは自分自身についてだけでなく、まわりを巻き込んで何かをしたい時にも役立ちそうです。そこで今回は、人が何かをちゃんとやる時ってどんな時だろう、というのを考えてみたいと思います。

■生活習慣にできた時

僕の場合、この「どういう時に人は何かを続けられるか」ということを自分自身についてだけでなく、開いている英語教室「英語のシャワー」について考えることが多いです。そしてここに来る人たちを見ていると、毎週の宿題である英語の本を読むことが続けられる人について、パターンが見えてきます。一番よく読めるのは、通勤時間をこの読書にあてられる人。本を読めるような状態の電車に乗る時間が片道３０分以上あればかなり強い。一日３０分、読書にあてられれば十分な量を読めるくらいのペースで行くので、帰りは寝ていたとしても余裕です。そのために急行から各駅停車に乗っていくことに変えたという人もいます。

次によく読めるのは、なんらかのやり方で時間をブロックした人たち。仕事の前後に３０分くらいカフェに立ち寄って本を読むことにしている人とか、会社に３０分早く行って始業前に読む人。毎朝机の上にストップウォッチを置いて絵本を広げているので、上司から「あいつは何をやっているんだ？」と思われているかも、と笑っている人もいます。朝３０分早く起きて家でコーヒーを飲みながら読むことにした人もいます。

これらの人にいずれも共通するのは、始めたことの定位置を生活時間の中に作ってやっているということです。「時間が出来たら」「他のことが終わったら」ではなく、それをやるための時間をつくる。しかも毎日同じタイミングになるようにしているので、朝起きて歯を磨くように習慣化できる。やらないと気持ち悪いと感じるくらいかもしれません。

上では人のことを書きましたが、自分の実感としてもこれは大きいと感じます。たとえば前に書いていたこどものこと。「時間をつくって接しよう」とか思っていても、なかなかそうはならないですね(^_^)。でも「お風呂は自分が入れる」「散歩にいっしょに行く」とか決めると、時間は多少ずれたとしても、一日の中に必ずある時間が確保されることになるので、実行できる可能性が上がるようです。

あと、生活習慣と言うのとは少し違いますが、時間をブロックするという意味で共通するのが新しい仕事に取り組む時。会社にせよ自分でやっているにせよ、新しいことを本当にやりたいと思ったら、そのための時間を確保してしまうのがよいとずっと思っています。これは自分自身についてだけでなく、人をマネジメントする上でも言えることで、部下に新たな仕事に挑戦して欲しいと思ったら、それ以外の仕事を思い切って取り上げてしまい、他の人に分けてしまう、ということをやっていました。

■楽しいことは言われなくともやる

さて、上で書いた、英語の本を読む話、おもしろいのは、ある程度進んでくると、時間を決めるといった縛りがあまりいらなくなってくることです。「宿題」と書きましたが、本来は娯楽として読める本を読んでいるので、英語に慣れ、レベルが上がってくるにしたがってだんだんおもしろくなってきます。すると電車の中で読み終わらなかった時は思わず駅のベンチに座って最後まで読んでしまったりする。仕事などが一段落した時の自分へのご褒美とか息抜きにも読むようになった、というのもよく聞きます。楽しくなってくると言われなくともやる。僕も菜園作りはけっこう楽しかったので、この夏は頼まれなくとも朝晩よく庭に出ていました。

「楽しければやるなんて当たり前のことを言われても」と思うかもしれませんが、

楽しいと思えることの中からやることを選んだらいいんじゃない？
やるべきことを少しでも楽しくする工夫を入れたら？

と考えていくと、こんな当たり前のことが意味を持ってきます。英語を勉強するにしても、楽しい本とか映画とか、それそのものを楽しめる題材を使っていく。ちょっとぜいたくをしていいコーヒーを飲みながらゆったり読書を楽しむ、それから出かけるというように、「どういうふうに」やるかも含めて、自分にとって楽しいやり方に持って行く。

実際、ほんのちょっとしたことでもけっこうプラスになるように思います。たとえばうちではgirl friendと二人で５月くらいからblogをつけているのですが、文を書いているだけだと僕は時々めんどうになってしまいます。後で見てみるとそれなりに楽しいのだけど、やっている時はそれだけじゃ足りない。でも続いているのは、blogに写真を入れられるという要素が大きいようです。写真にすごく凝っているわけではないのですが、菜園やこどもについて「この、雨上がりの緑はきれいだなあ」とか「この角度からの表情がかわいいねー」と思ったものを写真で再現できると、けっこううれしい。それが引っ張って文を書くことも継続しているという感じです。

しかし「楽しいと続く」ということのもろさは、楽しくなくなるとやめてしまいかねないことです。特に、やっていたことがうまく行かなくなると楽しくなくなりがち。でも、なんでも一時的にうまく行かないことなんてよくあります。そのたびにやめてしまってはもったない。そこでも、楽しくし続ける工夫を考えるとよいようです。菜園だったら、種で成長が今ひとつなら苗を買ってきて再挑戦する。虫にやられてよい収穫が望めそうになかったら、虫の生態を観察、調査してノウハウをためる方に頭を切り替える。英語教室では、長い本になって集中力が続かないという人には短い本を試してもらう。実生活でめげていてシリアスな話を受け付けない状態なら、元気が出たりのんきな話の本をすすめる。本自体受け付けない状態なら、映像や音から入れることを考えてみる、という感じです。無理をしないでとにかく続けることで、続けている自分を「えらいなあ」とほめてやるくらいがちょうどよいのかも。

ところで、何かが楽しくなるのは、上でもすでに少し触れていますが、やっていることそのものが楽しいからだけではありません。たとえば子供の頃、雑巾がけをレースにしてしまって楽しんでいたのを思い出します。ゲームにしてしまったり、競争を取り入れて遊びっぽくするのは、けっこう使えます。最近、英語のシャワーでも、在籍期間がたって読むことに関してちょっと中だるみしがちなクラスで、チームごとに読書量の目標を設定して読んでいます。別に競争ではないのですが、チームでどこまで行けたとわいわいやるのは楽しいよう。この方法の難しいのは、本来の目的を忘れて競争やゲームに走ってしまうおそれがあることですが、リーダーがちゃんとそこを意識していればだいじょうぶでしょう。

一人でやっていても、たとえば記録をつけるということだけでけっこう変わります。英語のシャワーの受講生はみんなreading sheetというExcelのシートに読んだ本を入力しているのですが（本のISBNを入力すると語数も含めた情報が表示される）、それで累積の語数が増えていくのをみたり、グラフで自分のペースがわかるのを見るだけでけっこう楽しめる（タイプの人もいる）ようです。

■見られる、チェックされるとやる

上に書いた「チームで..」という話、楽しいだけでなく、「見られる」「チェックされる」という意味も実は持っていると思います。「お客さんが来ると家がきれいになる」なんて話を時々聞きますが、これもそう。外の人が見る、相手にそのつもりはなくともチェックされると思うと、掃除してしまう。僕の場合は、笙（しょう）の稽古の前日になると練習するので、練習しているとgirl friendに「明日は笙？」と言われます(^_^;。

チェックがないとやらない、自分を律することが出来ないというように、ちょっとカッコ悪くも見えますが「要はやれればいいんだよ」と開き直るのも一つの考え方。自分からチェックポイントを設定してしまうと。この際、重要なのは頻度です。あまり間があいていると、言うまでもなく実質的な効果は上がりません。年１回の健康診断の１週間前だけ節制しても実質的な効果は期待できないように。毎日チェックしてもいいですが、大変だしあまり変化がないこともあり、かえってマンネリ化しそう。１、２週に１回くらいがよいところのような気がします。

ということで、英語のシャワーでも入力したreading sheetを毎週、送信するようになっています。もちろんチェックのためだけでなく、アドバイスを考える材料としてこれは使われているのですが。あと、送信のタイミングにもちょっとした狙いをこめています。送信のタイミングをクラスの直前よりも少し前にしているのですが、これにより読書の山が最大三つ出来るのではないかと考えているのです。

まずは送信直前に読む。これは誰でもやりそうです。続いて送信した直後に「よし今週はもう少し読もう」と読み始める人もいそうです。そしてクラスの日。クラスそのものやクラスメートからの刺激によって「よし、読むぞ」となる人もいそう。こうして最大三つの山が出来、楽しめれば結局毎日になることを期待しているのですが、ちゃんと検証したことはまだありません(^_^)。でも、送信してもらったものにフィードバックをしている（＝見られているとわかる）と、送信率も読書量も高くなるのは確かなようです。

■自分のためより人のための方がやる？

上の「見られる」ということを進めていくと、おもしろいところに突き当たります。それは、教わるより教える方が、金を払うよりも金をもらう方が、がんばる傾向があるということです。ひょっとしたらこれは、責任感が強かったり恥の文化を持った日本人の特徴なのかもしれませんが、まわりではよく見ます。まず僕自身、英語や論理思考を教えていて感じるのが、自分が実は一番勉強になっているということ。そしてもし自分が教わる側だったら、ここまで一生懸命やらないだろうなあということ。たとえば他にやるべきことがあれば、そちらを優先してしまうかもしれません。

また、受講生にTeaching Assistant(TA)を頼むと、受講生だった時よりも熱心に取り組んでくれます。クラスを受講中の人に既に終わったクラスのTAを頼むと、自分の準備は犠牲にしてもTAの準備をしてきたりするので、注意しないとなりません(^_^)。しかし普通は他人のためにやることで責任感が増してよりがんばり、相手からは「ありがとう！」と言われてうれしいし、もちろん自分の力自体も伸びてうれしい、ということになります。

さらに考えてみると、これは教えることに限らないようです。たとえば仕事が忙しくてちっとも来られない人が、たまたまクラスで重要な役割を引き受けると、いつもは考えられない時間に来ていたり、仕事そっちのけで準備をしていたりします。

ということは、やろうと思っていることがなかなか出来ない場合、そこに他人を巻き込んでしまうとよいのかもしれません。上の人なら、クラスのリーダーとかを引き受けてしまう。自分のためには時間内にクラスにたどりつけなくとも、他の人の顔を思い浮かべれば、仕事を猛スピードで片付けてオフィスを出られるのでは。僕ら講師の側は時々、そのためにそういう人をリーダーにするよう、たきつけたりします(^_^)。

■時間は絶対に必要

さて、いろいろ書いてきましたが、やっぱり何をやったとしても絶対に必要なものがあります。それは時間です。当たり前のことですが、いくら上に書いてきたような方法で自分を引っ張っても、よほど好きなことでもないと時間がなければやることは出来ません。こんな当たり前のことをあえて書くのは、これがわかっていない人がけっこういると感じるからです。英語のシャワーでも10人から20人に一人くらい、仕事がものすごく忙しくて十分にクラスに出られない人がいます。クラスがつまらないから来られないわけではない（と思います(^_^)）。６万円も払って１回もクラスに出られず、毎回「次回はなんとか」と言いながら最後までずるずる行ってしまう人。クラスにはなんとか数回に１回たどりつくものの、それでは効果を上げるのにあまりに少ないのでまた同じクラスに申し込むというのを何度も続ける人...。

もちろん、結局英語はそれほどやりたくなかったんだ、というのもあるでしょう。しかし、そうではないのに来られないとしたら、それはもう、しばらくは仕事一筋で行くか、時間を仕事からはぎとるか、という決断をするしかないでしょう。ところがこういう人たちと話をすると、どちらもなかなか難しいんだというふうに言われます。仕事は仕事で自分が抜けてしまうわけにいかない。でも英語も自分の将来やQuality of Lifeのためにやりたい。

これについて僕が思うのは、もしそこで、たとえば一日１時間、その仕事からはぎとることが本当に不可能だとしたら、それはけっこうヤバイ状況だということです。会社や業界がそれで立ち行かないとしたら、その会社や業界がヤバイわけで、そこにとどまり続ける価値や責任があるのか、ということになります。そうではなく自分がそうし続けないとポジションを確保できないとしたら、早く対策を打たないと、後でもっとしんどいことになる危険がある。なかなかその当事者としては難しいこととは思いますが、ここは冷静に見る努力をするべきでしょう。

これらも含めて、忙しさを解消する方法については以前、コミトン125「仕事の忙しさを解決する」で書いているので、そちらが参考になるかもしれません。少しだけあげておくと、自分が有能だから仕事をどんどん振られているとしたら、交渉の余地はけっこうあります。一つの大きなポイントは、仕事が人生のメインと考える人たちとどう折り合うかでしょう。また、会社が厳しいからといって自分まで厳しい状況に追い込む必要はありません。会社はいくらでもつぶしたりつくったりできるし、その会社が担っていた機能を他の会社が果たすことも出来ます。でも人の人生は一度しかありません。自分が関わっている人たちに対してフェアであるかどうかを考えれば十分だと僕は思います。

■ダイエットを成功させる！？

重たい話になったので、少し軽い？話で締めくくりたいと思います。これまで考えてきたような「やる」方法でダイエットを成功させようとするとどうなるか。なお、僕はダイエットに詳しくないのですが、途中でやめてしまうために失敗するダイエットが多いと、ここでは仮定しています。

まずは運動のための時間を生活習慣に組み込みます。朝方の人は朝に、夜型の人は帰宅直後にでも組み込むのがよいのでは。ジョギングやウォーキングで行うとしたら、通っていて楽しいところを選べるとよいですね。数日ごとにルートを変えて地図を塗りつぶしていくのも、人によっては楽しいかも。これまで他の交通手段で通勤していた部分を歩きや自転車にするのは確実に実行する上で有効そうです。

次にカロリーの制限。無理をしないことは重要な気がします。少しゆるめる日を作ったり、あまり厳しい摂取制限にしないとか。減らなくとも増えるペースが落ちればよいとか、要はこれまでよりよい要素が見つかればよいさ、くらいでスタートする。そしてなんらかの尺度で進歩している自分、前向きな要素を見つけるとよいのでは。

そのためには記録をつけることが不可欠でしょう。体重やウエストだけでなく、体脂肪率とか、筋肉の鍛え具合（ある運動が出来るようになった回数等）とか。これらを最低でも週に１回は記録していきたいですね。写真も撮っておくとよいかも。トレーナーについて、フィードバックをもらえたらすごくよさそうです。

仲間を見つけていっしょにわいわいやるというのも一つの手でしょう。みんながダイエットをしているわけではなくとも、たとえば家族のプロジェクトにして、目標を達成できたら家族みんなが楽しめること（旅行とか）をやろうと、家族と約束をする。自分のダイエットだけならあきらめてしまっても、こどもの喜ぶ顔を見るためだったらがんばれるかも(^_^)。みんなで基金を出して、目標からどれだけ近いかでもらう配分を決めるというゲームにしてしまうのもよいかも。

どうでしょう？　次に思い立つことは成功しそうな気がしますか(^_^)?

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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