171T ジグソーパズルのピースたち

photo by paco.

台風、地震、イラクでの日本人誘拐そして殺害と、事件が続いていますね。こういろいろ続くと頭がパンクしてしまって、一つ一つをしっかり考えたり噛みしめることができない、と感じる人もいるのでは。ただでさえ自分自身の生活でも忙しいでしょうし。

それは僕自身も似たような状況にあります。しかし、全てのことに答えを出せなくてもよいので、それぞれのことについて少しでも考えて、結論が出ないところは宿題として頭のどこかにとっておくことにしています。今回のコミトンでは、そんな端切れを並べてみる、言ってみれば、今、頭の中にあることの一部を引っ張り出してみたいと思います。

■自分が助けになれること

度重なる台風や地震と災害が続いたせいか、そういう時に自分が何か助けになれたらよいのになあと少し思い始めるようになってきました。別に以前より人間が出来てきたというわけではないと思いますが(^_^)。

しかし、実際に考えてみるとけっこう難しいものですね。まず、ボランティアに行くという気は今のところ全く起きません。元々とにかく行動しよう！とか思わないタイプであるのと、やっても自分が望むほどには役に立てないだろうなとも思うのがあるでしょうか。では、ものを送る、というのもあります。おりしもgirl friendが「子供ができたからかもしれないけど、あんな中で赤ちゃんがいる人とか大変だろうなと、せつなくなる」と言っていました。じゃあ、そのあたりで行くかと、関連情報をgirl friendに見せ、彼女がものを送る手配をしました。

新品のみ受け付けるということだったのですが、こどもが生まれたばかりの頃にいただいたものが実は多すぎて使い切れなかったり、自分のところでは使わないものがけっこうありました。そこで、これらを送りました。しかし、これって自分たちが何かをしたことになるのかなあと考えてみると、手間と送料はかかっているものの、基本的に不用品を送っているわけです。役に立っているからそれはそれでよいのでしょうが、何かやったというほどのことでもないよなあ、とも思います。

となると、お金を送るというのが一番、直結するのか。数日してたまたま見ていたテレビでも、現地で活動してきたあるボランティア・ネットワークの代表が「ものはもういらない。気持ちはありがたいが、ものはたくさんあるし仕分けるだけで大変な状況。やはりお金が一番有効だと思う」というようなことを言っていました。お金なら、個人に生活を立て直すための資金として分配することも、自治体で復興のために使うことも出来るでしょう。誰かの私腹を肥やすために使われてしまう恐れを除けば、それなりによさそうです。

ただ、どうもそれだと今ひとつだな、と感じている自分がどこかにいます。顔が見えない。相手の顔がイメージできないし、自分の実感もあまりない。そんなことは自分の利己的な欲求といえばそうなのですが。

次のような面もあります。僕は知らない人について状況をイメージして感情移入することがあまり出来ないようです。たとえば中越地震で車ごと土砂にうずもれた後、奇跡的に助かった男の子や助からなかったお母さんたちのニュースを見ても、一つの事件という以上には見られなかった。かといって全く感情がないわけでもなく、映画やドラマの主人公が奮闘するのに共鳴することもあるし、身近でがんばっている人を見ると応援したくなります。特に自分ならではの応援の仕方が見える時、そして相手の喜ぶ顔が見られる時にはなおさらです。

こういったことを考えると結局、テレビの向こうの知らない人をみんなと同じようなやり方でサポートするというのは（今の）僕に適したやり方ではないようです。それよりも、顔の見える相手の役に立てる状況が来た時、動けるキャパをつくっておくこと、そして今のスキル以外でも自分が特によく出来そうなことを開拓して行くことなのかなあと思います。結局、今と何も変わらないじゃないか、とも言えるのですが、考えた末の（仮の）結論なので、考えない状態よりはいい、と思うわけです(^_^)。それと実はもう一つ考えたことがあるのですが、それはもう少し具体的になることがあれば、その時に書くことにします。

■命の大きさが違う？

上で触れた中越地震で土砂の中に埋もれて生死の分かれた親子について、もう一つ思ったことがありました。確かに一人でも助かったことは喜ばしいことだし、助からなかったことは悲劇です。でも、数人の命についてこれだけ大騒ぎをするのはどうも納得が行かない感じがしていました。こんなことを言うと「人の命がかかっているじゃないか」というお叱りも来そうです。でも、とにかくそういう疑問が頭に浮かんだ。

日本でも世界でも毎日、毎日、理不尽な死に瀕している人はたくさんいるのに、ある人はものすごく取り上げられ、他の人は本人と身近な人の必死の祈りや無念だけにとどまる。「ニュース性があるから」というのはその通りだと思います。でも、それに対して自分たちが特別な行動や配慮をするのはどうなんだろうかと。同じような違和感は僕の中に、イラクでの人質事件においてもありました。この人たちも、遠い国で旱魃にあって死に瀕している人も、近くの道路で飲酒運転の車にひかれた人も同じ命を持っていたり、失ったりしています。

かといってもちろん、自分自身が全ての人の一つ一つの命に同じようにたくさんのエネルギーを割くことは不可能です。そこで今のところ思っていることは三つです。一つは自分が身近に感じられること、共感できることに時間とエネルギーを割こうということ。もう一つは他の人が十分カバーしているところは自分のいる必要はないだろうということ。したがって「身近」な世界をちょっと人と違うところに持っていこうと思うわけです。もちろんこれは、単に「人と違ったところに身近な世界を持ちたい」という欲求から来るものでもあります。そして三つ目は、それが一人の人の命だけでなくさらに大きなところにつながる場合には注目しようと。そういう意味では事件としては、イラクでの日本人誘拐事件は大きな重みを持っていたと言えるのかもしれません。しかし、ここはまだ消化しきれないでいます。

■自己責任論再び？

イラクでの事件のことが出てきたところで、今度はそちらに行きます。pacoさんが前回のコミトンでこの件について取り上げていましたが、僕はちょっと違った見解を述べたいと思います。まず、最初のところでpacoさんは「マスコミでの自己責任論とバッシングがほとんど見られなかった」理由を三つ挙げています。その三つについては、それぞれ多少なりともあると僕も思います。しかしそれと並んで、家族の方の対応の仕方が違った（あるいは違って見えた）ことが大きかったと思います。「そのようにするべきだ」とか「して当然だ」と言っているわけではありません。ただ、今回の方が自己責任の度合いから言えばより大きいと思われるのに責める論調が少なかったことには、この要素も少なからず影響していると思います。

pacoさんが、イラクを災害地、政府関係者を消防隊員になぞらえて

> 消防隊員がするべきことは、精一杯助ける努力をすること、助けられずに残念だ
> と発言すること、無防備に飛び込むとかえって危険だと、警鐘を鳴らすところま
> でです。

と言っていたところについては僕もほぼ賛成です。特に「助ける努力をするべき」と言う部分は。でも「ほぼ」というのは、僕が政府関係者だったら、警鐘を鳴らすだけでなく、できることならイラクへの渡航を禁止にしたい、と思うからです。pacoさんは

> 中越地震で倒壊した家の中には、生きたまま閉じこめられた人がたくさんいまし
> た。比較的安全な避難場所にいるあなたのもとに「助けてほしい」という人が来
> たら、「いや、あのがれきでは、自分が二次災害に遭うかもしれないし、それで
> は消防隊員が二重の苦労を背負うことになる」といって断れるのか？

と書いていました。この例の場合、確かに断りにくいかもしれない。でも、地震から１週間たった段階で次のようなことを言われたらどうか。その時はまだ余震の可能性や二次災害の可能性が残っているとします。「もしかしたら行方不明のおばあちゃんがつぶれた家の下で生きているかもしれないから来て欲しい」とか「牛をえさをやらないとうちらは食べていけなくなるからついてきて欲しい...」とか（実際にそんなことを言う人はいないと思いますが）。あるいは目の前で火事の火が燃えさかり、消防隊員たちもかなり苦戦している状況で「うちの子がまだ中にいるんだ！　助けてくれ！」と言う人を見たとしたらどうか。いずれも感情移入はしても、おそらく行かないのでは。

つまり状況によって違うと思うのです。それを全部いっしょに論じることは出来ない。そして、イラクの情勢（得ている限りの情報からの判断ですが）からすれば日本人が今イラクに入国するのは危険すぎること、報道といった公的使命を担っているわけでもないこと、イラクの人たちに貢献するには他の手段、たとえば現地の機関と協力しながら行うことも出来ること、もしその人が危険にあって救出のために多くのエネルギーが割かれれば、その分、他のことができなくなることを考えると、今、一般の人が行くべきではないと僕が政府の人間だったら考えると思います。しかしそう思わない人もいるでしょうから、出来ることなら特別に許可を得た人を除いて渡航禁止にしたい。実際には本人がどうしても行こうと思えば止めることは難しいですが。

pacoさんはどんな目的ならよくて何ならダメという境界線を引くことは現実的に出来ないし無意味だと書いています。しかし、ここで問題にするべきは目的だけでなく、状況と、その人の技量も考え合わせた上での「必然性」だと思います。それについて、きれいに線を引くことは出来なくとも、ある程度判断することは可能じゃないかなと僕は思います。

■自衛隊？復興支援隊？

さて、重たい話が続いたので、少しずつ軽い方向に行きます。最近、自衛隊はどうして自衛隊という名前なんだろう、と思っています。今回もそうだけど地震や台風の時によく出動していますね。サマワでも復興支援が役割だとすれば、「自衛隊」はそれはそれで必要だとしても、「復興支援隊」というのをつくったらどうなのかと素朴な疑問として思いませんか。これだけしょっちゅう自然災害が起きる国ですから、軍事防衛以上に即、役立てることがあることでしょう。土嚢を積んだりといったハード面の役割だけでなく、情報を効率的に収集しながら全国から集まるボランティアや物資をうまく配置するといったソフト面の役割も担えると非常によいなあと思います。

そうやって蓄積したノウハウを国際社会でも役立てることが出来れば（そのためにはいろいろハードルがあるとは思いますが）、それは立派な国際貢献だと思うし、自衛隊派遣ほど議論にならないと思うのですが、どうでしょう？　また、イラクに派遣されていたのが仮に復興支援隊だったとしたら、それでもやはりテロリストの要求は同じだったのか、どうでしょうか。

もちろんこれは単なる思い付きで、いろいろ他にも考えるべき要素はありますし、pacoさんが書いていたような「日本の世界戦略はどうあるべきか」といった構造の中で考えるべきでもあります。でも、これまでの経験からすると、こういった思い付きが、後で全体構造も含めた具体的な構想を考える中でも、ものすごく役に立つことはあります。

■地域に密着したプロ野球球団って？

大災害や事件、アメリカ大統領選挙と並んで最近のニュースをにぎわしていたのがプロ野球の東北新球団がどうなるかという話でした。楽天イーグルスが最終的に選ばれ、楽天が球団経営をうまく出来るのか、どういう選手が集まり、どんな成績を収めるのか、といったことが今、話題に上っています。その中で、僕が一番興味を持っているのは「地域に密着した球団」をどう実現して行くか、ということです。

というのも、ビジネスという意味でもプロスポーツという意味でも地域に密着したものが成功するというのは地域に活気が増すということだと思う、というのが一点。しかしこれには、これまでのビジネスの常識であったマス志向から脱却しないとならないんじゃないか、それは本当に出来るのか、出来るといいなあというのがもう一点。

以前にコミトン111「グローバリゼーション考えるin高知」で書いたことですが、マス志向をどんどん進めていくと、効率は良くなっても、ごく一部の勝者に富が集中し、他は活気を失ったり貧しくなるおそれが高い。また、その過程で厳しい戦いが展開され、時に憎悪も生みかねない。しかし人間には上に向かいたいという欲求がある。そこでこの欲求を、奪い合いの競争ではないところに向けられればいいんじゃないか、その一つのあり方のヒントが見えるかもしれない、と思ったのでした。

と、今、世の中に起きていることについて、ぱらぱら考えていることを少し、解きほぐしてみました。まだまだそれぞれはジグソーパズルのピースに過ぎませんが、少しずつこれらを組み合わせて自分なりのビジョンと、そこへ向かう道筋を描いていけるといい、と思っています。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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