183T 英語:飽きっぽいのに続いている理由

photo by paco.

この11月で、パートナーとやっている英語教室「英語のシャワー」が4年目を迎えました。始めた頃からずっと、まずは3年やってその後でも「おもしろい」と感じていられるようならいいなあと思っていました。今、おもしろいし、これからまたおもしろくなりそう。僕も飽きっぽいですが、さらに飽きっぽいパートナーも同じことを言っているので、これはうれしいことだと思います。

元々好きなもの、思い入れを強く持っているものがあってことを始める人は続いて当たり前、気がついたら何十年もやっていた、となるのでしょう。しかし、僕らのように特に好きなものがあるわけではない人間の場合は、何か始めても続くかどうかはなんとも言えません。以前、会社で仕事をしていた頃、「Toshiさんは自分でビジネスをやろうとは思わないのですか?」と聞かれるとNOと答えていた理由の一つもそのあたりにありました。「おもしろいと思える間だけやって、気が変わったら他のことに移ればいいから」　それだけではなく、企業という大きなマシンを使うと、自力でやる以上のことができる、というのもありましたが。

そうやっていろんなことをやるのも楽しかったのですが、続けられるものなら何か一つでも二つでも続けた方がいいだろうなあとも、30代後半に入ってから思い始めています。一つには、続けることによってだけ出せる成果がありそうだということ。もう一つには、そういう成果にだんだんひかれつつあること。

そこで今回のコミトンでは（前置きが長くなりました）、飽きっぽい人間がどうして今も楽しくやれているのかを特に意識しながら、英語のシャワーの近況を書いてみたいと思います。

■価値を感じ続けられている

まず、続いている理由として最初に思い浮かぶのが、やっていることについて価値を感じ続けられているということです。英語というコミュニケーションのツールを通じて人がつながることができるというのは、クラスに外国人のゲストを連れてきて話したり、受講生が自分で外国人と話をした体験を聞く中で、よく感じます。小さなステップですがそういうことが世界の未来にとって必要だと思うので、そこへの道を作る一端を担うのは価値があると感じています。また、何かを学ぶことを楽しくできる、というのも自分として価値を感じられるところ。特に「これは苦手なんだ」と思っていた人ができるようになるのを見るのは楽しい。

もっとも僕は英語のシャワー以前の仕事でも恵まれていて、「なんでこんなことをやっているんだろう!」と思ったことはありません。ただ、今は当時以上に価値を感じられています。また、もし、かつての仕事を今もやっていたとしたら、「ビジネスの分野での革新はそれはそれで価値があるとは思うけど、そのノウハウを生かすべきもっと他の領域があるんじゃないかな」とか「それで仕事の効率を上げるだけじゃなくて、それで人々の生活がどう豊かになるのかを考えないといけないんじゃないか」と思うようになっていたような気がします。

英語のシャワーについても「もっとやるべきことがあるんじゃないか」と思うようになる可能性はあります。しかし国際社会でのコミュニケーション、そして教育というテーマは、幸か不幸かかなりの間、取り組む価値を強く感じられる領域という予感がしています。

価値を感じられるのはまた、やり方からも来ていそうです。採算は見ていますが、それと同じくらいに「で、みんなは英語ができるようになっているの?」というのを見ている。ビジネスとしての目標をほとんど持っていないので、経営上難しいことが少ない。ビジネスでいわゆるヒト、カネのところであまり悩まずに済み、モノにこだわれる。要は「どうやって儲けるか、大きくなるか」よりも、「どうやって英語力を伸ばせるか」を考えることに時間やエネルギーを割きやすいということです。

そんなことを言うとお利口さんぶっているように聞こえるかもしれません（^_^）。しかし自分の欲しいものを考えると、カネで買えるものについてはその程度で稼げる範囲で十分なよう。カネでは買えない欲しいものは、こういったやり方をしている中から生まれてくるようです。

■がんばり過ぎていない

さて、上のように書くと、英語教育に心血を注いでいるようにも見えますが、そんなことはありません。そしてその「がんばり過ぎない」というところに「続けられる」ための次のポイントがあるようです。上に書いたように前の仕事場（マネジメント・スクール経営）でもけっこう楽しくやっていたのですが、早く成果を出したいと思っていたために、かなりがんばって突っ走っていました。毎期何か新しいことをやろう、一段上のステップに行こう、という思いが先にあって、かなり早足な計画を立て、それに向けて走っていました。たとえば「もっとキャリアを自らつくっていく意識を高めよう。そのために来四半期はキャリアの本を出す、そのタイミングに合わせてウェブサイトを開設、一方でワークショップをスタートして...」という感じです。

これはこれでその時は楽しいのですが、しばらくすると疲れてしまったり飽きてしまったりするのです。がんばるとそれなりのところまで到達できることもあって、本当はさらに先があったり奥が広がっているかもしれないのに、「そろそろ他のことがやりたい」となってきます。まあ、そもそもいろいろなことがやりたい、どんどんやりたい、という時期だったのだろうとも思うし、それはそれでよかったと思うのですが、一つのことを続けることにはつながりにくかったとは思います。

今はがんばることをしていません。まず、目標達成の期限を決めるということをほとんどしない。やりたいと思ったことをやれるペースでやるという感じです。それは何も努力をしないということではありません。無理をしないで、でもやりたいことをやるにはどうするか考える努力だけをしていくという感じです。

たとえば「先に進むほど一人一人の要強化ポイントが違ってくるのに対応したい」と思ったのですが、僕ら二人だけでやるのは難しい。一時的にはできたとしても、疲れて飽きてしまいそう。そこで最上級のクラスではティーチング・アシスタント（TA）を担当制にして、各TAが数人の受講生をずっと受け持つようにしました。各TAは本当によくフォローしてくれています。またTAと受講生たちがよいチームになっていて「さすがに1年近くやっていると受講生もややだれてきてしまうのをなんとかしたい」という別の課題への解にもなっているようです。

もう一つ例をあげると、大半のメンバーとはちょっと違った課題を持った人たちがいることがわかってきた時のことがあります。彼らのためだけに別クラスを開くのは僕らの時間的負荷としても彼らの経済的負担としても難しい。そこで、彼らに週末、うちまで来てもらって勉強会をすることにしました。うちでやってもある程度、時間は割くことになりますが、うちの家族もその辺にいて、休憩の時には話に加わったりするので家族との時間を削っている感じは薄くなります。一方、来てもらうのは人によってけっこう遠いこともあり、無料ということにしました。これは、彼らと話す中で他の人にも応用できる対策を探せる、いわばリサーチだったからというのもあります。

というように「がんばらない」のは、疲れたり飽きたりしないという上でなかなかよかったと思います。もちろん悩みやうまく行かないことがないわけではありません。特に（顧客も含めて）小さな集団の場合、人間関係が密な分だけ、ちょっとした誤解からややこしいことになることがあります。また僕らの場合は関係者の善意に依存しているところが多いので、人間関係の変化は影響が大きい。でも、そういう時に自分たちの基本的な考えに従って動けるのも、無理にがんばっていないからじゃないかな、と思っています。

■新たなチャレンジが常に見える

「がんばり過ぎない」とは書いたものの、新たなチャレンジをすぐに見つけられなくなる仕事ではすぐ飽きてしまうだろうと思います。しかし、当分はそういう心配はいらないだろうというのが今の感触です。英語学習についてけっこう成果を上げている、またその度合いは増えているという自負のある半面、もっと成果を上げられたらと思う部分が常にあります。

たとえば今、特に関心を持っていることは三つあります。一つは本当に初歩からスタートして、かつ進歩のかなりゆっくりな人たちのサポート。僕らの方式は、とにかくナマの英語にたくさん触れて（もちろんやさしいところから）、その中からいつの間にか単語やフレーズ、文法もつかんでいくというのが一つベースにあります（帰納的学習法）。初歩からスタートかつ進歩がゆっくりならば、それに合わせて触れる量を増やそう、それでも飽きないような本を増やそうとしてきて、それはそれで成果を上げています。

しかしこの人たちの中には、こと語学について帰納的な学習が苦手な人もいるよう。この単語は何度も見た記憶はあるけど意味がつかめないと言っていたりします。かといって単語を丸暗記したり文法から入る（演繹的学習法）のは言語を学ぶのに合わないと僕らは考えているし、彼らもそれが苦手だから学校英語で脱落してしまったわけです。「外国語は苦手な人もいるさ」と言ってしまえばそれでおしまいなのですが、そうは言いたくない（^_^）。話してみると、彼らはけっしてものを学んだり理解したりするのが苦手なわけではないし、特になぜかこのタイプの人たちには本当に真剣に辛抱強く取り組んでくれる人が多いので、応援したくなります。

そこで、まだまだ模索している状態なのですが、たとえばある人には上記二つのタイプの学習をタイミングをみはからって組み合わせるようなことをいっしょに試しています。たとえば単語について書いた本を読んでもらっている人がいます。単語と言っても「訳」ではなく、いろいろな単語の「イメージ」を説明した本。それも知らない単語を覚えるのではなく、これまで何度も出てきたがわからなかった単語だけイメージをつかむために使うようにすすめています。

また別の人の場合は、知らない単語だと読み方（発音）がわからない。そのために、日本語の世界でカタカナで使われている単語さえ、それとわからないというのがわかってきました。また、そのために読んでいてリズムが崩れてしまう。英語では発音に規則性があるので、ある程度見たり聞いたりしていると自然にどう読むかわかってくる人が多いのですが、この人たちの場合はそういうことがやや苦手なのでしょう。そこで、まずは規則性を見つけるべく少しだけ気にしながら読んでもらうように試しています。そして様子を見て、よく出てきて特に間違えやすい発音だけ説明しようかと思っているところです。

二つ目に関心を持っているのは、英語のアウトプット（書く、話す）の進歩をいかにスムーズにできるか、というところです。アウトプット、特に話すとなったとたんに訳して変な英語になってしまったり、ちっとも言葉が出てこなくなってしまう人が少なからずいます。これについてはこれまでのコミトンでも触れてきて、そこで書いてきた策も効果を見せています。しかし、もっと楽にできないか、といくつか試したり、考えたりしているところ。これはもう少し模索が必要そうなので、見えてきたところで書きましょう。

三つ目の関心は、忙しい人が続けられるようにする方策です。せっかくいい感じで来ていたのに、転職したり忙しい仕事に配属されたために、出席も読書もあまりできなくなって進歩が止まってしまう人がいます。たまに来るとまわりはずいぶん進んでいるのであせったりモチベーションが下がってしまうこともあります。仕事が忙しいのは僕らにはどうしようもない、とも言えるのですが、それでもなんとか時間を確保したくなるくらいにしてみたい、とも思います。そんなに仕事ばかりしていてどうするんだとはたと思うくらいのインパクトがあるとか（^_^）。まあ簡単に行くことではないと思いますが、コンスタントに続いている人は確実に進歩しているので、あの手この手を使って参加率を高めて行きたいと思っています。というような感じで、当分は飽きることはなさそうです（^_^）。

■気に入ったやり方、あり方でできる

続いている最後の理由を上げると、自分のやりたいやり方でできていることが大きいと思います。何をどこまでやるかも大きいですが、それをどういうスタイルでやるか、そこから他にどんなものが生まれているか、というのも大きい。

たとえば先日は、girl friendの友人夫婦がオーストラリアからやってきたので、あるクラスのメンバーたちに日曜都内1日ツアーを企画してもらいました。まず各自に「海外の友人が初めて日本を訪ねてきたら自分ならこういうところに案内する」というのを考えてきてもらいました。次にそこからこのプロジェクトのリーダー二人がおもしろそうなところをピックアップして、皇居→銀座→汐留→浅草寺→酉の市というルートが決まりました。続いてそれぞれの場所についてチームを作って各チームが詳細を決定。仕事場の所在地や興味に従って人それぞれ強いところがあるのがおもしろいところ。当日は各チームが担当エリアでホスト役をつとめてツアーを進行、入れ替わり立ち代りみんながゲストと話をしていました。ランチは汐留シティタワーの42階で都内を見渡しながらみんなで雑談。これもつてのある受講生が特別に予約をしてくれました。ちょっと盛りだくさん過ぎたり、先導するのに精一杯でなかなか気軽に話せない人もいたりもしましたが、楽しくよい経験になったと思います。

というような例の中に、自分のやりたいやり方のポイントがいろいろあります。たとえばみんなでこのクラスを作っていること。こういうスタイル自体が楽しいというのもありますし、それで能動的に動くタイプに変わっていく人がいるのもうれしい。このイベントと前後しますが、少し前には卒業生の主催した合宿がありました。能動的に動き、楽しい企画を繰り広げる彼らを見るのはもちろん、それに受講生が刺激されているのを見るのもうれしいと思います。もちろんうまく行くケースばかりではありません。みんなが協力してくれないとブルーになっていたり、意見がまとまらないといらつく人もいます。でも、そういうプロセス自体、世の中、特に異文化間のコミュニケーションではよくあることなので、そこから学び、それに挑戦して楽しんでしまえばいい、と思っています。

ところで誤解を避けるために一つ補足しておくと、上のようなセッションはいわば「発表会」や「練習試合」で、ここまで行き着くには日々の練習や基礎にあたるものが必要です。最初から毎回、上のような企画をやっているわけではありません。日々コンスタントに続ける部分と、こういった企画をいいタイミングで組み合わせることがまた楽しさの秘訣かなと思っています。

最後に、これは派生物ですが、けっこう大きいと感じていることを上げて終わります。最近、ネイティブスピーカーとしてのゲストによく来てくれているともだちからキャリアの相談を受けました。これまでのキャリアとかなり違う方向なのだが外食産業に進みたい。それもできれば近い将来、自分でやりたい、といった内容です。と言われても僕自身はその世界についてほとんど何も知らないのですが、思い出したのが関連する業界で仕事をする受講生たち。外食産業と不動産開発（商業施設）のそれぞれで、その仕事を愛してやまない（^_^）受講生が思い浮かび、彼らにちょっと話を聞いてくれるように頼みました。実はそのともだちに外食産業はかなり向いていると思うので、そうなったらまたおもしろいだろうなあと思っています。

という感じで僕の場合は続きそうなものが出てきました。この感覚で最近始めた「農」も続くといいなあと思っていますが、さてどうなるでしょうか（^_^）。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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