185T 「農」とかかわる－ますますはまりそう

photo by toshi.

12月というのに台風の影響で大風やら高温やらと変な気候が続いていますがいかがお過ごしでしょうか。僕はおかげさまで元気ですが、植物を育てるようになると天気はただ生活している以上に気になるようになりました。この天気は野菜の生育にはよいよう。でももし急に本格的に寒くなるとダメージが大きそうな気がします。

ということは「いつまで続くのかな？」と思いつつ始めた野菜作りもまだ続いているということです。むしろ少し様子が分かってきた分、さらにおもしろくなってきたというところ。８月に書いたコミトン171「最初の収穫で得たもの」で次のステップとして書いたことも少しずつ出てきていて、11月には今の約五倍の面積の畑も借りました。この分野の人とのかかわりも少しずつ出てきています。そんなわけで今回は、はまりつつある「『農』とかかわる生活」の近況を書いてみたいと思います。なお、農業に関心のない人もいると思いますが、新たなことへの取り組みやそのあり方と考えてみると、ビジネスなどにもあてはめてみることができると思います。

■ダイコン、ニンジン、カブ、ホウレンソウ、ミズナ、チンゲンサイ...

まずは作物の成果について。全くの素人だった春夏に比べると少し経験を積んできたおかげか、トライした秋冬野菜のかなりをそこそこ収穫出来そうです。ついこの間、ミズナの最初の収穫をしたところ。市販のものよりも緑が濃く、たくましい（柔らかくないとも言います(^_^)）感じで栄養がありそう。さっそく冷しゃぶになりました。その翌日にはカブとチンゲンサイの初物を収穫しました。カブはクリームシチュー、チンゲンサイはただゆでて食べましたが、悪くない味でした。なーんて言っていますが、カブはともかくミズナやチンゲンサイなんてつくってみるまではあまり関心がなく、どんな野菜なのかもよくわかっていなかったのでおかしな感じ(^_^)。

まだ次々と育ってくるので、これらの野菜はしばらく楽しめそうです。ひょっとするとこの冬は買わずに済むくらいかもしれません。たった10平米の家庭菜園だとそれほど育てるには狭いように感じられると思いますが、不耕起で育てる植物は個体によって成長のスピードが違います。なので普通よりも間を狭く取り、大きくなったものから収穫していくことが可能なよう。その他の秋冬野菜の収穫はこれからですが、ダイコン、シュンギク、ニンジン、ホウレンソウは順調に食卓に上ってきそうな感じです。ダイコンは通常、よく耕さないといけないと言われている野菜なので、いきなりの不耕起でどうなるか楽しみ。

でも中にはあまりうまく行っていないものもあります。たとえばタマネギは十分に大きな苗が出来なかったので冬を越すのは難しそう。貯蔵のきく野菜なのでたくさん作りたかったのですが、ちょっと残念。サトイモ、ジャガイモも収穫できたとしてもかなり小ぶりのものになりそう。原因はこれから探っていくことになります。でも、全体的にはそこそこ収穫できそうなので、まあ悪くない出来かな、と思っています。

あと、秋冬野菜の中心になる葉物をつくってみてわかったのは、店で売っているもの以外にも食べられるということ。たとえばチンゲンサイやミズナをけっこうぎっしり蒔いておいて、大きくなるにつれて間引きする、そして間引いたものを食べていくことが出来ます。間引いたニンジンやダイコンの若い葉も店では見ることはあまりないと思いますがなかなかいけます。朝、ちょっと庭に出て納豆の薬味用にダイコンを間引いてくると、採ったばかりの葉は生きた味がしてまさに薬味という感じ。ニンジンはgirl friendが刻んでごま油で炒めてくれたのですが、これもなかなかいいです。

■思わぬ敵？との戦い

と、上のように書くとずっと順調に来たように見えますが、実は思わぬ敵（向こうは戦っている気はないと思いますが）の攻撃を受け、非常に苦戦している時期もありました。もちろんアオムシ、ネキリムシ、ヨトウムシ、バッタ、ナメクジといった普通の虫の被害もあったのですが、これらは予想の範囲内です。しかし予想外のところから来るとなかなか大変です(^_^;。

最初はチンゲンサイの新芽を食い尽くしているらしき虫がいることに気がつきました。食い荒らすというレベルではなく、双葉を完全に食べてしまっているので、それから育ちようがありません。でも何が犯人なのか、最初はよくわかりませんでした。そしてチンゲンサイばかりでなくカブ、ホウレンソウ、ミズナでも同じことが起きているよう。いずれも昼間見ても、地面を少し掘ってみても、犯人らしきものが見当たりません。そこで夜に見てみると、ダンゴムシが大量にいるのに気がつきました。そして作物に登っていたりもします。

しかし本を見てもダンゴムシが害虫であるとは書いてありません。子供のころからの経験でも、ダンゴムシなんてどこにでもいるもので、ちょっとユーモラスなやつ、暗く湿ったところにいて枯れ草でも食べているのかと思っていました。作物に登っているのを見ても、登っている「だけ」かと思っていた時もありました。でも、種を蒔きなおしたりしながら観察していると、やはりダンゴムシがばりばりやっているよう。しかも、たくさんいるのです。普段から土のあるところならどこでも見かけるような虫ですが、それにしても多い。

市販のダンゴムシ退治の薬はあるのですが、それは使いたくないので、まずはまだ小さな作物を守るべく、不織布のネット（トンネルと言われます）をかけます。でも、ただトンネルで保護してしまっては自然農にならないと、様子を見ながらはずしたりかけたりします。たとえばシュンギクはあまり攻撃されないようなのではずしてしまいました。ダイコンは攻撃されるよりも成長が速いようなので、最初からトンネルをかけませんでした。チンゲンサイやカブ、ミズナもある程度成長してくると攻撃しないような気がしたのでトンネルをはずしてみたら、新しく出てきた葉を攻撃してしまうので、あわててまたカバーしました。でも結局最後は、トンネルをかけていると中の様子が見にくいのと、「やっぱり自然農じゃないや」と思ったのではずしてしまいました。

一方で、インターネットで調べてみると、ダンゴムシはやはりいわゆる害虫であることが分かりました。野菜の茎や葉、特に新芽を食べるので野菜の成長が止まってしまうそう。うちの野菜はまさにそういう状態で９月から10月にかけては成長のスピードがかなり鈍っていました。しかもほうっておけばかなりを食い尽くされてしまいそうな勢いです。なんで本に出ていないのかはわかりませんが、長年自然農をやっている人に聞いてもそういう経験はないと言われたので珍しい事態のようです。でもとにかくなんとかしないとなりません。

そこで夜な夜な懐中電灯で照らしながらのダンゴムシ退治が始まりました。薬は使いたくないので手で捕まえるわけですが相当な数です。大変といえば大変(^_^)。でも、面積が小さかったことと、虫の習性もわかって興味深いと思えたこと、そして意外とこういうことが苦にならない性格なので最後まで続きました。退治して数を減らしたことと、増殖の元になっていそうなところに手を打ったことでだんだん数が減っていきます。それとともに作物が大きくなり、少し攻撃されてもダメージが小さくなってきました。作物が大きくなってくるとダンゴムシの攻撃も黄色くなってきた葉、他の虫が食った葉など弱っているところにだいぶ集中してきます。そうして11月も半ばを過ぎると寒さも影響してか、被害はほとんど気にしないでよいくらいになりました。

■戦いから学んだこと

そんなダンゴムシとの戦いの中で思ったことが二つあります。まず一つは、環境を急激に変えると問題が起きやすそうだということです。土をよくしようと春先に、近所の原っぱから湿った落ち葉や枯れ草を持ってきたのですが、この中にダンゴムシがたくさんいました。そしてその後に腐葉土をけっこう入れたのですが、これもダンゴムシの好きな環境のよう。こういったことから「異常」発生したのではないかと思います。

一方でもう一つ思ったのは、バランスさえ取れていればダンゴムシのような虫がいることはむしろよいことだということです。ダンゴムシは枯れ草も食べます。野菜も食べますが、枯れかけた葉を食べていることも多い。ということは、植物を分解して土に還す一端を担っているのでしょう。確かに新芽も食べますが、これは分解者としての代金を取っていると考えるべきで、少し食べられても許容すべきなのじゃないかな、と。

■畑を借りるきっかけ

さて、この数ヶ月で一つ、大きな変化がありました。それは畑を借りたことです。庭よりも少し広い場所でやりたいというのは８月にコミトン171でも書いたことですが、思っていたよりも早く実現しました。きっかけは「遊山房」という学び舎をやっている人との出会い。girl friendが見つけてきたのですが、ここでは和の文化教室や和楽器ライブ、古民家再生、自然農実習など日本の文化のよいところを学び、活かして行こうという活動が行われています。

僕は他の人がやっている場に入っていくのが得意ではないので、最初はちょっと様子見的に入っていきました。でも話をしてみると主催者の二宮さんは気さくな感じの人でやりやすそう。自然農実習に呼んでもらったので家族で行って見ると講師も参加者もやはり気さくでとてもいい感じです。実習はメンバーがやっている畑をみんなで見ながら講師がアドバイスしていくという形。畑は二宮さんが知り合いから借りたものをみんなが実習のために借りています。そして、その畑にまだあきがあると聞き、その場で申し込んだのでした。

面積は実質使えるのは50平米くらい（借り賃は年間２万円！）。庭でやっているのが10平米くらいですから五倍くらいあります。うちからは車で10分。12名が同じ広さを借りていて、みんな自然農でやることになっています。みんな素人なので少しかじった程度の僕が見ても「！」とか「？」という状態のところもありますが、それはそれでいっしょに学んで進歩して行くプロセスが見えておもしろいかもしれません。特に休日に行くと誰かいて「今、どうなってる？」と話したりしています。うちはスタートしたタイミングが遅かったのであまりいろいろ作れていないのですが、それでも豆類やイチゴ、葉物を少し試してどうなるか見ているところ。また、畑のすみっこを利用して堆肥作りもトライしているところです。

しかし、今回のことで改めて思ったのは、「そうしたい」と本気で思っているとチャンスはきっとやってくるということです。もちろんそこにはgirl friendの協力があったりするのですが、何かを本気で思っているとそういう情報に目が行くし、人にもその話をするので話が伝わりやすい。あまり抽象的だったり遠すぎることだと難しいので、ある程度具体的なことまで落とし込んだ「これをしたい」を持っているとよいのだと思います。

■フローではなくストックに働きかける

さて、まだ一度しか会っていませんが、自然農で何年もやってきている講師と話を出来るのもなかなかよさそうです。彼はかなり徹底した自然農をやっているようで、種を蒔いている時に虫を見つけても殺さないくらい。もちろん耕さず農薬も肥料も全くやらないというやり方を取っているそう。まずはそのようなやり方で専業農家をやれるという実例を見られたことが収穫でした。その他、今回彼と話してみて「なるほどこういうことかな」と思ったのは次のようなポイントです。これは僕がこうかな、と思ったことで、彼に確認したわけではありません。

まずは収益構造の話。肥料もやらず虫にも食われたら当然収量が少なくなります。すると一見収益性が悪いように見えます。しかし同時にカネも労力もかけていないわけで、ある収量まで達することができれば収益（率）は悪くないことになります。また資金繰りから考えると従来農業よりもよいかもしれません。肥料や農薬、機械などを使えばそれだけカネを必要とします。これは作物の出来がよかろうが悪かろうが固定でかかります。一方で天候不順などが起きると収量の方は落ちます。自然農でも収量は落ちるでしょうが（従来型ほど落ちないという人は多い）、固定でかかるカネが少なくて済むのでダメージはその分小さそうです。

次に、「自然農」では何を「する」のか、ということ。「自然」というと何もしないようにも聞こえます。でも、きっとそうではない。フローについては何もせず、ストックに働きかけるのではないかな、と思っています。短期では動かず長期のために考えていくと言ってもよいかも。次のようなことです。

自然農でやること、一つには作物や土地の性質をよく知って、その力が一番出る環境に作物を育てるということがありそうです。たとえば自分の土地がどういう土地ならば、どういう種をどういう時期に、どういう蒔き方をしたらよいかを知っていく。ここでは何かを「する」ことよりも「知る」ことが大きそうです。もう一つには、時間をかけて環境を「よい」ものにしていくこと。たとえば緑肥植物を少しずつ植えていく。作物や雑草の根を残していって土の団粒構造をつくっていく。この場合の「よい」とは人間にとって都合の「よい」ことでもありますが、人間の一人勝ちではありません。いろいろな生物がそこに生きていてバランスの取れている状態を目指すのだと思います。

こういったことをやる一方で、農薬や除草剤をまくことも、雑草を抜いたり有機肥料をやることも、耕すこともしない。毎年繰り返すフローにはほとんど働きかけない。短期的にどうしても必要な時だけ、雑草を少し刈ったり、虫を取るくらいでしょうか。

これは「普通に」農業をやっている人からするとかなり荒唐無稽に見えるのだろうと思います。実は僕自身も全てを最初から出来るとは思えません(^_^)。でも、方向としては好きな方向だし、自分がビジネスの中でやろうとしてきたことと似ているな、と思います。必死で走って短期的に業績を上げ、それを来る日も来る日も続けるのではなく、ビジネスがよい方向にまわるような環境を作っていくという考え方。お客さんに「売り込む」「買わせる」のではなく、自然と買いたくなるようなサービスを少しずつ作り上げていく。社員が仕事をしたくなるような制度や文化を徐々に作り上げていく。すると、何かをぶちこんで何かを得る、という「フロー」なビジネスではなく、毎日の活動が「ストック」として積み重なっていくビジネスになる。それを農業でやる時の理想形はこんなふうになるのも知れないなあと。

でも前述のように、それをいきなり出来るとは思えないので、徐々にやっていくことになりそうです。たとえば「雨が降らなくとも水をやらないのですか？」という質問に対して講師は「そこで水をやってしまうとそれを続けないと育たないものになってしまうんです」と答えました。しかし、たとえばニンジンなどは初期に十分な水分があるかどうかがその後の成長に大きく影響すると聞きます。そう聞いてしまうと本業ではない農ではあってもなかなか「水をやらない」という決意は守れそうにありません。今は生育初期には土が乾いていそうだったら水をやり、雨があまり降らない時にも「降らない方が異常で自然じゃないよ」と水をやっています。

でも、ずっとそれをやり続けるということでもなさそうです。今回、ダンゴムシの被害に対してネットを張ったりはずしたりと実験してみましたが、そういったことを少しずつやっていくことと思います。そして納得したことから変えていく。たとえば今回も種まき用として売られている土を試してみましたが、発芽についてはうちの土とさして違いが見られなかったので次からは使わないでしょう。堆肥を作ってみているのも実験の一環です。

という感じで、思ったようにというか、思った以上にハマっている野菜作り、来年も楽しめそうです(^_^)。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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