188P うまくいかないこと、次を考えること

photo by paco.

2005年があけました。今年もいろいろと情報発信をしていきますので、知恵市場をよろしくお願いします。

年明けということで、Toshiさん同様、「なにができた、何をする？」という話をしようと思ったのですが、ちょっと切り口を変えて、「うまくいかないこと」を考えてみたいと思います。

生き方の本を書いていたり、ライフデザインのワークショップを主催していたりすると、「pacoはもううまくいっているんだ」とか「もうセミリタイアで上がり」というように感じる人もいるようなのですが（そうでない人もたくさんいるでしょうけど）、当然のことながら、万事うまくいくなどということはありません。多くのみなさんと同じように、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。むしろ、うまくいかないことの方が多い普通の人です。

そんなわけで、今回のコミトンは、僕自身のうまくいかなかったことを振り返りながら、それをどう考え、次につなげていくかについて書いていこうと思います。今回の話の全段として、年初に整理した水族館文庫の「新年のごあいさつ」を参考までに見てください、両方セットでひとつの記事、という感じになります。

それと、本題に入る前にひとつ、ご案内。「デュアルライフと企業経営」というテーマで小さなワークショップを開きます。興味のある方がぜひおいでください。

■本の挫折

2004年は停滞気味でした、という話を上記の新年のあいさつで書いたのですが、その一番大きな理由である「価値観の本」について、もう少しつっこんで書いてみます。

この本の出発点は、2003年の夏頃にさかのぼります。1年半前です。ある出版社の編集者から「哲学の本を書きませんか？」とメールをもらい、これをきっかけに話が進み始めました。

僕の場合、本の進行は、「このテーマで」という大枠のくくりがあり、僕と編集者でブレストしながら、具体的な企画案と目次を考えていきます。企画は、本の位置づけと想定読者、読者へのメッセージのコアを特定する作業になります。もうひとつ重要なのが、「書店でどの棚に置くか」という問題で、編集者が一番気にするところです。ビジネス書なのか、エッセイなのか、一般書なのか、学術書なのか、技術書なのか。棚と関連して重要なのはタイトルで、棚にマッチしたタイトルを付ける作業が重要になります。これは本を手にとってもらうという意味も大きいのですが、それ以上に重要なのは、書店の従業員に適切な棚においてもらうという意味合いが大きい。日本では毎年6万点の新刊書が出版されていて、この数は毎日150冊以上の新刊本が書店に送り届けられることを意味しています。実際には、すべての書店にそんなに新刊書がやってきてもさばけないので、書店の特性に合わせて限定された本がだけが来るのですが、それでもかなりの量です。書店の従業員はぱっと本を見て、条件反射のように棚に出し、条件反射のように長く在庫になっている売れない本を返品するという動きにならざるを得ず、以前のように自ら本を読み、内容にあわせて棚に置くとか、いい本だと思えば前に出すというような手の込んだことは期待できません。本の企画にあった棚にぱっと置けるようなタイトルにする必要があるのです。もっとも、タイトル（書名）は原稿が仕上がって、最後に出版社主導でつけることが多いので、著者が企画の段階で思い悩むことではありません。しかし、最終的にどんな本にするかの企画は、この段階で編集者との間でしっかり確認しておく必要があります。

ちなみに、出版社と著者は、メーカーと商社の関係に似ています。著者は本の内容をよくすることに集中し、出版社はどうやって売るかに重点を置く。タイトルや装丁は売るためのマーケティングツールと考えたほうがよく、僕はこの部分は出版社マターだと考えています。もちろん、著者と出版社の関係はいつもこのように画一的ではないので、出版者主導の本もあれば、もっと著者主導の作り方もあるのは事実です。

さて、「価値観の本」の場合、当初は「哲学」のテーマからはじまったこともあり、(1)ソクラテスやニーチェといった哲学を紹介する、というような企画、(2)哲学的なものの考え方やとらえ方を紹介する……これは演繹法や帰納法などを含み、論理思考の内容と重なる、(3)僕自身の生き方の哲学を紹介する、という3パターンぐらいの企画があり得ます。当初は(1)からはじまり、しかしこれは比較的早くに消えて、結果的に(2)と(3)の間を何往復もして、行き場を失って終わりました。結局、1年半の間に企画書数本、原稿はまるまる1冊分と、まったく別の原稿案（一部の章のみ）が2種類を書き、かなりのアウトプットをしたのですが、本になることはありませんでした。

■変わりたいのに、技量が追いつかない

この間に僕に残った大きな課題は、次のようなことです。

(2)の考え方や論理思考という切り口については、編集者も興味を持ってくれるし、僕も普段グロービスや研修で教えていることなので、ある程度自信を持って書くことができます。しかし、このテーマでは「論理力シリーズ」で3冊を書いてきて、またクラスで日常的に教えてきているので、さらに書きたいとは思いません。それに、この案件は、もともと哲学というテーマをもらったので書き始めたのであって、論理思考というオファなら乗らなかった。でも編集者（読者の代表とも言えます）は、渡辺パコという著者に論理思考を書くことを期待する。あるいは、そこが僕という書き手のおもしろいところなのだとは思うものの、僕自身は論理思考ばかりの人だと思われたくない。外からの期待と、僕自身の方向性とのギャップを埋めきれなかった1年半だったのです。

では(3)の「paco自身の哲学」というのは原稿として魅力的なのかというと、これがそうでもない（らしい）。この部分は、今のところ主にコミトンで書いてきていますが、戦争に関する考え方、MBA的と表現した世界を引っ張るブッシュ政権的な考え方といったとらえ方は、はやりどこか強引で、独善的な領域をでていないと評価されているのだと思います。編集者からの評価も結局のところそういうことだし、先日六兼屋に遊びに来てくれたToshiさんも、「結論ありきだね」と評していたので、やはり説得力に欠けていると言うことなのだと思います。

もちろん、世の中の多くの本は、独善的な結論を語るために書かれていて、僕だけが特別であるわけではありません。でも、おそらく(2)の部分での「考え方を教える人」という領域での説得力に対して、(3)の「pacoの主張・哲学」の部分は説得力が落ちるということなのではないかと思います。

僕はもともと哲学を志して大学で学び、その後、ビジネスの世界に身を置きつつも、哲学的なものの見方はずっと磨いてきたと思っています。しかし、それはまだまだ不足していて、評価を得られるものではないということが、この1年半でよくわかったのでした。

その結論そのものは、別に意外なものでもなんでもなく、また僕の「哲学」の質が劣っていることを意味しているとは限らないものの（歴史上多くの哲学者の哲学は、けっこう説得力に欠ける）、僕自身の評価を決める主要な分野にはまだなっていないことがはっきりしたということだと理解しています。

ということで、この1年半の挫折は、(2)論理思考の人から、(3)主張する人への転換を図ろうしたものの、うまくいかなかった、と考えることができそうです。

■成功するまでやり続ければ、失敗はない

今回はうまくいかなかったのですが、もちろん、へこんでばかりもいられません。僕はけっこうしぶとい性格なので、もうちょっと粘ってみます。というよりは、もともと哲学を志したのは17歳とかですから、ずっと関心を持ち続けているわけで、本になるならないにかかわらず、テーマとして自分の中にあることには変わりありません。とはいえ、自分の中でため込んでいるだけでは今ひとつ満足度に欠けます何らかのかたちで、チャレンジはしていきたい。

こういうときに思い出すのは、失敗というのは途中であきらめること、成功するまでチャレンジし続ければよいだけ、という言葉です。もうダメだと思ってしまえば、そこまで、というわけです。

もちろん、やりつづければいいという簡単なものではないでしょう。音楽や演劇など、あらゆる分野でフリーターをやりながらチャレンジしている人がたくさんいて、それでもうまくいかない人の方がずっと多いのです。

では、やり続けることで成功に近づけるとしたら、どういう条件なのでしょうか。ひとつは、生活の基盤をつくっておくこと、もうひとつはチャレンジしている分野で切り口を変えて前進しようとすることでしょう。

生活の基盤については、持続可能ということなので、若くて独身ならフリーターでもいいと思います。僕の場合は家族がいるので、それなりの収入を確保しなければならないし、生活の基盤というのは単に収入面だけでなく、一定のプライドを満足できていることも重要だと思います。自分として、みじめじゃないと思えることです。この点については、幸いなことに、僕は、講師やコンサルタントの仕事で、おおむね成果が上げられているので、今のところOKです。チャレンジの時間をとることが、課題だということはできます。

ふたつ目の「チャレンジの切り口」というのは、単に続けているだけでなく、問題意識を持って、違う切り口や、違う相手と続けていくということです。ここが、これからの僕のキーになるところといえます。具体的には、せっかくの原稿を、他の出版社に声をかけて検討してもらう。もちろん、そのままで本になるとは限らないので、改めて編集者との意見交換の中から、リニュアルする可能性はあります。まったく新しい原稿になるかもしれません。僕がこだわっているのは、すでに書いてしまった原稿そのものではなく、「(2)ではなくて(3)」（考え方の勉強ではなく、主張や哲学）という方向性なので、そこを汲んでもらえるなら、再度書き下ろしてもよいのです。

これがきっかけになって、新しく、そして僕が希望する領域で仕事ができるなら、それが「成功」の一歩と言えます。もちろん、本を出すだけでは成功とは言えなくて、それが一定の売れ行きを示し、評価を得られるというのも重要です。

書いた原稿そのものが日の目を見ないことがはっきりすれば、オンラインで公開するなど、読んでもらう場をつくろうと思っています。ここから読んだ人の評価をもらえればそれもよいのですが、やはりプロとして文章を書く人間としては、売れてなんぼ、評価をもらえてなんぼ、という思いはあります。「いい本だね」と共感され、かつ「売れるて、知られる」。本を書くと言うことは、ここまで行って初めて成功と感じられるもので、要求水準が高いというか、欲が深いなあと思うこともあります。

■人が変り、世の中が変わる

こうしてみてくると、ものを書くという生産活動には、いろいろな要素が含まれていることがわかります。

自分が実現したい企画を明確にすること（考え方ではなく、主張・哲学を語る）
編集者（出版社）にそれを共感してもらうこと
実際に執筆すること（コンセプトが実現できること）
実際に本になること
読者が内容を評価してくれること（内容への共感）
実際に販売量が増えること（多人数が共感し、収入が満たされる）

ここまでできて、初めて成功したと思えるわけで、改めて、けっこう遠大なことをやろうとしているなあと思います。

とはいえ、実は本当の目的はもっと先にあり、こういった自分発のコンテンツや思いに共感してくれた人たちが、実際に行動をとってくれることも、うれしいことです。

たとえば、「35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」（JMAM）の本自体は、それほど売れなかったわけですが、読んでくれた人が行動を変えてライフデザインに成功したり、本をきっかけにワークショップに来てくれて、そこで刺激を受けてライフデザインに成功すれば、本の売れ行きとは別の意味で、成功したと言えるし、実感できます。

そこで、本になる/ならないとは別に、僕が考える方向を伝え、本がヒットするよりはずっと少人数であっても、アクションをとる人を増やすという方向もあります。いくら共感してくれても、「ふうん、おもしろいね」という人ばかりでは不満足、少人数でも自分と方向性が同じ行動をとってくれる人が出てきた方がおもしろい、ということもあります。もともと知恵市場は、そういう目的意識で始めたものでした。

少人数でもいいから、深く伝えていく、というのも、今後引き続き、というより、パワーアップしてやっていきたいことのひとつ、ということになります。

■流されるべきか、切りひらくべきか

こう考えていくと、「本をヒットさせて多くの人にわかってもらう」ことと、「ワークショップを開いて少人数でも深い理解をする人をつくっていく」のと、どちらがやりたいことなのだろう？と悩ましいことになります。両方やりたいと思うわけですが、講師やコンサルタントの仕事もあり、しかも家族との生活もあるので、身体がいくつあっても足りない状況になりかねません。

そこで、アプローチの考え方として、ふたつあり得るのかなと思っていて、ひとつは方向は決めておき、状況に流されてみるという方法（省エネ型）、もうひとつは、自分で絞り込み、やっていく方法（MBA的戦略型）です。

流される方法は、「流される」といっても、何もかも流れに身をまかせるのではなく、少しずつ編集者に声をかけてみながら、あたりが来るのを待つというアプローチ。今声をかけているところの結論を待ち、ダメなら知り合いの版元を順にあたり、秋ぐらいまでに決着がつかなければ、ネットで公開かな、というようなアプローチです。比較的手間がかからず、その場その場で空いた時間を使ってやれるのがよい点ですが、時間がかかるわりに成果が読めないのが難点です。

絞り込む方法は、戦略的に出版社をピックアップしたり、紹介してほしいと声をかけまくり、たとえば1月末まで候補を出して、2月中に精力的に持ち込み、2月いっぱいで決着をつけるといように行動する方法です。MBA的な経営論ではこちらのアプローチになるわけですが、果たしてそれがいいのか？

同じく、「アクションのとれる人を増やす」アプローチにしても、これまでのようにひとつやって成果を確認しつつ、成果が上がらなければやめる、というような方法と、年間計画をつくって組織的に運営していく方法があり得ます。

これまではどちらかというと「方向性だけ決めて流される」やり方をしてきたのですが、これからもそれでいいのか。実のところ、ここが一番の課題なのではないかという気がしています。

■ワークショップと執筆

ということで、これまで通り「方向性を決めて流される」というアプローチにそろそろ区切りをつけ、部分的に戦略性を持ち込むようにしてみようかというのが、今考えていることです。

具体的には、今回の本の企画だけでなく、他の企画を含めて、以前より計画的に本を書いていく。もうひとつは、Toshiさんとも協力しつつ、ワークショップを定期化する。このふたつをやってみるのはどうか、というのを今検討していることです。

実際にやるとなると、もっと具体的に方法を検討しなければならないことはわかっているので、この場で「やります！」と宣言できないのですが、2週間後のコミトンに結果を書くことを自分に課して、今週は終わりにしようと思います。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

mail:paco@suizockanbunko.com