189T 八丈島で日本の町起こしを考える

photo by toshi.

2005年がスタートして早や10日がたとうとしていますが、新年のスタートはどんな感じでしょうか。うちは2005年はこどもを連れてあちこちに行こうと決めたので、さっそく1月4日～1月7日にかけて八丈島に遊びに行ってきました。遊びに行くという意味では残念ながら「もう一度行きたい」という感じではなかったのですが、これからの日本や日本人のことを考える上では示唆の多い旅行でした。というわけで今回は八丈島で考えたことを書いてみようと思います。

■八丈島というところ

八丈島は東京から南に約300キロ。島の周囲は約60キロ、面積は約70平方キロで山手線の内側とほぼ同じくらいの大きさです。火山の活動によって黒潮の中に生まれた島で八丈富士(854m)と三原山(700m)を中心にひょうたん型をしています。黒潮の影響で夏は東京よりやや涼しく、冬は東京より約5度暖かくなります。雨は非常に多く(東京の二倍以上)地下水が豊富、風が強いのも特徴。歴史的には東日本の罪人を島流しに送った島として有名で、流人に対しても受け入れる姿勢を持っていたというのが島の人々の性格を語る上でよく言われます。現在の人口は9000人弱。1950年に13,000人近くだったのをピークに減少傾向にあります。産業は観光の割合が最も高く、続いて花卉園芸、漁業となっています。

でも、なんで八丈島に行くの?　といろいろな人に聞かれたのですが、実はかなり適当な理由でした(^_^)。ANAのマイレッジの期限が切れる前に使いたいというのが最初のポイント。海外はこどものパスポート取得でバタバタしたくなかったので除外し、国内の暖かいところでまだ行っていないところは..と考えていて八丈島が思い浮かんだのでした。なお、暖かいところとして奄美大島も候補に挙がったのですが、こちらは「たまがてぃ!」でおなじみのmidoriさんに聞いたら3月に行く予定ということなので、その時にいっしょに行こうと思っています。

そんなわけで積極的な理由はないまま八丈島行きを決定。いつも通り、情報は、と探してみると、これが本でもネットでもあまりないのです。僕はちょろっと探しただけで、メインにはうちのChief Travel Officer(CTO)であるgirl friendが探しているのですが、彼女に聞いてもやはり少ないと言います。このあたりから「う～ん、どうなんだろう」という感じがしてきました。でも、まあとにかく行ってみようと彼女は手配を進め、見つけてきたコンタクト先にもアポを取り、けっこうおもしろい人に会えそうだよと言っていました。

そして1月4日。着陸できない場合は引き返すかもしれないという条件付出発だったのですが、飛行機は飛び立ちます。休み明けということもあってか、飛行機はかなりすいていました。飛び立ってから40分もしないうちにたくさんの緑に覆われた八丈島が眼下に見え、着陸に向けて飛行機は大きく旋回、南の島に僕らは降り立ったのでした。

■う～～ん...やる気があるのかな？

宿に電話をすると、きさくな感じの民宿の奥さんがすぐ迎えに来てくれました。宿はごく普通の民宿ですが、部屋はかなりゆったりと広い。僕ら以外にお客さんが一人しかいなかったこともあってか12畳くらいあるところに通されます。気になったのは配電盤?のカバーがとりはずされたままむきだしで、カバーは床に放り出されていたこと、天井についている扇風機がほこりだらけだったこと。最初は特に気にしなかったのですが、ひょっとして全体的に言えることなのかもと、だんだん思い始めます。何か、やる気をあまり感じられないのです。けっして悪い人たちというわけではなく、むしろ気さくで親切なのですが、プロフェッショナリズムを感じないのです。

もう一例挙げると、宿の食事は朝食800円、夕食2000円なんですが、内容は、あまり料理が好きではない人がつくっている家庭の食事という感じ。さすがに品数と素材はそれなりのところにあるのですが、料理そのものは「おいしかったよ～」という感じではありません。民宿なんてそんなもんだよと言う人もいるでしょうが、それにしては食事の値段が高い。結局、夕食を宿でとったのは初日のみで、後は外でさがすことにしました。

ところが外で食事するといっても、なかなかいいところが見つかりません。やる気があまり感じられないのは、たまたま泊まった宿だけではなさそうだ、という感じがしてきます。ガイドブックに載っている店も含めて、魚料理、寿司、あしたばうどん等、島の名物を狙ったのですが可もなく不可もなく、どちらかというと不可に近い感じ。味もそうですが、見せ方が今ひとつで、たとえば刺身は適当に切って積み上げちゃったという感じ。好きでその料理を作っているようには感じられません。で、値段は東京価格なのです。でも、「出口が雨で滑りやすくなっているから気をつけてね」と言われる等、ほとんどのところで、やっている人はきさくで面倒見がいいんだろうなあというのを感じます。

やる気のなさ、ちぐはぐさを感じてしまったのは宿や食事だけではありません。八丈島は火山の島なので公共の温泉が島のあちこちにあるのですが、これも何かちぐはぐな感じ。あるところ(300円)では露天風呂もあってよかったのですが、備え付けの石鹸などが全くなし。島の人はみんなマイ石鹸&シャンプーセットを持ち込んでいるよう。また別のところは、サウナがあって建物がちょっと変わった形をしている(でも、だからどうというほどでもない)だけで温泉を使った普通の浴場。露天風呂もないのに700円もしました。

■いいものを持っているのに、なぜ？

もちろん、ちぐはぐだったり熱の入らない感じのところばかりだったわけではありません。「合月」という蕎麦屋のあしたばうどんはけっこういけましたし、郷土料理の店「いそざきえん」では1500円でなかなかの昼定食を堪能できました。ちょっと休憩したいのにカフェが見当たらないとさがしていて、スーパーの花屋で教えてもらった「心月」(ココムーン)というお店も、チーズケーキに独自の工夫がしてあっておいしかったし、八丈島の気持ちよさを感じられるお店になっていました。

温泉でもgirl friendがけっこう気に入っていたのが裏見ヶ滝温泉という露天風呂(無料!)。ここは洗い場が事実上ないので、塩水の温泉からそのまま出るか、水で洗い流すかしかないのですが、きれいにしてあって心づかいを感じます。同じように公共の施設では、ビジターセンター)にもこだわりを感じました。八丈島にはこんなにいろいろおもしろいものがあるんだというのを、細かいものからいろいろ拾い出しています。温泉「ふれあいの湯」の休憩所にあった樫立小学校のアルバム(というより活動紹介)を見ると、この小学校の様子がすごく生き生きと伝わってきました。

でも、こういうところは少数派で、全体的には「また来たい」「よかった」と感じないところが多いように感じてしまうのです。いい人たちだと思うのに。僕らがたまたまアンラッキーだっただけかもと思い、事前にコンタクトしていた人たちに会った時、そんな感想を様子を見ながら話してみると、うなずけるという反応が返ってきました。そこで「どうしてそうなっちゃうんだろう?」という疑問をぶつけてみて、見えてきたのは八丈島や自分のやっていることに愛着を感じているかどうかの違い、ということでした。多くの八丈の人は八丈島や自分のやっていることにあまり愛着を感じていないんじゃないか、と。

では、どうしてそうなってしまうのかはここで考え始めると長くなりすぎるので今回はやめます。でも一つ言えるのは、八丈島がよいものをあまり持っていないとか、みんながやっていることがおもしろくなりようがないわけではない、ということです。おもしろそうなものも使えそうなものもいろいろある。でも、みんなが「ここには何もない」と言っていたら、そのうち本当に魅力のない場所になってしまう恐れはある。上に書いたように八丈島の人口は減り続けています。若い人が「ここには何もないから」と出て行ったり、将来に不安を感じてあまりこどもをつくらないからでしょう。でも、その先はどうなるのでしょう?

考えてみると、これは八丈島だけでなく日本全体について言えることではないでしょうか。いろいろなよいものを持っているのに、それを忘れつつある。いろいろなことを出来る可能性を持っているのに、多くの人が生きていくので精一杯で、今やっていることはあまりおもしろくないが仕方ないと思っている。でもその先はどうなるのでしょう?　この流れはどうやったら変えられるのでしょう?

■自分だったらどうする？

そんなことを考えていると、自分だったら何をするか、いわば八丈島の元気起こし、町おこしのプランを考えてみたくなってきました。ほんの4日間、遊びながらかじっただけの情報に基づいて、ちょっと考えただけなので、完成度はまだまだでしょう。そもそも八丈の人からすれば「何をわかったような」「そんなの必要ないよ」と見えるかもしれません(^_^;。でも、こういう思考実験にはいろいろな意味があると思うので、トライしてみます。

まずは町おこしといってもいろいろなイメージを持つ人がいると思うので狙いとするところを確認しておきます。僕が実現したいことは三つです。

そこにいる人が今以上に島に誇りと愛着を持っている
そこにいる人が自分のやっていることに誇りと愛着を持っている。
- もちろん同時に「食える」状態も保ちつつ
島のQuality of Lifeがそこに住む人、訪れる人、自然にとって高くなる
- 言い方をかえると「自然にやさしくて楽しい島」になる

次に島が持っている資源をざっと考えてみます。

特徴のある自然(黒潮の中に立つ南の島、火山活動で出来た)
豊富な自然資源(雨、暖かさ、海産物、地熱、風)
伝統を持った芸能・技術(八丈太鼓、黄八丈、園芸技術)
一人一人をケアできるが、まだ過疎までは行かない人口とコミュニティ
人-暖かく外の人を受け入れる八丈気質。リーダー人材もいそう。

いよいよこれらをふまえて、たとえば何ができるか考えてみます。

★観光業に使える素材を知り、見せ方を学ぶ

まずは観光業に使える素材を改めて知り、見せ方を学ぶことをやってみるとよさそうだし、関わっている人にとって、仕事がおもしろくなりそうです。その際の一つの大きなポイントは今あるものを活かしていくこと。言い方を変えればむやみに新たな投資をせず、知恵をかき集めていく。コストを低く出来るのもありますが、その方がみんなの参加意識ひいては愛着が強まるのではないか。

たとえば今の旅館を建て替えたりする必要はきっとあまりない。一見、古ぼけた旅館に見えるところでも、けっこうしっかりしたつくりをしているように見えるのは台風の通り道にあるからでしょうか。そこにちょっとずつ八丈らしくてかつ現代的なアクセントを入れていくことで、古くからのものが持つ味と新しい感覚がいい雰囲気を出すはず。たとえば花は八丈島の一つの特産です。部屋に季節の花を活けることでちょっと違った雰囲気をかもし出せるかもしれません。もちろんそれだけでなく、園芸の技術を駆使して宿のまわりをかっこよくしていくことも考えられます。ここも古くからの味と新しい感覚のミックスを意識して。

食も魚介、海藻類、アシタバ、アロエ、独特のサツマイモなど、島ならではの素材が実はふんだんにあります。これらを使って、他にどこにもなく、おいしい料理が低コストでできるはず。これは既に前述のいそざきえんで見せてもらいました。必要なのは素材をもっと知ることと、その見せ方を研究することでしょう。

こういった勉強会をなるべく多くの関係者を集めてやりたいわけですが、どの程度集まるのかはなんともわかりません。現状でもそこそこ食えてしまっていたりすると、来ない人たちがけっこういることも大いに考えられます。その場合はまず集まった人たちで始めればよいと思います。うまく行っているとか、楽しそうだとか見えれば加わる人も出てくるはず。それまでは島外の人もどんどんサポートしてくれる人は巻き込んでいく。考える上での戦力になるのはもちろん、集客のリソースになる可能性が高いからです。

それから泊まる側から言えば、宿の人たちに語ってもらえるとうれしいことがたくさんあります。たとえば八丈の海に潜るとどんな風景が見られるのか。僕はたまたま地熱・風力発電所に併設するTEPCO地熱館のビデオで知ったのですが、火山活動が作り出した岩のアーチも、黒潮の中だからこそ見られる魚も、おそらく八丈独特のものでしょう。ダイビングをしない人でも、宿で「すごいですよ～」という話を聞いて体験ダイビングをしてみたいと思うかもしれません。それが八丈島の観光ガイドに載っているだけじゃなく、一番かかわりの多い宿の人から聞けるとずっと楽しい。

あるいは島の動植物がどういう生態を持っているのかという情報はどうでしょう。たとえば本土では棘を持っている植物が、島では敵がいないために棘を失っているとか。すべてについて詳しく知っていることは不可能でしょうが、入り口くらいを知っているとお客さんにとってはとてもうれしい。八丈太鼓がどんなふうに独特のリズムを持っているとか、八丈伝統の織物である黄八丈が最近のドラマの中でどう使われたとか。泊まる人たちに「へえ～、行ってみようか(見てみようか)」と思わせるものがあればそれだけですごく楽しい。僕らが聞いた話では、八丈が持っているそういうおもしろさを知らない地元の人たちが多いとか。もしそれが本当なら、そういう知識をみんなで持ち寄って知っていくうちに宿の人たち自身の八丈に対する愛着が増してくるかもしれません。それはお客さんに対して伝わるものです。

こういった新しい見せ方を考えたり、知識を習得して行くのはしんどいし気が進まないという人もいるかもしれません。あるいは「知っているけど外の人に話すのは苦手」という人もいそうです。その人たちが無理をする必要はないと思います。やりたい人はきっと島にいるでしょう。特にそれが島の若い人の中に見つかればベストです。そして「こういう」観光業に興味のある人を集めてトレーニングをする。プロを呼んできて指導することと、自分たちで研究することを組み合わせたいですね。そうしてその仕事と八丈に価値や愛着を感じられる人たちを必要な宿に配備して、いわばコンシェルジェ(コンシェルジェより積極的ですね)をやってもらう。高校生あたりからスタートすると、将来のキャリアイメージもできてよいでしょう。一方、やっぱり宿の仕事に愛着を感じられないという宿の人がいたら、キャリア・カウンセリングをしながら他の仕事を考えていくことも考えられます。一人一人が見える八丈のような島ならそこまでできるように思います。

★伝統と今の融合

次に、八丈が誇る芸術を今のデザインや音楽と融合させてみてはどうかと思っています。具体的には八丈の伝統的織物である黄八丈と、二人で一つの太鼓を両面から叩くことが特徴的な八丈太鼓を考えています。これは実はgirl friendのアイディアで「八丈島活性化に何かやるとしたら何を一番やりたい?」と彼女に聞いたら出てきました。若い人に「カッコイイ」と思われている音楽を手がける人を引っ張ってきて八丈太鼓とのコラボレーションをトライしてもらう。実は僕は八丈太鼓を聴いたことがないのですが(^_^;、太鼓はとてもエネルギーを感じさせる楽器なのでよさそうです(^_^)。聞くところによれば八丈太鼓は西洋からの音楽のように決まったリズムを刻むのではなく、たたき手の感じるところにしたがって変わるリズムを持つとか。そんな部分も活かしながらコラボすると、とてもクールに仕上がりそうです。同じようなことが黄八丈についても、できるのではないかと思っています。
次に、それぞれの分野に興味を持つ島の若い人を集めて、デザイン・スクールやミュージック・スクールをやってみてはどうか。やはり高校生あたりからもどんどん参加してもらう。そして彼らのつくったものを島としてプロモーションして行く。年配の人からは「そんなの八丈太鼓じゃねえ」「黄八丈がこんなふうになってしまうなんて」とか言われてしまうかもしれませんが、若い人が年配の人たちに「ホンモノはどんな感じなのか」一生懸命聞くことによって、年配の人たちもいつの間にか引っ張り込まれるかも。見る人にしてもそういった自分たちに近いところから「ホンモノ」に入っていくかもしれない。何よりも若い八丈の人が自分たちの持っているものに誇りや愛着を持つということが大きいと思うのです。

★エコな島を行く

最後のポイントは「エコ」ということです。これにはいろいろな意味があります。まずはもちろん自然に配慮するというのがあります。上で考えているようなことが仮にうまく行ったからといって、どんどん開発をしたりすれば、持っていた貴重な資源をかえって失いかねない。そういう選択をしないということは重要なポイントになってくると思います。自給率を高く保つというのも、自分たちのエコロジーを崩さないという意味で「エコ」に含めて考えています。島だけに輸送コストは高くつきます。しかし豊富な雨と暖かい気候にあったものを栽培し、海産資源を守っていけば食糧自給はかなりできるのでは。なお、エネルギーについて現在、地熱発電で電力需要最大時の約30%、需要最低時のほぼすべてをまかなえているというのは興味深いところです。

したがって観光ビジネスについても「エコ」を打ち出していくべきでしょう。訪れる人に対しても積極的にPRしていくわけです。たとえばレンタカーも軽自動車を主体にしてしまう。実は既にそうなっている感じもしたのですが、僕などは軽自動車に乗っていると「なんか旅行に来たっていうゆったりした気分にはなりにくいな」と思ってしまいました(^_^;。しかし「エコのためだよ」と言われれば、けっこう納得感がある(^_^)。島のガソリンは高いですから、お客さんにとって経済的でもあります。これは一例で、あらゆるところで実際に行動を取りつつ、これは「島を、資源を大事にして行くためのもの」とコミュニケーションして行く。それはまだまだ日本の中で(残念なことに)先進的な活動ですから、自分たちの誇りにもつながっていくだろうと思います。

だいぶ長くなりましたが、最後に一言。このような町おこしは、競争に勝って生き残ること(=誰かが負けて死ぬこと)ではありません。八丈は八丈、奄美は奄美、沖縄は沖縄としてそれぞれのアイデンティティを打ち出し、そこの人たちがそのアイデンティティに対して愛着を持つ、そして外にもそれぞれを愛する人がいるということです。そういう状態をつくりだすことを自分が愛着を感じられる場所でぜひやってみたいなあと考えていたら、帰りの飛行機はあっという間に羽田に着いたのでした。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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