192P LD20 自信を得るために、チャレンジする

photo by paco.

前回の「190P 間口は広げておいたほうがいいか」に引き続いて、20代のライフデザインのポイントが考えて見ます。今回は、チャレンジと自信の関係についてです。

■積極的に動いても、いい結果は来ない？

間口を広げるという行動を取っている人は、それがベストな方法だとはいえないにしても、少なくとも積極的に自分の可能性を広げようとしていると考えることができます。「間口を広げよう」とするタイプは、「どこかに自分を拾ってくれる人がいるはずだ」と自分の価値を信じられるから、行動がとれるのです。

これに対して、「私はごく普通の人間だし、特に取り柄もないし、外見も普通だし」と、自分の対して自信が持てないという人もいます。何をやってもうまくいきそうな気がしないという場合もあるでしょう。自分に自信がない人はまず第一歩さえ踏み出せない。立ち止っているか、時の流れに身をまかせている感じです。そうはいっても、今の現状にそれほど不満がない場合もあって、そういう人は「私はこのままで満足。このまま、何も変わらなくてもいい、これ以上大人になりたくないし、結婚や、まして出産のような大きな決断はなるべくしたくない」というような気分の人もいるかもしれません。

自分が積極的に動いてもよい結果になる自信がないし、それなら現状のままの方がいい。いずれにせよそう考えているのですから、自分から行動することに価値はないし、むしろいやな思いをするほうが多いはずだ、というわけです。

■いい結果って何だろう？

たしかに、自分が行動したからといって、いい結果になるとは限りません。うまくいかずにもっとへこんでしまうかもしれないし、否定されたり、バカにされて、いやな思いをする可能性もあります。誰だって自分の行動の結果が、自分の期待するとおりのものになると思えれば、行動するに決まっていますが、そうなるとは限らない。

でも、この事情は自信がある人もない人も、うまくいく人も行かない人も、実力がある人もない人も、実は同じです。何かを期待して行動しても、期待通りに行かない可能性は誰にでもあることは、わかるでしょう。自分に自信がない人は、行動を取るような人のほうが、実力があるか、自信があるか、何かわからないけれど、自分より優れたところがあるから、行動がとれるのだと考えます。つまり、理由はともかく、行動を取る人は、自分よりうまくいく可能性が高そうだと思えるから、行動を取るのだと思うのです。

実際に行動を取っている人を見ると、うまくいきそうだからやっているわけではありません。同じように、うまくいく自信などないのです。では違いはどこにあるのでしょうか。

行動を取る人と取らない人の違いは、よい結果が出る確率が高いか低いかではなく、どんな結果が出ても、その結果を自分にとってプラスにできると考えるか、そうは考えられないかという違いなのです。

別の言い方をすれば、期待しない結果であっても、その期待しない結果を自分なりに受け止め、そこから何かをつかみ、次につながげることができれば、その結果は、自分にとって悪いものだと決めつけることはできなくなります。うまくいけばいいけれど、うまくいかなくても、何か自分に残ることがあるだろうと思えるかどうかが、行動を取るかどうかの分かれ道なのです。

このことからわかるのは、行動を取る人、自信があるように見える人、実力がある人というのは、実際的な自信や実力があるのではなく、どんな結果であっても受け止めようというマインドがあることだと言えます。一方行動を取らない人は、うまくいかないと思っていると言うよりは、よほどよい結果でない限り、結果を自分で引き受けようとしないのだと言い換えることができるのです。

■結果を引き受けるとは、どういうことか

ちょっと抽象的な話になったので、例を挙げてみましょう。会社の近くに新しいレストランができました。身の回りにはまだ店に入った人はいないようですが、見た感じではわりとおいしくてよさそうな感じです。こういうシチュエーションで自分から進んで新しい店に行く人と、評判を聞くまで行かない人がいます。

こういう例で考えるなら、他の人が先に行って、おいしいと評判になってから行けばいいと思うかもしれません。後から行ったほうが確実においしいランチが食べられるし、一方先に行っても、ほんの1日早くおいしいランチを食べられるだけで、それ以上のメリットはないように見えるからです。

しかし、真っ先に新しい店に行く人には、人の評判を聞いてから店に行く人にはわからない、メリットがいくつもあるのです。

まず、人より先に勇気を持って店に行ったという気持ち。小さなことですが、自分が同僚の誰より先にチャレンジしたという事実と気持ちを得ることができます。真っ先に行くことが習慣になれば、自分は他の人よりチャレンジ精神があるという点では自信が持てるようになります。もちろん、結果としておいしくなかったとしても、チャレンジしたという経験は確実に残るのです。

次に、真っ先に行く人は、「ここはこんな料理が出るだろう」という何らかの期待を持っていき、それに応えられるレストランかどうかを自分で判断するという経験を積めます。つまり、店の内容についての仮説を持ち、それを自分で検証するという経験を積むことになります。結果的に、予想通りの味なら、自分の仮説を立てる能力に自信が増すわけです。

では予想より悪い結果だったらどうか。ランチ1回分を損したと思うかもしれませんが、真っ先に新しい店に行くようなタイプの人は、そうは考えません。自分の仮説の立て方のどこが悪かったのかを考え、今度は予想通りの結果が出るように、仮説の立て方に工夫を加えようとするのです。「やたらに期待してはいけない」というような簡単なものもありうるし、「外見がオシャレでも、よく見ると使っている部材が安っぽい、というところは、料理もうまくない」というような法則かもしれません。

こう考えているとすれば、行動して失敗しても、ただ失敗しているだけではないことになります。実際、チャレンジするタイプの人は、チャレンジした分野のことについて、少しずつ詳しくなったり経験値を高めていくことになります。

もちろん、チャレンジする人がみんな、明確に仮説を立てたり、結果が違っていた時にその理由を検証したりしているわけではありません。しかしチャレンジするということは、結果についての何かしらの予想や希望があるのは当然のことです。無意識であっても、期待と実際の結果との差について、感じたり考えたりするものなのです。

人の評判を聞きつけていく、という人は、こういう「チャレンジしたという気持ち」と「期待と現実の相違についての知識」を得ることができます。あとから追う人は、間違いなくおいしいランチにありつけるかもしれませんが、その「間違いなさ」と引き替えに、自信や知識を得る機会を失っているのです。

■得るものがないチャレンジはない

チャレンジをしない人から見ると、チャレンジしてもいいことがないように見えているのですが、チャレンジが習慣になっている人から見ると、チャレンジは大小を問わず、何かしら常に得るものがある、価値の大きなものです。チャレンジャーはそのことを知っているのですが、一方でしょっちゅう期待しない結果が出ていることも、周囲の人から見られているので、自慢することでもない、と思い、あえてチャレンジのよさを人に語ったりしません。それに、チャレンジの勝率という面では、必ずしもいいわけではないので、自分でもチャレンジがよいことだとはあまり自覚できないのです。

でも、自覚していなかったとしても、チャレンジなど、しなければよかったと後悔する人はほとんどいません。僕はずいぶんいろいろなタイプの人に会ってきましたが、挑戦をくにしない人は、挑戦に失敗しても、後悔することはほとんどなく、一方、期待はずれの結果であっても「今度は予想の精度をもっと上げるんだ！」とそこから学ぼうとするようになる人が多いのです。

チャレンジから得るものがあるかどうかは、たしかにその人次第です。しかしチャレンジの結果から何かを身につけようとするなら、何も学べないチャレンジというものはあり得ないのです。

■チャレンジから学べるものは、増えていく

もうひとつ特徴的なのが、チャレンジから学べるものは、挑戦を繰り返すほど、多くなっていくという事実です。チャレンジして、ひとつでも学ぶことがあり、一度失敗して小さなことであっても学び取ることができれば、「あ～チャレンジすると、得るものがあるし、それは誰でも平等に得られるものではなくて、チャレンジした人だけにわかることなんだ」と気がつきます。と同時に、得られるものはひとつだけではなく、たくさんあるということに気がつきます。期待に添わない結果であっても、気づくこと、学べることはたくさんあり、しかも、自分が意図的に学ぼうとすると、学びはどんどん増えていくことがわかるのです。

もちろん、同じようにチャレンジしても、そこから得られるものは、人によって違うでしょう。多くのことから学べる人もいるし、ひとつの側面からしか見ないという人もいます。しかし、チャレンジする人に共通しているのは、チャレンジしない人よりは学ぶことができるし、自信を持ったり、楽しんだりできる、ということを知っていて、でも人にはあまり言わない、という点なのです。

自分に自信がない人は、あまり大きなチャレンジからしなくてもよいのです。小さなチャレンジをして、そこから小さなことでいいので、つかみ取るという経験を意図的に積んでみることを勧めます。チャレンジは、よい結果にならないと得るものがないのではなく、結果がよくても悪くても、自分に残るものがある、残せるように考える、ということがわかれば、それがあなたの小さなライフデザインの始まりです。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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